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13-1 詐欺やんか!



「じゃまするでー」


 仕事を終えた平日の夕方、俺がドッツォといっしょに清掃事務所のラウンジでまったりとしていると、聞き慣れた声がして扉が開いた。


 地球遊覧船のキャビンアテンダント、ケーミンだった。


 ケーミンはロニャと仲良しでよく遊びに来るので、ここまでは珍しい話ではない。

 しかし今日は少し様子が違った。

 その表情はいつになく緊張しているし、傍らに小さな男の子を連れていたのだ。


 肌が黄色く、頭から2本の触角が突き出ているので、明らかにアンテラ人だ。

 地球人で言うと年齢は10歳ぐらいか。


 ケーミンも含めてアンテラ人は美男美女揃いだが、この子は特別だ。

 緩やかに波打つ金髪の髪、大きな目に長いまつげ。

 整った顔立ちは、まるで天使かと見紛うほどに美しい。

 しかも、パリパリに仕立てられた白いスーツは見るからに高級品で、やんちゃ盛りの子供が着る服としては不相応だった。


「その子は?」


 当然とも言える質問を俺が投げかけると、ケーミンは答える代わりに、大きな手提げ袋からオモチャの箱を取り出してテーブルの上へストンと置いた。


「わぁっ!

 ヴォルラックだ!」


 ドッツォは反射的にそう叫ぶと、テーブルへと走り寄る。


 紙製のパッケージを見ると、確かにアニメ『重星覇装(じゅうせいはそう)ヴォルラック』に登場する巨大ロボットが描かれていた。

 50年以上前の古い作品だが、ドッツォが大好きなアニメだ。


 ケーミンが上箱を持ち上げると、中にはびっしりと、多色成形のランナーが収まっていた。

 そう、これは完成品フィギュアではない。

 プラモデルだ。


「さっきこの子がオレンジサブウェイで買うた商品なんやけど、中身がパッケージと全然違うねん。

 これ、どういうことなん?」


 何の冗談なのかと俺は一瞬迷ったが、ケーミンの表情は真剣そのものだった。


「プラモデルを知らんのか?」


「プラモデル?

 なんやそれ?

 フィギュアと違うんか?」


「組み立てキットだよ。

 パーツをこのランナーから切り出して、説明書を見ながら組み立てる商品だ」


「はぁ?

 それってつまり、未完成品、売りつけられたってことやろ?

 まるっきり詐欺やんか!」


「いやいや、別に詐欺じゃない。

 最初からそういう商品なんだよ。

 見りゃわかるだろ?」


「そんなアホな!

 そんなん、分かるわけないやんか!」


「いや、パッケージに書いてあるだろ?」


 そう言って俺はプラモデルの上箱を取り上げ、記載事項を確認した。


 そこには『プラモデル。Plastic Model Kit』としっかり印刷されている。

 だが――果たしてこれで、プラモデルという概念自体を知らない異星人に商品仕様が伝わるだろうか?

 パッケージのかっこいいイラストには『完成予想図』とは書いていない。

 言われてみれば、完成品だと誤解されてもしかたない気がする。


「うーん。

 この表記は確かに……不親切かもしれねぇなぁ……」


 俺は少し罪悪感を感じた。


 もちろんこの商品のメーカーと俺には何の関係もない。

 だが異国の地にいると、同郷人の失態が自分のことのように感じられてしまうのだ。


「しゃあないなぁ。

 返品してこよか?」


 ケーミンはなだめるように問いかけたが、少年は首をぶんぶんと横に振った。

 譲る気はまったくないようだ。


 ケーミンはフライトアテンダントなので、客のために便宜をはかることは日常だろう。

 だが、それにしてもこの少年に対しては気を使いすぎなのではないかと感じる。

 よほどの金持ちか、セレブの客なのだろう。


 すると、少年がケーミンの陰から前に進み出て、箱を指さし、俺に向かって言い放った。


「作ってみせよ」


「は?」


「このプラモデルとやらを、作ってみせよと言っているのだ」


 なんだこいつ!


 明らかに年下の、名前も知らない子供から、こんな口の利き方をされていい理由はひとつもない。


 俺が眉間に皺を寄せてブチ切れそうになったそのとき、ケーミンが慌てて俺の腕を掴んだ。


「ちょっと!

 外を見てみぃ」


 ケーミンは青ざめた顔で、窓の外へと視線を送る。


 俺もつられて外を見やった。


「げ……」


 その光景に、俺は絶句した。


 清掃事務所の前で、黒いスーツにサングラスをつけたアンテラ人の男たちが数十人、無言でこちらを睨んでいたのだ。


 どう見てもカタギじゃない。


 ケーミンは俺の耳元に顔を近づけると、潜めた声で囁いた。


「あの子は、アンテラの王子なんや。

 いつもの気まぐれでお忍び旅行とかで、うちも巻き込まれてしもうたんや。

 すまんけど、どうか助ける思って、王子のわがままにつきおうてあげて!」


 泣きそうな顔で手を合わせて懇願するケーミンを見て、俺の心は揺れた。

 彼女のことは好きだし、困っているなら助けてやりたい。

 だが、だからといって、自分の信念を曲げるわけにもいかない。

 地球の文化を異星人に誤った形で伝えるべきではないし、ましてやプラモデルは日本が世界に誇る文化だ。

 日本人である自分が、妥協してどうする?


 逡巡の末、俺の考えは定まった。


「……だめだ」


 俺がそう言い放つと、ケーミンは絶望のあまり、がくりと膝を落とした。





=== 用語解説 ===


【ケーミン】

 17歳。女性。アンテラ人。地球遊覧船のキャビンアテンダントなので月面基地を不在にしていることが多い。ロニャの悪友でよくいっしょに遊んでいるらしい。推しは異世界花嫁無双の主人公ハルト。


【アンテラ人】

 男女ともに容姿端麗。地球人に似ているが肌は黄色く頭に触角がある。キャラ好きでコスプレ好き。推しに対する愛が強すぎて身を滅ぼすこともある。


【ヴォルラック】

 正式タイトルは『重星覇装じゅうせいはそうヴォルラック』。50年前にヒットした古き良きロボットアニメ。ド直球な熱い物語には今でも根強いファンが多い。



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