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10-1 照れてねぇよ!





「あのさ~、うっかりしてたんだけど、レンマの歓迎会ってやってなかったよね~」


 事務所のラウンジで朝食をとっていると、ロニャが唐突に脈絡のないことを言い出した。


「せっかく久々に加わった新メンバーだしさぁ、やっとこうよ歓迎会!」


 ロニャがギラギラとした目を向けると、ドッツォは勢いよく頷いた。


「うん!

 やろう!

 賛成!」


 そして全身の体毛をふわふわと揺らしながら、期待を込めて俺の顔を見る。

 歓迎会と聞いて俺が喜ぶと思ったのかもしれないが……ごめんな。

 俺はそういうの苦手なんだ。


 いっぽうアリチェはいつものように無表情をキメている。

 話を聞いているのかどうかもわからない。

 いや、間違いなく聞こえているのだろうが、興味が無いのだろう。


 だがこのアリチェの無関心さは、今回に限っては好都合だった。


「いや、いいよ。

 別に歓迎してくれなくても」


 賛成が2名しかいない状態なら食い止めることができる。

 俺は先手必勝の想いで拒否の意思を表明した。


「なんでよーっ!

 歓迎される側が嫌がるとかナシでしょ!」


 ロニャはふくれっ面で不満を表明しているが、主賓の意思は尊重してほしいものだ。


「いつも会ってるんだから、それでいいじゃねぇか。

 特別扱いされるのは嫌なんだよ。

 『改めて自己紹介をお願いしまーす』とか言われても、何言ったらいいかわかんねぇし」


「あら~。

 もしかして照れてるの?」


「照れてねぇよ!」


「でもさー、レンマってあんまり自分のこと話してくんないし、お互いのこと、もっと知っておくほうが良くない?

 ね!

 ドッツォも歓迎会したいでしょ?」


「うん、やりたい、歓迎会!

 レンマ兄ちゃんを歓迎するーっ!」


「ほら見ろ!

 ドッツォも賛成してるし、決定~っ!」


 くそ、ロニャのやつ。

 ドッツォが否定しないことをわかっていながら、わざわざ質問しやがって。

 俺が断りづらいように外堀を埋めてきやがった。


「あのね、レンマ……」


 するとロニャは突然、真顔で俺を見つめながら語りだした。

 

「聞いてくれる?」


「な、なんだよ改まって……」


「あなたは無理やり月に連れてこられて、迷惑ぐらいにしか感じてないかもしれないけど……」


 そう言いながらロニャは席を移動し、俺の横にちょこんと腰掛けてきた。


 近い。

 甘い匂いがする。


「あたしとアリちとドッちょはね、3人でずっと寂しかったんだよ。

 楽しいことがあっても、なんか足りない気がして満たされなかったの。

 でもレンマ来てから、そんな日常が変わった!

 毎日めっちゃ充実してんの!

 だからこの気持ち、ちゃんと受け取ってほしいんだ!

 ね!」


 彼女が片目をバチンとウインクして見せたとき、計らずも俺の心臓は激しく脈動した。

 いつも俺をバカにしてからかっているロニャだが、今俺を見ている彼女の眼差しには真剣さがある。

 素直になるのが照れくさかっただけで、彼女も本心では、俺を歓迎してくれていたのかもしれない。


 俺の鋼鉄の意思が揺らぎ始めていた。


 傍らのドッツォも期待を込めてダークオレンジの瞳をウルウルとさせている。

 俺に同意してほしいのだろう。

 こいつの期待を裏切るようなことは、できればしたくない。


「わ、わかったよ」


 さすがにこの空気の中では抗うこともできず、俺は彼女の提案を受け入れた。

 気恥ずかしいことに変わりはないが、人の好意を無下にするわけにもいかないだろう。


「やったぁ~っ♪」


 ロニャは全身で喜びを表現すると、ドッツォと両手でハイタッチを交わした。


「ね、アリチェは?

