7-5 どうかお許しくださいぃ
しばらく待っていると、厨房のほうからシャルロットが2つのトレイを運んできた。
トレイに乗っているのは、黄金色の卵が眩しいオムライスだ。
テーブルにトレイを置く彼女の手は、プルプルと目に見えて震えている。
緊張が引くどころか、ますます高まっているようだ。
彼女の手には、真っ赤なケチャップの容器が握られていた。
「お待たせいたしました。
それでは、このオムライスに『お絵かき』をさせていただきますわ。
どんな絵がお好みですか、ご主人様?」
シャルロットは潤んだ瞳で俺達を見た。
「はい!
レオンの絵を描いて!」
ドッツォが食い気味に叫ぶと、シャルロットの表情が、一瞬で凍りついた。
「え……レ、オン……?」
「レオン・ザルフリードだよ!
ヴォルラックの主人公の!
ほら、このアニメ!」
ドッツォは自分が着ているTシャツに描かれたロゴを誇らしげに指差した。
「え……あの……その」
シャルロットは顔面蒼白でしどろもどろになった挙げ句、「ど、どんな絵がよろしいですか……?」と同じセリフを繰り返し始めた。
きっと『重星覇装ヴォルラック』を知らないのだろう。
無理もない。
大昔の作品だし、巨大ロボットが戦う男の子向けのアニメだ。
俺はさすがにシャルロットが不憫になり、そっと手を挙げた。
「俺のほうを先に頼む。
俺は、きみに任せるよ。
きみが一番好きなものを描いてくれ」
その言葉を聞いた瞬間、シャルロットの顔にぱぁっと光が差した。
「あ、ありがとうございます……!
それでは、ハートマークを描かせていただきますね!」
(いきなり難度が下がったな)とツッコミたくなるが、ぐっと我慢する。
彼女は満面の笑顔になると、ケチャップの容器をぎゅっと握る。
だが、安堵と緊張が混ざり合ったためだろうか、指先に過剰な力が入ってしまったらしく――。
ブチュゥゥッ!!
凄まじい音とともに、容器から大量のケチャップが噴出した。
「……あ、あぁ……。
ご、ご主人様、ど、どうかお許しくださいぃ……」
最悪の失敗をしてしまったシャルロットは、ガクガクと膝を震わせ、今にも失神しそうなほど蒼白になっている。
「だ、大丈夫、大丈夫。
こんなに大きなハートを描いてくれて嬉しいよ。
ありがとうな」
俺は慌ててフォローを入れたが、ケチャップの海に沈んで黄色い部分が見えなくなったオムライスを見て、苦笑いするしかなかった。
スプーンでケチャップを除ければ、食えないことはないだろう……たぶん。
「次は僕だね!
レオンの絵をお願い!」
ドッツォはまだ諦めていなかった。
だが、シャルロットの精神状態はすでに限界だ。
これ以上彼女を追い詰めるのは、人道的に問題がある。
「俺もやってみたいな。
やらせてもらってもいいか?」
俺が提案すると、シャルロットは救われたような表情をしてコクコクと頷くと、ケチャップを手渡してくれた。
アンテラ人の彼女とは違い、俺は子供の頃からケチャップの容器には慣れ親しんでいる。
絵心は無くても、適度な力加減には自信がある。
俺はドッツォのオムライスに向き合うと、レオンの頭部だけを大雑把に描いていく。
ファイヤーカットと呼ばれる逆立った髪型を描くだけで、それらしく見えるはずだ。
「……す、凄い!」
俺の落書きを見た瞬間、シャルロットは目を見開いた。
ドッツォも「わーい! レオンだーっ」と飛び上がって喜んでいる。
「な、なんて美しいのかしら!
赤と黄色のコントラスト、そして艶やかさと柔らかさのハーモニー……」
シャルロットは感激のあまり、ポロポロと涙を流し始めた。
「ご、ご主人様、こちら、写真を撮らせていただいてもよろしいですか!?」
シャルロットはスカートのポケットからインスタントカメラを取り出した。
本来は、客とのツーショット撮影に使うやつだ。
「あ、ああ。別にいいけど……」
「あ、ありがとうございます!」
よほど気に入ったのだろう。
シャルロットは興奮気味に、いろいろな角度からバシャバシャとオムライスの写真を撮り始めた。
美味そうな料理を前にしてさすがに腹が減ってきたが、しばらくは食えそうにない。
撮影に夢中なシャルロットを見ながら、俺はぼーっと考えていた。
何のために、この店に来たんだっけ……と。
=== 重星覇装ヴォルラック・登場人物 ===
【レオン・ザルフリード】
主人公。17歳。男性。ファイヤーカットと呼ばれる炎のような髪型。ザルグラード王家の第三皇子だが、地球を守るために戦う。




