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第081話 全員集合・夜明けの欠片

 

 夜明けの欠片が放った光は、宿の天井を抜けた。


 白い柱が空を割り、城壁の外まで朝の色に染める。


 通りから歓声が上がった。


 魔王軍を恐れていた人々が窓を開け、空を指さす。


 アレンの手の中で、白銀の剣は強く脈打った。


 これなら戦える。


 そう思った次の瞬間、光が消えた。


 剣身は白銀のまま残っている。


 けれど刃の内側に灯った光は、消えかけた炭のように弱い。


 歓声が遠く感じられた。


「壊れた?」


 エミが聞く。


「縁起でもないことを言うな」


 オズワルドは剣へ顔を近づけた。


 アレンが持ち上げると、老人も背伸びをする。


「下げい。年寄りへの配慮が足りん」


「すみません」


「謝る前に下げる」


 アレンは剣を机へ置いた。


 本来の姿へ戻った刃には、細い紋様が一本だけ走っている。


 鍔から刃先へ伸びる途中で切れていた。


「覚醒したのではないのですか」


 セラフィーナが尋ねる。


「殻は剥がれた。本来の器へ戻った。それと、中身を満たして使えることは別じゃ」


 オズワルドは古い研究記録を広げた。


 白暁戦争以前の光魔法を写した断片。


 余白には、別の筆跡で数式と円環図が書き込まれている。


「聖剣は、古代の光の魔法使いが魂を封じて作ったとされる。じゃが製法も、完全な起動法も失われた」


 老人の指が、余白の筆跡をなぞる。


「約二十五年前、その失われた仕組みに理論から近づいた研究者がおった。リュミエラ=アステル。光は一人で燃やすほど強くなるのではない。複数の魂が力を返し合う時、最大になると考えた」


「この剣を作った人?」


 アレンが聞く。


「違う。古い剣が何のために作られたか、理論から再発見しかけた者じゃ」


 オズワルドは研究記録と剣の紋様を並べる。


 線の形が一致していた。


「おぬしの共鳴は、彼女の理論が正しかったことを生きたまま証明しとる」


 アレンは自分の手を見る。


 制御できず、敵と自分を同時に傷つけた光。


 それが誰かの研究の続きだとは思えなかった。


「試すぞ」


 オズワルドが全員を食堂の中央へ集める。


 夜明けの欠片をアレンが持ち、まずフィルが近づいた。


「剣へ触らんでよい。アレンと繋がろうと思え」


 フィルは考え、アレンの袖を掴む。


「一緒に歩く」


 剣の根元へ、銀色の紋様が一つ灯った。


 ローグが鼻で笑う。


「ずいぶん素直な起動句だな」


「ローグも」


「俺は言わなくても分かる」


 紋様は増えない。


 フィルがローグを見る。


「分かってない」


「剣までお前に似るな」


 ローグは頭を掻いた。


「途中で置いていかない。これでいいか」


 二本目の紋様が灯る。


 フィルが笑った。


 次にセラフィーナが、自分の意志で祈ると告げる。


 ガウェインは命令より本人の選択を守ると言う。


 オズワルドは答えを急がず、今度こそ間に合わせると杖を置く。


 ボルドは全員を腹いっぱい食わせると宣言し、ミアが継続可能な量へ訂正する。


 リリアは泣いても歌うことを選び、エミは姉の後ろではなく隣に立つと答えた。


 一人の声ごとに、刃の紋様が増える。


 光は強くなるが、先ほど空を割ったほどではない。


 全員が離れると、紋様の半分が薄れた。


「言葉だけでは固定されん」


 オズワルドが記録する。


「実際に互いの力を渡し、受け取り、返す必要がある」


「俺が受け取ればいいんですね」


 アレンは剣を構えた。


「待て。そうは言っとらん」


 だが光はすでに動いていた。


 全員から伸びる細い線を、アレンは自分の胸へ引き寄せる。


 フィルの感覚。


 ローグの速さ。


 セラフィーナの魔力。


 ガウェインの強さ。


 オズワルドの知識。


 ボルドの熱。


 ミアの計算。


 姉妹の歌と、三匹の生命力。


 受け取った力が一度に身体へ流れ込む。


 剣の紋様が刃先まで走った。


 眩しい光が食堂を満たす。


 アレンは全てを自分で制御しようとした。


 誰の力も失わないように。


 誰にも反動を返さないように。


 光が腕の中で膨れ上がる。


 左手首の火傷が焼けるように痛んだ。


「アレン、放せ!」


 ローグの声。


 剣を放せば、集めた力が皆へ跳ね返ると思った。


 握り込む。


 次の瞬間、共鳴が破裂した。


 窓が震え、食器が床へ落ちる。


 アレンの身体が後ろへ飛んだ。


 ガウェインが受け止め、セラフィーナがすぐ手首へ治癒を流す。


 剣は床へ落ちなかった。


 ローグが柄を掴み、光の向きを窓の外へ逃がしていた。


 フィルの霧が散った光を包む。


 リリアの歌が乱れた呼吸を揃え、エミと三匹が机や人々を支える。


 ボルドは倒れかけた壁を押さえ、ミアが全員の負傷を数える。


 一人で抱え込んだ力を、結局は全員が分けて止めた。


「すみません」


 アレンは床へ膝をついた。


「また、全部を」


「預かろうとしたな」


 ローグが剣を返す。


「皆の力だから、俺が責任を持たないと」


「預かるんじゃない。繋げ」


「違いが分かりません」


「荷物を全部お前が背負えば、俺たちは手が空く。だが、お前が転べば全部止まる」


 ローグは剣の紋様を指す。


「繋ぐなら、誰かが転んでも隣が受け取れる。お前は道の真ん中に立て。終点になるな」


 ミアが地図を新しい紙へ替えた。


「戦闘も同じです。指揮、補給、治療、索敵を一人へ集めません」


 ガウェインが前衛と防衛線を担当する。


 ローグとフィルは偵察、罠、敵指揮系統の分断。


 セラフィーナとオズワルドは治療と術式解析。


 ボルドは突破と輸送路の確保、ミアは補給と撤退判断。


 リリアは歌で士気と呼吸を整え、エミと三匹は広域索敵と魔物への対応。


 アレンは共鳴の接続点として、必要な場所へ力を渡す。


「撤退の決定は?」


 アレンが尋ねる。


 以前なら、自分が最後まで残る前提で考えただろう。


「各班が自分で決めます」


 ミアが答える。


「各班は自分の判断で退けます。全体撤退は私、ガウェイン様、ローグさんのうち二人が必要と判断した時。アレンさん一人が残る案は禁止です」


「最初から名指しか」


「実績がありますので」


 アレンは反論できなかった。


 フィルが手を上げる。


「ローグ一人も禁止」


「余計な規則を増やすな」


「実績がある」


 今度はローグが黙った。


 食堂に笑いが起きる。


 剣は覚醒した。


 けれど使い方は、まだ誰も知らない。


 共鳴は、声を揃えただけでは完成しない。


 アレンは白銀の刃を見る。


 以前なら、光が弱いことを自分の不足だと思った。


 今は違う。


 未完成なら、全員で使い方を覚えればいい。


「ここからだ」


 その言葉へ、剣は弱い光を一度だけ返した。


 錆びた短剣はもうなかった。


 だが夜明けの光は、まだ遠くの空に留まっている。


 開いた壁から地平を見たフィルが、笑顔を消した。


「黒い匂い。たくさん、動いてる」


 城壁の見張り鐘が鳴り始める。


 魔王城へ続く地平で、黒い軍勢が動き出していた。





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