第6話 1 vs 4と氷神の切り札
元々いた場所を視界に収めると、芝生が凍りついていた。
移動しなければ、動けなくなっていた可能性が高い。
いきなりの大技に、心臓の鼓動が早くなる。
雪奈さんとエリカさんは背後で待機している。
そして、エリカさんは歌い始めた。
前衛二人の動きが良くなり、こちらに向かってきている。
また、先ほどの技が来るかもしれない。
この場所に止まるのは危険だ。
私も走り出す。ただし、全力では走らない。
鑑定してもステータス値は見えない。ならば、最大速度は誤魔化せるはずだ。
移動していると、足元が冷えてきた。
その場で急ブレーキをかける。前方が凍りつく。
……かなり厄介だ。
動きが予想しにくいように、ジグザクと走る。
向こうの前衛たちとの距離が詰まる。交錯する。
右の短髪の女性が近づいてくる。左やや後方には長髪の女性。
「おらぁ!」
短髪の女性が木剣を振るおうとする。
でも——動きが止まって見える。
木の短剣で木剣を弾く。左手で掌打を放とうとした瞬間。
——罠感知が発動した。
咄嗟に動きを止めて、後ろに下がる。
短髪の女性との間に、音符の塊が急に現れた。
しかも、その音符が凍りついている。
思わず目を見張る。
雪奈さんたちがいる場所。
そこから「……へぇ、止めれるんだ」と声が聞こえた。
動揺の合間。左側からも、剣が振るわれる。
……少し速度を上げよう。
その場を蹴り上げ、横に一気に加速する。消えたと錯覚するほどの方向転換。
長髪の女性が「……は?」と呟くのが聞こえた。
その女性に、背後から木の短剣を首筋にぴたりと当てる。女性の頬が少しヒクついていた。
これで残り三人。エリカさんをチラッと見る。距離は50mほど。雪奈さんの背後に控えていて、真っ直ぐは狙いづらい。
でも、間に近接職はもういない。狙ってみよう。
エリカさんたちの方向を目掛けて加速する。もう一人の前衛は一度無視だ。
後ろから「ちょっと待てよ!」と聞こえたが置き去りにする。
さらに一段、速度を引き上げる。
背後の地面が急に冷えだし、凍りつく。だが、きちんと狙えていない。
雪奈さんとの距離は残り10m。その5m後ろにエリカさん。
「……っ!」
雪奈さんが木刀を構えた。
雪奈さんに短剣で攻撃しようとする——フリをする。木刀と短剣が当たる瞬間。
——影潜伏を発動した。地面に飲まれ、視界が急に暗くなる。
「……えっ?」
影の外から呟きが聞こえた。
その隙に、エリカさんの背後で浮上する。
エリカさんは歌いながら私を探している。背後に私がいることに気がついていない。
そのまま短剣を、エリカさんの首筋に押し当てる。ギギギっとこちらを振り向いた。
「ひぇ……降参降参! 影ちゃん怖すぎ!」
……これで後二人。
雪奈さんから鋭い視線を感じる。もう一人の女性も追いついた。
「……あなた、本当に強いわね。正直、最初の攻撃でどうにかなると思っていたのだけど、誤りだったようね」
雪奈さんが声をかけてきた。
私も最初の攻撃を避けられない場合、かなりキツかった気がする。
「いえ、あの攻撃は私もかなりヒヤッとしたので……避けられて良かったです」
「そう。あなたのような強者にそう言ってもらえて嬉しいわ。でも、あなたはまだ本気を出していないでしょう?」
……本気?
一瞬、どのことを言われているのか分からなかった。
「あなたの持つスキル、雷遁のことよ。今後のためにも、近距離戦を一度させて欲しいの。
その代わりに、私の切り札も見せるわ。どうかしら?」
雷遁を使うと、かなり疲労する。できれば使いたくない。
だが、切り札は気になった。
少しだけ考え、了承する。
「分かりました。ただ、雷遁は長時間は使用できないです。
先にそちらの切り札を見せてもらって、このままの状態で戦ってもいいですか?
途中から、私も雷遁を使いますので」
「……分かったわ。発動に時間がかかるから、少し待って」
雪奈さんと二人で会話していると、短髪の女性も話しかけてくる。
「あ〜、二人だけの会話になってるけどよ。私はどうしたらいいんだ?」
頭を掻きながら気まずそうに話している。
「……できれば今回は一対一で戦わせてもらいたいわ。埋め合わせは、あとでするからどうかしら?」
雪奈さんの提案に、「はぁ」と息を吐き、その女性は返答した。
「わ〜ったよ! ただ埋め合わせは、後で絶対しろよ!」
そう言って、エリカさんたちが観戦している方に歩いていった。
……。
間ができる。少し気まずい。
「……じゃあ、今から準備するから少し待ってね」
とりあえず、元の流れに戻すようだ。
私も頷き、雪奈さんを眺める。
よく見ると、雪奈さんは薄い水色の膜で覆われていた。
……寒冷耐性だろうか?
