第13話 覚醒
——適合完了——
【ユニークジョブ:勇者】
ユニークスキル獲得:【聖剣武装】 / 【制限解除】
全身から力が湧き出る。
魔王の外装を貫ける——そう感覚的に理解した。
さらに、全スキルのクールタイムが消失していることに気づく。
まだ有利になったわけではない。
ようやく土俵に立てただけだ。
魔王は、依然として優雅な足取りでこちらに近づいてくる。
その余裕こそが、最大の隙だ。
警戒される前に、私の最大火力を叩き込む。
——【雷遁】——
——世界から色が消え、静寂が支配する。
この世界でも、魔王は反応してくる。
最大のチャンスは一度きりだ。
地面を爆ぜるように蹴り、最短距離で魔王へ肉薄する。
月影に、凝縮された紫電を纏わせた。
魔王の顔に、呆れたような、あるいは嘲るような色が浮かぶ。
——そうやって、最後まで油断していろ。
ユニークスキル——【聖剣武装】発動。
ナイフに強烈な黄金の光が灯る。
その光を見た瞬間、魔王の瞳に初めて戦慄が走った。
奴は即座に回避態勢へ移行しようとするが、もう遅い。
私は渾身の力で、ナイフを振り下ろした。
魔王は致命傷を避けるべく体を捻る。
だが、光を帯びた刃は奴の右腕を捉えた。
これまでとは明確に違う。
初めて——刃が魔王の外装を通り過ぎる。
「ガァアアアアアアア!!!」
絶叫。
右腕が断ち切られ、荒れ狂う雷が奴の傷口から全身を焼いていく。
一太刀で沈めることは叶わなかった。
しかし、ずっと無傷だった奴の体に初めて傷がつく。
追撃の一閃を放とうとした瞬間、魔王は猛然と後退した。
「——瞬間回復」
傷が、音もなく塞がっていく。
だが——
切断された右腕までは再生せず、その断面は残ったままだ。
「勇者は完全に滅ぼしたはずだ……。なぜ、勇者がここにいる!!!」
常に余裕を崩さなかった魔王が、初めて声を荒らげ、動揺を露わにした。
勝機だ。
ここで油断はしない。
再び魔王に向かって走り出す。
「チィ……【狂化】!!」
魔王が叫ぶと、奴の身を禍々しい漆黒のオーラが包み込んだ。
かつてフーガが見せた強化スキル。
——速い!
ナイフと奴の爪が激突し、凄まじい火花が散る。
その衝撃に耐えきれず、私は後方へと弾き飛ばされた。
速度は互角。
だが、純粋な力はこちらが僅かに下回っている。
私が吹き飛ばされたのを見て、魔王は僅かに落ち着きを取り戻した。
「多少驚いたが……もう一度、過去と同じことをすればいいだけだ」
魔王が左手をこちらにかざす。
その掌にどす黒い闇が凝縮された瞬間——フーガが横から割り込み、私を抱えて強引に場所を移動させた。
直後、私たちがいた地点に、すべてを呑み込むような黒い渦が発生する。
「気をつけろ。奴の『次元転送』だ。あの渦に入れば、どこへ飛ばされるか分からん」
フーガもまた、漆黒のオーラ——【狂化】を纏っている。
「……ありがと」
素直に感謝を口にすると、フーガは短く鼻を鳴らした。
「フーガァ……どこまでも邪魔をするか!」
魔王の標的がフーガへと移る。
戦況は再び拮抗し始めた。
この均衡を崩すには、もう一押し、決定的な一打が必要だ。
(……そうだ、適合個体)
アラヤが玉野さんたちをそう呼んでいた。
私と同じ状態になる可能性がある。
玉野さんたちに視線を向けると、体力の限界か膝をついていた。
「玉野さん。以前、私に言いましたよね? 『部屋の隅で震えて待っておくか?』って」
私の問いかけに、玉野さんがハッとした表情を浮かべる。
「このまま私に任せて……部屋の隅で震えて待っておきますか?
風戸さんも、雪奈さんも。限界なのはわかってます。
それでも——ここで『覚悟』を灯せますか?」
あえて挑発する。
玉野さんにはこの方法が効くはずだ。
玉野さんの瞳に不敵な光が戻る。
風戸さんは血まみれの顔で「まだ動けるで」と笑った。
雪奈さんは無言で立ち上がり、氷の結晶を手の中で転がした。
「小娘にここまで言われて、動かんわけにはいかんのぉ。
……影殿、先に行っておれ。必ず追いつく」
玉野さんの力強い言葉を背に、私は再び前を向く。
「期待して待っていますよ」
視界の端で、フーガが深い傷を負いながらも奮闘している。
だが、魔王の傷は一切増えていない。
私は魔王へと肉薄し、月影を振るう。
魔王はそれを鋭い爪で迎撃した。
「フーガは援護を! 私が攻める!」
私の合図で、フーガが絶妙な距離感で後方へ下がる。
魔王の爪とナイフがぶつかり合う。
その反動を利用し、私は【影潜伏】で奴の影へと沈み込んだ。
目標を失い、魔王の体勢が僅かに崩れる。
その死角——背後から飛び出し、奴の首筋へナイフを突き立てる。
咄嗟に躱されたものの、刃は奴の左肩に深く食い込んだ。
「ぐっ……!」
肩が大きく抉れ、奴の左腕の動きに精彩が欠ける。
「この器は限界か……。もう少し、エネルギーを集めたかったが……」
魔王の口から、どろりとした漆黒のモヤが溢れ出した。
同時に、魔王の体が糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
漆黒のモヤは、窓を突き破って屋外へと飛び出していった。
あれが本体なのだろう。
——逃がさない。
私はモヤの後を追って、窓から飛び降りる。
空は濃密な瘴気に覆われ、軋むように歪んだ。
空間そのものに巨大な亀裂が生じ始める。
漆黒のモヤがその亀裂へと吸い込まれた瞬間、中から天を突くような20メートルほどの巨人が姿を現した。
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【個体鑑定:魔神アルナ】
レベル:50
スキル:【次元転送 Lv.8】 / 【暗黒魔法 Lv.7】 /
【威圧 Lv.7】 / 【瞬間回復 Lv.6】 /
【鑑定 Lv.6】 / 【魔王覇気 Lv.5】 /
【吸収 Lv.5】 / 【憑依 Lv.4】 /
【幽体 Lv.3】 / 【洗脳 Lv.2】 /
ユニークスキル:【次元崩壊】 / 【魔王外装】
状態:不完全 弱点:——
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