14-2 レンマ兄ちゃん、ごめんなさい!
「ピッ。
これらは先ほど保安署に届けられた遺失物です。
4つありますので、各自、好きなものを選んで所有者を見つけてください。
早かった順に、多くのポイントを差し上げます。
3つのテストが終了した時点で、もっとも多くのポイントを獲得したかたが、地球遊覧船のチケットを入手できます」
ヴィジェからの説明を受けて、ようやく俺は第1戦のルールを理解することができた。
宅配ボックスには4つの遺失物が収められていた。
直径4センチぐらいの赤い球、薄汚れたスポーツタオル、白い手袋、そしてロゴマークの入ったカード。
好きなものを選んでいいということは、所有者がすぐに判明しそうなものを選べば有利、ということになる。
樹脂製で光沢のある赤い球には、見覚えがある。
恐らくゲームセンターにあるゲーム機のジョイスティックだろう。
だが、ゲームセンターの店長は、《《あの》》ゲデオンだ。
ロニャに惚れているせいで、なぜか俺をライバル視して嫌がらせをしてくる。
この遺失物を届けたところで、協力してくれるとは思えない。
かといって、スポーツタオルはヒントが無さすぎる。
青いラインが2本入っているが、俺は昔からスポーツとは縁がないので、何のブランドなのかもわからない。
スポーツ好きのファナに聞けば何かわかるかもしれないが、そんなことをしていては時間がかかりすぎる。
布製の白い手袋は、タクシーの運転手がしてそうなデザインだ。
だが、手の甲に施された金色の刺繍は妙に豪華で凝っている。
「いや……まてよ」
俺の脳裏に、グレーネ大使館に呼び出されたときの記憶が蘇った。
執務室の奥の部屋に通されたとき、ルンビ大使が手にはめていたのは――。
「僕はこれにする!」
俺が宅配ボックスに手を伸ばしたとき、いちはやく手袋をつかんだのは、毛むくじゃらの手。
ドッツォだった。
「あ……」
「あれ?
レンマ兄ちゃん、これが良かったの?」
俺が手袋を取ろうとしていたことに気づくと、ドッツォは申し訳なさそうな目で俺を見上げた。
「ま、まぁな。
なんとなく持ち主が分かりそうだったから……」
そう言いながら、俺は心の奥で、ドッツォが手袋を譲ってくれるのではないかとわずかに期待していた。
彼は俺が腹を空かしていたとき飯をおごってくれたし、いつだって俺の味方だったからだ。
だが――今日のドッツォは、いつもとは違っていた。
「レンマ兄ちゃん、ごめんなさい。
僕、地球のことが大好きだから、どうしても地球に行ってみたいんだ。
たとえお兄ちゃんを敵に回すとしても、僕は地球のために戦う!」
ドッツォはさりげなくアニメ『重星覇装ヴォルラック』の主人公レオンのセリフを叫ぶと、手袋を持ったまま事務所を駆け出していった。
……マジか。
彼は本気なのだ。
彼を責めることなどできない。
というか、そもそもドッツォの優しさに甘えていた俺が悪いのだ。
俺は気を取り直して、宅配ボックスを振り返った。
ゲデオンは苦手だが、赤い球をゲームセンターに届けるしかないだろう。
しかし――そこに残っていたのは、1枚のカードだけだった。
「おっさきにしつれ~っ」
ロニャとアリチェも、揃って事務所を出ていった。
しかも赤い球を握りしめていたのは、よりによってロニャ。
ゲデオンが彼女に全面的に協力することは、火を見るより明らかだった。
「くそっ!」
俺は敗北を確信しながら、悠長に考え込んでいた自分の愚かさを呪った。
しかし、最後に残されたカードをしぶしぶと持ち上げたとき、俺は思わずニヤけてしまった。
カードの裏面には持ち主の名前が書かれていたのだ。
手書きだったが「ルンミ」と読み取れる。
しめた!
持ち主は、もう判明したも同然ではないか!
「ルンミ」という名前は聞いたことがないが、音の響きから、グレーネ人であることも推測できる。
うまく説明できないが、グレーネ人はルンビとか、ビンキとか、ノンメとか、こんな感じの名前が多いことを俺は知っているのだ。
しかも、カード表面に描かれた緑色のロゴマークにも、何となく見覚えがあった。
忘れもしない、あれはボットレースで優勝したときに見たマークだ。
マルビンから手渡された賞品の箱に貼られたシールの柄は、間違いなく、これと同じ意匠だった。
「ちょろいぜ!」
勝利を確信した俺は、ほくそ笑むと、マルビンの経営するフィギュアショップ「オレンジサブウェイ」へと向かった。
***
「ルンミ様……ですか?
はて……。
聞いたことあるような、無いような……。
どうも記憶がはっきりせんのですわ……」
マルビンは俺が持ち込んだカードがオレンジサブウェイの会員カードだということはすぐに認めた。
だが、持ち主の名前について聞かれると、小首を傾げて惚けたのだ。
「本当に分からないのか?
わざわざ会員証まで作ってフィギュアショップで買い物するグレーネ人なんて、そんなに多くないだろ?」
俺は正論で突っ込んだが、マルビンは頬をポリポリとかきながら、虚空を見上げている。
どうにも怪しい。
この男、自分にメリットがないことには徹底して無関心なのだ。
客が会員カードを紛失したら貯まったポイントも無効になってむしろラッキー、などと邪悪な考えを抱いている可能性さえある。
「いえね。
思い出したいのはやまやまなんですけど、今ちょっと気がかりなことがあって、記憶に集中できへんのですわ」
マルビンの言い分はわざとらしく、嫌な予感しかしなかった。
だが、何としてもヴィジェのテストで勝ちたい俺としては、相手の術策にはまることがわかっていても、聞き返すしかなかったのだ。
「気がかりなこと?」
「よう聞いてくれはりました。
実は店の壁に落書きをされてしもうてね。
洗い落としたくても、こすったぐらいではちっとも落ちまへんのですわ。
どこぞの親切な清掃員さんが綺麗にしてくれたら、思い出せそうな気ぃするんですけどなぁ……」
そう言うと、マルビンは反応をうかがうように、横目で俺のことをチラリと見た。
=== 用語解説 ===
【マルビン・ドラックス】
30歳。男性。ドイツ人。玩具店、フィギュア店の店長。でっぷりとした体型。金儲けに徹している根っからの商売人。
【ゲデオン・バステラ】
23歳。スペイン人。ゲームセンター「ワンダーステーション」店長。ソフトからハードまでこなすフルスタックエンジニアでありながら凄腕のゲーマー。ロニャのことが好きらしい。




