1.もしかしてヒロイン!?
魔力検査で倒れたリーリエが目が覚めると、見慣れない部屋で、そこは簡素ながらも清潔そうな部屋だった。
そう広くもないが、一通りの家具も備えられている。
さっきの大量の記憶は何?
リーリエとして生きてきた記憶に加えて、知らない土地で、見たことのないような機械に囲まれていた記憶。
ベッドに寝転んだまま、白い天井を見ながら考える。
時間が経つにつれそれらが少しずつ整理されて落ち着いていく。
前世の記憶ってやつ?
そういう小説をいくつか読んだことがある気がする。
小説やゲームの中に転生するって話があったなぁ。
ぼんやりと考えた瞬間、すごく引っ掛かることを思い出した。
先程の魔力検査だ。
何かすごいことになってた気がする。
神官が確か聖属性って言ってた。…どっかで聞いたワード。
まっまさか!?
慌てて起き上がり、壁に掛けてある鏡を覗いて息を呑んだ。
緩くカールしたピンクブロンドの髪に、白く透明感のある肌、大きくバッチリとした目は紫紺の瞳、低くはないが小さめの鼻、形のよい唇…
そこにはとんでもない美少女がいた。
見慣れたはずの自分の顔が他人のもののように感じる。
ペタペタと頬を触って、確かに自分の顔であることを確認する。
まじかー!
ピンクの髪!
ざまぁされるヒロインの定番の色!
リーリエなんてヒロインの名前は記憶にはないけど、覚えてないだけか。
いや、そもそもこれは夢かもしれない。
もう一度寝れば、目覚めるかも?
あまりの衝撃に、もう一度ベッドに潜り込もうとした時、控えめなノックの音が響いた。
のんびりしてたけど、ここは自分の家じゃなかったと、慌てて椅子に座り居住まいを正して返事をすると、二人の神官が入って来た。
「よかった。目覚められていたんですね」
入って来たのは、石板の前にいた二十歳くらいの若い神官と服装に装飾がある地位が高そうな神官だった。
地位が高そうな神官はリーリエの顔を見ると、少し驚いたように目を見開いたあと、何でもなかったように微笑んだ。
「初めまして、わたしは神官長のニコラスです。隣にいるのが魔力検査を行っていたジルドです。リーリエさんは教会で魔力検査の時に倒れたのを覚えていますか?」
三十代半ばくらいの整った顔立ちの神官長は優しく問いかけてきた。
「はい、それは覚えてます」
リーリエの返事にニコラスがひとつ頷いた。
「お医者様は特段体に悪いところはないので、心的なものではないかと仰ってしましたが、体調はどうですか?」
「体調は大丈夫ですが。何がどうなったのか…」
今の状況を説明してもらわないとと、殊更気弱そうに俯いた。
「これからそのことをお話いたしますね」
リーリエの体調に問題がないと確認すると、ほっとしたように笑顔を浮かべ、「失礼します」とリーリエのテーブルを挟んだ向かい側の椅子に腰掛けた。
ジルドがお茶を淹れて、ニコラスの後ろに控えた。
「魔力検査の結果、リーリエさんは聖属性の魔力を持っていることが分かりました。聖属性とは癒しの魔法や瘴気を祓うことができる属性なのですが、この属性を持っている者は少なく、この国では現在五人しかいません。しかも、リーリエさんの魔力の量は桁外れでした」
ニコラスの話にリーリエの顔が引き攣った。
希少な聖属性持ちに、膨大な魔力!
嫌な予感しかしない、その設定!
「リーリエさんが働いている食堂のご主人に聞いたんですけど、リーリエさんは街の中の民家に一人で住んでいるんですよね?このまま一人でそこに住み続けるのは難しいかと思います」
「え~!?」
思ってもいなかった話の流れに驚いて、思わず声が漏れた。
「今回の検査で多くの人にリーリエさんが希少な属性を持っていると知れ渡ってしまいました。不届者に狙われる可能性が高いので、護衛が必要となります」
護衛!?何それ?
重要人物みたいなその待遇!
昨日まで食堂で働くただの町娘だったのに!?
「護衛は国から派遣されてくるんですが、リーリエさんの家で共に過ごすのは無理ですよね?」
ニコラスは申し訳なさそうに眉尻を下げる。
「無理ですね…」
リーリエが暮らしていたのは母親と二人で住むのがやっとの狭い家だ。
赤の他人の護衛の人と暮らせるような家じゃない。
「ここは教会に併設されている施設なのですが、しばらくはここで過ごしてもらいたいと思っています。そして、来月からは魔法の使い方を学ぶ為に王立魔法学院に通うことになります」
出た!魔法学院!
乙女ゲームや小説のあれこれが展開される舞台に違いない!
「それは絶対通わないといけないんですか?きっと周りは貴族の方ばかりでわたしが馴染めるとは思えなくて…」
できれば近寄りたくない、色んなフラグが大量にありそうな場所。
上目遣いで、行きたくないオーラを出して尋ねてみる。
「気持ちは分かるんですが、魔力持ちは学院に通うこように国で決まっています」
残念ながら、当然のように国の決まりは覆ることはなかった。
やっぱり、そうだよねー。
「それと、今働いている食堂は辞めてもらうことになります」
「へ?辞めなきゃいけないんですか?」
仕事を辞めることを考えてなかったリーリエは目を瞬かせた。
「護衛付きで働くことになりますし、学院に通わなくてはいけませんから。その分、多少のお金は国から出ますし、ここで暮らしてもらえば食事も出しますので、暮らしに困ることはありませんよ」
なるほど。どうしても学院には通わせたいと。
魔法学院卒業後は、その魔力を活かした職に就くことになるしね。
ハァー
自分の預かり知らぬところで、話がどんどん進んでいってしまう。
ヒロイン断固拒否計画はなかなか難しいらしい。




