第4話 アトランティス?
防水ライトの青白い光が、深淵の闇を照らしていく。
私たちはゆっくりと、しかし確実に海底へと向かって潜っていた。
風戸さんのスキル【絶息鍛錬】のおかげで、呼吸の必要はない。
肺に空気が入っていないのに、苦しくないというのは……想像以上に奇妙な感覚だ。
私たちの周囲は、風戸さんのもう一つのスキル【大地の鼓動】によって、驚くほど穏やかな水の流れに保たれている。
だが、スキルが及ばない外部では、海が荒れ狂っている。
魚が一匹もいない。
もしこのスキルがなかったら、私たちは一瞬で海流に呑み込まれ、水圧に押し潰されていただろう。
ゴクリと唾を飲み込む。
奥底に近づくにつれ、さらに水の流れが激しくなる。
本当に【大地の鼓動】で耐えられるのだろうか。
少し心配になってくる。
だが、不安をよそに闇の奥底で拍動するゲートの光が見えた。
風戸さんはゲート前で待機している。
水の濁流から私たちを守るためだろう。
先行する難波ギルドの人たちが、迷いなくその中へ吸い込まれていく。
私も意を決して、ゲートの光の中へと突っ込んだ。
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ゲートをくぐり抜けた先も、まだ水中だった。
だが、そこは深海の暗闇ではなく、どこからか差し込む青白い光に満ちていた。
そして想像を絶する荘厳な光景が視界に映る。
(……何、ここ)
思わず、心の中で呟く。
苔むした、しかし圧倒的な威容を誇る巨大な古代ギリシャ風の遺跡が海底にあった。
折れた石柱の隙間を、青白い光がゆらゆらと漂っている。
石柱が林立し、その奥には、幾つもの巨大なドーム状の屋根を持つ、荘厳な神殿が海底にどっしりと根を下ろしている。
神殿の表面は、悠久の時を刻んだかのようにサンゴや海藻が絡みつき、本来の色を隠している。
しかし、その苔むした外観こそが、神殿の歴史を物語っている気がした。
その時、神殿の苔むした箇所から影が見えた。
上半身は人間、下半身は魚。
三叉の槍を構えた半魚人が3体、こちらに向かって泳いでくる。
鑑定を飛ばす。
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【個体鑑定:マーマン】
レベル:18
スキル:【水泳 Lv.3】 / 【槍術 Lv.3】 / 【水魔法 Lv.2】
状態:正常 弱点:遠距離
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モンスターが水中で現れたときは、事前にどう動くか決めていた。
玉野さんと視線を合わせる。
そのとき玉野さんと思考が繋がった。玉野さんのスキル【共有】だ。
『ワシ、風戸殿、影殿で一体ずつ受け持つ。他の者はそのメンバーの補助に徹するのじゃ!』
全員が一斉に散らばった。
水中で【雷遁】は使えない。
周囲にいる人たちまでも感電してしまう。
初の水中戦。
水の抵抗のせいでいつものキレが出ない。
マーマンの動き自体は遅く感じる。
しかし、自身が素早く動けるかは別だ。
マーマンの槍が、ゆっくりと迫ってくる。
私は身をよじり、槍を避けた。
(……動きにくい!)
相手の得意な土俵での戦い。
水中での戦い方を模索する必要がある。
私はナイフを逆手に持ち替え、一瞬の隙をうかがう。
スキルを試してみよう。
【スキル発動:足場生成】
その足場を、思い切り蹴り飛ばす。
——ゴォォ!!
水中での急加速。
水の抵抗をねじ伏せ、私は魚雷のような速度でマーマンの懐へと飛び込んだ。
そのままナイフをマーマンに突き刺す。
青い血が水中に霧のように広がり、マーマンが光となって消えていく。
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【スキルレベルが上昇しました】
スキル:【足場生成 Lv.1】 → 【足場生成 Lv.2】
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……よし!
足場生成を使用するには、建物か地面などに一度接しないと連続使用ができなかった。
接しなくても、2回使えるようになるのは大きい。
グッと右手を握りしめた。
周囲を見回すと、玉野さんの方はすでに対処が完了していた。
水中になぜか火が浮かんでいる。
私も他にできることはないか色々と試してみよう。
残りの一体を見る。
——風戸さんの腹に槍が突き刺さっていた。
(……え?)
思わず見返す。
だが、風戸さんはニヤけていた。
意味が分からない。
風戸さんは満足したような表情を浮かべた後、マーマンを拳で粉砕した。
よく見ると、風戸さんのお腹には傷一つついていない。
……もしかしたらトレーニングの一環なのかもしれない。
心配して損した。
私は軽く息を吐く。
無呼吸のはずなのに、癖は抜けない。
遺跡を背に、陸地に向かって泳いでいった。
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パシャリ、と顔が水面から出る。
陸に上がり、大きく息を吸った。
(……やっぱり呼吸ができるっていいな)
いくら呼吸の必要がないとはいえ、違和感がやっぱりあるようだ。
周囲を見渡すと、遠くに本来ゲート内で見かけないものがあった。
——街のようなものが見える。
それが何箇所も。
光のようなものが、それぞれの街から海底遺跡に目がけて伸びている。
思わず目を見開く。
驚いていると、遅れて玉野さんたちも上がってきた。
「ほう……ここがゲート内ちゅうんか! ええトレーニングができそうや!」
「風戸殿……今回は調査をするためにきたのじゃが?」
玉野さんがツッコミをしている。
……風戸さんは海面上昇についても鍛錬できそうとか考えてそうだ。
無駄にポジティブなことが羨ましい反面、こうはなりたくない。
その後は玉野さんたちと話し合い、街を別れて調査することに決めた。
——街、そして光。
この先には何が待ち構えているのだろう。
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後書き?
どこかの空間に亀裂が入り、そこから威圧感を持った人物が現れた。
その背後には誰かが付き従っている。
???「どうやら実験は成功したようじゃのう」
???「重村代表、こんな実験に二度と付き合わさせないでください」
重村に付き従っていた人物が、疲れたような顔でそう言う。
重村「天音ちゃんを特等席で見れると思うと、いてもたってもおられずのぅ。それに松田も気になっていたではないか」
松田「……そのために空間に作用させる物質を集めないでください。別の場所に飛んだらとハラハラしましたよ」
松田が胃を抑えている。
ストレスが溜まっているのかもしれない。
重村「上手くいったから良いではないか!」
どこからか重村が椅子とテーブルを取り出し、座っている。
テーブルには高級そうなワインがあった。
くつろぐ気満々なようだ。
松田がため息を吐き、別の椅子に腰掛けた。
重村「さて……天音ちゃんの活躍が楽しむかのう」
——重村、後書き?に参戦。
なおただの観戦目的である。
実は暇なのだろうか。




