最終話 日常の底で、刃は静かに成長する
魔神アルナを討伐してから、一週間が過ぎた。
あの決戦の直後、フーガの兄もすぐに目を覚まし、お礼を言われた。
フーガは「今後は必ず地球に手出しはしない」と約束した。
奴とは敵として対峙したが、その武人のような性格は信用できる。
おそらく、もう二度と出会うことはないだろう。
フーガたちが穏やかに過ごせることを祈り、別れた。
だが、異界から戻った私の目に飛び込んできた光景は、勝利の喜びに浸るにはあまりに過酷だった。
——街がボロボロになっていた。
崩れたビル、抉れたアスファルト。
震える手で携帯を取り出し、咲や父親に連絡を入れる。
呼び出し音が鳴り響くあの数秒間は、間違いなく人生で一番生きた心地がしなかった。
繋がったときは、本当に安堵のため息が出た。
幸いにも、ギルドの職員や自衛隊が死力を尽くしてくれたおかげで、民間人の死傷者は極めて少なかったという。
私たちが魔神を滅ぼしたのと同時に、この世界を埋め尽くしていた怪物たちも、まるで幻だったかのように一斉に姿を消したらしい。
「もう少し遅れていたら、流石にヤバかったかもな」
後に会った岸さんはそう教えてくれた。
岸さんは活躍を讃えられ、最近は毎日ニュースで取り上げられている。
記者に追いかけ回されていると苦笑いしていた。
少しずつ瓦礫が片付けられ、復興へと歩み出す街の喧騒。
それを見つめながら、勝ててよかったとしみじみ思った。
*******
ある日のことだ。
目の前の空間が歪み、ゲートが発生した。
今では存在するはずがない、時空の裂け目。
警戒しながら、中に入る。
だが、中にいた存在を見て、私はその力を抜いた。
そこに立っていたのはアラヤだった。
「汝に報酬。願望、決めろ」
感情の読めない声が響く。
詳しく聞けば、今回の魔神討伐で最も貢献したのが私らしい。
アラヤができる範囲で一つだけ報酬を与えてくれるのだという。
……正直に言って、今の私には何も欲しいものはない。
けれど、頭の片隅で他の人たちの顔が浮かんだ。
魔石がなくなり、魔石発電について頭を悩ませていた重村さん。
今後、何のために力を使うべきか迷っていた玉野さんたち。
そして、ゲートがなくなったことで、暴走し始めた探索者たちのニュース。
私は一つの案を思い描いた。
——死者が出にくいダンジョンを作ることはどうだろうか。
以前のゲートみたいに不法な薬物は手に入らず、代わりに人々の生活を支える魔石や資源が手に入る場所。
力の行き場を失った者たちも、社会の中で役割を持てる。
「各地区、ダンジョン発生案——了承」
アラヤの言葉と共に、世界に新たな理が刻まれた。
すでに発生させたらしい。
……考えた瞬間に決定してしまう、そのスピード感には驚いた。
でも、咄嗟に考えた案にしては悪くないと思った。
ゲートから出た後は、玉野さんや重村さんに連絡を入れておく。
『感謝するのじゃ』
玉野さんからは、そんな返信が届いた。
ただし、ダンジョンでも死者が出ないわけではない。
余計なトラブルは避けたかったので、私が関与したことは伏せておくようお願いしておいた。
*******
その日の夜。
自宅の庭に、咲を呼んで小さな花火大会を開いた。
パチパチと弾ける火花を眺めながら、父親と他愛もない話をする。
少し離れた場所で、咲が私をじっと見つめていた。
「ねえ天音。……正直、前回の花火大会のときって消えるつもりだった?」
「……咲は相変わらず鋭いね。気づかれていたとは思わなかったけど……まあ、うん」
私が曖昧に頷くと、咲は私の肩を強く叩く。
「もう二度と、そんな自己犠牲なんて考えないでね。約束だよ」
……その言葉は正直、胸に刺さる。
私は小さく頷いた。
もしかしたら、今後も魔神のような存在が再び地球を襲ってくるかもしれない。
でも、もし現れたとしても関係ない。
私には力がある。
この力を、どう使うかは——私が決める。
誰かに認められたいわけでも、歴史に名を刻みたいわけでもない。
ただ、必要な時に、必要な場所で。
大切な人を守り抜くために。
——静かに、確実に。
刃を研ぎ続けよう。
日常の中で誰にも知られず、一振りの刃として。
それが、私の選んだ道だから。
——「【ゲート×ソロ成長】孤独な少女は、影を纏い最強へ 〜日常の底で、刃は静かに成長する〜」 完
後書き
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
天音たちの物語はここで幕を閉じますが、彼女たちの生活はこれからも続いていきます。
後日談として、彼女たちがどんな日常を送っていくのか。
第4章や最終章時点の掲示板なども考えております!
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現在、次回作の構成も進めており、
次は『猫が主人公の現代ファンタジー』を予定しています✨
ストックが貯まり次第投稿していきますので、気になった方は見ていただけると幸いです。
この物語にお付き合いいただき、心から感謝します!




