7-1 新しい歴史が始まるんだ!
「レンマ兄ちゃん! 起きて! 早く出かけよう!」
朝、目を開けると、ドッツォがベッドに上がり込み、俺の顔を覗き込んでいた。
顔の両側から伸びている毛がユサユサと上下に揺れているのは、ボサッコ人の気分が高揚している証拠だ。
「……なんだよ、ドッツォ。
今日はオフだろ。
好きなだけ寝かせてくれよ……」
俺は重い瞼をこすりながら、這い出すようにして上体を起こした。
だが、ドッツォは俺の拒絶など意に介さず、ベッドの上を元気に跳ね回っている。
「何言ってんの!
今日はツキハバラ商店街のグランドオープンだよ!
リューンシャンゼリゼが生まれ変わって、新しい歴史が始まるんだ!
乗るしかないでしょ、このビッグウェーブにっ!」
「ツキハバラ……。
あぁ、そうだったな」
1週間ほど前、あのロニャが強引に経営コンサルタントとして君臨し、商店街の抜本的な改革をぶち上げた。
全面的に改装することになって休業していた商店街が、今日、新しい名称とともにリニューアルオープンする予定なのだ。
俺も仕入れる商品の選定などで個別の協力要請には応じたが、全体像は把握していない。
果たしてリューンシャンゼリゼがどのように変わったのか、見に行くのも悪くないだろう。
俺は全身の気だるさを根性で振り切るとベッドから降りた。
ついいつもの習慣でライムグリーンの清掃員ユニフォームに手を伸ばすところだったが、今日は休日だ。
俺は私物用の箱から、白い無地のTシャツと紺のGパンを取り出した。
寝間着を脱ぎ、私服に着替えながらドッツォを見ると、彼もいつもとは違う服装をしていた。
白地のTシャツだが、胸にはデカデカとアニメのキャラクターとロゴマークが描かれている。
ロボットアニメ『重星覇装ヴォルラック』だ。
「えへへ、気づいた?
これ、今日のために用意した、とっておきのシャツなんだ!」
「お、おぅ……。
すげーじゃん」
「かっこいいでしょ!
数量限定だったから、予約開始と同時に申し込んだんだ!
ぎりぎりだったけど、届いてよかったよ!」
俺はウンウンと頷いたが、心の中では妙な感慨に耽っていた。
たいていの日本人だったら、大人がこんなオタク丸出しの服を外で着ることは、恥ずかしくて躊躇してしまうだろう。
「いい歳してアニメが好きなんて幼稚。変態。社会不適合者」などとレッテルを貼られてしまうのがオチだからだ。
ところが、同じアニメTシャツでも異星人が着ていると、印象はまったく異なる。
なぜか最先端の流行をいち早く取り入れているファッションリーダーのように見えて、ぜんぜんダサくない。
いや、むしろかっこいいとも思えるのだ。
それがなぜなのかは分からない。
だが、なんとなく理不尽というか、不公平に感じてしまうのだった。
「よし、準備完了だね、レンマ兄ちゃん!
行こう、ツキハバラ商店街へ!」
俺の着替えが終わったことを確認するやいなや、ドッツォは急かすように俺の腕を引っ張った。
もう待ち切れないといった様子だ。
なんだか懐かしい気がする。
幼少期の夏休み、近所の友達と誘い合って神社のお祭りに行ったときの記憶が脳裏にふと蘇った。
=== 登場人物 ===
【レンマ=宮塚練馬】
22歳。男性。日本人。生まれも育ちも秋葉原。高校中退の無職。人よりちょっとゲームが上手い。当然のようにアニメを見てきたので、自分がアニメ好きだという自覚は薄い。
【ドッツォ】
15歳。男性。ボサッコ人。清掃課所属。感情変化が激しく常に本音。アニメにハマっている。
=== 用語解説 ===
【ヴォルラック】
正式タイトルは『重星覇装ヴォルラック』。50年前にヒットした古き良きロボットアニメ。ド直球な熱い物語には今でも根強いファンが多い。




