5-8 死刑になっちゃうよぉ!
「ちょっとー!
ここから出しなさいってば~!」
ロニャの大声で目が覚めた。
周囲を見渡すと、そこは殺風景な倉庫のような部屋だった。
ガン! ガン! ガン!
ロニャはドアのノブをガチャガチャと回したり、壁を叩きながら叫んでいる。
ドッツォとアリチェも、朦朧とした様子で座り込んでいるようだ。
少しずつ記憶が蘇ってくる。
そうだ、俺達はグレーネ大使館を訪問していて、いきなり警備ボットに麻痺銃を撃ち込まれたのだ。
「だめね。
ネットも遮断されてる」
アリチェはゴーグルを操作して、外部と連絡をとろうとしていたようだ。
俺も自分のゴーグルを確認してみたが、通信状態を示すアイコンにはしっかりと『✕』印が表示されていた。
ネットがつながらないのでは、助けを呼ぶことさえできない。
俺達は、閉じ込められてしまったのだ。
「うわぁあん!
僕たちもう逃げられないんだ!
死刑になっちゃうよぉ!」
ドッツォが涙をぽろぽろと流しながら泣き始めた。
ロニャはドアを叩くのをやめ、ドッツォに駆け寄ると安心させるように頭を優しくなでた。
「大丈夫、大丈夫!
ちょっと誤解があっただけだし!
事情を説明すれば、すぐ釈放されるって」
「本当?」
「たぶんね!」
相変わらずロニャの強気発言には根拠が薄い。
誤解されただけなのだと信じたいのは俺も同じだが、どうもまだ記憶がはっきりとしない。
確か、アクションフィギュアをポージングしたあと、ドッツォが何か言って、ルンビ大使は倒れたのだ。
「納得いかないわ」
いつも冷静なアリチェが、不満そうな声を漏らした。
「なぜ私まで撃たれる必要があったのかしら?
毒舌で大使を追い詰めたのはドッツォなのに!」
「え?
僕、悪口なんて言ってないよ」
ドッツォはきょとんとしている。
本人には自覚がない様子だが、大使がドッツォの言葉で精神的ダメージを受けたのは確かだ。
しかし無理もない。
ボサッコ人は常に正直な種族であり、相手が誰であれ忖度などしないのだ。
「え、なに言ってんの?
そもそも原因作ったのレンマでしょ」
ロニャはさも当然のように、批判の矛先を俺へと向けた。
「俺なのか!?」
「そうよ。
レンマがフィギュアのポーズ変えなきゃ、こんなことにならなかったじゃん!」
「うっせー!
フィギュアの楽しみかたを教えてやっただけじゃねぇか!
何も批判してないし、否定もしていないぞ!」
俺が食い下がると、今度はアリチェがボソッとつぶやくように言った。
「その『教えてあげる』って上から目線はどうなのかしらね?
相手はコレクションの自慢したいだけなんだから、すごいですねーって褒めておけばいいのに」
「うぐっ……」
「そこよそこ!
あの大使、大げさにあたしらを呼びつけておいて、結局、自慢したかっただけなんだよね!
そのうえ罪の無いあたしまで巻き込むし!
マジむかつく~!」
ロニャの怒りは今度は大使へと向けられた。
腹の虫が収まらないようで、両手の拳を握りしめながらぶんぶんと振り回している。
確かにすべての元凶は誰なのかと言われたら、それは間違いなくルンビ大使だ。
アニメ文化を高く評価してくれていることには感謝もするが、俺達はコレクション自慢のために呼びつけられたわけで、完全に被害者だ。
――そのとき。
ガチャリ
重厚な金属音がして、扉が開いた。
キュキュキュとモーター音を鳴らしながら、1体の警備ボットが入ってくる。
また撃たれるのかもしれない……と俺は思わず身構えた。
「ピッ。
皆さんを解放します」
「え?」
俺達が拍子抜けしていると、ボットの背後から、車椅子に乗ったルンビ大使が現れた。
元気そうだが、車椅子に乗っているということは、多少のダメージはあったのだろう。
「いや、申し訳ない。
私が襲われたものと警備ボットが勘違いしたようで……」
大使の口調は、少し恐縮している様子だった。
どうやら怒っているわけではないようだ。
「疑いが晴れたんならいいんだけど、ちょっと来るのが遅いんじゃない?」
大使の謝罪にもかかわらず、ロニャの怒りはまだ治まらない様子だ。
アリチェも口には出さないが、「私も巻き込まれた」と言いたそうな恨みがましい目で大使を睨んでいる。
「私が気を失っていたため、警備ボットとしても事実確認に時間がかかってしまったようです。
重ねてお詫び申し上げます。
そして恥ずかしながら精神的に動揺してしまいましたが、アクションフィギュアの正しい楽しみかたについて率直に指摘していただいたことには感謝しております」
俺は少し驚いた。
プライドの高いルンビ大使が、わずかとはいえ頭を下げたのは意外だ。
「私はアクションフィギュアの外見しか見ていなかった。
外見だけ見てわかったように錯覚して、真の意味を理解していなかったのです。
おかげで大きな気づきを得ることができました」
大使は俺達に向き直ると、今度は深々と頭を下げた。
初めて会ったときは横柄な態度に辟易としたものだが、俺達のような下っ端に頭を下げることができるとは、なかなかの人物ではないか。
正直グレーネ人はその容姿の不気味さもあって遠い存在に感じていたのだが、俺の中で少し距離が縮まったような気がした。
そんなルンビ大使のもとに、ドッツォが駆け寄った。
「大丈夫、元気出して!
大使といったって普通の人なんだから、間違うことだってあるよ!」
気を落としている大使を励まそうとしているのは分かるが、まるで教師が生徒をなぐさめるような口調になってしまっている。
せっかく立ち直りつつあるルンビ大使の体調がまた悪化してしまわないかと、俺は心配になってきた。
これ以上事を荒立てず、このまま早急に大使館を立ち去るのが賢明だろう。
俺が「じゃ、そういうことで……」と言いかけたとき、背後でアリチェがつぶやいた。
「アニメファンにも謝ったほうがいいですよ」
ピリッ。
ただならぬ雰囲気が走った。
いったい何の話なのかわからず、その場にいた全員がアリチェに注目した。
「ネットの情報によると、1年前の講演会であなた、アニメなんてくだらないって発言してますよね?」
見ると、アリチェのゴーグルにブラウザの画面が表示されている。
彼女は大使に関する情報をネットで検索していたのだ。
「ポータリアンのアニメファンは、あの発言に対してすごく怒ってるらしいですよ。
自分たちが好きなものを否定されたって」
「う……」
アリチェの指摘を受けて、ルンビ大使は言葉を失っていた。
恐らく本人にも心当たりがあったのだろう。
「以前はアニメをバカにしていたくせに、今はアニメグッズをコレクションしてるなんて知られたら、間違いなく炎上するでしょう。
それが本国にも伝わって、大使の評判は地に落ちるでしょうね。
大事になる前に、誠実に謝罪するのがいちばんです」
「う……うぅ……」
ルンビ大使は大きく身をのけぞらせると、「ヒッ、ヒッ、フー……」と大きな音を立てて息をし始めた。
まずい、過呼吸の兆候だ!
「それじゃ、
俺達、このあと予定があるんで!」
もちろん予定などはなかったが、俺はアリチェの腕をつかむと足早にその部屋から逃げ出した。
--- エピソード5 完 ---




