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11-6 会いたかったにゃん!






「さてはお前、魔王ゼルグレイアの手の者だにゃ!」


 ボサッコ人はファナを睨みつけながら叫んだ。

 『魔王ゼルグレイア』はイセハナの最終ボスであり、語尾に「にゃ」をつけるのは獣人セリスの口調だ。

 つまりこの少女は、アニメ症候群における『キャラ同化症』を発症し、イセハナの花嫁候補であるセリスと自分を同化してしまったのだ。


 口調だけではない。

 テーブルの上に背を丸めて座り、手の甲を相手に向ける仕草まで、完全に獣人に成りきっている。

 ちなみに地球人の俺から見るとボサッコ人も獣人みたいなものなので、あまり違いがないのだが、それは言わないほうがいいだろう。


「落ち着いて聞いて!

 あなたは今、アニメ症候群という病気にかかっているの!

 しばらくすれば治るから、それまでは保安部であなたを保護させて!」


 オレンジ色の制服に身を包み、毅然とした態度で対応するファナの姿は凛々しい。

 アニメや漫画などに触れて一喜一憂する彼女の可愛らしい面を知っているからこそ、そのギャップに俺の胸はときめいた。


 しかし今の状況はそれどころではない。

 緊迫した空気の中、ファナが手を差し伸べると、ボサッコ人は「シャーッ」と相手を威嚇した。


「そんな戯言に騙されるセリス様じゃないにゃ!」


 叫ぶと同時にボサッコ人は隣のテーブルへと飛び移った。

 テーブルに乗せられていたアクリルスタンドがバラバラと落下し、「ぎゃぁっ!」と出展者たちの悲鳴が響く。


「必殺、グラビティ・クルーシブルをお見舞いするにゃあ!」


 ボサッコ人は奇声をあげるとファナに向けて飛びかかった。

 ファナは身の危険を感じて「きゃぁっ!」と身構える。


 しかし――乗っていたテーブルがバタンと後方に倒れただけで、ボサッコ人の身体は前には進んでいなかった。


「このセリス様の必殺技を避けるとは、こ、こしゃくにゃあ!」


 ボサッコ人は歯をむき出してファナを睨むと、再び跳躍するために身をかがめた。

 このままではファナがやられる!


 状況を飲み込むのに少々時間をとってしまったが、ようやく俺は自分のやるべきことに気がついた。


「セリス!」


 俺が声をかけると、ボサッコ人がはっとした表情で振り返る。


「もしかして、ハルト様?」


 俺はできるだけ勇者ハルトっぽく見えるように目を細めて斜に構え、涼しいイケメン顔を作る。


「ハルト様!

 会いたかったにゃん!」


 そういうとボサッコ人はぴょんと飛び跳ねて、俺の脚に抱きついた。


(かかった!)と俺はほくそ笑む。


 ケーミンが発症したときと同じだ。

 イセハナの花嫁候補に『キャラ同化』すると、黒髪で典型的日本人顔の俺が、なぜか勇者ハルト本人のように見えてしまうのだ。


「ハルト様~、お慕い申しておりますにゃん!」


 頬を擦り寄せて甘えるボサッコ人を見て、ファナは意味が分からず「え!?」と戸惑っている。


「セリス、その女性は、アルステッド王国の特使だ。

 失礼のないようにするんだ」


 俺はボサッコ人の頭をナデナデしながら嗜める。


「え!?

 そうだったのにゃ!?

 ごめんなさいなのにゃ」


 ボサッコ人は態度を豹変させると、ファナに向き直り、ペコリと頭を下げる。


「え、いえいえ。

 気にしないでください」


 そう答えたファナの態度はまだギクシャクとしていたが、ようやく状況が飲み込めてきたようだった。


「まぁ、極秘の任務中だからな、お前が知らないのも無理はないよ。

 それより、おりいって頼みたいことがある」


「なんなのにゃ?」


「これからその人を保安部に連れていく。

 お前も護衛としてついてきてほしい。

 どんな危険が待ち受けているか分からないが、頼んだぞ」


 俺が勇者らしく偉そうな口調で指示すると、ボサッコ人は高揚した笑顔を浮かべた。


「わかったのにゃ!

 セリスに任せるのにゃ!」


 叫びながらジャンプし、ストンッとファナの傍らへと着地した。


「さっそく出発するのにゃ!

 大船に乗ったつもりで安心するのにゃ!」


 そしてさらに傍らで呆けていたドッツォに向かって、「ほら、ポチもついてくるのにゃ!」と付け加えた。


 ちなみに『ポチ』というのは、ハルトたちのパーティーに同行している野良犬である。


「僕、ポチじゃないのに……」


 認めたくはないが抵抗しても無駄だということがわかっているのだろう。ドッツォは肩を落としながらとぼとぼと歩き始めた。


 一瞬の静寂が訪れ、どうやらトラブルは解消したらしいと分かると、次第に周囲を取り巻いていた人々からまばらな拍手が沸き起こった。


「ハルト様素敵!」

「さすがハルト!」


 さらに称賛の声が飛び交う。

 人から褒められることは本来喜ばしいことのはずなのだが、俺にとっては地獄でしかない。

 それに、そもそも俺は勇者ハルトではないのだ。


 俺が(早く逃げ出そう)とファナを手招きすると、彼女は微笑みながらやってきて、すれ違いざまに耳元で囁いた。


「レンマ、ありがとう。

 助かったわ」


 俺にとっては何よりの報酬だった。




=== 異世界花嫁無双イセハナ・主な登場人物 ===


【森下 春斗ハルト

 20歳。男性。日本から転移してきた平凡な大学生。魔王を倒す力を得るためには、5人の花嫁候補から運命の相手を選ばなければならない。


【セリス】

 16歳。女性。獣人族。猫耳と八重歯がチャームポイント。いつも元気なムードメーカー。


【ポチ】

 野良犬だったが、ハルトに救われて以来、旅に同行している。


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