第5話 第三次
玉野さんたちと分かれて行動し、私は一人で街へと辿り着いた。
街には人の気配がなく、モンスターの気配すらない。
……街に見えるのにどういうことだろう。
気配遮断をしながら、街内に入っていく。
街のほとんどが厚い苔に覆われている。
かつては人々の営みがあったのかもしれない。
だが今はただ、重苦しい沈黙が支配していた。
見渡す限りでは人影がない。
……なぜ、ゲートの中にこれほど巨大な街が存在するのだろう。
生成されたにしては、あまりに「かつて存在した文明」の残り香が強すぎる。
疑問を抱きつつ、私は慎重に数軒、崩れかけた家の中を覗いてみた。
だが、そこは徹底して空っぽだった。
生活感というものが、何もなかったかのように、根こそぎ奪い去られている。
家具らしき石の塊はあるものの、人の温もりを感じさせる食器一つ、衣服の切れ端すら残っていない。
(……ここで、何かの手がかりを掴めるのかな?)
足元の苔を踏みしめる感触だけが、妙に生々しい。
不安を覚えながら、私は街から光が伸びている場所を目指した。
その道中、ふと足を止める。
街の片隅に、石積みが並んでいる場所があった。
……お墓だろうか?
なんとなく気になり、近づいてみる。
「——っ」
それを見て、即座に周囲を警戒した。
古びた墓石の上。
そこには「つい最近立てられたような、新しく燃え尽きた線香の跡」があった。
人がいる。
それも、つい先ほどまでここに。
私は【気配遮断】を深め、周囲を調べていく。
だが何もない。
遠くで響く水の音以外、何も聞こえなかった。
(……お墓を荒らすような真似はしたくないけど)
手がかりを求めて、私は周囲を調べて回った。
すると、並んでいる墓石とは明らかに質の異なる、異質なものが視界に映った。
⸻
『見極めよ』
『虚実が入り混じる世界を』
⸻
——石碑だ。
また、意味深な言葉。
『虚実が入り混じる』
何が本物で、何が偽物なのか。
この街そのものが幻影だとでも言うのだろうか。
私は一つ、深く深呼吸をした。
思った以上に自分が緊張していることに気づく。
そして、以前から試そうと思っていたことを実行しよう。
私は石碑に真っ向から向き合い、【鑑定】を飛ばした。
⸻
【物品鑑定:ガルヴェールの石碑】
状態:正常 品質:普通
スキル:なし
⸻
「ガルヴェール……」
地名か、あるいはこの石碑を作った者の名前か。
私はさらに詳細鑑定を試みる。
その瞬間、視界のウィンドウが激しく明滅し、バグのような文字列が並び出す。
⸻
ガルヴェールの石碑
【蜍晄焔縺ォ隕九k縺ェ】が作った導きのための石碑。
第三次【隕九※繧九h】ガルヴェール【豸医@縺ヲ縺?¥】に置かれている。
【雋エ讒倩ヲ九※縺?k縺ェ縲よカ医☆】
⸻
脳を直接かき回されるような不快なノイズが響く。
文字化けした部分が、まるで蠢く虫のように歪んでいく。
吐き気をこらえ、その不規則な並びを必死に読み取ろうとした、その時。
⸻
【ERROR】
閲覧するには、権限レベルが足りません。
⸻
「はぁ……はぁ」
膝に手をつき、荒い息を吐く。
ウィンドウは強制的に閉じられ、二度と詳細を映し出すことはなかった。
何度試しても、『ERROR』とメッセージが返ってくるだけだ。
だが収穫もあった。
鑑定スキルのレベルが一つ上がったのだ。
……それに断片的に読み取れた。
誰かが「導き」のために作った石碑。
石碑を作った者は、私たちを導いて何を成したいのだろう。
そして——「第三次」
以前の場所で目にした「第五次」という単語と対をなす数字。
この都市の名前か、世界の名前が「ガルヴェール」だということ。
今までの情報から察するに、ここは
——第三次世界ガルヴェール。
そういう意味だと思う。
だが新たに疑問が生まれる。
……三次があるなら、一次も二次もあったはずだ。
それらはどうなったのだろう。
そして私たちの世界は……何次なのだろう。
疑問がさらなる疑問を呼び起こす。
文字化けの中にあった不気味な意味深な言葉は分からない。
それでも——少しだけ前進した気がした。
他にも考えるべきことがある。
権限レベルは……鑑定レベルのことなのだろうか。
違うかもしれない。
でも、今後鑑定レベルが上がったときにまた試してみようと思った。
そう心に誓った、その時——
——カサリ。
背後で、乾いた苔が踏まれる音がした。
全身の毛が逆立つ。
私はすぐさま振り返り、逆手に握ったナイフを握りしめる。
だが、そこに立っていたのは、襲いかかってくるようなモンスターではなかった。
——水色で、身体が透けた、小さな子供が立っていた。
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後書き?
松田「代表? どうしました?」
重村「……うむ。天音ちゃんたちが動いていなかったら、どのような世界になっていただろうと想像してしまってな」
重村が重苦しい雰囲気で、街を眺めている。
重村「それに第三次世界ガルヴェールか……何次とは誰が決めているのか気になるのう」
重村が顎に手を当てて考えている。
その姿を松田が少し感心したように見る。
松田「……代表ってやっぱり代表だったんですね。少し見直しました」
松田が小さな声で「最近を見ていると、ついにボケたかと思っていました」と呟いている。
重村だって真面目なときがあるのだ。
……本当に、たまにだが。




