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7-3 よく爆買いできるな……






「あっ、ヴォルラックだ!」


 ドッツォは突然、歓喜の声をあげると駆け出した。

 

 彼の体が勢いよく吸い込まれていった先にあるのは、看板に『オレンジサブウェイ』と書かれたフィギュアの専門店。


 ツキハバラはグランドオープン当日ということもあってどの店も客の数は倍増していたが、この店は特に人気が高いようで、ポータリアンの観光客が押し寄せていた。

 店の前に張り出すように並べられた棚には、アニメのキャラクターフィギュアが積み上げられており、ボサッコ人やアンテラ人が食い入るような視線を送っている。


「いやぁ! レンマはん! いらっしゃい!」


 レジの奥から、いつになく派手な金ピカのジャケットに身を包んだマルビンが、揉み手をしながら現れた。

 目が回るほど忙しそうだが、その表情は見たことがないほどのホクホク顔だ。


「オモチャ屋からフィギュア専門店に鞍替えしたのか?」


「いえいえ。

 玩具店も引き続き営業しとりまっせ。

 業務拡大ってやつですわ」


「へぇ。

 大盛況みたいだな」


「おかげさまで笑いが止まりまへんわ。

 開店して1時間も経ってへんのに、棚の商品は飛ぶように売れてまっせ!」


 俺がふと商品棚に目を向けると、そこには不自然なほどに大きな空間があいていた。


「客のお目当てはイセハナか……。

 ちょっと意外な結果だったな」


「は?

 イセハナ?

 何でっしゃろ、それ」


 マルビンはきょとんとしている。


「……異世界花嫁無双だよ。

 略してイセハナ。

 この前、説明しただろ?」


「あぁ!

 あの女の子がいっぱい描いてあるやつでんな!

 左様でっか、そういう名前なんですな。

 いやぁ、ようわからんけど、この商品はホンマに『引き』が強おますわ」


 相変わらず、この男はアニメの中身を全く理解せずに、ただの『儲かる商品』として扱っているようだ。

 そんな奴がアニメブームに便乗して大儲けしていると思うと、オタクの片割れとしてどうにも癪に障る。


 いっぽうドッツォはひとつのガラスケースの前に釘付けになっていた。

 彼が見つめているのは、重厚なメタリック塗装が施された「ヴォルラック」の400分の1スケール・アクションフィギュアだった。

 パッケージは大きいが、中のフィギュアは高さ15センチほど。

 ヴォルラックの設定では全高62メートルとされているので、400分の1だとこのぐらいのサイズになるのだ。


「ドッツォ、買うのか?」


「……欲しいけど、無理だよ。

 めちゃくちゃ高いもん」


 ドッツォが寂しそうに笑う。

 俺はケースに貼られた値札を覗き込み、心臓が跳ね上がるのを感じた。


「ごっ、5000セル!?」


 1セルを日本円で100円程度と計算すれば、およそ50万円相当だ。

 地球からの輸送コストやら保険料やらでいろいろかかるのはわかるが、それにしても……。


「こんな高いもん、よく爆買いできるな……」


 複雑な心境で店のレジに並ぶ異星人たちを見たとき、俺はさらなる驚きに直面した。


「……おいおい、グレーネ人まで並んでるのかよ」


 アニメに熱狂するボサッコ人や、キャラを愛でるアンテラ人なら今さら驚かない。

 だが、《《あの》》グレーネ人が、フィギュアの箱を抱えてレジの行列に並んでいたのだ。

 歴史ある文化を愛し、最古の種族としてプライドの高いグレーネ人が、アニメのフィギュアを買うようになったとは、実に感慨深い。


「あ、バンシリだ!」


 ドッツォが声を上げた。


「バンシリ?」


「うん。

 友達だよ。

 ほら、僕がアニメを紹介した子」


「あぁ。

 ぽーぽっぽポータリアンの……」


「そうそう」


 正直、俺にはグレーネ人をパッと見で区別することができない。

 グレーネ人は頭髪が無いし、肌の色も一様にグレー。

 表情も乏しいし、個人を特定するには服装を手がかりにするしかない。

 ところがグレーネ人は自分たちの文化を重んじる種族であり、服装もトラディショナルで、同じように見えてしまう。

 バンシリと呼ばれた少年も、刺繍が施された布に銀色のスパンコールが散りばめられたような民族衣装を着ていた。


「おーい、バンシリーッ!」


「あっ……」


 ドッツォが声を掛けながら近づくと、バンシリは振り向いて小さな声を上げた。

 そして両手に抱えていたフィギュアのパッケージを後ろに隠してしまった。

 明らかに動揺している。


「や、やぁ、ドッツォ」


「フィギュア買うんだね!

 何を買うの?

 見せて、見せて!」


 ドッツォは身を乗り出してバンシリが隠している箱を見ようとする。

 グレーネ人の表情を読み取ることが苦手な俺でさえ、彼が嫌がっていることはわかるのだが、ボサッコ人のドッツォには伝わらない。


「か、買わないよ。

 ちょっと見てただけ」


「え、でも並んでたよね……」


「そ、そんなふうに見えちゃった?

 ちゃんと戻しとくね。

 それじゃ、またね!」


 そういうとバンシリはフィギュアのパッケージを棚に戻すと、たたたっと逃げるように店を出て行ってしまった。

 彼が持っていたパッケージを見ると、『異世界花嫁無双』に登場するリリアンヌの、ちょっとエッチなイラストが描かれている。

 いわゆる美少女フィギュアってやつだ。


「へんなの~」


 ドッツォは何がなんだかわからないという様子だったが、俺は自分の思春期を思い出して、ちょっとほろ苦い気分を味わっていた。






=== 登場人物 ===


【マルビン・ドラックス】

 30歳。男性。ドイツ人。玩具店、フィギュア店の店長。でっぷりとした体型。金儲けに徹している根っからの商売人。


【バンシリ】

 14歳。男性。グレーネ人。ドッツォの影響でアニメファンになったが極度の恥ずかしがり屋。


=== 用語解説 ===


【セル】

 月面基地で使用されている通貨単位。1セル=約100円。


異世界花嫁無双イセハナ

 婚約指輪が結ぶ、五人の花嫁候補と世界の命運。剣と魔法の世界に転移した大学生が、世界を救うために運命の伴侶を探す。


【ぽーぽっぽポータリアン】

 最近流行している「ポータリアン系ギャグアニメ」の代表作。地球人の前では知的に振る舞っているポータリアンが実はアホだった!?



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