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5-5 すでにバレてる!



「僕、グレーネ人の友達にもアニメを勧めたけど、楽しんでくれたよ!」


 ドッツォ!

 それ、言っちゃうのか!?

 俺は焦ったが、ドッツォはなんとしてもアニメの良さを大使に理解してほしいらしく食い下がっていた。


「その件は聞いています。

 なんでも、かなり過激な内容だったそうですね」


 すでにバレてる!


 俺はルンビ大使の情報収集能力を甘く見ていたかもしれない。

 ドッツォが友達にアニメを勧めたことさえ把握されているなら、もはや彼に隠し事などできないのではないだろうか。


「うん!

 『ぽーぽっぽポータリアン』っていうアニメ!

 グレーネ人のキャラも出てくるよ!

 ゴミ箱に突っ込んだり、落とし穴に落ちたり、ペンキかぶったり!

 どんな目に遭っても無表情だから、そこがすっごく笑えるんだ!」


 おい、ドッツォ!

 なにもわざわざ『ぽーぽっぽポータリアン』の内容まで説明する必要ないだろ!


 俺は恐る恐るルンビ大使の様子を見た。

 しかし、やはりグレーネ人の感情は読み取れない。


「ほぅ。

 それは興味深いですね。

 あなたのお友達はそのアニメを見て何か言っていましたか?」


「こんなの見たこと無いって、言ってたよ」


「それは……本当に楽しんでいたのですか?

 グレーネ人がアニメを見たことが無いのは当然だと思われますが……」


「うん!

 楽しそうにしてた!

 家族にも見せるって言ってたし!」


 それだ!

 ドッツォ、だからお前は怒られたんだ!

 あのアニメのブラックジョークが理解できるポータリアンもいるかもしれないが、むしろそれは例外なんだ!


 大使はしばらく黙っていたが、やがて独り言のように語り始めた。


「アニメの特殊性については明らかです。

 私は部下に命じ、アニメに関して調査させましたが、結果は驚くべきものでした。

 ボサッコやアンテラにもアニメに似たメディアは存在しますが、あくまで幼児向けであり、コンテンツの内容も限定的です。

 それには明確な理由があります。

 成人が非現実に取り込まれれば、生活力を失い、進歩も閉ざされてしまうと判断されたからです」


 つまり俺みたいになっちまうってことか?

 まずい。

 話題の流れが恐れていた方向へと進んでいく。


 このままアニメの危険性が確認され、視聴が禁止されるようなことになったらどうする?

 俺自身はともかく、ドッツォは精神的に大きなショックを受けてしまうだろう。

 それは避けたい。

 勝ち筋は見つからないが、俺は何か言わずにはいられなくなってしまった。


「あの……ちょっといいかな?」


 我ながら大使という地位の高い人物に対して、もっと適切な言葉遣いがあるだろうとは思うのだが、いかんせん、俺は敬語が苦手だ。

 無理に使って変な言い回しになってしまうぐらいなら、最初から使わないほうがいいと諦めている。


「君は……ミヤヅカ・レンマ君ですね」


「あぁ。

 何でもお見通しなんだな」


「君は有名ですよ。

 特別な存在ですからね」


 ゴーグルの自動翻訳を通じてでも、『特別』という部分が特に強調されていたような気がする。

 まぁ、俺はここで唯一の日本人だし、自分の意思に反して月に連れてこられたわけだから、特別だと言われても違和感は無い。


「だったらポータリアンの中で、アニメが流行し始めていることも把握しているよな?

 それを知ったとき、意外じゃなかったか?」


 俺は問いかけたが、ルンビ大使は相変わらずの無表情を保ったまま、何も言おうとはしなかった。


 ドッツォによると、彼は大使になる前、グレーネ文化を研究する学者だったらしい。

 だったら学者としての好奇心に火をつけてやろうというのが俺の作戦なのだ。


「俺はアニメ文化の中心地で生まれたし、アニメに囲まれて育ったからそれなりに詳しい。

 だがそんな俺でも、アニメがポータリアンにウケるなんて、考えもしなかったんだ。

 ましてや、ポータリアンをバカにして笑い飛ばすアニメまで、ドッツォは面白いと言っている。

 これは興味深い現象じゃないか?

 リスクがあるからといって規制してしまったら、研究できなくなってしまう。

 あんた、本当にそれでいいのか?」


 俺が声を荒げながらまくしたてると、ルンビ大使は少し後ずさりしたように見えた。

 彼にとって俺の発言が予想外だったのだろう。


「規制?

 いったい何の話をしているのでしょうか?

 地球人が理解していないようなので、教えてあげているというのに」


「教える?

 いったい何を?」


「むろん、アニメという文化の希少性についてです」


「は?」


 俺はルンビ大使が何を言っているのか理解できなかったが、何か大きな誤解があったことだけは確かなようだ。


「き、希少性?」


「そうです。

 地球人は地球の文化しか認識していないため、自分たちの文化の中で真に価値があるものが何なのかを理解できていないのです」


 大使は立ち上がると、まるで講堂で講義する教師のように語り始めた。


「グレーネはもちろん、ボサッコやアンテラの過去の歴史を見ても、アニメーション技法が成人向けとして発展した例はありません。

 断言します。

 地球のあらゆる文化の中で、ひとつだけ鑑賞する価値があるものは、日本のアニメーション、いわゆるアニメなのです」


「……は?」


 俺は、拍子抜けしてしまった。

 大使はアニメを危険視していたわけではなかったのか?


「それでは本題に入りましょう。

 レンマ君をここへお呼びしたのは他でもありません。見てほしいものがあるのです」


「え、俺?」


 大使が呼びつけたのは俺だった?

 思考停止状態に陥った俺の反応には目もくれず、ルンビ大使は執務室の奥にある部屋へと進んでいった。



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