表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/88

12-2 大船に乗ったつもりで任せてよ!




「え?

 ロニャさん、この人達は?」


 ゲームセンター「ワンダーステーション」の店長、ゲデオン・バステラは、明らかに俺たちのことを歓迎していなかった。


 ゲデオンはひょろっとした体型の男で、黒いパーカーにジーンズというラフな格好は、店長というよりゲームセンターによくいる普通の客に見える。

 だが、額を覆い隠す長い前髪の奥から覗く目は、神経質そうな光を放っていた。


「清掃課の同僚!

 多人数でプレイできるって聞いたから誘ったんだけど、もしかして4人は無理だった?」


「いえ。

 4人までならプレイできます。

 ただ……」


「ただ?」


 小首を傾げて問いかけるロニャから視線を受けて、ゲデオンは動揺したように目を背けた。


「こ、このゲームはまだゲームバランスの調整中ですし、バグも残っているかもしれません。

 あまり期待していただいても、がっかりさせてしまいそうで……。

 よろしければ無料チケットを発行しますので、ロニャさんがプレイしている間、他のかたはクレーンゲームなどをお楽しみいただいてはどうでしょう?」


 言っている内容は丁寧だが、まるで台本を読み上げているかのように感情がこもっていない。

 なんとかして参加人数を減らそうという意図が見え見えだ。


 おそらくこの男、そもそもロニャだけを誘うつもりだったのだろう。


 自慢の新作ゲームをロニャとふたりきりで楽しくプレイする――

 そんな計画を練っていたところに、余計な奴らがぞろぞろ現れたせいで全てが狂ったのだ。

 しかも最大プレイ人数は4人。

 自分が参加することさえできなくなってしまったわけだから、その心中たるや察するに余りある。


 そしてゲデオンにとってさらに不幸だったのは、ロニャに真意がまったく伝わっていないことだ。


「そんなの大丈夫だって!

 そもそもテストプレイだってことはわかったうえで来てるんだし、ゲームに問題があったとしても、誰も文句なんて言わないよ!

 ね、みんな?」


 ロニャに問いかけられて、俺は即座に頷いたし、ドッツォは「もちろん! 協力するよ!」と力強く叫んだ。

 アリチェは言葉こそ発さなかったが、嫌そうな顔をしていないということは、彼女なりのYESという意思表示なのだろう。


「ほらぁ。

 心配することなんてないじゃん!

 大船に乗ったつもりで、あたしらに任せてよ!」


 自信ありげに握りこぶしで胸をどんっと叩くロニャ。

 しかしゲデオンは、まだ引き下がらない。


「ええ……ただ……これは、まったく新しいゲームですから、操作方法とかルールとか、迷うこともあると思うんです。

 どなたかが抜けていただければ、パーティーメンバーの中に僕も入って、プレイしながら詳しく解説してあげられるんですけど……」


 そう言うと、ゲデオンは俺のことをチラリと見た。

 なるほど。

 どうやら奴にとって、俺の存在が特に邪魔なのだろう。

 

 アリチェは女性だし、ドッツォは異星人。

 平面顔のアジア人とはいえ、ロニャと同世代の男である俺は恋のライバルになり得る。

 なんとしても排除したいのかもしれない。


 実際には、俺とロニャの間には恋愛感情なんて欠片もないのだが、かといってゲデオンの片思いを応援してやる義理もなく、公開前のゲームをテストプレイできる機会を、みすみす逃す気にもなれない。


 俺が黙っていると、ドッツォが口火を切った。


「レンマ兄ちゃんがいっしょなら大丈夫だよ!

 本場、秋葉原の出身で、ゲームがすっごく上手いんだ!

 こないだボットレースでも優勝したんだよ!」


 ボサッコ人が俺の腕を掴みながら、自分のことのように誇らしげに言うと、ロニャも頷く。


「それな!

 レンマは現実世界ではただのオタクだけど、ゲームやらせると人が変わるんだよねーっ!

 うん、やっぱ大丈夫!

 あたしらだけでやれるよ!」


 そう言って胸を張るロニャに逆らうわけにもいかず、もはやゲデオンに抵抗する術は残されていなかった。


「りょ……了解しました。

 それでは、お任せすることにします」


「うん!」


 ゲデオンは肩を落として意気消沈していたが、ロニャは気にする様子もなく満面の笑顔を浮かべている。


 ロニャは俺なんかより遥かに高いコミュニケーション能力を持っている。

 誰とでもすぐに仲良くなれるし、異星人も含めて友達も多い。

 ところが意外なことに、自分自身の恋愛に関してはまったく関心がないように見える。


 ゲデオンがロニャに特別な感情を抱いていることは、彼女いない歴イコール年齢の俺にさえ明らかなのに、彼女は微塵も気づいていないのだ。


「それじゃ、ゲーム内容を説明してくれる?

 あたしは昨日、説明受けたけど、他のみんなはよくわかってないから」


 お前だってわかってないだろ――と俺は心のなかで突っ込みを入れたが、ゲデオンはロニャが自分に期待を寄せていることを感じたのか、少し元気を取り戻したようだった。


「『ダンジョン&ラビリンス』は体感型のロールプレイングゲームです。

 ODTを使うことで、VR空間を自由に動き回ることができます」


 『ダンジョン&ラビリンス』――通称『D&L』。


 高い技術に基づくリアルな業務用VRゲームとして有名なタイトルだ。

 俺も秋葉原のゲーセンで一度だけプレイしたことがあるが、体力を使うので疲れるし、多人数協力プレイを前提としたゲームなので、文化系ぼっちの俺には再プレイのハードルが高すぎた。


「オーディーティー?」


 ロニャが小首を傾げて聞き返す。

 ゲデオンは昨日、事前説明をしたらしいが、やはりロニャは理解していなかったようだ。


「ODTはオムニディレクショナルトレッドミルの略です。

 プレイヤーの動きに応じて床が動いてくれるので、歩いたり、走ったり、ジャンプしたり……自由に動くことができるんです」


「すごい!

 楽しそう!」


 ドッツォは身を乗り出し、もはや居ても立ってもいられない様子だ。


「通常はご自身でキャラクターメイキングしていただくのですが、今回はすぐにプレイが始められるように、私のほうで設定させていただきます。

 それでは、プレイルームへとお進みください」


 ゲデオンが手元のスイッチを入れると、目の前に広がっていた黒い壁が縦方向に割れ、ゆっくりと左右に動き出した。


 いかにも新築らしい、独特の匂いが漂ってくる。


 ロニャを先頭として、ドッツォとアリチェは期待に胸を膨らませながら、何もない部屋へと足を踏み入れて行った。


 俺も後に続こうとしたが、ふと扉の横に立つゲデオンを見ると、奴は慌てて目を逸らした。

 一瞬だったので明確にはわからなかったが、奴は俺のことを憎々しげに睨んでいたのだ。





=== 登場人物 ===


【ゲデオン・バステラ】

 23歳。スペイン人。ゲームセンター「ワンダーステーション」店長。ソフトからハードまでこなすフルスタックエンジニアでありながら凄腕のゲーマー。ロニャのことが好きらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