7-6 私がお守りいたします!
「うん、美味しいよ!」
ドッツォは満足そうにスプーンを動かしている。
結局、ケチャップの海に沈んだオムライスは、ドッツォが食べることになった。
彼によると「大好きなレオンが描かれたオムライスには手をつけたくない」とのことだったし、そもそもボサッコ人は味覚が強烈なので、濃い味のほうが好みなのだ。
ピンポンパンポ~ン♪
俺達が食事を終えようとしたとき、店内にアップテンポのBGMとアナウンスが流れた。
『ご主人様、お嬢様、お待たせいたしました!
これより、お屋敷自慢のスペシャル・ライブステージを始めちゃいますっ♪
本日の主役は、キラキラ笑顔がとっても素敵なシャルロットちゃんでぇす!』
見ると、店の奥にはライブパフォーマンス用のステージが用意されていた。
そう言えば、アンテラ人の歌唱やダンスは非常にレベルが高いと聞いたことがある。
この店に来てから何かと気苦労が絶えなかったが、このイベントは期待できそうだ。
店内の照明が暗くなっていくにつれて、俺の気分も次第に高まっていった。
『ステージ中の写真・動画撮影は、魔法の力が乱れちゃうので禁止となっております♡
その代わりに、全力の応援で盛り上がってくださいね!』
俺が期待を込めて見守っていると、ステージの左手にパアッとスポットライトが当たった。
そこに現れたのは――。
真っ黒なスーツにソフト帽を目深に被った男!?
しかも、その手には殺傷能力の高そうなマシンガンが握られている。
「俺は暗殺者ギルドの者だ!
お前らを皆殺しにしてやる!
覚悟しろ!」
その声を聞いて、俺は椅子から転げ落ちそうになった。
聞き覚えのある女性の声!
帽子のつばに隠れていた顔を良く見れば、男じゃない。
ロニャだ!
「ロニャ!?
お前、こんなとこで何してんだ!?」
驚愕する俺を無視して、ロニャは「問答無用!」と叫ぶと店内にマシンガンを乱射し始めた。
ダダダダダッ!!
ステージ上の花瓶が割れ、壁の額縁が粉々に砕け散る。
耳をつんざく凄まじい破壊音だ。
ドッツォは「きゃあっ」と悲鳴を上げてカウチに潜り込む。
――そのとき。
「ご主人様は、私がお守りいたします!」
凛々しい声とともにステージ中央に躍り出たのは1人のメイド。
シャルロットだ!
さっきまでのビビリまくっていた小心者キャラとは、もはや別人だ。
足を大きく開き、ロニャの前に堂々と立ちはだかっている。
「ご主人様にお仕えする戦闘メイド部隊の特攻隊長シャルロット!
愛しきご主人様に危害を及ぼしたこと、決して許しませんわ!」
ロニャを睨みつけながら啖呵を切るシャルロット。
「何をほざくか、メイドごときが!
喰らえ!」
殺し屋のロニャがマシンガンを掃射するが、シャルロットは華麗に身をひるがえして回避すると、スカートの裾を捲り上げた。
そこから取り出したのは、太い鎖につながれた棘付きの巨大な鉄球――モーニングスターだ!
シャルロットは驚くべき速度で鉄球を振り回すと、ロニャに向けて一気に放った。
ガシャァァァンッ!!
ロニャが辛うじて避けた背後の壁に、鉄球がめり込み、深い亀裂が走った。
あまりにも常軌を逸した状況。
いくらなんでもこんなことが起きるはずがない。
少し冷静になってステージを見ると、破壊された花瓶や額縁が、あらかじめ壊れるように細工されたギミックであることに気がついた。
これは現実じゃない。
ライブステージという名の『寸劇』なのだ。
誰がシナリオを考えたのかは知らないが、そいつはメイドという職業を完全に誤解している。
恐らく、参考にしようとして見たアニメが間違いだったのだろう。
アニメに登場するメイドのうち、ほとんどは戦闘マシンとして描かれているのだから。
俺は呆れて溜め息をついたが、その間も寸劇は続いている。
「ちぃいっ、小癪な!」
暗殺者はカウチの後ろに回り込み、再びマシンガンを連射する。
「死になさい。不燃ゴミめ!」
シャルロットはスカートの下からもう1つのモーニングスターを取り出すと、全身をバネのように使って、左右から2つの鉄球を交互に打ち込んだ。
かろうじて1つめの鉄球を避けたロニャだったが、その着地地点に2つめの鉄球が容赦なく襲いかかる。
「ぎゃぁあああっ!!」
断末魔の叫びとともに、暗殺者は血飛沫を上げながらその場に崩れ落ちた。
「ふ。
ご主人様に手を出そうなんざ、1万年早いわ。
消しカスが!」
シャルロットが冷酷な笑みを浮かべて捨て台詞を吐くと、店内の照明がパッと明るくなり、勇ましいBGMが流れ出した。
『皆様、温かい応援、本当にありがとうございましたっ!
シャルロットちゃんのステージ、とっても素敵でしたよね♪
ご主人様のたくさんの応援のおかげで、お屋敷にたっぷりの萌えパワーが溜まりました♡』
シャルロットは鉄球を背後に隠すと、ステージ中央で「てへっ☆」と可愛らしくメイドポーズをとった。
***
「ね、ね、どうだった?
迫真の演技だったでしょ!」
俺達が座っているカウチに、死んだはずのロニャがやってきた。
黒いスーツには血のり(トマトケチャップ)がべっとりとついている。
「……なぁ、お前ら。
メイドのこと、人間兵器だとでも思ってんのか?」
「え? 違うの?」
ロニャは、不思議そうに首をかしげた。
その表情を見たとき、俺にはなんとなく察しがついた。
こいつだな……台本を書いたのは。
--- エピソード7 完 ---




