第10話 停止世界
7月12日。
雷影の化身を獲得して2日経った。
今日は父親との約束通り、学校に復帰する日だ。
学校に行くのと並行して、分身をゲートに送る。
久しぶりに学校に行くと、咲が近づいてきた。
「天音、おはよ〜! これ渡しておくね」
咲からノートを手渡される。
「ありがと……ほんとに助かります」
手を合わせて咲に向かって拝む。
「それで、サボり魔さんはまた休む予定はあるの?」
咲が私の耳元で小さく囁いた。
よく見ると、咲は少し不機嫌そうな表情を浮かべている。
……しばらくはサボり魔と言われそうだ。
微妙に顔が引き攣る。
とりあえず今後の予定を考えよう。
(分身に任せれば、放課後だけ潜れば大丈夫……だよね?)
その分、放課後は大量にモンスターを狩ろう。
「多分もう休まなくても大丈夫だと思う。心配かけてごめん」
咲はホッとした表情を浮かべた。
「天音、一度決めたらずっと休みそうだったから心配だったの。
ところで22日の予定を空けるのは厳しそう? ずっと忙しそうだけど」
目を瞑る。
……9日後か。その前に、頬に傷がある男を捕まえることはできるだろうか。
「多分、大丈夫だと思う。ただ、もしかしたら予定がいきなり入るかも。
咲には悪いけど、その時はそちらを優先しないといけないかな」
「……分かった。ただ、問題なさそうなら予定を空けておいてね!」
咲がそう言うと、チャイムが鳴る。
先生が教室に入ってきたため、自分の席に戻った。
*******
学校に復帰して4日経った。
放課後。
ゲートに潜ろうとしたとき、玉野さんから連絡が入った。
『例の件じゃが進展があった。今、奴らが集まっている最中じゃ。
少しずつ人数が増えてきておる。影殿が動けそうなら早めに来て欲しい』
メッセージと一緒に地図が貼ってあった。
場所は、氷雪ギルドの近くにあるライブハウス。
『氷雪ギルドで軽く打ち合わせをした後に、乗り込む予定じゃ』と書かれてあった。
幸い、今いる場所から近い。全力で走れば10分ほどだ。
返事をし、氷雪ギルドに向かった。
……。
氷雪ギルドに到着すると、雪奈さんと玉野さんが話し合いをしていた。
「その場合、奴らを逃す可能性があるのじゃ……捕まえられるか確実とは言えぬ。
やはり、転移持ちが離れたときに踏み込むべきじゃ」
「……そうやって言っている間に捕まえる機会を逃すのかしら? 周囲に、人員を配置しておけばいいじゃない。
長距離転移はできなさそうなんでしょう?」
「万が一、逃れられたら姿をくらませる可能性があるのじゃぞ?」
二人とも私に気づいたようだ。
雪奈さんが話を中断し、話しかけてくる。
「あなたはどう思うかしら? 奴らを捕まえるときに、転移持ちの人が厄介なのよ」
詳しく聞くと、二人は奴らのメンバーにいる【集団転移】のスキル持ちをどう対処するか話し合っていた。
当初は、その人物に奇襲をする予定だった。
しかし、高レベルの【罠察知】スキルをその人物が持っていたため、奇襲が難しくなった。
逃げられる可能性が高く、対応をどうするかの話が難航しているとのことだ。
「……【集団転移】を持っている人のレベルはどれくらいでした?」
玉野さんから返事がきた。
「レベルは22じゃ。ワシらよりは低いが、一撃で仕留めるのは……かなり厳しいな」
レベル22。今の私よりちょうど10低い。
雷遁を最初から使えば——
気づかれる前に一撃でいける可能性が高い。
とりあえず提案してみよう。
「私が雷を纏った状態で突撃するのはどうでしょう? おそらく、その人物を一撃で昏睡させることができます」
雪奈さんが聞いてくる。
「あなた……そのスキルを使ったとき、かなり疲弊していたじゃない。
他にも捕まえる人たちがいるけど大丈夫なのかしら?」
「疲労を軽減できるスキルを獲得したので、その後も動けます。
心配してくれて、ありがとうございます」
私がそう言うと、二人とも納得したみたいだ。
【集団転移】スキルを持っている人の特徴だけは教えてもらい、私はライブハウスに向かった。
ライブハウス前に到着し、気配遮断を発動する。
気配を殺しながら中に入った。
ドアを開けた瞬間、壁の黒い吸音材が目に入る。
生暖かい空気と共に重低音が鼓膜を震わせた。
誰も演奏をしていないが、BGMで爆音が流れている。
タバコと汗の匂いが充満し、少し臭い。
視線を移すと、20人ほどいる男たちが談笑していた。
私を睨んできた、頬に傷のある男もいる。
傷の男に、別の人が話しかけている。
「おい、リーダー! 早く氷雪ギルドを襲撃しようぜ!
奴らのツラを歪ませたくて、もう待てねぇ!」
「もう少し待て。奴らが憎いのは……俺もだ。
別行動していたメンバーたちから『もうすぐ着く』と連絡があった。それから動くぞ」
憎い……ね。
なぜ恨まれているかは分からない。
だが、以前遭遇したときに睨んできたのは間違いじゃなかったらしい。
九尾ギルドを襲撃し、氷雪ギルドも狙う。
その後は……私も狙われるかもしれない。
私のことを嗅ぎつけ、周囲が巻き込まれる可能性もある。
背筋が冷たくなる。
(絶対に、ここで逃すわけにはいかない)
そう決意した、そのとき。
ライブハウスの扉が開いた。
新しく入ってきた連中を見て、ライブハウスにいた男たちが一斉に立ち上がる。
……まずい。
早く【集団転移】のスキルを持った人を探そう。
辺りを見回すと、場の端っこに教えてもらった人相と同じ人物がいた。
鑑定をすると、【罠感知】と【集団転移】のスキルがある。
傷の男が大声をあげた。
「みんな、今から移動するぞ! 復讐のときだ!」
「待ってましたー!」
「さすがリーダー!」
……他の人たちも鑑定したかったが仕方がない。
私は、魔力を消費し雷遁を発動させる。
身体から紫電が発生し、小さく「パチッ」と音がする。
「……おい、リーダー? なんか変な音がしないか?」
誰かがそう言った瞬間——世界から音が消えた。
床へと向かう、一滴の汗。
それが床に触れ、王冠状に弾けるよりも、遥かに速く。
私は地面を蹴っていた。
私の背後で、爆鳴が遅れて空気を爆破する。
目の前には、目標の男。
彼が指一本動かす暇すら与えない。
——終わりだ。
——【雷遁】——
私の脚が、男の胴体に吸い込まれた。骨が砕ける感覚。
くの字に折れ曲がった男の身体が、凄まじい衝撃波を伴い壁まで弾け飛んだ。




