12-2 大船に乗ったつもりで任せてよ!
「え?
ロニャさん、この人達は?」
ゲームセンター「ワンダーステーション」の店長、ゲデオン・バステラは、明らかに俺たちのことを歓迎していなかった。
ゲデオンはひょろっとした体型の男で、黒いパーカーにジーンズというラフな格好は、店長というよりゲームセンターによくいる普通の客に見える。
だが、額を覆い隠す長い前髪の奥から覗く目は、神経質そうな光を放っていた。
「清掃課の同僚!
多人数でプレイできるって聞いたから誘ったんだけど、もしかして4人は無理だった?」
「いえ。
4人までならプレイできます。
ただ……」
「ただ?」
小首を傾げて問いかけるロニャから視線を受けて、ゲデオンは動揺したように目を背けた。
「こ、このゲームはまだゲームバランスの調整中ですし、バグも残っているかもしれません。
あまり期待していただいても、がっかりさせてしまいそうで……。
よろしければ無料チケットを発行しますので、ロニャさんがプレイしている間、他のかたはクレーンゲームなどをお楽しみいただいてはどうでしょう?」
言っている内容は丁寧だが、まるで台本を読み上げているかのように感情がこもっていない。
なんとかして参加人数を減らそうという意図が見え見えだ。
おそらくこの男、そもそもロニャだけを誘うつもりだったのだろう。
自慢の新作ゲームをロニャとふたりきりで楽しくプレイする――
そんな計画を練っていたところに、余計な奴らがぞろぞろ現れたせいで全てが狂ったのだ。
しかも最大プレイ人数は4人。
自分が参加することさえできなくなってしまったわけだから、その心中たるや察するに余りある。
そしてゲデオンにとってさらに不幸だったのは、ロニャに真意がまったく伝わっていないことだ。
「そんなの大丈夫だって!
そもそもテストプレイだってことはわかったうえで来てるんだし、ゲームに問題があったとしても、誰も文句なんて言わないよ!
ね、みんな?」
ロニャに問いかけられて、俺は即座に頷いたし、ドッツォは「もちろん! 協力するよ!」と力強く叫んだ。
アリチェは言葉こそ発さなかったが、嫌そうな顔をしていないということは、彼女なりのYESという意思表示なのだろう。
「ほらぁ。
心配することなんてないじゃん!
大船に乗ったつもりで、あたしらに任せてよ!」
自信ありげに握りこぶしで胸をどんっと叩くロニャ。
しかしゲデオンは、まだ引き下がらない。
「ええ……ただ……これは、まったく新しいゲームですから、操作方法とかルールとか、迷うこともあると思うんです。
どなたかが抜けていただければ、パーティーメンバーの中に僕も入って、プレイしながら詳しく解説してあげられるんですけど……」
そう言うと、ゲデオンは俺のことをチラリと見た。
なるほど。
どうやら奴にとって、俺の存在が特に邪魔なのだろう。
アリチェは女性だし、ドッツォは異星人。
平面顔のアジア人とはいえ、ロニャと同世代の男である俺は恋のライバルになり得る。
なんとしても排除したいのかもしれない。
実際には、俺とロニャの間には恋愛感情なんて欠片もないのだが、かといってゲデオンの片思いを応援してやる義理もなく、公開前のゲームをテストプレイできる機会を、みすみす逃す気にもなれない。
俺が黙っていると、ドッツォが口火を切った。
「レンマ兄ちゃんがいっしょなら大丈夫だよ!
本場、秋葉原の出身で、ゲームがすっごく上手いんだ!
こないだボットレースでも優勝したんだよ!」
ボサッコ人が俺の腕を掴みながら、自分のことのように誇らしげに言うと、ロニャも頷く。
「それな!
レンマは現実世界ではただのオタクだけど、ゲームやらせると人が変わるんだよねーっ!
うん、やっぱ大丈夫!
あたしらだけでやれるよ!」
そう言って胸を張るロニャに逆らうわけにもいかず、もはやゲデオンに抵抗する術は残されていなかった。
「りょ……了解しました。
それでは、お任せすることにします」
「うん!」
ゲデオンは肩を落として意気消沈していたが、ロニャは気にする様子もなく満面の笑顔を浮かべている。
ロニャは俺なんかより遥かに高いコミュニケーション能力を持っている。
誰とでもすぐに仲良くなれるし、異星人も含めて友達も多い。
ところが意外なことに、自分自身の恋愛に関してはまったく関心がないように見える。
ゲデオンがロニャに特別な感情を抱いていることは、彼女いない歴イコール年齢の俺にさえ明らかなのに、彼女は微塵も気づいていないのだ。
「それじゃ、ゲーム内容を説明してくれる?
あたしは昨日、説明受けたけど、他のみんなはよくわかってないから」
お前だってわかってないだろ――と俺は心のなかで突っ込みを入れたが、ゲデオンはロニャが自分に期待を寄せていることを感じたのか、少し元気を取り戻したようだった。
「『ダンジョン&ラビリンス』は体感型のロールプレイングゲームです。
ODTを使うことで、VR空間を自由に動き回ることができます」
『ダンジョン&ラビリンス』――通称『D&L』。
高い技術に基づくリアルな業務用VRゲームとして有名なタイトルだ。
俺も秋葉原のゲーセンで一度だけプレイしたことがあるが、体力を使うので疲れるし、多人数協力プレイを前提としたゲームなので、文化系ぼっちの俺には再プレイのハードルが高すぎた。
「オーディーティー?」
ロニャが小首を傾げて聞き返す。
ゲデオンは昨日、事前説明をしたらしいが、やはりロニャは理解していなかったようだ。
「ODTはオムニディレクショナルトレッドミルの略です。
プレイヤーの動きに応じて床が動いてくれるので、歩いたり、走ったり、ジャンプしたり……自由に動くことができるんです」
「すごい!
楽しそう!」
ドッツォは身を乗り出し、もはや居ても立ってもいられない様子だ。
「通常はご自身でキャラクターメイキングしていただくのですが、今回はすぐにプレイが始められるように、私のほうで設定させていただきます。
それでは、プレイルームへとお進みください」
ゲデオンが手元のスイッチを入れると、目の前に広がっていた黒い壁が縦方向に割れ、ゆっくりと左右に動き出した。
いかにも新築らしい、独特の匂いが漂ってくる。
ロニャを先頭として、ドッツォとアリチェは期待に胸を膨らませながら、何もない部屋へと足を踏み入れて行った。
俺も後に続こうとしたが、ふと扉の横に立つゲデオンを見ると、奴は慌てて目を逸らした。
一瞬だったので明確にはわからなかったが、奴は俺のことを憎々しげに睨んでいたのだ。
=== 登場人物 ===
【ゲデオン・バステラ】
23歳。スペイン人。ゲームセンター「ワンダーステーション」店長。ソフトからハードまでこなすフルスタックエンジニアでありながら凄腕のゲーマー。ロニャのことが好きらしい。




