第14話 魔神討滅
目の前に立つのは、20メートルほどの漆黒の巨人。
次元の裂け目から顕現した存在。
それは禍々しく、存在するだけで世界を蝕んでいる気がする。
私はその存在に鑑定を叩き込む。
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【個体鑑定:魔神アルナ】
レベル:50
スキル:【次元転送 Lv.8】 / 【暗黒魔法 Lv.7】 /
【威圧 Lv.7】 / 【瞬間回復 Lv.6】 /
【鑑定 Lv.6】 / 【魔王覇気 Lv.5】 /
【吸収 Lv.5】 / 【憑依 Lv.4】 /
【幽体 Lv.3】 / 【洗脳 Lv.2】 /
ユニークスキル:【次元崩壊】 / 【魔王外装】
状態:顕現(不完全) 弱点:——
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鑑定結果は先ほどとほとんど変わっていない。
だが、たった一つ。最悪の項目が追加されていた。
【ユニークスキル:次元崩壊】
存在する世界そのものを崩壊させる。
制約:発動後、完全崩壊まで600秒。
詳細を見た瞬間、顔が引き攣るのが自分でも分かった。
魔神の足元から黒いひび割れが生じ、空間そのものを侵食し始めている。
すでにこのスキルは発動されている。
あと十分。
この世界が消えるまで、残された猶予はたったの600秒。
その時、脳内に【罠感知】が警報を鳴らした。
——っ!
咄嗟に真後ろへ跳ぶ。
コンマ一秒前まで私がいた空間に、音もなく黒い渦が口を開けた。
触れれば最後、どこへ飛ばされるか分からない渦。
攻めに転じようにも、渦で私の進路を阻む。
(……厄介すぎる!)
完全に奴は時間稼ぎに走っている。
こんなときこそ、思考を常に動かせ。
——絶対に逆転の道はあるはず。
……あ。
ふと、あることを思いついた。
あの不快な黒い渦。
それを私の眼に焼き付ける。
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【物真似 Lv.5 発動】
模倣スキル:【次元転送 Lv.8】
使用可能時間:13分
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脳内に、濁流のような情報が流れ込んできた。
空間を折り畳み、座標を接続する感覚。
まるで自分の手足のように次元の扱い方が理解できる。
(これなら……いける!)
万が一、別次元に送られても自力で戻って来られる。
一応逃走手段としても使えるが——
逃げたところで、この魔神を放置すれば、地球に来る可能性が高い。
(ここで、絶対に仕留める……!)
私はナイフを握り直し、再び地を蹴った。
巨大化した魔神の力は、先ほどの魔王の比ではない。
振るわれる拳一つが、大地を震わせる。
地盤が砕けるほどの衝撃。
さらに【暗黒魔法】。
闇の光線が私に向かって、何度も放たれる。
世界が軋み始めている。
時間があまりない。
焦り始めた——その時だった。
天から巨大な火球が。
地から鋭利な氷柱が魔神を襲う。
爆煙が上がり、無傷だった魔神の漆黒の肌に微かな亀裂が入る。
「……玉野さん!」
視線を向ければ、そこにはボロボロの二人の姿。
さらに、上空から巨大な影が魔神の頭上へ降り注ぐ。
「きんにく参上ぉぉぉぉぉ!!!」
地響きのような叫び。
巨大化した風戸さんが、文字通り肉弾戦車となって魔神を押し潰した。
あまりの質量に、魔神の巨躯が大きくたじろぐ。
「なぜだ……なぜ勇者が4人もいる!!」
魔神が激しく動揺し、巨大な漆黒の光線を放ってきた。
目の前に影が差す。
「……ワレの攻撃は奴には通らん。だが、盾くらいにはなれる」
傍らに現れたフーガが、漆黒のオーラを纏った拳で魔神の放つ暗黒魔法を弾き飛ばす。
その瞬間、玉野さんからの【念話】が頭に響く。
『影殿! この敵の、警戒すべき箇所を教えるのじゃ!』
『……ユニークスキル【次元崩壊】です。
すでに発動しています。あと5分——いや、それまでに倒さないと、この世界ごと消えます!』
私の返答に、念話越しに玉野さんの息を呑む気配が伝わる。
風戸さんが魔神と相対している間に考える。
魔神を滅ぼす方法——それはすべてを終わらせる、文字通りの一撃が必要だ。
奴には瞬間回復がある。
それにあの巨体だ。
中途半端な攻撃では、削りきる前に再生される。
奴の存在そのものを消し去る——そんな一撃を思いつけ。
私は自分の武器——月影を見つめ、一つの案が浮かぶ。
いつもこのナイフには雷を乗せていた。
——もし、この黒い刃に、全員の属性を乗せることができたら?
