第8話 時渡り
視界に2体のリンドカムイが映った。
核が治ったのは時空間魔法で、時間を巻き戻したからと予想がつく。
だが、2体に増えているのはどういうことだろう。
そう考えていると、玉野さんと【共有】で繋がる感覚がした。
『影殿、そこに居ったか。雪奈殿の【鑑定】で、ワシらもこの敵のスキルをある程度把握しておる。
影殿の【詳細鑑定】の結果を教えて欲しいのじゃ』
骨の犬と戦いながら、玉野さんに伝える。
『私の【鑑定】はおそらくこの敵に【封印】されて、今は使えない状況です。
ですが、奴のユニークスキル:【時空間魔法】というものは見れました。
リンドカムイ2体を【鑑定】した結果が知りたいのですが、雪奈さんに聞けますか?』
『ふむ……【時空間魔法】か。詳細が分からぬのは、かなり厄介じゃな。
雪奈殿に聞いてくるので暫し、待つのじゃ』
玉野さんが雪奈さんと話している間に、骨犬を斬り捨てる。
骨犬2体なら、連携していようとも問題ない。
リンドカムイに視線を移す。
片方のリンドカムイは何かに集中している様子だ。
周囲の警戒をしていない。
……何をしているか分からないが、攻撃を仕掛けるチャンスだ。
雪奈さんが氷魔法を飛ばすのが見えた。
私もこれに乗じて、攻撃しようと走り出す。
氷魔法がリンドカムイに迫った瞬間——
——その場から奴らが消えた。
周囲を見回す。
100mほど上空で浮遊していた。
そこまで高くにいると、【足場生成】をしても届かない。
……本当に嫌な敵だ。
そう思っていると、玉野さんの声が頭に響く。
『片方がどうやら、状態:時渡りと出ていたようじゃ。
おそらく【時空間魔法】で、未来か過去から自身を呼び出しているのではないじゃろうか』
……なるほど。
1体だけでも厄介なのに、2体の相手は正直かなり厳しい。
だが、諦める理由にはならない。
『時渡りと出ていない方を優先して狙うのがよかろう。
スキルを介在しておるなら、撃破で両方とも消えるはずじゃ』
その作戦に了承しておく。
そこで2体のリンドカムイも動き出した。
もう片方の個体も骨犬を出してくる。
3体の犬たちは私が斬り、別の1体は他のチームが倒していた。
残りは10体。
そいつらから離れ、私の位置がバレないようにする。
周囲のメンバーは、増えた骨犬たちに動揺していた。
……このままだと持ち堪えるのが厳しそうだ。
骨犬たちを各個撃破していくか、リンドカムイを最優先で狙うかで迷う。
その瞬間、玉野さんが叫んだ。
「——全員傾聴せよ! ワシらが必ず上空におる存在を倒す。
それまで、何としてでも犬共を引き留めよ! 難しい注文だが……お主らならできるじゃろう?」
威厳のある声。
玉野さんがメンバーを信頼しているのが伝わってくる。
玉野さんの言葉に呼応するように、周囲で歓声が上がった。
「まだ、準備運動だったので全然余裕っすよ!」
「そちらを優先してください。必ず、骨犬共はそちらへ行かせません!」
……流石、玉野さんだ。
一言だけで、動揺していた人たちが一気に士気を上げている。
それを見て、上空にいるリンドカムイ共が話し始める。
「絶望させても、立て直す者たちは本当に厄介よな」
「だが、そういう者共をさらに叩き潰すのは好きよな」
マグマを操り、私たちを攻撃してきた。
しかもマグマの螺旋が2本に増えている。
雪奈さんが凍らせ、風戸さんがその体で防いでいるが、2本は厳しそうだ。
もし別の方向からきた場合、対処できそうにない。
玉野さんが上空に焔を飛ばしているが、リンドカムイは動かない。
【自動防御】で平然と防いでいる。
何か手を打たないといけない。
ならば——
⸻
【物真似 Lv.5 発動】
模倣スキル:【魔導 Lv.6】
使用可能時間:13分
⸻
私もマグマを操り、マグマの螺旋同士をぶつけ合い相殺する。
1本の螺旋は素通りするが、これならば風戸さんも防ぎやすいだろう。
「なんと……」
リンドカムイが驚いている。
少しだけ【魔導】の使い方に戸惑ったが、すぐに慣れた。
慣れれば空中浮遊もできそうだが……今すぐは難しそうだ。
だが、使い始めて分かったことがある。
【魔導】で浮くのは想像以上に難しい。
ならば、リンドカムイも空中で急には動けないはずだ。
玉野さんと思考が繋がる。
『影殿、ナイスじゃ。少し聞きたいのじゃが、影殿は奴らを攻撃できる手段はあるじゃろうか?
