6-3 戦場のシャンゼリゼ
「どうすんだよ……これ」
目の前に広がる光景を前にして、俺はただ立ち尽くし、途方に暮れることしかできなかった。
商店街に辿り着いたとき、そこはすでに、戦場だったのだ。
<ボサッコ人・男> 我が呼び声に応えよ! シザーゴブリン!
<ボサッコ人・男> 断ち切れ! 断絶の双刃、ディバイド・シザース!
<ボサッコ人・男> クッ……この程度か?
<ボサッコ人・男> シンクロ率上昇! 魂の共鳴、ソウル・レゾナンス!
いたるところでガジェモンベルトをつけたボサッコ人たちが、向かい合って戦っていた。
彼らの頭上には、数メートルはあろうかという巨大なモンスターの空中映像が、禍々しい輝きを放ちながら浮遊していた。
ドッツォが、引き攣った声を上げる。
「シザーゴブリンにクリップバット……それに、インクグリフォンもいる!」
『ガジェットモンスター』に登場するモンスターたちは、どれも身近な道具と生物が融合した形をしている。
両手が鋭利な裁断バサミになっているゴブリン。
巨大なクリップを翼のように羽ばたかせ、超音波を放つコウモリ。
そして、くちばしが巨大な万年筆のペン先になっており、漆黒のインク弾を連射するグリフォン。
そんな奴らが商店街のいたるところで暴れ回っているのだ。
ドーン!
凄まじい衝撃音とともに、店頭の陳列棚が無残になぎ倒された。
モンスターたちが互いに巨大な拳を振るい、口から火炎や電撃を吐き出すたびに、周囲に物理的な衝撃波が吹き荒れる。
看板は宙を舞い、露店の屋根は吹き飛んでいた。
「キャアアア!」
ポータリアンの観光客たちが悲鳴を上げ、這々の体で逃げ惑っている。
だが、騒動の張本人であるボサッコ人たちは、周囲の惨状など目に入っていないようだ。
彼らはただ、目の前のバトルに全神経を集中させ、両手でポージングしながら、ガジェモンへ伝えるコマンドを叫び続けている。
「今すぐバトルを中断しろ! 命令だ!」
保安部のアレシオがボサッコ人の耳元で怒鳴り散らしている。
麻痺銃を構えて威嚇しても、ボサッコ人たちにはまったく伝わらない。
それどころか、モンスターが生み出す衝撃波に飛ばされないよう、踏ん張るのがやっとという状態だ。
「レンマ、ドッちょ!
遅いよ~!」
先に到着していたロニャが駆け寄ってきた。
いつもなら自ら危険に飛び込む彼女だが、さすがに成すすべも無いらしい。
「ドッちょ、どうすればこいつらを止められるの?
あんたと同じ種族でしょ、なんとか言ってやってよ!」
しかし、ドッツォは絶望したように首を振った。
「ごめんなさい。
たぶん……無理」
「……そんな」
「昨日の夜、ガジェモンの劇場版が放送されたから、友達みんなで集まって見たんだけど、バトルが熱くて、めちゃくちゃ面白くて、みんなで大熱狂したんだ。
ボサッコ人は、一度あの熱狂に『没入』しちゃったら、興奮が収まるまで……たぶん、誰にも止められないよ」
俺も、その劇場版『ガジェットモンスター』なら観たことがある。
伝説のチャンピオンへの挑戦権を賭けて、世界中から集まった『ガジェモンサモナー』たちが、命懸けのバトルを繰り広げるという熱い内容だ。
地球の子供たちさえ尋常じゃないほど熱狂した映画だ。
ただでさえ感受性の強いボサッコ人が過度な影響を受けたとしても不思議ではない。
――そのとき、商店街の中央で立ち尽くしているボサッコ人に気がついた。
年齢はドッツォより少し年上。
でっぷりとした体格で、本来なら落ち着いた印象を与えるはずのその男は、今にも泣き出しそうな顔で惨状を見つめていた。
「アッシロ!」
ドッツォが叫び、ボサッコ人のもとへ駆け寄る。
その名前には聞き覚えがある。
ドッツォの友達で、ガジェモンベルトを魔改造した張本人だ。
「ドッツォ!
