表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/69

9-1 1つで十分でしょ!






 その日の午後、俺はいつものように、商店街の路地で掃除機をウィンウィンと動かしていた。

 リニューアルが成功して商店街の売上が向上しているのはよいが、観光客が増えたことでゴミの量も増えている。


 ふと見ると、コンビニの店頭に設置されたゴミ箱から、今にもゴミがあふれそうになっていることに気がついた。

 近づいて中を確認すると、そこには大量の菓子の袋が詰め込まれていたのだ。


 しかも俺を驚かせたのは、袋だけじゃなく、中身のウエハースまで大量に捨てられていたことだった。


「……もったいないことするなぁ。

 これ、ほとんど手つかずじゃねぇか」


 俺が呆れて呟くと、隣でゴミ拾いを手伝っていたドッツォが、袋の絵柄を見て声を上げた。


「あ、これ『ガジェモンウエハース』だよ!

 今、すごく流行っているんだ」


「なんだそれ?」


「アニメ『ガジェットモンスター』のコレクションカードが封入されたお菓子だよ。

 みんなカードが欲しくて、これを取り合っているんだ。

 でも……こんなに捨てるなんてひどいよ」


 ドッツォが悲しげに眉を下げたとき、背後から不意に声をかけられた。


「おや、清掃員の方。

 これも、処分をお願いできますか?

 そちらのゴミ箱がいっぱいになってしまったのでね」


 振り返ると、そこには奇妙な格好をしたグレーネ人の男が立っていた。

 目に刺さるような鮮やかな青いアロハシャツに、これまた派手な赤い短パン。

 グレーネ人特有の灰色の皮膚には、お世辞にも似合っているとは言えない。


 その男が差し出したビニール袋の中には、やはり手つかずのウエハースがぎっしりと詰まっていた。


「……アンタ、なぜこれを捨てるんだ?

 口に合わなかったのか?」


 俺が問い詰めると、グレーネ人は不思議そうに首を傾げた。


「いえ。

 中のカードが欲しかったのですが、菓子には興味がありませんので。

 食べきれないものを持ち歩くのは非効率的でしょう?」


「だ、だとしても、捨てることはないだろ!

 食べ物をなんだと思ってるんだ」


「困りましたね。

 私が正当な対価を払って購入したものですから、どうしようと私の自由であり、非難される覚えはありませんけどね。

 ……もし欲しければ、それ、食べていただいて結構ですよ?」


 グレーネ人は悪びれる様子もなく、袋を俺に押し付けてきた。

 他人が開封したものを食べるのは、正直、衛生的に抵抗がある。

 しかし、これは日本製の菓子。

 絶対に美味いやつだ。


 開けたばかりのようだし、このまま捨ててしまうなんて、この菓子を作ってくれたメーカーや、その材料を作ってくれたすべての人々に対して申し訳が立たない。


 そう!

 これを食べることは俺の義務なのだ!

 ――と俺は自分の心に言い聞かせた。


「……ああ、食ってやるよ!

 もったいないからな!」


 俺が袋を奪い取ると、グレーネ人はまじまじと俺の顔を覗き込んできた。


「……もしや、お金にお困りなのですか?」


 う……。

 どうやら菓子の袋を見て葛藤している俺の姿は、ものすごく貧乏くさい光景だったようだ。

 貧乏なのは確かだが、俺にも多少のプライドはある。


「まぁ、困っているわけではないが、余裕があるわけでもないね」


 俺が平静を装って答えると、男のアーモンド型の目がわずかに細められた。


「そうですか。

 よろしければ、お2人で簡単なアルバイトをしてみませんか?」


 バイト……お金が儲かる?


