第3話 ???
城の入り口にある扉に近づくと、中から何か音が聞こえてくる。
扉に耳を当て、音に集中する。
『キィン!』
鉄がぶつかり合う音が鳴り響いていた。
既に、氷雪ギルドのメンバーがゲートボスと戦っているのだろうか。
私は気配遮断をより意識し、バレないように扉をゆっくりと開いた。
……。
扉の中に入ると、中は広々としていた。
床には高級そうな絨毯が敷かれ、格式の高さを思わせる。
漫画に出てきそうな城内部といった感じだ。
中には玉座に座っている人影が見える。
しかし、人ではないとすぐに分かった。
男の頭から漆黒の角が生えている。
どこか禍々しい。
背中に黒い翼もある。
人ではなく——悪魔のような姿。
その人物は目を瞑っていたが——
それでも、強力な存在感があった。
角の人物と同じ存在が周囲に4体おり、先に入っていた8人と戦っている。
1体につき2人で戦っているみたいだが、少し苦戦している印象だ。
戦っている角の人物に鑑定を飛ばす。
⸻
【個体鑑定:???】
レベル:20(32)
スキル:【両手剣 Lv.2】 / 【波動 Lv.2】
【コピー生成 Lv.2】 / 【指揮 Lv.1】
【自動回復 Lv.1】
状態:コピー体 弱点:遠距離
⸻
全体的にスキルは弱い。
???は気になる。
しかし、レベルを見て、思わず喉が鳴った。
レベル:20(32)。
レベルがどちらかよく分からない。
戦っている人達を鑑定する。
大体の人がレベル16、17で、一人だけ21の人がいる。
戦えているということは、おそらくレベル20なのだろう。
少しだけホッとする。
だが、状態:コピー体。
座っている人物がおそらく本体だ。
座っている人物を鑑定する。
⸻
【個体鑑定:???】
レベル:32(40)
スキル:【両手剣 Lv.4】 / 【波動 Lv.4】 /
【コピー生成 Lv.4】 / 【指揮 Lv.3】 /
【自動回復 Lv.3】 / 【威圧 Lv.2】 /
状態:コピー体・思考共有 弱点:遠距離
⸻
……は?
鑑定した瞬間、背筋が凍りつく。
レベルが32。
私よりも5つ上だ。
しかもコピー体と書かれてある。
コピー体でも私よりレベルが高い。
勝てるのだろうか。
手がわずかに震える。
それに本体がどこにいるかも分からない。
玉座に座っている奴ですら、コピー体。
なら本体は?
辺りを見回す。
しかし、それらしい人影が見えない。
どう動くか考える。
その瞬間、玉座に座っていた角の人物が目を見開いた。
「そこに隠れておる蛮族! 姿を見せよ!」
私のいる位置を、明確に指で指してきた。
急に、体が重くなる。
完全にバレているのだろう。
雷遁を敵の本体が見つかっていない状態では使いたくない。
敵の本体の居場所も掴めていない。
——だが動くしかない。
地面を蹴った。
一気に玉座の人物との距離を詰める。
10m、5m——
玉座の人物が立ち上がった。
そして、巨大な剣を両手に持つ。
3m。
近づいたことは、完全に気づかれている。
ならスピードで勝負!
玉座の周囲を回る。
奴の視線はこちらを追えていない。
背後をとった。
今ならいける!
後ろから首を狙う。
その瞬間、背後に大剣を回された。
ナイフと当たる。
あまりの大剣の重さに腕が痺れた。
体が後ろに少し浮く。
大剣がその勢いのまま地面にぶつかった。
「ドォォォォォンッ!!」
足元の絨毯が衝撃で丸ごと弾け飛ぶ。
床に亀裂が走る。
城が揺れる。
あまりの威力に思わず顔が引き攣る。
角の人物はこちらを見て、ニヤリと笑った。
「蛮族にしては速いな」
……まだ、余裕そうだ。
ならば、これはどうだ。
——物真似を使おう。
敵の【威圧】を模倣。
これで少しでも隙ができれば——
動き出し、背後に回る。
距離を詰め、首を狙う。
そして——
⸻
【物真似 Lv.3 発動】
模倣スキル:【威圧 Lv.2】
使用可能時間:9分
⸻
角の人物は少し体勢が崩れた。
今なら——
一歩、踏み込む。
しかし、角の人物が地面を蹴る。
横へ跳んだ。
——まだ、だ!