 美味しいご飯、食べたくな~い?」


 ロニャは「私を巻き込まないでオーラ」を全身から発しているアリチェの顔を覗き込んだ。

 アリチェは歓迎会などに興味を持たないことを知っているからこそ、料理で釣ろうとしているのだろう。


「コンビニ限定のシュークリーム食べてみたいわ」


 なんと意外にもアリチェが口を開いた。

 ロニャの誘いになんて乗らないだろうと思っていた俺は、拍子抜けした。


「え、なにそれ?」


「とても美味しいってネットで話題になっているから。

 イートインでしか食べられないけど、1人じゃ入りづらくて……」


「う~ん。

 でも、コンビニのイートインで歓迎会は無理ゲーでしょ!

 絶対怒られるって!」


「静かにしていれば問題ないはず」


「静かな歓迎会とか歓迎会じゃないでしょー。

 ごめん、却下!」


 ロニャに全否定されて、アリチェはムスっとしてしまった。

 恐らく彼女の脳内は今、シュークリームのことでいっぱいなのだろう。


「お店はさ、商店街のイタリアンが良くない?

 安いし、今ならピザもパスタも食べ放題だし!」


 ロニャはさり気なく別の店を提案したが、母国料理ならアリチェも乗ってくると思ったのだろう。

 しかしアリチェの表情は困惑していた。


「あそこはドッツォが入れないけど、いいの?」


「え?」


「知らないの?

 ボサッコ人の集団が食べ放題で大騒ぎして以来、ボサッコ人は入店禁止になったのよ」


「マジで?」


 ロニャがドッツォの顔を見ると、ドッツォは満面の笑みで答えた。


「えへへ、ごめんなさい!」


 どうやらドッツォも大騒ぎに参加していたようだ。

 ボサッコ人は大食いらしいし、もしかしたら「大騒ぎしたから」というのは店側の口実で、実際はボサッコ人相手の食べ放題がビジネス的に成立しなかったのかもしれない。


「ポータリアン居住区でよければ、いいお店あるよ」


「え?」


 ドッツォの提案に可能性を感じたロニャの表情が、パッと明るくなった。


「美味しいし量も多くて評判なんだ。

 僕は毎週行ってるよ」


「でも……もしかしてそれ……ボサッコ料理の店?」


「うん!」


 ドッツォは力強く頷いたが、ロニャは激しく首を振った。


「いや~、ごめん!

 それは無理だわ。

 地球人の消化能力的にキツいんだよね。

 前行ったとき、三日三晩トイレこもったし~」


 激辛だ!

 激辛料理の店だ。

 これは俺としても絶対に避けなければならない。


「フードコートは?」


 突然、アリチェが会話に割り込んだ。

 歓迎会に前向きになったとは思えないが、この不毛な会話を早く終わらせたかったのかもしれない。


「フードコート?

 いいじゃんいいじゃん!

 あそこならハンバーガー食べられるし!」


 ロニャの目が輝いた。

 毎日食ってるくせに、どんだけハンバーガーが好きなんだ?


「あそこのフルーツパフェは、値段の割に美味しいって評判よ」


「パフェ?

 それスイーツじゃん!」


「それぞれ好きなもの食べればいいでしょ?」


「そっか!

 確かに!」


「僕は20倍カレー食べる!」


「よーし!

 そうと決まったらさっそく今日決行だー!」


「おーっ!」


 ロニャとドッツォは大喜びしているが、俺はいまひとつ状況が飲み込めずにいた。


「あのさ……フードコートって……。

 要するに俺達が毎日ランチ食ってる店だよな?」


 違う答えもあるのかもしれないと、俺はわずかな期待を込めてロニャの返事を待ったが……。


「そだね、でも今日は特別!

 みんなで『レンマを歓迎する気持ち』をこめて食べよーってことなの!」


 そう言うとロニャはにっこりと笑った。


 今のやりとりに何の意味があったのか俺にはさっぱり理解できなかったが、今日もいつものように普通に過ごせばいいのだなと理解した。






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