12-3 なかなか決まってるじゃーん!
「成功だ!
成功したぞ!」
どこからか、人々のどよめきが聞こえてくる。
完全な暗闇が次第に明るくなり、瞳孔が眩しさに慣れてくると、朧気ながら周囲の風景が見えてきた。
そこは白い壁に囲まれた大広間だった。
床には白亜のタイルが敷き詰められ、高い天井からは陽光が降り注いでいる。
眩しさに目を細めながらきょろきょろと周囲をうかがっているロニャ、アリチェ、そしてドッツォの姿が見える。
周囲には老人を中心とした人々が整列しており、その中央に立つ王冠の男が玉座からゆっくりと立ち上がった。
「異世界の勇者よ、よくぞ召喚に応じてくれた。
いにしえの盟約に基づき、各々に類稀なる能力を授けよう」
王が頷くと、法衣をまとった老人がロニャの前に進み出て、なにやらゴニョゴニョと呪文を唱え始めた。
「聖騎士としての職位と、聖剣を振るうスキルを与える」
老人がそうつぶやいた瞬間、ロニャが着ていた清掃員のユニフォームが光りだし、眩しく輝いたかと思うと、金色のエングレービングが施された白く美しい甲冑へと変化した。
その美しさに心を奪われたかのように、周囲を取り囲む老人たちから「おおぉ……」と驚嘆の声が響く。
ロニャは甲冑のフィット感を確認するように手足の関節を曲げたり伸ばしたりすると、腰の鞘から聖剣を抜き、その研ぎ澄まされた刃を満足そうに眺めた。
「魔導士としての職位と、魔導を行使するスキルを与える」
「銃士としての職位と、魔導銃を放つスキルを与える」
同様に、アリチェは魔導士らしいマントと奇妙に折れ曲がった杖を、ドッツォは近代的なデザインの迷彩服と宝石のついたライフル銃を手に入れた。
アリチェは魔導士のミステリアスな雰囲気にまんざらでもない様子だし、ドッツォは早く試し撃ちがしたくてたまらないといった表情で、ライフルを色々な方向に向けて構えている。
聖騎士、魔導士、銃士。
いずれもRPGではお馴染みの職業だ。
近接攻撃、範囲攻撃、遠隔攻撃とバランスが取れている。
残る枠はひとつ。
パーティー構成を考えると、回復役などバフ系が濃厚だろう。
あるいは格闘家や忍者という可能性もある。
ようやく、老人が俺の前へとやってきた。
果たして――
「清掃員としての職位と、モップを与える」
「は?」
状況が理解できず俺が呆けていると、俺が着ていたライムグリーンのジャンプスーツは光に包まれ――灰色の作業着へと変わった。
いつのまにか右手には、学校の用具入れに入っていそうな薄汚いモップが握られている。
「なんじゃこりゃぁあっ!」
清掃員が清掃員の役割をプレイするんじゃ、ロールプレイでもなんでもないだろうが!
「あははっ!
レンマ、なかなか決まってるじゃーん!」
ロニャは俺の姿を見ると腹を抱えて笑い転げた。
アリチェはフードを目深に被っていたが、口元が微妙に笑っている気がする。
いや、確かに笑っている。
少なくとも心の中で笑っていることは間違いない!
「くそーっ!」
俺は召喚士らしい老人に抗議の目を向けたが、老人は自分の役目をやり遂げたことに満足したように頷くと、後ずさりしながら元の場所へと戻って行った。
「なんで俺だけ清掃員なんだよ!」
怒りの矛先を玉座の男へ向ける。
だがこの国王らしき男も、満足そうな表情を浮かべながら頷くだけだった。
そりゃそうだ。
本物の人間のように描かれているが、彼らはAIが生成したCGであり、ノンプレイヤーキャラクターだ。
シナリオに基づいて行動しているだけなのだから、俺の抗議が届くはずもない。
そう悟ったとき、俺の脳裏にようやく真犯人の顔が浮かび上がった。
「ゲデオン!
あのやろ、やりやがったな!」
俺は天井を仰ぎながら大声で叫んだ。
奴はキャラクターメイキングを自分がやると宣言していた。
大好きなロニャの前で男の俺が活躍するのが気に食わないから、活躍しようのない職業を設定したのだ。
まったく姑息な男だ。
俺が怒りに身を震わせていると、どこからか上品な香水の香りが漂ってきた。
いつのまにか王が玉座を離れ、俺たちの前へと進み出ていたのだ。
「救国の勇者たちよ、聞いてほしい。
この城の地下にある迷宮から現れた怪物が、我が娘、王女を拐ってしまったのだ。
近衛隊長を含め、名だたる精鋭たちが王女救出のために迷宮へ潜って行ったが、残念ながら誰ひとり帰っては来なかった。
もはや、そなたたち異世界の者を頼るしかないのだ。
褒美は望むだけ与えよう。
どうかその神秘なる力で、我が娘を救い出して欲しい」
王が俺たちに頭を下げると、周囲をとりまく臣下たちも、慌てて深々と頭を下げた。
ノンプレイヤーキャラクターが頭を下げたところで何も感じないし、テンプレ丸出しのストーリーに今さら心が動かされることもない。
ただ、グラフィックの表現能力は、さすがに最先端のゲームだけのことはある。
俺はシナリオそっちのけで、王の眼の潤んだ表現や、動作に応じたマントの自然な揺れに見入っていた。
いっぽう、ロニャはきりりと勇ましい表情を浮かべると、一歩前へと進み出た。
「まっかせといて!
悪い奴らは、あたしらが全部まとめてぶったおしてあげるから!」
いかにも主人公らしい秀麗な鎧を与えられたロニャは、すでにノリノリで勇者に成り切っていたのだ。
「みんな、準備はいい?
悪の魔王をやっつけるぞーっ!
おーっ!」
ロニャが聖剣を抜いて天井に向けて掲げると、ドッツォもライフルを持ち上げて「おーっ!」と応じた。
俺は勇者パーティーの一員というより、ただの随行者の気分だったが、ロニャに期待を込めて視線を向けられると逆らうこともできず――「お、おぅ」と、数センチほどモップを軽く持ち上げた。




