20.ゾワっとする?
「マリアさんとチェルシーさん、素敵だったわ」
リーリエは既に舞台から去っているマリアとチェルシーと二人の上級生による先程の四重奏を思い出して、うっとりとしている。
マリアとチェルシーたちの演奏は、音楽のことなど全く知識のないリーリエにも、ストレートに感動を与えていた。
本当なら、スージーも一緒に聴きに来たかったのだが、婚約者が遊びに来ていて、カフェの交代の時間がきたら、嬉しそうに一緒に行ってしまった。
仕方ないので、リーリエはマリアとチェルシーの演奏の時間に合わせてカフェの休憩時間を取って、レオナルドと二人で聴きに来たのだが、想像以上の演奏にどっぷり浸かって動けないでいた。
「確かに演奏は素晴らしかったが、早く昼食を取らないと休憩時間がなくなってしまうぞ」
隣で一緒に演奏を聴いていたレオナルドがいつまでも立ち上がらないリーリエに痺れを切らしたのか、珍しく声を掛けてきた。
「そうね。次の演目が始まると出にくくなるわね」
休憩時間が終わったら、またカフェに戻るつもりだったと慌てて立ち上がった。
いつもなら、護衛は学院内に入れないのだが、今日は学生以外の者も多いため、特別に許可されていて、レオナルドもリーリエの側に控えている。
食堂が開いているので、そこでランチをしようと、向かっているのだが、メイド風の服を着ているリーリエと護衛騎士のレオナルドは注目の的だった。
レオナルドは愛想がないとはいえ、人目を引く容姿であることは間違いない。
一緒にいると、「なんでこんなメイド擬きが」と女性たちの鋭い視線が突き刺さる。
護衛してくれてるだけですよーと言いたいところだけど、それはそれで平民のくせに生意気だと反感を買いそう。
気づかないふりして、さっさと移動してしまおう。
食堂の近くまで来ると、人が集まっている場所がある。
こんなところで何があるのかと気になって、キャーキャー言っている女性たちの間から覗いてみた。
そこには、今日も眩い王子様スマイルのライハートと美しい笑みを湛えたパトリシアがいて、来客の案内をしているらしい。
そう言えば、隣国からの見学者の案内をしなくてはいけないって言ってたわね。
王子自ら案内するってことは、きっと、そうとう身分の高い人なのだろう。
金髪碧眼の三十代の綺麗な女性は、そう思って見るせいか、何となく高貴なオーラを纏っているように見える。
そろそろ食堂に行かないとと、この場を去ろうとした時、女性と目が合い、その目が驚いたように見開かれた気がした。
その瞬間、背筋にゾクっとしたものが走る。
全く知らない人だし、偶々目が合っただけのはず。
見なかったこと気づかなかったことにして、食堂へと急いだ。
なぜだか分からないがぞわぞわして、気持ちが落ち着かなかったが、食堂で食事をしている間にようやく落ち着きを取り戻してきた。
「知っている人だったのか?」
向かいの席で黙って食べていたレオナルドがポツリと尋ねてきた。
目を上げると、サファイアのような綺麗な瞳と目が合う。
最初に会った頃とは違って、その目に冷たい感じはしない。
「ううん。知らない人よ。何となくゾワっとして。気のせいだと思う」
全く心当たりがないので、気のせいだとしか思えない。
「そんなことより、そろそろ戻らないと。思っていた以上に忙しいから、あんまりのんびりしてると、怒られちゃうわ」
リーリエは不安を振り払うように、明るく言うと、カフェの仕事に戻るべく、立ち上がった。
レオナルドは何か言いたそうにしていたが、結局黙って立ち上がった。
カフェは大盛況のまま学院祭が終わり、その後毎年行われる学院祭の名物となった。
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