第6話 ヤタ族
石碑の前。
私は反射的にナイフを構え、その子供を凝視した。
水色に透き通った身体。内側から淡い光を放ち、まるで深海に漂うクラゲのような儚さがある。
だが、その輪郭は間違いなく人間の子供のそれだった。
衰弱している様子で、気配が薄い。
その子供は私を呆然と見ている。
【気配遮断】を使っているはずなのに、明らかに私に気づいていた。
だが敵意はなさそうだ。
子供に【鑑定】を行う。
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【個体鑑定:ヤタ族】
レベル:6
スキル:【水泳 Lv.2】 / 【水感知 Lv.2】
ユニークスキル:なし
状態:衰弱 弱点:近距離
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鑑定のレベルが上がり、ユニークスキルの項目が増えていた。
強敵と戦う際に、事前に知れるのは大きい。
グッと右手を握りしめた。
この子のことも考えよう。
(ヤタ族……どこかの部族だろうか?)
ヤタ族を詳細鑑定してみる。
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ヤタ族
ガルヴェールの先住民族。
かつてはガルヴェールにおいて最も繁栄していた。
故郷が滅び、生存している個体数は少ない。
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故郷が滅んだ種族。
どうして故郷が滅んだのか書いていないが……魔王軍に滅ぼされたのだろうか。
戦う力を持たない、ただの幼子。
そんな子供が衰弱しながら、私を見つめているのは胸にくるものがあった。
「ヤ……タ……ア……」
子供が口を開く。
だが、その声は水が弾けるような、あるいは鈴が鳴るような不思議な音階で、何を言っているのかさっぱり分からない。
言葉が通じない。
その子は大きな瞳に涙を溜め——。
不意に、子供がその場で膝をついた。
そのまま苔むした地面に、額を強く擦り付ける。
(……土下座?)
土下座と同じ意味かは分からない。
だが必死に何かを懇願をしているとなんとなく理解した。
子供はその体勢のまま、ある方向を指差す。
海底神殿に向かって光が発している場所と真逆の方角。
「ヤタ……! ア、アタ……!」
必死に身振り手振りで伝えてくる。
胸を掻きむしり、檻に閉じ込められたような仕草。
(……あっちに、誰かが捕まっているのかな?)
助けてほしい、と。そう言っているのだろうか。
どう動くべきか、思考を巡らせる。
私は調査のためにここに来た。
子供が罠の可能性もある。
向かった結果、待ち伏せがあるかもしれない。
もし本当だとしても、リスクを冒してまで助ける必要はあるのだろうか。
捕まえている存在に露見する可能性がある。
だが——
あの「新しく燃え尽きた線香」を思い出す。
この子が、あるいはこの子の仲間が、お墓を守ってきたのだとしたら。
故郷が滅びても、それでも死者を悼みながら生きようとしている者がいるのだとしたら。
……合理的に考えれば、関わる理由はない。
調査を優先すべきだ。
けれど——
助けを求める目を、見なかったことにはできなかった。
(……はぁ。まぁ……何か手掛かりが掴めるかもしれないし)
私は構えていたナイフを鞘に収めた。
「分かった。案内して」
言葉が通じているかは分からない。
けれど、私の返事を聞いた子供の顔がパッと明るくなった。
子供は透けるような身体で駆け出し、たまに私の方向を振り返る。
私はその小さな背中を追って、静寂の街を走り抜けた。
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子供に案内されたのは、街の離れにある地下空洞の入り口だった。
入り口には、どこか禍々しい気配を感じる。
ここから先は、確実に敵が潜んでいる。
子供は入り口の影に隠れ、震えながら奥を指差した。
その先には、黒い結晶で作られた檻があり、子供と同じような存在が何人も閉じ込められていた。
繋がれた鎖から何かを吸収されているように見える。
そして、その檻の前で座っているのがいた。
全身を黒い鱗のような鎧で固めた半魚人の戦士——サハギン。
その数は、3体。
お互い同士でおしゃべりをし、どこか怠慢な雰囲気を感じさせる。
鑑定した結果、レベルも20ほど。
スキルも全体的に低い。
……話し合いに夢中で、周囲を全く警戒していない。今なら全員いける。
私は【気配遮断】を強め、洞窟に足を踏み入れる。
(一気に決める……!)
ナイフでまとめて首を一閃していく。
サハギンたちは何が起きたか分からない表情を浮かべ、消えていった。
地面に鍵が落ちる。
「ヤ、ヤ……ア……!」
檻の中の人たちが目を見開いている。
周囲を見回しても、他に敵はいなさそうだ。
ホッと一息つく。
そうしていると、子供が近づいてきた。
表情が喜色ばんでおり、中の人たちを指差している。
子供と中の人たちが何か話していた。
落ちた鍵を使い檻を開け、鎖で繋がれた人たちを解放していく。
解放された人が子供を抱きしめ、子供は涙を流していた。
その光景を見て、リスクを冒してでも助けて良かったなと改めて思う。
そんな私に、檻で囚われていた老人が近づいてきた。
そして脳内に言葉が浮かぶ。
『ワシはヤタ王! 助けてもらい感謝する!』
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後書き?
重村「松田、見たか? これこそ天音ちゃんじゃ! ワシが助けられたときを思い出す!」
重村が興奮したように話している。
少し前の真面目な重村はもう消えたらしい。
松田「はいはい、見てますよ」
松田は投げやりになった。
一瞬でも感心したのを返してほしい。
なお重村が助けられたのは今回と異なり、完全に偶然だった模様。
その後は、しばらく重村が興奮してうるさかったみたいだ。
松田はそっとワインを一口飲んだ。
だが顔をしかめる。
……高級ワインが、誰かのせいで少し苦く感じたようだ。




