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8-3 美少女フィギュアなんて扱ってまへんで!






 ピピピピ……。


 ノンメ検閲官の片目を覆う大型ゴーグルが、赤く点滅しながら電子音を立てた。


「不適切センサーに反応あり。

 値は28……調べてみる必要がありますね」


「は?

 何それ、『不適切センサー』って!?

 ウケるんだけど!」


 ロニャが茶化すように聞くが、ノンメは事務的に答える。


「このゴーグルは不適切の疑いがあるものに反応します。

 不適切度28という値はさほど大きくありませんが、念のため確認が必要です」


 俺はゴーグルをつけているポータリアンを見たのは初めてだったが、どうやらこれは検閲官の特別装備だったらしい。

 ノンメはゴーグルの誘導に従って、スタスタと歩き出した。

 その先にあったのは、フィギュア専門店『オレンジサブウェイ』だ。


 あの店は露出度の高い美少女フィギュアを扱っているが、マルビンが昨夜のうちにどこかへ隠しているはずだ。

 大丈夫だとは思いつつ、俺の心に一抹の不安がよぎる。


「いらっしゃい!

 毎度!

 いやぁ、これはこれは、えらいベッピンさんですなぁ!

 しかも上品な服着てはるわぁ。

 さぞやエエとこのお嬢様なんでっしゃろなぁ。

 こんなむさ苦しい店に来てもろて、ホンマ恐縮でございますわ!」


 ノンメの来訪に気づいたマルビンは、揉み手をしながら、あからさまなお世辞を並べ立てた。

 額には大粒の汗が浮かんでいる。

 だが、ノンメ検閲官は表情ひとつ変えず、厳しい眼光で店内をチェックし始めた。


「店主。

 なぜ、この棚には商品が何も置かれていないのですか?」


 彼女が指差したのは、店の一番目立つ場所にあるメインの陳列棚だった。


 いつもなら『異世界花嫁無双イセハナ』の美少女フィギュアが山積みになっている場所だが、今は完全に空っぽだ。

 マルビンが慌てて撤去したせいで、その空間だけがやたらと不自然に目立ってしまっている。


 マルビンの目が泳ぎ始めた。

 あからさまに挙動不審だ。


「あぁ、これでっか。

 ここにあった商品はえらい人気でしてなぁ。

 ハハハ、全部売り切れてしまいましたわ!」


「ほう。

 それはどんな商品だったのですか?」


 ノンメ検閲官がそう聞き返したのは、もちろんその商品に興味があるからではない。

 何か隠し事があるのではないかと疑っているのだ。


「ろ、ロボットのフィギュアでんがな!

 うちは硬派な店でっさかい、エロチックな美少女フィギュアなんて扱ってまへんで!

 決して!」


 マルビンは疑いを晴らそうとするあまり、聞かれてもいないことまでペラペラと喋ってしまった。

 墓穴を掘っていることに気づいていない。


「……美少女フィギュアですと?」


 ノンメ検閲官のアーモンド型の目がきらりと光った。


「いえいえ!

 扱ってまへんがな、もちろん!

 うちは健全をモットーとしてまっさかいにな!」


 ノンメは疑わしそうに、周囲を見回し始めた。

 そして、何かに気づいた様子で足を止める。


「ここに『異世界花嫁無双』と書かれてますが、それがその商品の名称ですか?」


 ノンメ検閲官が指差したのは、空っぽの棚の隅に置き忘れられていた小さな卓上広告《POP》だった。

 マルビンの顔から、ダラダラと冷や汗が流れ落ちる。

 フィギュア本体は隠したが、広告を片付け忘れていたのだ。


「あ、それは……番組名でんがな!

 そういうアニメに登場する、無骨なロボットなんですよ!」


 マルビンが苦し紛れの嘘をついたが、ロボットと聞いてロボット好きのドッツォが黙っているはずがない。


「えぇっ!?

 イセハナにもロボットが登場するの!?

 僕、知らなかったよ!」


 案の定、すごい食いつきだ。


「どんなロボット?

 ヴォルラックより強い?

