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第049話 道中の作戦会議

 「正面から殴る」


 ボルドの作戦は一行だった。


 ミアの前には地図三枚、在庫表、避難民から聞き取った敵数、街道ごとの所要時間が並んでいる。


「却下です」


「まだ説明してないぞ」


「説明が一行で終わりました」


 ハンマー村へ至る道は三つ。


 東の鉱山道は最短だが、魔王軍が実験場に使っている可能性が高い。南の丘道は見通しがよい代わりに身を隠せない。西の林道は遠回りだが、荷馬車と避難民を通せる。


 ミアは道ごとに木札を置いた。


 東は赤。南は黄。西は青。


 文字の多い作戦書より、色と配置の方がボルドには早い。分からない相手へ難しい説明を重ねるのではなく、理解できる形へ変えるのも計算のうちだった。


「東から入る」


「罠です」


「罠ごと殴る」


「村へ着く前に消耗します」


「急がなきゃ、子どもが」


 ボルドの拳が地図の端へ落ちる。


 ミアの声も硬くなった。


「焦って倒れたら、救出できる人数はゼロです」


「計算してる間に手遅れになったら、何人だ」


 二人の間で、護衛たちが息を止める。


「分かりません」


 ミアはまた、出せない数字を認めた。


「ですが、東へ全員で入れば、待ち伏せを受けた時点で救える人数はゼロになります。あなた一人が突破しても、村人を運ぶ馬車がなければ助けた後に逃げられません」


「俺が背負う」


「村全員をですか」


「……無理だ」


 ボルドは初めて、自分から言った。


 力が足りないと認める言葉は苦い。


 それでも、できないことをできると言い張って相手を危険へ巻き込むよりはましだった。


 目的は同じだった。


 一人でも多く助けたい。違うのは、急ぎ方だけだ。


 ミアは地図の中央へ指を置いた。


「三段に分けます」


 第一段階。西の林道から空荷の馬車を入れ、村人を谷へ避難させる。


 第二段階。南の丘へ商会の食糧を積み、魔王軍の略奪部隊を囮で引きつける。


 第三段階。敵が分散したところで、ボルドが東の鉱山道を突破し、実験場を探す。


 さらにミアは、作戦が崩れた場合の撤退線を三つ用意した。


 鐘が一度なら南へ変更。二度なら林道を閉じて鍛冶場地下へ。三度なら村を捨て、全員で谷へ下がる。


「村を捨てるのか」


「建物は直せます。人は戻りません」


 ボルドの顔が歪んだ。


 故郷を失う想定を口にするのは残酷だ。


 けれどミアは、最悪を考える役目を引き受けている。


「全部同時にやるのか」


「同時だから間に合います」


「人が足りねえ」


「カルクで助けた避難民の中に、故郷へ戻ると言った者が八人います。村の地形を知っています。戦わせず、道案内と避難誘導を頼みます」


 善意で配った食糧が、協力者として戻ってくる。


 ミアはそこまで計算していなかった。


 それでも今は、計算へ組み込める。


「あいつらを危険な場所へ入れるのか」


「選ぶのは本人たちです。危険を説明し、断っても食糧と護衛は渡します」


 ボルドは頷いた。


 助けた相手を、恩で縛らない。


 それはミアが彼の衝動を持続する形へ直した答えだった。


「俺は何をすればいい」


 ボルドが初めて、先に聞いた。


「東の入口で、一番大きな音を立ててください。敵の目を集め、私が合図するまで鉱山へ入らない」


「待つのか」


「待つのも作戦です」


 ボルドは苦い顔をした。


 難しいから嫌なのではない。


 待つ間に誰かが傷つくことを恐れている。


 ミアは赤い木札をボルドへ渡す。


「合図までは、これを握っていてください。あなたが先に動けば、青の避難班が巻き込まれます」


 自分の我慢が、別の場所にいる人を守る。


 そう言われれば、待つことも戦いに変わる。


「避難も補給も、お前に任せる」


 ミアの指が一瞬止まった。


 王都商会では、失敗すれば経理の責任、成功すれば上司の功績だった。


 ボルドは逆だ。


 危険な役目を自分で引き受け、考える役目を相棒へ預ける。


 任された重さに、ミアの恐れも増す。計算を間違えれば、ボルドが帰らない。


 それでも彼女は地図から目を逸らさなかった。


「いいんですか」


「細けえ計算はミアに任せた。俺は道を開ける」


 頭を使うことを捨てたのではない。


 自分より得意な相棒を信じて、任せると決めた。


 ミアは地図を畳む。


 ボルドは赤、黄、青の木札を順に並べ直した。


「青で村人を逃がす。黄で敵の腹を釣る。赤で俺が道を開ける。鐘が三つなら村より人を取る」


 説明は自分の言葉へ変わっていたが、順序は合っている。


「理解しているじゃありませんか」


「俺は頭を使わねえんじゃない。使うと腹が減るんだ!」


「訂正します。やはり使ってください」


 二人の役目は、同じ地図の上で初めて一つになった。


「計算上は無謀です」


「いつものことだな!」


「ですが、勝ち筋はあります」


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