第9話 雷影の化身
ユニークスキル:【雷影の化身】を獲得した。
まずは、このスキルで分身してみよう。
魔力を身体から消費する。
今までの雷遁を発動するのと同じくらいの消費量。
体内から抜けた魔力量から使用限度を推測する。
おそらく1日に6、7回が限度。
あまり、大量には作れなさそうだ。
それにいざという時のことも考えておく必要がある。
雷遁を2回は使用できる魔力を残しておきたい。
分身ができた場所に視線を移動させる。
そこには影が揺らぎ、全身が真っ黒の人物がいた。
体表から僅かだが、紫電が発生している。
私をコピーしたのか、ナイフも持っていた。
鏡でも見たが、明らかに不審者だ。
真夜中に見たら、悲鳴を上げる自信がある。
(玉野さんたち、この怪しさでよく普通に対応できたな)
最初に会ったときの内心を想像し、少し口元を緩める。
……こんなことを考えている場合ではなかった。
頭を横に振り、思考をリセットする。
とりあえず分身の性能を確かめよう。
説明に載っていた思考共有を意識してみた。
なんとなく繋がっているのが分かる。
一度、この状態で戦ってみよう。
近くにいるモンスターを探す。スライムがいた。
分身に倒してほしいと思うと、動き出す。
分身がどう動こうとしているか、分かる。
分身がスライムにナイフを滑らせる。
核を失い、スライムが消滅していった。
(分身がいるなら、一人で複数体を相手できそう)
そんなことを考えていると、なぜか私に経験値が入ってくる。
「……え?」
思わず、声が漏れた。
ステータスを確認してみる。
私自身が倒すほどの獲得経験値ではない。
だが、その半分ほど入っていた。
(これなら……学校に行っている間もレベル上げが捗る?)
どれくらい分身と離れられるか。
持続時間はどれくらいか。
それらはまだ分からない。
だが、条件次第ではさらに効率よくレベル上げができる可能性がある。
期待で胸が躍る。
性能を調べていこう。
時間をかけて、確認していった。
分身との距離は、調べた限りでは何キロでも離れられた。
持続時間は3時間ほど。それを超えると消える。
分身もスキルを使えるが、雷遁や雷影の化身など魔力を使ったスキルは使えない。
それ以外の性能は私とほとんど同じだ。
分身は自身の判断である程度動いていて、離れていても指示は出せる。
分身が消えると、その記憶が流れ込んでくる。
想像以上に便利だった。
ただ、少し欠点もあった。
石が当たったくらいで、分身は消えたりしない。
だが、僅かでも出血しそうな攻撃をくらうと分身が消えていった。
魔力を無駄にはしたくない。
使いどころは選ばないといけないなと思った。
とりあえず学校に行ってる間、分身を4体出そう。
3時間ごとに2体ずつ出せば、1日中ゲートに潜っているのとあまり変わりない。
そう決めた。
分身には、そのまま経験値稼ぎを続行してもらう。
分身の性能把握はここまででいいだろう。
あとは、雷影の化身の説明文に載っていたこと。
恩恵として身体が雷属性に適応する。
雷属性による魔力、体力消耗を軽減。
これにより、雷遁がどれくらい変わるか把握しておきたい。
ポーチから時計を取り出す。21時頃。
この時間なら雷遁で疲弊しても、すぐに帰ればいい。
ゲートの入り口近くに戻る。
周囲でモンスターを探したが、すぐには見当たらなかった。
……敵がいなくても雷遁の発動はできるか。
とりあえず発動しよう。
魔力が抜けていく。
魔力の消費量は今までの雷遁を発動したときと比べ、おそらく半分ほど。
分身と比べ、バチバチと激しい紫電が体表から発生してくる。
微かなプールの塩素消毒に似た匂い。
身体を動かすと、放電がストリームとなって後ろで流れていく。
時間が停止したと思うほどの圧倒的な速さ。
やはり、この状態だと全能感がすごい。
発動から3分が経ち、雷状態が解除された。
身体が重くなる。
だが、「もう寝たい」と思うほどではない。
以前、授業で1km走った後くらいの疲れだ。
少し身体が怠いが、このまま戦おうと思えば戦える。
そんな微妙な疲労具合。
(これなら、雷遁の手札を切りやすい)
今までは使用したら、効果がなくなる前に必ず勝たなければいけなかった。
だが、これなら使用した後でも戦える。
改めていいスキルが手に入ったと思い、ゲート外に出た。
……。
外に出て、背伸びをする。
最近は籠りすぎて、少しゲートに見飽きた。
ポーチからスマホを取り出すと、玉野さんから連絡が来ていた。
『頬に傷がある男の件じゃが、少し進展したのじゃ』
詳しく見ていく。
玉野さんは氷雪ギルドと傷の男の件についてやり取りをしていた。
その男が現れた場合、玉野さんに連絡がいくようになっていたらしい。
今日、氷雪ギルドで傷の男が現れ、玉野さんに連絡がきた。
玉野さんはやり取りの最中に、聞き耳を立てていたみたいだ。
その結果として、声が完全に同じで同一人物と玉野さんは確信したと書いてあった。
『追跡して、男の住所を突き止めたのじゃ。仲間も捕まえるために、今は泳がせておる。
いつになるかは分からぬが、奴が仲間と合流した際、一斉に捕まえたい。影殿にも手伝ってほしい』
返信を打っていく。
『私もその男について気になっていました。捕まえるときは、私も手伝いますので教えてください』
すぐに『感謝!』とスタンプが送られてきた。
ポーチにスマホをしまい、頬に傷があった男のことを考える。
……あの男が襲撃事件の犯人だったのか。
男の憎悪の籠った視線を思い出す。
何度思い返しても、やっぱり記憶にない。
今までに会ったことはないはずだ。
なぜ、そんな人物が睨んできたのだろう。
考えても分からなかった。
(色々とすることが増えていくなぁ)
そんなことを考えながら、家へと帰っていった。
スキルの強化。レベル上げ。傷の男。
そして——フーガ。
やることは山積みだ。
でも、一歩ずつ前に進んでいる。




