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11-1 そんなの楽しいに決まってるし!






「オンリーイベント!?」


 俺は思わず聞き返してしまった。


 清掃事務所のラウンジに、これだけの人数が集まるのは珍しい。

 中央の円形テーブルを囲むように、俺、ロニャ、アリチェ、ドッツォといういつものメンバーに加えて、総務部施設管理課のウーゴと、地球遊覧船キャビンアテンダントのケーミンが同席していた。


 ケーミンが、少し得意げに胸を張って説明する。


「せや。

 うちもようわからんけど、アニメのファンが自主的に企画するイベントらしいで」


 ウーゴは浮かない顔で、深いため息をつきながら頭を下げた。


「ケーミンさんから、噴水広場でイベントをやりたいから許可してほしいという提案がありましてね。

 私だけでは判断するのが難しかったものですから、相談に乗っていただきたいのです」


 噴水広場の管理を任されている彼にとっては、未知の事態に胃を痛めているのだろう。


「やりたがってるのはシャルロットやけどな。

 あの子、人と話すのは苦手やから、うちが手伝ってあげてるんや」


 『シャルロット』というのは、『ホームメイドカフェ』で働いているアンテラ人の少女だ。

 内気なくせに接客業をやっているだけでも驚きだが、自主イベントを企画するとは、よほど内なる熱意が強い性格なのだろう。


 ロニャは拳を振り上げて身を乗り出した。


「マジいいじゃん!

 そんなん絶対楽しいに決まってるし!

 悩む必要なくない?

 ね?」


 相変わらずのポジティブ全開でテーブルを囲んだメンバーを見渡す。

 ドッツォも、全身の毛をふわふわと揺らしながらノリノリで続く。


「うん!

 僕も参加したい!

 みんなで楽しむイベント大好き!」


 しかしウーゴの表情は晴れない。

 タオルで額の汗を拭いながら、なおも悩ましげな様子だ。


「しかし……なにぶん、ファン主催のイベントなど前例がないですし。

 商品の販売も行うとのことで、とても私どもの手には負えないのではと思いまして……」


「販売って、何を売るわけ?」


 ロニャがダークグリーンの瞳をケーミンに向ける。


「ファンが作った手作りグッズや。

 好きなキャラクターをあしらった小物とか、アクセサリーとかやな」


「ヴォルラックのグッズも買えるのかな!」


「たぶんな。

 しらんけど」


 ドッツォは期待に目を輝かせていたが、ケーミンの返答は適当だった。

 ウーゴは眉間に深いシワを寄せる。


「自作のキャラクターグッズを販売するとなると、版権元と交渉して商品化権を取得しなければなりません。

 そのうえで商品ごとの監修も必要になりますし、どれだけの労力と時間がかかるのか想像もつきません」


 なるほど。

 責任ある立場の人間としてはもっともな懸念だ。

 俺はケーミンに向き直った。


「オンリーイベントってことは、特定のアニメに限定したイベントってことだよな?

 なんてアニメなんだ?」


「もち、みんな大好きイセハナや!

 『異世界花嫁無双』!

 シャルロットもアイザラってキャラをえらく推しててな、最近はその話ばっかりしとるわ」


「イセハナか……。

 となると版権元は日本の収穫社だな。

 ……大丈夫だ。

 許可を取る必要はないよ。

 よほど大儲けでもしない限りはな」


 俺が断言すると、ウーゴは「え!?」と目を見開いた。


「勝手にキャラクターグッズを販売しても、問題ないのですか?」


「問題はあるよ。

 明らかな著作権侵害だからな」


「はぁ!?

 じゃあダメじゃないですか!」


「落ち着けよ。

 現実的には、版権元が訴えない限り著作権侵害の罪には問われない。

 そして収穫社は、ファンによる二次創作を『黙認』するスタンスをとっているから訴えることはないんだ」


「なんと!