私も地面を蹴り、追いかける。
そして——
私のナイフが、奴の腕を斬り裂いた。
片腕を切り飛ばす。
なぜか傷口から血が出ない。
痛がってもいない。
なぜ?
でも、ここで畳み掛けるっ!
地面を強く蹴り、追撃する。
しかし。
「ブォン」
大剣が目の前に迫る。
——っ!
ナイフでガードし、体が浮く。
気づけば宙に飛んでいた。
体を捻り、地面に足から着地する。
……強い。
切り飛ばした腕を見ると、傷口が少しずつ塞がっている。
コピー体だからだろうか?
痛覚はなさそうだ。
お互い睨み合っていると、角の人物が話しかけてきた。
「コピー体とはいえ、蛮族とここまで戦闘になるのは予想外だ。
お前が魔魂王を消滅させたのか?」
……こんなに強いのに本体ではない。
鑑定で知ってはいた。
だが本人から改めて聞き、指先に力が入る。
喉の奥がひりついた。
少し息を吐き、気持ちを落ち着かせる。
そう言えば、気になることを言っていた。
蛮族。
魔魂王も私達を蛮族と言っていた。
どこか明確な所属から来ている?
「……そうです。あなたは何が目的でここにいるんでしょうか?」
「ふむ、やはりか。本来は答えないが……まぁワレとここまで戦えた褒美だ。一つだけ教えてやろう。
ワレの名はフーガ。一月後、本体で同じ場所に来る。その時にまた、合間見えよう」
フーガはニィと口角を吊り上げる。
「万が一、おまえが一人でワレに勝てたなら目的を教えてやろう」
コピー体ですら、ほぼ互角だ。
だが、目的は知りたい。
そう考えていると、フーガが言葉を続けた。
「ワレは弱者に興味がない。だが、強者には敬意を払おう。
蛮族の中に、ここまでの存在がいるとは思わなかった。一月後、楽しみだ」
フーガの足元に黒い紋様が突然現れる。
フーガはまだ余裕がありそうだった。
だが、紋様に飲まれ消えていく。
体に重くのしかかっていた威圧感が消える。
……。
ふぅ、と息を吐く。
一応、不意打ちの可能性を考え、まだ構えておく。
——戦えた。
コピー体とはいえ、レベル32の相手と。
手応えはあった。
でも、勝ちきれなかった。
一ヶ月後の本体は、おそらくレベル40。
これまで以上に強くならないといけない。
今までより、もっとレベル上げをしよう。
そう心の中で誓った。
次は一人で勝つ。
そして、目的を聞き出す。
そのまま1分ほど警戒していると、別のコピー体と戦っていた人が近づいてくる。
ポニーテールの女性。たしか鑑定したとき、レベル21だった人物だ。
フーガの警戒も、そろそろいいか。
ゆっくりと構えを解く。
すると女性が話しかけてきた。
「なぜここにいるかは置いておいて……ありがとう! お陰で助かったわ!
あなたは、影殿? それとも雷神様とでも呼べばいいのかしら?
私は氷雪ギルドのサブマスター、北条エリカ。よろしくね!」
……雷神様ってなんだろう?
それに、戦ったばかりなのにテンション高いな。
よく分からない呼び名を言われ、一瞬困惑する。
手を差し出してくるので握手した。
「影と呼んでください。なんとか対処できる相手で良かったです」
エリカさん以外のメンバーも集まってくる。
「エリカさん、あの人誰なんですか?」
若い女性が、小声でエリカさんに話しかける。
「知らないの? 雷神様よ!」
別のメンバーが目を輝かせる。
「掲示板で有名な……雷神様が女性だったなんて」
「あの速さ、本物だ……」
あちこちでヒソヒソと声が上がる。
そして、輝いた目で見てくる人が増えた気がする。
動物園のパンダになった気分だ。
少し居心地が悪い。
そんな私に気づいたのか、エリカさんが「コホン」と咳をした。
「影ちゃんは女の子だったのね! それならうちのギルドに一度来ない?
お礼もしたいし、どうかしら?」
……影ちゃん。
とりあえず、フーガは1ヶ月後に来ると言っていた。
そのことを話さないといけないだろう。
「分かりました。向かいますがこのままでもいいですか?」
「大丈夫よ! 私が案内するわね!」
エリカさんについて行く。
氷雪ギルド……どんなところだろう。




