14-5 根絶やしにしてやる!
「娘のシッラが行方不明になってしまったんです」
清掃事務所を訪れたボサッコ人女性は、焦燥しきった様子で俺たちに助けを求めた。
「商店街で買い物をしていたらはぐれてしまって、それっきり姿が見えないのです。
毛色は明るいブラウンで、白と水色のシャツを着ていました」
母親は俺たちのゴーグルに少女の画像を送信してくれたが、地球人の俺が見ても、普通のボサッコ人だとしか分からない。
確かにアロハシャツのような緩い上着は特徴的だが、全身が毛で覆われていて、年齢はおろか性別の判断も困難だ。
ただ、ドッツォの様子を見るとフムフムと頷いているので、彼にはシッラという少女の特徴が把握できているのかもしれない。
「ピッ。
最終テストはシッラの捜索に切り替えます。
結果だけでなく貢献度でポイントを付与しますので、皆さん協力して解決にあたってください」
子供が行方不明になっているというのに、それをテストの題材にしてしまうというのは若干不謹慎な気もする。
だが、最先端の人工人格であるヴィジェは、俺なんかには理解できないアルゴリズムで、そうすることがもっとも目標の達成に有効だと判断したのだろう。
「商店街で迷子のアナウンスはしてもらったん?」
ロニャがボサッコ人の母親を椅子に座らせながら聞いた。
「はい。
ずっとアナウンスを続けてもらっていますが、今のところ効果がなく……」
小さな子供がひとりで歩いていたら、それなりに目立つだろう。
商店街全体にアナウンスをかけても見つからないということは深刻な状況だ。
残念だが、なんらかの事故や事件に巻き込まれている可能性がある。
「居場所について心当たりはないのかしら?」
アリチェから聞かれた母親は、しばらく考え込んだ。
「娘はアニメが好きなので、アニメの商品を扱っている店に行ったのかもしれないと思ったのですが、どこを探してもいないのです」
俯く母親。
しかし、これは大きなヒントにつながるかもしれない。
「どんなアニメが好きなんだ?
作品名が分かれば、手がかりになるかもしれないぞ」
俺は期待を込めて聞いたが、母親は虚しく首を振った。
「すみません。
私がもっと娘の話を聞いてあげればよかったのですが……。
地球文化に染まりすぎるのも良くないと思っていたものですから……」
その話を聞いたとき、俺の中にデジャヴーにも似た感覚が蘇った。
教育に熱心なあまり、子供がアニメに傾倒することを快く思わない大人は多い。
それはボサッコ社会でも同じらしい。
「娘さんと、喧嘩したのか?」
俺は反射的にそう聞いてしまった。
あまりにも不躾だったかと後悔したが、結果的には図星だった。
「それが……その、見たいアニメがあるから家に帰りたくないとか言い出したものですから、少しきつく叱ったんです。
そしたら……根絶やしにしてやるとかなんとか、物騒なことを言って走り去ってしまったんです……」
「根絶やし!?」
少女にしてはあまりに過激な言葉遣いに、さすがの俺も驚きを隠せなかった。
しかし、親を相手にして言う言葉として「根絶やし」はミスマッチだ。
そのとき――俺の脳内データベースが、ひとつの仮説を導き出した。
「娘さんが最後に言ったセリフだが、正確には……根絶やしにしてやる、一匹残らず!……だったんじゃないのか?」
するとボサッコ人の母親は、目を見開いた。
「はい!
そうです!
確かにそう言ってました!
どうして分かったのですか?」
やはり、そうだったか。
少女は母親に対して本心から「根絶やしにしてやる」と言ったわけじゃない。
アニメにハマりすぎて、好きなセリフが思わず口に出てしまっただけなのだ。
「これは『衝撃のタイタニオン』というアニメに出てくる、有名なセリフなんだ。
間違いない。
娘さんはタイタニオンのファンなんだ」
「タイタニオン……」
アニメ『衝撃のタイタニオン』は、少年誌に連載されていた漫画が元になっている。
身長が何十メートルもある巨大な宇宙人と、主人公が操縦する巨大ロボットが戦うロボットアニメだ。
少女向けの作品とは言えないが、個人的にはオールタイムベスト5に残るほどの傑作だと思っている。
「でも、それって変だよ」
俺が脳内でタイタニオンの印象的なシーンを回想していると、ドッツォが俺の袖を引っ張った。
「タイタニオンってアニメがあることは知ってるけど、地球からの輸出が禁止されてるから、ポータリアンは見ることができないはずなんだ」
「まじか!?
あれほどの名作が禁止されてるってのか!?」
俺は率直に驚いた。
だが、よくよく考えればそれは意外なことではない。
タイタニオンが傑作であることは疑いもないが、過激で残酷な描写がされていることで、良くも悪くも物議を醸しているのだ。
特にアニメ版では、地球を襲う巨大な宇宙人が人間の体を引き裂いたり、踏み潰したりする残酷なシーンが、モザイクをかけたり血を黒くしたりすることもなく、直接的に描写されている。
俺は基本的にアニメ表現の規制には反対の立場をとっているが、あの作品を地球外貿易理事会が輸出禁止品に指定したことについては、妥当と言わざるを得ない。
「となると……俺の仮説は間違いか……」
俺がつぶやくと、ドッツォは激しく首を振った。
「そんなことないかも!
秘密の上映会が行われてるって噂もあるんだ」
「上映会!?」
「うん。
あくまで噂だけどね」
俺は頭をフル回転させた。
行方不明の少女が秘密のアニメ上映会に参加していると仮定すれば、辻褄は合う。
好きなアニメを見たいという動機があるから、月の滞在を延ばしたいと親に頼んだのだろう。
しかし違法行為だと知っているので、その理由を説明することはできなかったというわけだ。
では彼女はどこにいるのか?
禁輸品をポータリアン共有区に持ち込むことは困難だが、商業区であれば、地球人の協力者さえいれば、地球人のアカウントを使って配信を鑑賞することができる。
となると――。
「なぁ。
ツキハバラでアニメファンが秘密の集会を行うとしたら、どこを選ぶと思う?」
俺の問いかけに、即答したのはロニャだった。
「エンタメボックス!?」
「……だよな」
あそこなら地球人向けの配信が見られるし、防音も完璧。
秘密の上映会をやるなら、どう考えても理想的だ。
「娘の居場所、わかったのですか?」
母親が期待を込めて俺を見る。
「たぶんな。
ここで、ちょっと待っててくれ」
そう言うと、俺たちは事務所から飛び出した。
=== 用語解説 ===
『衝撃のタイタニオン』
謎の巨人から国を守るため、巨人兵器を操縦して戦う少年少女の物語。残酷な描写と謎めいたストーリーが話題を呼び、今でも根強い人気がある。レンマのお気に入り。
『エンタメボックス』
カラオケやアニメ鑑賞などが楽しめるパーティールーム。店長はグエン・シャン・バオ。