 ねぇ、レンマ兄ちゃん、知ってる?」


 ドッツォは目をキラキラと輝かせ、嬉しそうに俺の顔を見上げた。

 だが……。


(すまん、ドッツォ……)


 俺は心を鬼にして目を背けるしかなかった。

 今、ドッツォに何かを聞かれたら、嘘をつくしかないからだ。


 だが、そのとき――。


「……このフィギュアは、何ですか?」


 幸いなことにノンメ検閲官の関心は、別の商品へと移った。

 俺は重圧から解放され、ほっとため息をついたが、それは束の間の安堵に過ぎなかった。

 彼女が指をさしている商品を見たとき、背筋に冷気が走ったのだ。


 それはグレーネ人のフィギュアだった。


 リアルなデザインであれば、問題は無かったかもしれない。

 しかしそれは、あろうことか、ギャグアニメ『ぽーぽっぽポータリアン』のキャラクター商品だったのだ。

 頭部が異常に大きくデフォルメされており、口はアホみたいにだらしなく開けっ放しになっている。

 上着はグレーネ人の民族衣装を模しているが、下半身は裸だ。


(マルビンのばかやろう! これは絶対隠さなきゃ駄目なやつだろ!)


 マルビンも自分の過ちに気づいたらしく、顔面が蒼白になっている。


 ノンメ検閲官はフィギュアを持ち上げ、しげしげと観察している。


「まさかとは思いますが……。

 これはもしや、我が種族の姿を、皮肉を込めて揶揄した商品ですか?」


「あ、あの、その……」


 ノンメ検閲官の鋭い眼光に撃ち抜かれ、マルビンはしどろもどろになってしまった。

 もはやオレンジサブウェイの営業停止処分は確定か……。

 俺がそう確信したとき――。


 ロニャが突然叫んだ。


「これアレじゃん、『リトルグレイ』のフィギュアでしょ!

 だよね!?」


「へ?」


 マルビンは何のことかわからずに聞き返したが、ロニャは構わず畳み掛ける。


「昔さー、アメリカのロズウェルってとこで見つかったっていう謎の生物だよね!

 そのあとエリア51?だっけ、空軍の基地に捕まってたとか、ヤバくなーい?」


「そ、そうです、そうです!

 思い出しましたわ、これは『リトルグレイ』でしたわ!」


 マルビンも必死で話を合わせる。


「リトルグレイ?

 聞いたことがありませんが……」


「いわゆる陰謀論とかオカルト系のヤツだから!

 実際はいないっぽいんだけど、なんか地球じゃこのキャラ超人気なんだよねー。

 イミフすぎ!」


「しかし、この肌の色といい、目の形といい、グレーネ人の特徴に一致していると考えられますが……」


「えーっ、ガチで似てなくない!?

 ぜんっぜん別物だし!

 マジ一緒にしないでって感じ!」


 ロニャはノンメがたじろぐほど、大げさに驚いてみせた。


「だってさー、グレーネ人はもっと超賢そうだしぃ、目とかキラッキラで綺麗すぎだしぃ、肌とかマジつやっつやでヤバいじゃん!?

 それに比べてこのリトルグレイ見てよ、アホ面すぎだし、てか頭デカすぎでしょ!

 ウケる!

 ねー、そうでしょ!?」


 ロニャが同意を求めると、マルビンも大きく頷いた。


「そ、そうでんな!

 このアホみたいな顔のフィギュアが、高貴なグレーネ人の皆様に似てるやなんて、ノンメはん、冗談にもほどがおまっせ!」


 そういうとロニャとマルビンは「あははは」と、わざとらしい大声で笑いあった。


 ここまで自国の種族を(表面的には)褒め称えられ、商品を貶されては、ノンメ検閲官としても疑いを撤回せざるを得ない。


「……なるほど。

 私の認識違いだったようです。

 失礼しました」


 ノンメ検閲官はそう言うと、踵を返した。


「それでは、別の店を回りましょう」


「はい、ってことで次!

 次の店いっちゃおー!

 レッツらゴー!」


 ロニャはここぞとばかりに叫び、俺達は早々に『オレンジサブウェイ』を後にした。


 結果的にはロニャの機転による勝利だったが、ノンメ検閲官がリトルグレイを知らなかったことは不幸中の幸いだった。


 なぜなら最近の研究によると、1947年にロズウェルに墜落したのは、グレーネ人の宇宙船だったという説が有力だからだ。






=== 作中に登場する架空の作品について ===


『重星覇装ヴォルラック』

 地球征服を企む宇宙帝国ザルグラードと戦う巨大ロボットの物語。ザルグラードの皇子が、地球を守るために兄が率いる母星の帝国と戦う。


異世界花嫁無双イセハナ

 婚約指輪が結ぶ、五人の花嫁候補と世界の命運。剣と魔法の世界に転移した大学生が、世界を救うために運命の伴侶を探す。


『ぽーぽっぽポータリアン』

 最近流行している「ポータリアン系ギャグアニメ」の代表作。地球人の前では知的に振る舞っているポータリアンが実はアホだった!?


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