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11-2 地獄だな……






 俺は自室の中でひとり震えながら地球のSNS『オタヴァース』上で展開されている『イセハナ』ファン同士のやりとりを読み進めていた。


@黄色い彗星:

「祝、ミレナ完全勝利!

 今までリリアンヌに媚びてた奴ら息してるー?

 ヒロインの格が違いすぎて話にならんわw」


@ただの暇人:

「これまでの描写を精査すればミレナが勝つのは論理的帰結。

 リリアンヌはただの舞台装置に成り下がった。

 異論がある奴は脳の構造を疑え」


@白百合の騎士:

「焦る必要ない。

 ミレナなんてどうせ最後に身代わりで死ぬ枠でしょw

 リリアンヌ様の横に並べるわけないじゃん。

 暗殺者の信者どもは現実見ろよ」


@朝冬:

「アイザラを否定する奴は全員敵」


@たかし:

「はいはい、負け犬の遠吠え乙。

 ハルトと同じ世界を共有してるのはミレナだけ。

 他のキャラは全員背景のモブ」


@雷神:

「ミレナを『ポッと出』とか呼ぶなよ。

 あの冷たい態度は正体を隠すために決まってんだろ。

 理解力の低いリリアンヌ信者にはわからんか」


@無課金者:

「最新話の展開最高w

 アイザラ派とリリアンヌ派が発狂してるの見るのが一番のエンタメだわ。

 もっと燃えろ!」



「地獄だな……」


 果てしなく続く阿鼻叫喚のスレッドを見て、俺は本能的な恐怖を覚えた。


 『イセハナ』は、主人公のハルトが5人の花嫁候補から最終的に誰を選ぶのかが読者の間で話題となり、爆発的な人気を博した作品だ。

 5人の花嫁候補それぞれに熱狂的な固定ファンがついてしまったため、作者としてもどう終わらせたらいいのか分からなくなっているのでは? と噂されていた。


 しかし、いよいよストーリーが完結しそうな段階になって突然、今まで影が薄かった暗殺者のミレナが、実はハルトと同じ転移者であり、しかもハルトの幼馴染だと判明したのだ。

 これによって、今まで比較的穏やかだった『イセハナ』のファンたちが、推しを巡って殺気立った対立を見せ始めてしまった。


 特に姫騎士リリアンヌは、最初に登場した花嫁候補であり、序盤からずっとメインヒロイン枠として活躍してきた。

 素直で性格も明るく、戦闘では得意のパリィスキルで、タンク役として貢献している。

 当然、5人の花嫁候補の中でファンの絶対数が一番多く、キャラクターグッズの売上も常にダントツだ。

 それゆえにリリアンヌのファンは最終的に花嫁に選ばれるのは当然彼女だろうと確信して疑っていなかった。

 最新話の「幼馴染設定」という爆弾展開を見て、動揺が広がるのも無理からぬことだ。


 こんな状態でオンリーイベントを決行してもいいものだろうか?


 ファンの間でトラブルが発生しようものなら、保安部のアレシオはここぞとばかりにアニメ批判を展開するだろう。

 オンリーイベントは中断させられるかもしれないし、最悪、自主イベントが永久に禁止されてしまう可能性だってある。


 しかし……と、俺は思いとどまった。


 ポータリアンが地球のSNSを見ることは禁止されている。

 原作が掲載されている雑誌『週刊少年モエキュン』は、月には輸入されていない。


 いずれ最新話が収録された単行本が発行されれば、少し遅れて月にも届き、ポータリアンにも読まれるようになるだろうが、それはかなり先のことだ。

 何も今から神経質になって心配する必要などないだろう。


 俺はそう自分に言い聞かせると、重い瞼を閉じて眠りについた。



   ***



 翌日、俺が噴水広場へ行くと、そこにはすでに会議テーブルが整然と並べられていた。

 床には養生テープが貼られ、ブースごとのコマ割りがされている。


 白いエプロンに軍手をはめ、忙しそうに走り回っていたのはケーミンだった。

 各テーブルに緑色のテーブルクロスを配布しているようだ。

 しかし俺が近づくと、彼女はいつになく不安げな表情を向けてきた。


「なにか問題でもあったのか?」


 声をかけると、ケーミンは手に持ったままの、折りたたまれたテーブルクロスを見ながら大きな溜息をついた。


「それがなぁ。

 ブース用に黒いテーブルクロスを注文しとったのに、今朝届いたのを見たら、全部グリーンだったんや」


「……なんだ、そんなことか。

 配送のミスだったんなら、交換してもらえばいいだけの話だろ?」


「何度も頼んだんやけど……。

 どうしてもグリーンじゃなきゃダメって拒否られてもうたわ」


「なんだそりゃ?

 お前、金払って買ったんじゃないのか?」


「こうたわけじゃないねん。

 イセハナのファンから無償で提供してもらったもんやから、それ以上の交渉はできんかったわ」


「なるほどね。

 予算が限られた自主イベントなんだから、それで妥協するしかないだろ。

 単色でシンプルだし、緑でもいいんじゃないか?」


「それが、そうも言えんのや。

 グリーンはアイザラのイメージカラーやろ?

 会場がグリーンで埋め尽くされていたら、他のキャラのファンがどう思うか……」


 ケーミンの話を聞いて、俺にも思い当たるところがあった。

 『イセハナ』に登場する5人の花嫁候補には、それぞれイメージカラーが設定されている。

 リリアンヌなら赤、アイザラなら緑、といった塩梅だ。

 それを踏まえて、ケーミンは誰のイメージカラーにも設定されていない「黒」を、テーブルクロスの色として選んだのだろう。


「それはわかるが、心配しすぎじゃないか?

 コスプレ大会のときもイセハナのファンがいっぱい集まっていたが、みんな和気あいあいと仲良さそうだったぞ」


 俺はケーミンの不安を払拭しようと、なるべく明るい声を絞り出した。

 だが、彼女の表情は晴れない。


「せやな。

 以前はみんな仲良しやった。

 だからシャルロットもオンリーイベントを企画したんや。

 でもな、花嫁がミレナに確定したって噂が流れて……。

 突然、ファン同士が険悪なムードになってしもうたんや」


「な、なんだってぇ~っ!」


 驚愕した俺の叫びが設営中の会場に響き渡った。






=== 異世界花嫁無双イセハナ・主な登場人物 ===


【森下 春斗ハルト

 20歳。男性。日本から転移してきた平凡な大学生。魔王を倒す力を得るためには、5人の花嫁候補から運命の相手を選ばなければならない。


【リリアンヌ・フォン・アルステッド】

 18歳。女性。アルステッド王国第1王女。ドレスアーマーを身にまとったタンク役。典型的な王道ヒロイン。


【ミレナ・クラウディア】

 19歳。女性。沈着冷静な暗殺者。仮面で顔を隠しており正体不明。ハルトには冷たい態度をとっている。


【アイザラ】

 17歳。女性。魔法使い。低レベルの魔法しか使えないが、それでも頑張る努力家。




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