 俺の心臓がわずかに跳ねた。

 だが、ここで食い気味に反応してはさらに足元を見られてしまう。

 俺は努めて冷静な声を出す。


「……俺は正規雇用の清掃員だから、バイトなんて必要はないんだがな。

 いちおう、話くらいは聞いてやってもいいぞ。

 どんな内容なんだ?」


「とても簡単です。

 明日の朝、フィギュアショップの開店前からお2人で行列に並び、それぞれ新商品を購入していただくだけです。

 そのあと、購入価格の110%で私が引き取らせていただきます」


 その言葉を聞いた瞬間、ドッツォが勢いよく身を乗り出した。


「ズルい!

 それって明日発売される『イセハナ』の限定フィギュアのことだよね?

 1人1つしか買えないルールだよ!」


「いえいえ。

 何の問題もありませんよ、坊や。

 あくまで買うのはあなたたちお2人。

 そのあとで私が少し高く買い取らせていただく、というだけですから。

 ルール違反ではありません」


 男は涼しい顔でさらっと言い放つ。


「でもダメだよ!

 だいたい、なんで2つも必要なの?

 1つで十分でしょ!」


「ちゃんと理由がありますよ。

 開封用と、保管用です。

 一度開封してしまったら少なからず傷んでしまいますから、保管用も必要なのです。

 こんなことは、コレクターなら常識ですよ?」


 あたかも当然の真理であるかのように返答され、ドッツォは言葉を詰まらせた。


「もし気が変わったらご連絡ください。

 私の名はビンキ。

 商業区のホテルに滞在しておりますので」


 それだけ言い残すと、ビンキは手に入れたばかりのカードの束を大切そうに抱え、優雅な足取りで去っていった。


 その後ろ姿を見送りながら、ドッツォは苦々しい表情を浮かべていた。


「……僕、あの人のこと知っているよ。

 こないだコンビニでクジ引きが発売されて、みんなが楽しみに並んでいたのに。

 あの人、全部1人で買い占めちゃったんだ」


「マジか?

 それじゃクジの意味がねぇじゃねぇか」


「買い占めは禁止されていないけど、後ろには子供たちも並んでたんだよ。

 ひどすぎるよ!」


「鬼畜だな。

 人の心があるとは思えん」


 俺は溜息をつき、袋からウエハースを取り出した。


「……食うか、ドッツォ」


 俺はドッツォに1つ渡し、自分もバリンと豪快に噛み砕いた。


「……美味い!」


 サクサクの軽い歯ごたえと、口の中に広がるチョコレートの甘さ。

 とうていゴミとは思えないほど、それは真っ当に美味い菓子だった。

 やはり、日本の菓子は世界一!

 いや、もしかしたら宇宙一かもしれない。

 そんな気さえしてくるほど美味かった。


「うん。

 ちょっと薄味だけど、美味しいね!

 こんなに美味しいものを捨てるなんて、信じられないよ……」


「ああ。許せんな」


「これ、ロニャ姉ちゃんとアリチェ姉ちゃんにも分けてあげようね。

 きっと喜ぶよ」


「そうだな。

 いっぱいあるしな」


 俺とドッツォは、自分たちには逆立ちしても真似できない金持ちの散財行為に、何とも言えない釈然としない思いを抱えながら、それでも目の前の美味しいウエハースをバリンバリンと無我夢中で食べ続けるのだった。





=== 異星人 ===


【グレーネ人】

 小柄で灰色の肌。アーモンド型の大きな目。いわゆるリトルグレー。知能が高くプライドも高い。アニメを小難しく論じるが、美少女アニメが好き。


=== 作中に登場する架空の作品について ===


異世界花嫁無双イセハナ

 婚約指輪が結ぶ、五人の花嫁候補と世界の命運。剣と魔法の世界に転移した大学生が、世界を救うために運命の伴侶を探す。


『ガジェットモンスター(ガジェモン)』

 文房具などの道具の能力を持ったモンスターを戦わせるバトル系アニメ。腰のベルト(ガジェモンベルト)に宿らせたガジェモンを召喚ポーズをとることで呼び出すことができる。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