そんなことを考えていた瞬間だった。
——雪奈さんが氷の鎧を身に纏った。
周囲が急に凍え始める。今は盛夏のはずなのに、この辺りだけ季節が真冬になったようだ。
私の息が真っ白になり、手もかじかむ。半袖でこれは厳しい。
身体が震えてきた。
……やばい、寒すぎ。どうしよう。
必死に思考を巡らせる。一つ案が浮かんだ。
思いついたことを試してみる。
⸻
【物真似 Lv.3 発動】
模倣スキル:【寒冷耐性 Lv.4】
使用可能時間:9分
⸻
私の周囲も薄い水色の膜で覆われた。
どうやら予想は当たっていたようだ。
先ほどよりは、寒くなくなった。
だが、それでもまだ少し寒い。
雪奈さんが話しかけてくる。
「私もこの状態は長くは保てないの。早く始めましょう」
よく見ると、雪奈さんも顔色が僅かに悪い。
雪奈さんから10mほど距離を取り、すぐに戦闘を開始した。
雪奈さんが木刀を構え、こちらに向かってくる。
——速い
木刀を振り上げられた。手元の木の短剣でそれを防ぐ。
動きは私の方が僅かに速い。
しかし、武器さばきの巧みさでやや劣勢になる。
振り上げ。返し。横に一閃。
どれも動きがスムーズだ。
何度か武器で防いでいた時だった。
武器同士が当たった瞬間——短剣が凍りついていく。
——っ!
すぐさま武器を手放し、背後にバックステップする。
突然のことに、少し肝が冷えた。
「ふぅ」と息を吐く。
物真似終了まで、残り四分ほど。そろそろ雷遁を使おう。
身体から魔力が抜けていく。
身体に雷が宿り、パチパチと体表から紫電が発生する。
「行きます」とだけ告げた。
その瞬間。
——稲妻となり駆け抜ける。
念のため、視界から外れる動きをする。
目線が動いている。まだこちらを追えているようだ。
——なら、もっと速く。
周囲を高速で駆け回る。閃光と錯覚するほどの動き。
「——っ!」
雪奈さんが息を呑むのが聞こえた。
もう目線は追えていない。背後をついた。
雪奈さんの背後で拳を首筋に当てる。
「私の勝ちです」
宣言すると、雪奈さんがため息を吐いた。
「あなた……速すぎよ」
雪奈さんが甲冑を解除する。辺り一帯の寒さが和らいでいく。
私も放電を止めた。その瞬間、身体が一気に重くなった。
*******
「影ちゃん、ほんとにエグくない?」
エリカさんが顔を引き攣らせて聞いてきた。
他のメンバーも頷いている。
「ありがとうございます。ただ……代償がかなり大きいので」
私は重くなった身体でゆっくりと動く。
そんな私を見て、少し安心したようだ。
「あ〜、強すぎる力は、その分反動が大きいのかぁ。うちの雪奈もそうだし……ね」
雪奈さんをチラッと見る。私と同じで身体が重そうだ。顔色も少し悪い。
その状態で、雪奈さんが話しかけてきた。
「今日はありがとう。これ、私の連絡先。もし必要そうならいつでも連絡して」
口数が少なくなっている。気持ちがよく分かる。
身体がじんわりと汗ばんでいる。
一度ギルドのシャワーを使わせてもらう。
とりあえず連絡先だけを交換して、エリカさんに家の近場の駅に車で送ってもらう。
途中で眠ったりしてしまったが、エリカさんは笑って許してくれた。
少し興味深いことも聞けた。
雪奈さんの刀術など〇〇術となっているスキル。そのスキルレベルを上げると、武器の動かし方が自然と理解できるらしい。
「雪奈から聞いたけど、身体のキレが少しずつ変わるみたいだよ!」と言われた。
確かに雪奈さんの動きは良かったなと思い出す。
私の最寄りの駅に着いた。
お礼を言い、エリカさんと別れた。
路地裏に一度行く。
周囲に誰もいないことを確認し、影纏いを解除する。
そのまま、身体を引きずって家にたどり着いた。
ベッドに潜り込む。
……スキルどうしようかな。
まだ、スキルポイントが1つ残っている。
フーガとの戦いに備えて——
何を取るべきか。
そんなことを考えているうちに、気づけば眠ってしまった。
後書き
次回、スキル選択……!
遠距離攻撃か、それとも雪奈のような「〇〇術」か、はたまた全く別の道か。
「自分ならこれを取る!」と予想しながら楽しんでいただけると幸いです!
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