それ次第で、ワシも切る札が変わるのじゃ』
マグマを操りながら、その場でできることを考える。
残念ながら、【電磁砲】は届きそうにない。
マグマの操作でも、50mが限度だろう。
ふと、咲に作ってもらったナイフが目に入った。
黒い影で覆われたナイフ——月影。
ここまでの反応を見るに、見えない攻撃には【未来視】も鈍い。
【自動帰還】でナイフが戻ってくるのなら投げても問題ない。
玉野さんに返事をする。
『あります。ただ、威力がそこまであるわけではないです。
【時空間魔法】が奴にはあるので、決定打になる攻撃は玉野さんに任せたいです。
あと……おそらく、奴らは空中で急移動できないと伝えておきます』
『ふむ……それならば、なんとかできそうじゃ。
合図したタイミングで、【自動防御】の破壊をお願いするのじゃ』
了承しておく。
マグマを相殺しながら、タイミングを待つ。
「ユニークスキル——【炎狐融合】」
玉野さんがそう言った瞬間——玉野さんと炎狐が一体化し、一匹の妖狐が生まれた。
強烈な威圧感があり、小さい体躯とは思えぬ迫力がある。
『——今じゃ!』
月影を投げる。
私が投げると同時に、妖狐となった玉野さんが空高く跳躍した。
その口から放出される、直径5mほどの火柱。
リンドカムイは自身の【未来視】と【自動防御】を絶対視しているのだろう。
その場から動いていない。
——それが唯一の隙だ。
影で覆われたナイフが一直線にリンドカムイに向かう。
奴はナイフに気づいていない。
火柱が届く直前、ナイフが【自動防御】にぶつかった。
「な!?」
リンドカムイがその声を発した瞬間——火柱に飲み込まれた。
ローブは燃え尽き、上空から落下していくのが見える。
——だが、まだ生きていた。
手にナイフを呼び寄せ、落下地点に駆け出す。
もう片方のリンドカムイが必死に追いかけているが——遅い。
空中で足場を生成し、一気に近づく。
落下している個体に狙いを定め、ナイフで核を一閃した。
「……フーガめ……もっと情報を寄越せ……な」
リンドカムイがそう呟き、光となって消えていく。
地面に着地し、周囲を見回す。
骨犬も、もう片方のリンドカムイも完全に消滅していた。
「ふぅ……」
強敵が倒れた瞬間、歓声が響き渡った。
……まだ、魔王を倒したわけではない。
遠くで、どこか禍々しい気配を感じる。
それでも、転送という第一関門突破だ。
ナイフを鞘に収め、歓声に応えた。
後書き
最後の魔王軍幹部、リンドカムイの撃破!
決着はいかがだったでしょうか?
なお、リンドカムイの【魔導】を物真似で封印した場合、落下死していた可能性も(笑)
流石にその決着はどうかと思ったので、急遽変更しました。
物語もいよいよ佳境。
どういう結末になるのか、予想しながら楽しんでもらえると嬉しいです!
少しでも「リンドカムイ、これまでで一番の強敵じゃね?」「魔王はこれより上か……この先の展開が気になる!」と思っていただけましたら、
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「こういう作戦も良かったかもなー」といった感想も大歓迎です✨
次の話もよろしくお願いします!




