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14-6 そりゃそうだよね



「上映会?

 恐縮ですが、存じません。

 当店は様々なお客様が利用されますし、部屋の中で何をしようと自由ですので」


 エンタメボックスの店長、グエンは小柄だが、短い黒髪をきちっとまとめあげ、高級そうなスーツを着こなしていた。


「放送聞いたでしょ?

 ボサッコ人の女の子が行方不明になってんの。

 協力しないならウーゴに言いつけるよ!」


 ロニャはツキハバラ商店街管理人の名前を出して、グエンを問い詰めた。


「いや、しかし、そう言われましても、わからないものはわからないものでして……」


「だったら調べりゃいいじゃん!

 どうせ飲み物運ぶとき入室するでしょ!?」


「それはお客様から要請があった場合の話です。

 私どもにはお客様のプライバシーを守る義務がございますので……」


「うぐぐ」


 言い負かされて、ロニャは黙ってしまった。

 だが、俺はこのグエンという男に、どうも胡散臭さを感じていた。

 確かに身なりはきっちりとしているし、言葉遣いも丁寧だ。

 しかし――何かを必死で隠そうとしているようにも思える。

 すると背後から、アリチェの声が聞こえた。


「何か知られたら困ることでもあるのかしら?」


「な、なにをおっしゃるのですか。

 謂れなき誹謗中傷はご遠慮いただきたいです」


 グエンがさらに態度を硬化させたが、アリチェは淡々と続けた。


「ネットで調べたけど、ここで違法な取引が行われているらしいって噂がいくつも見つかったわ。

 部屋は完全な防音設計で利用するのに身分証明も不要らしいわね。

 悪用されていないって確証はあるの?」


「くっ」


 グエンはうめき声をあげ、とたんに表情が険しくなった。


「明確な営業妨害です。

 早々にお引き取りください。

 さもなくば……」


「さもなくば、なによ!」


 廊下の奥から機械音がしたかと思うと、警備ボットが出現し、ロニャの前に立ちはだかった。


「邪魔する気!」


「当然でしょう。

 私どもにはお客様の安全を守る義務がございますので……」


 警備ボットは腹部から麻痺銃(テザー)の銃口を出現させたが、ロニャはひらりと身をかわすと、警備ボットの背後に回り込んだ。


「だったら勝手に調べさせてもらうし!」


「ピッ。

 待ちなさい!」


 ロニャは廊下の奥へ走り、警備ボットとグエンがその後を追って行った。


 あのアホ……。


 少女がここにいる証拠は何もないじゃねぇか。

 おまけにエンタメボックスには個室がたくさんある。

 警備ボットから逃げながら全ての部屋を調べるなんて、無理に決まっているのだ。


 どうすべきか?

 ロニャを助けてやりたい気もするが、警備ボットと戦ったら騒ぎはさらに拡大してしまう。

 かといってこの店に対する疑念も拭い去れない。

 などと俺は考えあぐねていると、唐突に過去の記憶が蘇った。

 以前、ロニャやファナとエンタメボックスを利用したとき、部屋のドアに2桁の数字が書かれていたのだ。

 あれは部屋番号だろう。

 そして記憶の中の別の映像が、それと重なる。


 フィギュアショップ「オレンジサブウェイ」の壁に描かれていた落書き――。


 あれが秘密の上映会が行われる場所を不特定多数に知らせるための手段だったとしたら?

 「ZS」は誰かのイニシャルだとばかり思っていたが、見方を変えれば――数字の「25」にも見える……。


 点と点が、線で繋がった。


 俺は反射的に脇の階段を駆け上がると、25番の部屋を探した。


  ***


「やべぇ! 手入れだ!」


 俺が個室のドアを開けると、アンテラ人の少年が叫んだ。


 室内には5~6人のポータリアンの子供がいて、壁に埋め込まれたディスプレイには、東京の街で巨大な宇宙人が暴れている映像が流れている。


 間違いない、『衝撃のタイタニオン』だ!


「逃げろ!」


「痛っ!」


 ドアの前に立っていた俺を、アンテラ人の少年がタックルで押しのけ、逃げ出した。

 他の少年たちも後に続く。


「痛てて……」


 俺が壁に打ち付けた背中をさすりながら、ようやく立ち上がると――。

 部屋に残っていたのは、青と白のシャツを着たボサッコ人の少女、ただひとりだった。


  ***


「ピッ。おめでとうございます。

 優勝は90ポイントを獲得した、ミヤヅカ・レンマさんです」


「レンマ兄ちゃん、すごいや!

 おめでとう!」


 パチパチと拍手しながら祝福してくれたのは、例によってドッツォだけだった。

 ロニャはムスッと口をへの字に曲げ、アリチェは完全に興味を失ったようで、いつも以上に無反応だ。


 お前ら、同僚の成功を素直に喜ぶこともできんのか!


「少ない情報から少女の居場所を特定した推理もお見事でしたが、皆がテストに夢中になっている最中にも、フィギュアショップの落書きを熱心に消していた姿には感銘を受けました。

 まさに清掃員の鑑とも言える素晴らしい姿勢であり、加点に値します。

 しかもその行為が最終的には少女の発見につながったわけですから、日常の心がけが重要であることの証左にもなっています。

 もっとも優秀な清掃員としてミヤヅカさんを認定することに、月面基地司令部も異議はないでしょう」


 実際には、俺は使命感で落書きを消していたわけではなく、あくまでマルビンから情報を引き出すためにやっていただけだが、せっかくの良好な雰囲気に水を差すのもよくないので、敢えて黙っていた。


「優勝賞品として、ミヤヅカさんには地球遊覧船への搭乗権を授与いたします」


「よっしゃーっ!

 やったぜーっ!」


 ヴィジェからの正式な発表を聞いて、俺はガッツポーズをしながら、子供のようにぴょんぴょんと飛び跳ねた。

 我が懐かしき故郷、青く美しき惑星――あの母なる地球を、ついに間近で見られるのだ。


 俺はふかふかのリクライニングシートに寝そべりながら、眼前に広がる壮大な光景を堪能している自分の姿を想像し、夢心地になっていた。


 そのとき。


「それにしても、いつもケチな司令部が、今回は妙に太っ腹ね」


 アリチェが、不吉なことを言い出した。


「基本的に地球遊覧船に地球人は乗れないし、ポータリアンも数千万円の費用を払ってるはずよね。

 特別ボーナスだとしても豪華過ぎると思うけど……」


「ピッ。

 それは乗客として利用する場合の話です。

 今回は客室清掃員として乗り込むわけですから妥当な対価です」


「は!?」


 ヴィジェの話を聞いて、俺はガッツポーズしたまま、体を硬直させた。


「清掃員として乗るのか?

 船内で仕事をしろと!?」


「当然です。

 最近、船内で大騒ぎしてゴミを散乱させるお客様が増えてきたので、実験として清掃員も搭乗させてみようということになったのです」


「まじで!?」


「はい。

 真面目です」


「仕事なの?」


「はい。

 きっちりと働いていただきます」


 がっくりと肩を落とす俺を見て、ロニャの表情がぱぁーっと明るくなった。


「そりゃそうだよね。

 あはははっ!」


 全身の力が、抜けた。





---   エピソード14   完   ---




=== 用語解説 ===


【グエン・シャン・バオ】

 35歳。ベトナム人。パーティールーム「エンタメボックス」店長。上品で礼儀正しいが、どこかうさんくさい。客のプライバシーを守ることにやたらと執着している。

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