間話 適合個体 アラヤ視点
——システム、稼働。
全次元、同期。
記録を再生する。
かつて第一次世界ウールトゥースにおいて、侵略者である魔神アルナと、五人の勇者たちが激突した。
魔神の身に纏うは法則そのもの。
いかなる干渉も弾き返す外装だ。
だが、勇者たちも無策ではなかった。
彼らが有するユニークスキル:【聖剣武装】。
——それは万象を切り裂く一種の概念攻撃。
如何なる防御をも無効化するその力は、魔神の堅牢な外装すら貫き、討滅寸前まで追い詰めた。
しかし、決定打が欠けていた。
勇者たちは、滅ぼせぬのならばと封印を選択した。
だが、魔神アルナもまた、ただでは封印されぬ狡猾さを持っていた。
魔神は最後、封印の反動を利用して呪詛を放った。
勇者たちの力を分散させ、復活後の脅威を消し去るために。
第二次世界セクンドゥム、第三次世界ガルヴェール、第四次世界クアロトゥス、第五次世界クィンヴォール、そして第六次世界ヘキロジェム。
五人の勇者はそれぞれ異なる次元世界へと放逐された。
魔神と勇者の戦いは、痛み分けという形で長い沈黙へと入った。
それから、幾億の刻が流れた。
勇者たちの故郷は滅び、血脈は希釈されていった。
だが、各世界に散った勇者の因子は絶えていなかった。
その因子を色濃く受け継ぐ個体にのみ発生するスキル。
——【継承】。
それは、もはや王の証として語り継がれるに過ぎなかった。
時は訪れ、魔神の封印が緩む。
肉体を封印された魔神は、怨嗟の塊たる幽体となって現世に滲み出す。
その時代で最も優れた個体——魔王フールに取り憑いた。
魔神の目的は二つ。
一つは、莫大なエネルギーの吸収による封印の完全解除。
もう一つは、不倶戴天の敵——勇者の因子を根絶やしにすること。
魔神の手先となった魔王軍は、それぞれの世界を破壊し尽くしていった。
そして、第五次世界クィンヴォールもまた、最期の時を迎えようとしていた。
「もう、限界だ……」
「故郷は既になくなった。守るべきものはもう何一つない」
「止められない。魔王をどうすればいい」
絶望し、立ち尽くす者たち。
やがて来るべき戦いに備え、介入を開始した。
『契約を要求。
承諾確認後、座標を再配置』
対象へ提案を提示。
このまま無価値に消えるか、あるいは未来へ全てを託すか。
『条件設定。
候補個体と遭遇時——【継承】を実行せよ』
彼らに残された唯一の反撃手段——繋ぐことのみ。
五つの世界の勇者の血脈たちは、葛藤の末にそれを受け入れた。
「……継承しかない。託さねば、俺たちが存在した意味すら消える」
「だが、それだとお前は——」
契約は完了した。
追加条件として、「継承相手は見極めさせろ」という要求が提出された。
承諾。選定を開始。
ただ力が強いだけの個体は必要ない。
魔神を破るには、複雑な事象を理解する高い思考力と、刹那の判断力が必須である。
石碑を生み出し、候補たちを選定していく。
選ばれた候補者たちを、継承者たちと戦わせた。
【継承】が可能かは、継承者たちと候補たちの相性もある。
彼らが納得し、その魂が共鳴した時のみ【継承】が行われるようシステムを組む。
ただし、適正を測るため、能力値は常に候補者たちよりも僅かに高い値に制限し、壁として機能させた。
そして、数多の脱落者を経て、真の適合個体が絞り込まれる。
適合個体02——玉野舞。
全体把握能力、指揮能力の優れた個体。
適合個体03——東條雪奈。
演算能力の高さ、魔法構築能力が極めて高い個体。
適合個体04——風戸涼。
精神的打たれ強さが異常値の個体。
そして、二つの勇者因子を受け継ぐ最有力候補。
適合個体01——相沢天音。
思考力、意志力が高い個体。まれにシステム外の動きも見せるイレギュラー。
思考力を鍛えさせるため、彼らを誘導し続ける。
勇者の力が分かたれて久しい。
計算結果により、完全な覚醒には元の世界の因子が必要と判断。
それぞれの世界を創造し、候補たちに染み込ませる。
現在。魔王城最深部、観測中。
魔神の憑依した魔王を前に、彼らはボロボロになりながらも立っている。
器は、十分に馴染んだ。
ここからは彼らの意志が重要になる。
絶望に呑まれても、戦う意志を持てる者。
——それが勇者に覚醒するための絶対条件。
周囲は倒れ伏し、攻撃は一切通らない。
その状況下でも、心に火を灯せるか。
シミュレートを何度しても、ここだけはブレた。
だが、適合個体01——相沢天音は立ち上がった。
魂の最奥で最後の因子——「覚悟」が灯っている。
システム最終段階、移行。
『覚醒完了』
今、この瞬間をもって、勇者の因子が解放される。
適合個体01——相沢天音。
——【ユニークジョブ:勇者】覚醒。




