第7話 襲撃事件
カーテンの隙間から日差しが伸びている。
少し首が痛い。疲れで昨日は、私服のまま眠ってしまったみたいだ。
時計の針を見る。11時。
一気に意識が覚醒した。
……ヤバい、遅刻だ。
冷や汗が流れる。
スマホの電源をつけ、学校に連絡を入れようとする。
よく見ると、今日は土曜日だった。
「ふぅ……」
大きく息を吐いた。かなり焦った。
もう片方のスマホをつけると、玉野さんから連絡がかなり来ていた。
『影殿! 連絡がないが無事か?』
……あ。
すっかり忘れていた。
玉野さんに連絡する。
『無事です。家に帰った後、疲れでそのまま寝てしまいました。
連絡が遅くなり、すみません』
すぐに既読がつき、返事が返ってくる。
『今起きたのかの? 途中で氷雪ギルドに連絡を入れ、無事なのは知っておったが連絡をもらえて何よりじゃ』
……氷雪ギルドにまで連絡を入れたのか。
申し訳ない気持ちになる。今後は報告を忘れないようにしよう。
とりあえず報告のため、フーガのことを書いていく。さらに詳しい情報も送る。
『ふむ。レベル40か……これは早急に予定を見直す必要があるな。
今から、このことについてギルド内で話し合う必要性があるのぅ。報告ありがとうなのじゃ』
一緒に『あっぱれ!』と書かれたスタンプが送られてくる。
ついでに気になっていたことを質問してみた。
刀術みたいな〇〇術についてだ。
『ワシは取っていないが、岸が格闘術を取っておったな。ちょっと聞いてくるから待っておれ』
10分ほど経過し、連絡があった。
『聞いてきたのじゃ!
レベルが上がるほど、動きの最適解がなんとなく分かるようになった。
具体的にと言われると難しいが、近接職なら取る方がいいと言っておったぞ』
玉野さんに『ありがとう』のスタンプを送り、スマホを机に置いた。
家にあるソファに座り、スキルについて考えていく。
遠距離系スキルを取るか、それとも短剣術を取るか。
フーガのことが頭をよぎる。弱点は遠距離と書いてあった。
本体もそうなら、火遁などの遠距離スキルを取るべきなのかもしれない。
だが——鑑定したのはコピー体だ。
コピー体をさらにコピーした個体は、スキルが減っていた。
本体の弱点が遠距離とは限らない。
それに今から遠距離系スキルを取っても、フーガと戦うまでにどれだけスキルレベルが上がるかも分からない。
フーガ本体も弱点が遠距離のままで、私が対処できない時。
玉野さんや、雪奈さんに遠距離で対処して貰えばいい。
私は、今できる得意なことを伸ばそう。
そう決め、短剣術を取ることにした。
ステータス画面を操作する。
⸻
【スキル獲得:短剣術 Lv.1】
⸻
押し間違いがないことにホッと一息つく。
……まずは接近戦を極めよう。
そう考え、今日もゲートに向かった。
*******
フーガと戦って3日経過した。
短剣術にも慣れ、少しずつ動きがスムーズになっていく。
放課後にゲート内でモンスターを狩り、経験値を稼ぐ。
ポーチの中にある時計を確認する。すでに19時だ。
一度夕食を食べるためにゲート外に向かった。
……。
外に出て、手作りの弁当を食べていく。
食べた後に、スマホでニュースを軽く確認する。ある記事で指が止まった。
『九尾ギルド襲撃事件発生! 犯人はいまだに逃走中』
「……は?」
思わず、声が漏れた。
詳しく記事を見ていく。
『集団グループに九尾ギルド本社が襲撃される!
犯人は30人ほどのグループ。人間の力試しか?』
『実力が高いと評判の者を襲撃して回っている。計画的犯行か?』
そんなことも書かれていた。
『負傷し、昏睡中の人もいる』と記事にある。
……玉野さん。
顔から血の気が引いた。
スマホを見ても、玉野さんから何も来ていない。
玉野さんにチャットを送る。だが既読がつかない。
地図の確認をする。
九尾ギルドまで走れば20分ほど。
私は急いで九尾ギルドの本社に向かった。
*******
九尾ギルドのビルに着く。
周囲の光景を見て、息を呑んだ。
一部の窓ガラスがほぼ全て割れていた。
壁には焦げた跡。地面には血痕。
周囲に瓦礫が散乱し、戦闘の激しさを物語っている。
(……こんなに……)
辺りを見回すと、玉野さんが指示を出しているのが見えた。
……玉野さんが無事で良かった。
無事な姿にホッとし、玉野さんに近づいていく。
玉野さんも私に気づいたようだ。声をかける。
「ニュースの記事を見て、ここに来ました。何か手伝えることはありますか?」
「影殿……来てくれてありがたいが、今できるのは周囲の掃除くらいじゃ。
せっかく来てくれたというのに申し訳ないのぅ」
玉野さんの狐耳が垂れ下がる。
「そう……ですか、なら私も掃除の手伝いをします。
ところで犯人が逃走中と書かれていましたが、どのような人たちでした?
また来る可能性もあるので、特徴だけでも知っておきたくて」
玉野さんは思い出したくないかもしれない。でも犯人の情報は少しでも知っておきたい。
玉野さんが目を閉じた。どうやら思い出しているようだ。そのまま答えてくれる。
「全員が統一された緑色のフードを被っておったな。追い詰めると集団で転移して逃げられたのじゃ。
分かることといえば……リーダーらしき人物の頬に大きな傷があった気がするのぅ。見えたのが一瞬で、ハッキリとは見えなかったのじゃが……」
……頬に大きな傷。
つい最近見たな。私を睨んできた男を思い出す。
人違いの可能性は高い。だが、一応聞いておこう。
スマホを取り出す。絵が描けるアプリを開いた。
頬の傷の特徴を思い出しながら描いていく。
大きなバッテンの傷。線が交差している所より、やや上に横に線が一本入っていた。
「一応聞いておきますが、このような傷じゃなかったです?」
玉野さんにスマホの画面を見せる。玉野さんが目を見開いた。
「……ワシが見た傷とそっくりじゃ。この傷の人物をどこで見たのじゃ?」
玉野さんが詰め寄ってくる。
「3日前、氷雪ギルドに行った時に見ました。代表室で、『俺を氷雪ギルドに入れろ』と言っていましたね」
玉野さんが「ふむ」と言う。少し間が空き、返事があった。
「一度雪奈と話してみよう。可能性があるなら少しでも情報を知りたい。もしかしたら、そやつに岸が……」
……岸さん?
周囲を見回す。だが岸さんは見当たらない。
「岸さんはもしかして……?」
「……今は病院におる。他の者を庇い、その傷の男の攻撃をくらいおった。幸い、命に別状はないが今は昏睡状態じゃ……」
……岸さん。
胸が少し痛む。
「ワシは必ず、今回の犯人を捕まえる。だが、かなりの手練れじゃった。
ワシはより強くなるためにゲートに籠る予定じゃ。影殿も気をつけよ」
他の人が近づいてくる。
玉野さんの指示が必要みたいだ。
玉野さんは指示を出しに行った。
私も周囲の掃除を手伝いに行こう。
破片を拾いながら考える。
フーガの件。そして襲撃の件。
私ももっと強くなる必要がある。
時間が足りない。
少し学校を休んででも、今はレベル上げを優先しよう。
そう決めた。