『玉野さん、今から全員の場所を回ります! 念話で、私のナイフにそれぞれの属性を込めるよう伝えて!』
時間はほとんど残っていない。
私は【雷遁】を全開にする。
紫電の軌跡を描きながら、駆け抜ける。
雪奈さんの横を抜け、絶対零度の冷気を。
「……外したら承知しないわよ?」
頷く。
玉野さんの横を抜け、荒れ狂う業火を。
「ワシは覚悟を見せたぞ?
ワシを煽るくらいじゃ……お主はもっとすごい力をみせてくれるのじゃろうな。
……お主を信じておるぞ」
最後にボソッと言うのが玉野さんらしい。
少し笑ってしまった。
あとは風戸さんのみ。
一瞬だけフーガに魔神の相手をしてもらう。
「ワイの筋肉受け取ってや!」
意味がわからないが……これぞ風戸さんだ。
風戸さんから大地の重厚な力をナイフに受け取る。
最後に私の雷をナイフに走らせる。
月影が、それらすべてを吸い込み、変質していく。
雷が走り、
炎が唸り、
氷が煌めき、
大地が脈動する。
四つの属性を宿した黒刃は、もはや闇の色ではなかった。
刃が七色に光輝く。
残り2分。
急ぐ必要がある。
そのナイフを見た瞬間、魔神の瞳が初めて恐怖に染まった。
「消えろ、羽虫がああああ!」
魔神が【次元転送】の渦を幾重にも設置した。
その全てを避け、魔神に近づく。
全力で跳躍し、魔神にナイフを突きつけようとし——
急に魔神の体に黒い渦が生じた。
——っ!
私はその渦へと吸い込まれていった。
別次元の大地へ降り立つ。
普通ならここからは何もできない。
だが——用意していたものがある。
【次元転送】——発動。
魔神の背後に飛ぶ。
「馬鹿な……影殿!」
玉野さんが悲壮感を見せている。
「……フハハ! これで一番危険なやつがもう消えた。
お前らは世界の崩壊に巻き込まれ、永遠の暗闇へ消えるがいい!」
魔神の高笑い。
……気づかず、一生笑ってろ。
ナイフを構え、魔神に向かって走り出す。
「ハハハハ……は?」
奴が違和感に気づいた。
振り向く魔神。
私に気づいた魔神の瞳が恐怖で見開いている。
魔神が体を捻り、ナイフを避けようとしている。
だが、ナイフは当たる寸前だ。
その巨体ではもう避けられない。
私は虹色に輝く月影を、渾身の力で一閃した。
七色の閃光が、魔神の巨躯を真っ二つに切り裂いた。
全ての属性に焼かれ、奴の体にヒビが入り始める。
「ばか……な……この……ワレが……ッ!」
魔神アルナの体が崩壊していく。
光の粒となって消えていくのを確認し、私は深く息を吐いた。
内側から光の奔流が放出され、世界に彩りが戻ってくる。
空間を蝕んでいたひび割れが止まり、世界を覆っていた赤黒い瘴気が、霧散していく。
やがて視界に光が差し込む。
赤黒かった空は透き通るような青に戻り、遠くの地平線から太陽が顔を見せ始めた。
世界が再生していっている。
「……あぁ……この光をずっと待ち望んでいた」
フーガが空に手を伸ばし、瞳から涙が溢れている。
玉野さんたちもただ黙ってその青空を見上げていた。
虹色の輝きを失い、元の漆黒に戻ったナイフを鞘に収めた。
玉野さんに近づき、声をかける。
「……震えて待つ暇、なかったですね」
私の言葉に、玉野さんが一瞬呆れたような顔をし——そして、ふっと柔らかく笑った。
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後書き
次回——最終話。