君は無事なのか!?」
アッシロはドッツォの手を握りしめた。
こんな事態になるとは、自分でも想像していなかったのだろう。
全身をガタガタと震わせている。
「うん。
僕はロボットアニメが好きだから、ガジェモンにはあんまりハマらなかったみたいだ」
「そうか……よかった。
だが、私はなんてことをしてしまったんだ……」
「ちょっと、あんたがこのベルトを作ったの?」
ロニャがアッシロに詰め寄る。あまりの剣幕に、アッシロはさらに縮こまった。
「このままじゃ商店街がめちゃくちゃになっちゃうわ!
バトルを停止させる方法は無いの?」
「申し訳ない……。
私はベルトの液晶部分をプロジェクターに改造しただけなんだ。
もともとのオモチャにネットワーク機能なんて無いし、遠隔で止めることなんてできないよ……」
「そんな……。
じゃあ、こいつらが飽きるまで待つしかないっていうの?」
ロニャが絶望したように周囲を見渡す。
その間にも、巨大なインクの弾丸が土産物店の地球儀を直撃し、棚から落下させていた。
「……とっ捕まえるしかねぇな」
俺がつぶやくと、ロニャが怪訝そうな顔でこちらを振り向いた。
「なに言ってんの!
ボサッコ人はああ見えて怪力よ。
ヒョロヒョロのあんたに捕まえることなんてできるわけないでしょ!」
「違う。
ガジェモンを捕まえるってことだ。
敵のガジェモンをバトルで行動不能にすれば捕獲することができる。
ガジェモンをスナッチされたサモナーは、ペナルティとして24時間はプレイできなくなるんだ」
「えっ……それって」
「そう。
ガジェモンバトルを仕掛けて、捕獲しまくれば……騒動を止められるってことだ」
「そんなこと言って、レンマ。
敵のガジェモンを行動不能にするなんて、難しいんでしょ?
あんたにできるの?」
「勝算は……無くもない」
俺はドッツォに向き直り、手を差し出した。
「なぁドッツォ。
俺にそのベルトを使わせてくれないか?」
「うん。いいけど、使いかたわかる?」
「なんとかなるだろ。
そのオモチャはもともと日本製だぜ?」
俺はドッツォから受け取ったベルトを腰に巻いた。
「レンマ、どうする気なの?」
「ドッツォ、悪いが召喚するガジェモンを変更するぞ」
「うん、もちろんいいけど、どのガジェモンを選ぶの?」
見たところ、このガジェモンベルトは初期型だ。
最初に111種類の候補から相棒となるガジェモンを1体だけ選ぶことができる。
俺はドッツォの選んだステープルミミックを削除すると、ダイヤルを回して一番端にあるアイコンを選んだ。
「俺は、『フセンジロ』で行く」
その瞬間、ドッツォの表情が凍りついた。
「フセンジロ……?
レンマ兄ちゃん、本当に……本当にそれでいいの?」
「ドッちょ、そのフセンジロってのはどんなモンスターなのよ?」
ロニャが首をかしげる。
「ウロコが付箋紙になっているアルマジロだよ。
敵にペタペタと付箋紙を貼ることができるガジェモンなんだ……」
「は?
付箋紙を貼る?
……それだけ?」
「うん。
確かに捕獲力は高いけど、攻撃力も防御力もゼロ。
全ガジェモンの中で最弱って言われてるんだ。
対戦で使う人なんて、誰もいないと思ってた……」
「ちょっとレンマ!
どういうつもりよ!
そんなザコで、あの猛獣たちを倒せるわけないじゃん!」
ロニャが俺の肩を掴んで揺さぶる。
だが、俺はニヤリと笑うと、バックルの起動スイッチに指をかけた。
「まぁ、見てなって。
行くぞ、ドッツォ!
準備はいいか?」
「うん!」
「ガジェモンバトル、開始だ!」
=== 登場人物 ===
【アレシオ・ロンバルド】
21歳。男性。アメリカ人。保安部警備課所属。司令官を目指す野心家。日本人もアニメも見下している。
【アッシロ】
18歳。男性。ボサッコ人。星間連盟貿易局のエンジニア。ドッツォのアニメ仲間。改造が好きすぎて自制できない。




