第5話 反則技
氷雪ギルドのビルを出て、雪奈さんの後を追っていく。
どうやら外で戦うらしい。
歩いている途中、エリカさんが話しかけてくる。
「模擬戦で戦う以外の人も観戦させてもいいかな?
上位の人達がどういう動きができるのか、うちのメンバーに見せたいのよね」
エリカさんも含め、メンバーがいい人たちなのは分かる。
だが、全員が友好的だとは限らない。
模擬戦の結果、私の弱点が浮き彫りになる可能性もある。
多くの人に動きを見られるのは、なるべく避けたい。
「あー、多くの人に見られると萎縮するので、申し訳ないですが観戦するのは無しでお願いします」
エリカさんは少し残念そうな表情を浮かべる。
だが、すぐに気持ちを入れ替えたみたいだ。
「それは残念ね。でも分かったわ!」
エリカさんが軽く頷く。
「そういえば、うちらの代表、雪奈と対面してみてどうだった?
みんな、雪奈の見た目にまずは圧倒されるんだけど、影ちゃんもかな?」
雪奈さんについてか。少し考え、答える。
「私も雪奈さんの見た目には、かなり驚きました。エルフを見たのは初めてだったので。
ただ、それ以上に頭の回転が速そうな人だと思いましたね」
「すごく分かるわ! 雪奈は幼少から英才教育を受けていたみたいだから、それも関係あるのかもね!」
エリカさんはうんうん頷いている。
英才教育か。雪奈さんは良いところの令嬢なんだろうか。
そんな話をしている間に、模擬戦する場所に着いたようだ。
案内された場所は、外の芝生が生えたエリア。
以前、九尾ギルドで模擬戦をした場所と同じくらい広い。
だが、九尾ギルドの場所と明確な違いがある。
柱や石などはなく、完全に視界を遮るものがない。
物を利用した戦いはできなさそうだ。
すでに雪奈さんとエリカさん以外の女性二人が来ていた。
一人は短髪で活発そうな女性。もう一人はセミロングでボーイッシュ感のある女性。
近づくと短髪の女性が笑みを浮かべた。
「今日はよろしく頼むぜ!」
そう言い、こちらに手を振っている。
セミロングの女性が私に気付き、軽く会釈をしてきた。
「よろしくね。でも負けないよ〜」
どうやらこの二人が、今回の相手らしい。
私も「こちらこそ、お願いします」と言い、その二人を鑑定してみる。
鑑定すると、二人ともレベル19。
片手剣や身体能力上昇などのスキルを持ち、明らかに近接職だ。
エリカさんも鑑定してみる。
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【人物鑑定:北条エリカ】
種族:人間 レベル:21
スキル:【応援 Lv.4】 / 【ボイスウェーブ Lv.3】
【ハーモニックシールド Lv.3】 / 【広域歌唱 Lv.2】
【ヒーリングメロディLv.1】
状態:正常 弱点:近距離
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エリカさんは完全に支援型で、複数戦だと厄介な気がする。
早めに狙う方が良さそうだ。
次に雪奈さん。
もう一度、鑑定してみる。
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【人物鑑定:東條雪奈】
種族:エルフ レベル:23
スキル:【氷魔法 Lv.5】 / 【寒冷耐性 Lv.4】
【刀術 Lv.3】 / 【鑑定 Lv.3】
【精霊術 Lv.2】 / 【精霊武装 Lv.1】
状態:正常 弱点:やや近距離
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氷魔法のレベルが非常に高く、基本的に遠距離型。
刀術などもあり、近接もできないわけではない。
今から戦う4人を鑑定して、ふと思った。
【気配遮断】のスキルを発動したら、各個撃破するだけで終わりそう、と。
だが、今からするのは模擬戦だ。
それだとあまり経験になりそうにない。
そんなことを考えていると雪奈さんが「全員集合!」と言った。
一旦思考を止め、そちらに向かう。模擬戦のルール説明をされる。
「今から戦うときのルールだけど、こちらの用意した木刀などを使う感じでいいかしら?
それと、致命傷になりそうな攻撃は寸止め。寸止めをされた場合、コート外に出て観戦する形でどう?」
「大丈夫だぜ!」「それでいいよ〜」「いいと思うわ!」と私を除き、みんな答える。
木でできた短剣を受け取り、少し振るってみる。問題はなさそうだ。
雪奈さんがこちらをチラッと見て、聞いてくる。
「あなたは大丈夫かしら? それとも何か聞いておきたいことがあった?」
気配遮断を発動すると、どうなるか気になった。
「……模擬戦中に使っていいか、微妙なスキルがあったのでどうしようかと」
雪奈さんが顎に手を当て、考えている。少し間が空いて返事があった。
「……一度、そのスキルを使ってもらってもいいかしら? 見ないと判断ができないもの」
「分かりました」
そう返事をした後、気配遮断を発動した。
足場を踏み締め、横に一気に加速する。
氷雪ギルドのメンバーが動揺している。私の位置を見失ったようだ。
全員の視界に自分の姿が入っていないことを確認し、後ろから声をかけた。
「こんな感じですが、どうでしょうか?」
声をかけると、全員が一斉にビクッと身体を震わせた。
「やばすぎだろ……」「影ちゃん反則すぎない……?」
小さな呟きが聞こえてくる。
雪奈さんが「コホン」と咳をして話しかけてくる。
「……それを使われると、確かに対応ができないわね。
模擬戦中には、今のスキルを使わない方向でお願いしていいかしら?」
やはり厳しかったみたいだ。
「大丈夫です」と答える。
他に気になる点はあるか聞かれたが、特にない。
首を横に振る。
「そう。なら私が間に大きな氷を生み出すわ。それが地面に落ちた瞬間、開始よ」
雪奈さんがそう言った後、お互いに離れていく。
50mほど離れ、向こうのチームを見る。
「最初に——、その後——」
声を聞き取れないが、
雪奈さん達は少し打ち合わせをしているみたいだ。
私もその間に、どう動くか考える。
まずはエリカさんをなるべく早めに落とそう。
ただ、向こうもそれは予想しているはずだ。
雪奈さんには鑑定をされて、私のスキルを全部知られている。
鍵となるのは——ステータス。最大速度を悟らせないこと。
どう動くか考える。
1、2分ほど待つと、向こうの話が終わったようだ。
息を軽く吐き、気持ちを引き締める。開始の合図を待つ。
空中に巨大な氷が生成され、落ちていく。
氷が地面に当たり、砕けた瞬間。
——猛烈な冷気を感じ、私は足場を踏み抜いた。