 違法なのに、黙認しているのですか!?」


 ウーゴは信じられないといった様子で、持っていたタオルを握りしめた。


「違反者を探し出していちいち訴えるのにも、莫大なコストがかかるからな。

 それに、熱心なファンから反発を受けるリスクもある。

 いっぽうで、ファン同士が勝手に盛り上がってくれれば、版権元としてはコストをかけずに作品の知名度を上げられるメリットもあるわけで……。

 結局、放っておくのがベストって判断なんだよ」


「な、なるほど……。

 しかし、念のため、イベントの実施について、事前に許可をとるくらいのことはしておいたほうがよいのではないですか?」


「いや。

 版権元に直接問い合わせるのはタブーなんだ。

 版権元としては『グレーな状態』にしておきたいのに、聞かれたら『ダメだ』と答えなければならなくなるからな」


「なんとも……不思議な世界ですなぁ」


 そのとき、今まで興味なさそうに黙っていたアリチェが、小さな声で呟いた。


「白でも黒でもないグレーな状態を良しとするのは、日本人の特性ね。

 私には、まったく理解しがたいけれど……」


「……なんか難しい話でようわからんけど、問題なしってことでええんか?」


 ケーミンが、期待を込めた目でウーゴを見る。


「……わかりました。

 トラブルが起きることがないように注意して、しっかり運営してくださいね。

 念のため、保安部には私から説明しておきます」


「やったーっ!」


 ケーミンはガッツポーズを決めながら、勢いよく席から立ち上がった。


「そうと決まったら、さっそく準備を始めなあかんな!

 ロニャ、手伝ってくれるか?」


「もち!

 盛り上げは任せてよね~っ!」


 ロニャもノリノリで応じる。

 ドッツォも、嬉しそうに顔の両側から伸びた茶色い毛を振った。


「僕も友達に声をかけてみるよ。

 たくさん集まったほうが、絶対楽しいもんね!」


 ケーミンは少しだけ涙ぐんで、感極まった様子だ。


「みんな、おおきに!」


 感謝を告げると、彼女はロニャと共に、嵐のようにラウンジを出ていった。


 ウーゴは深くため息をつく。

 「トラブルが起きないように注意」という彼の懸念が、果たして彼女に伝わったのかどうか不安なのだろう。

 そしておそらく伝わってはいない、と俺は思った。


   ***



 その夜。

 俺は自室で、久しぶりに地球のSNS『オタヴァース』にアクセスした。


 アニメ『イセハナ』の原作漫画は、まだ地球で連載が続いており、完結していない。

 イセハナにはさほど興味がないということもあって最新情報は追っていなかったのだが、そろそろ結末が近いと言われている原作が今、どのような状況になっているのか気になったのだ。


 だが、検索欄に「イセハナ」という文字を入力するまでもなかった。


 俺のタイムラインは、既にその話題で埋め尽くされていた。

 先週公開されたばかりの、原作の最新エピソードが『炎上』していたのだ。





=== 登場人物 ===


【ケーミン】

 17歳。女性。アンテラ人。地球遊覧船のキャビンアテンダントなので月面基地を不在にしていることが多い。ロニャの悪友でよくいっしょに遊んでいるらしい。


【シャルロット】

 本名は不明。シャルロットは源氏名。女性。アンテラ人。メイドカフェ「ホームメイドカフェ」で勤務しているメイド。内向的で気が弱いにも関わらず、好きなアニメに対しては過度の積極性を見せる。


【ウーゴ・ディアロ】

 58歳。男性。フランス系アメリカ人。総務部施設管理課。ツキハバラ商店街の管理人であり、店長達の取りまとめ役。



=== 異世界花嫁無双イセハナ・登場人物 ===


【セリス】

 19歳。女性。獣人族。猫耳と八重歯がチャームポイント。いつも元気なムードメーカー。


【アイザラ】

 17歳。女性。魔法使い。低レベルの魔法しか使えないが、それでも頑張る努力家。



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