4-8 さすがオタクの鏡!
「記念すべき第1回、異世界花嫁無双コスプレコンテストの優勝者は!
チャラーン!
こちらのかたがたでーす!」
ミニスカポリスのロニャがマイクでアナウンスをすると、色とりどりのコスチュームをまとった5人のアンテラ人が、ステージ上にぞろぞろと現れた。
会場にはファンファーレが流れ、観衆からは拍手が沸き起こる。
コスプレのクオリティは残念な感じで、カーテンを体に巻き付けただけのようにも見えたが、カツラの色だけはプラチナブロンド、ディープブルー、赤毛、黒髪、ブロンド――と原作に忠実だ。
「せーの!」
恐らくリーダーなのだろう。リリアンヌ役の女性が声をかけると、全員がアニメ本編で有名な決めポーズをとり、会場の興奮は最高潮に達した。
原作を見ていない観客がほとんどだろうが、イベントを心から楽しんでいる様子が伝わってきて微笑ましい。
会場の熱気が少し落ち着くのを待ってから、ロニャが再び声を上げた。
「それでは、優勝賞品の授与を行いま~す!
プレゼンターはこの人、
あの伝説の地、アキハバラからやってきたぁ……」
ここで再び会場から「おぉーっ」とどよめきが沸き起こる。
「月面基地のハルトこと、レンマさんで~す!」
会場は静まり返る。
ロニャの野郎、ハルトとか言ってハードル上げんじゃねぇよ!
くそ。
気が進まないがやるしかない。
舞台袖で待機していた俺は、ブーイングに備えて身構えながら、ステージの中央に用意されたテーブルの前へと進み出た。
「「「きゃ~っ!!」」」
しかし聞こえたのは黄色い歓声だった。
あれ?
怒られない?
恐る恐る観衆の表情を見ると、みんな笑顔で自分に注目している。
なるほど。
参加者達にとってこのイベントはお祭りなんだな。
不満を言って場を白けさせるより、楽しんだ者勝ちってことだ。
ならばその期待に応えようではないか。
平常心を取り戻した俺は、さきほどフードコートで買ってきた和定食のトレイをテーブルに乗せた。
観衆は固唾をのんで俺の一挙手一投足に注目している。
異世界花嫁無双の激レアアイテムがいったいどんなものなのか、期待に胸を膨らませているのだろう。
限定品のフィギュアなのか、制作スタッフのサイン入りグッズなのか、それともイベントの招待券なのか……。
俺は濡れナプキンで手を拭くと、おもむろにお茶碗をひっくり返し、ご飯を手のひらに乗せた。
ぎゅっぎゅと握ってから味付け海苔をペタリと貼り付け、観衆に向けて高々と掲げる。
「ご存知、『異世界花嫁無双』第5話『暗殺者の影』に登場した、オニギリだ!」
――会場は静寂に包まれた。
しかし、しばらくザワついたかと思うと、やがてそれは割れんばかりの大歓声へと変化した。
<アンテラ人・女> キャーッ! オニギリ! 本物のオニギリよ!
<ボサッコ人・男> すげぇ! アニメで見たやつだ!
<アンテラ人・女> 尊い……まさか生で見られるなんて!
通じた!
俺はほっと胸を撫で下ろした。
実際にはイセハナの第5話を見たことがある観客はほんの一部だろう。
しかしオニギリの価値の高さについては、多くの聴衆が理解したのだ。
第5話『暗殺者の影』には、暗殺者との戦いで精神的に疲弊しきった仲間を、ハルトが手作りのオニギリで元気づけるシーンがある。
ファンの間では語り継がれる感動のエピソードだ。
俺は優勝した5人組のほうを向くと、リリアンヌ役の娘にオニギリを手渡した。
「優勝、おめでとう」
彼女は手のひらに乗せたそれを、じっと見つめた。
「これが、お・に・ぎ・り……」
そして――涙を流した。
いや、彼女だけじゃない。
5人全員が感極まって涙を流していた。
「それではさっそく、試食していただきましょう!」
ロニャが呼びかけると、5人は顔を見合わせた。
オニギリは1個しかない。
すまない。
優勝者が5人もいるなんて想定外だったのだ。
しかし、彼女たちは躊躇わなかった。
リーダーがそっと一口かじる。
そして、次のメンバーへと手渡される。
もぐもぐ……。
咀嚼する表情は何とも言えない。
もしかしたら、彼女たちにとっては、白米さえも人生で初めてなのかもしれない。
観衆が固唾をのんで見守る中――。
「お、美味しいでーす!」
獣人の娘セリス役の少女が叫ぶと、ファンファーレが鳴り響き、会場は再び歓声に包まれた。
ポータリアンたちは全身で喜びを表現し、会場の床はまるで巨大なスピーカーのコーン紙のように激しく震えた。
<アンテラ人・女> 羨まし~っ!
<ボサッコ人・男> 僕も食べたいよ~!
正直、ここまでうまくいくとは思っていなかった。
優勝したのがアンテラ人だったことも幸いした。
もしボサッコ人だったら「何も味がしない」とか言って場を白けさせていたかもしれない。
「最後に優勝者の撮影タイムです!
カメラをお持ちの方は、ステージの前までお集まりください!」
観客がステージに押し寄せる。
俺はさっさと退散しようとしたが――。
「ハルトさんも一緒にお願いしまーす!」
くそっ、逃げられない。
しかたなくコスプレイヤーの隣に立って、写されるがままに身を任せることにした。
そのときフィオリナ役の娘の髪を確認したが、粗末ながら髪飾り「ルナブロッサム」がついていた。
落とし主はこの娘じゃない。
写真撮影が終わるまでたっぷり10分ほどかかった。
別に肉体労働ではなかったが精神的疲労でクタクタになり、とにかく早く終わって欲しいという心境だった。
「サンキュー、レンマ!
大成功じゃんw」
逃げるようにステージ裏へと退却すると、待ち受けていたロニャが俺をギュッとハグした。
オープンで社交的な彼女にとっては、このハグに特別な意味など無いのだろうが、突然のことで俺は硬直してしまった。
「いや~、レンマなら絶対やってくれる気してたんだよね。
生粋のオタクだし、オタクの気持ちわかるはずって。
見事に期待に応えてくれてサイコー!
さすがオタクの鏡!
グッジョブ☆」
ロニャは俺の背中をバンバンと叩きながら豪快に笑った。
「う、うっせーよ!
オタクオタク言うな!」
「あはは!」
「それより、フィオリナのコスプレイヤーは見つかったのか?」
「へ?」
ロニャは何のこと? と言わんばかりにキョトンとした顔で俺を見つめた。
こいつ、やっぱり本来の目的を完全に忘れていやがった!
「そもそも、落とし物を持ち主に返すのが目的だっただろ?」
「あーっ、そっか、そっか!
大丈夫!
忘れるわけないし!
とっくに見つけてるから!
最前列にいるって、ほらあそこー!」
ロニャが指差す方向を探すが、金髪の美少女は見つからない。
「どこだよ!?」
「ほらほら、来た来た~!」
背が低いので気が付かなかったが、目の前に毛むくじゃらのボサッコ人が立っていた。
ボサッコ人の年齢や性別はわかりにくいが、おそらく中年のおっさんだ。
体型はまったく異なるが、確かにフィオリナに似たコスチュームを着ている。
フィオリナのコスプレイヤーは美少女に違いないと勝手に信じていた俺は、あまりのギャップに愕然とした。
だが……しかたない。
落とし物を正規の持ち主へと返さねば。
俺はジーパンのポケットをまさぐると、硬い感触を確認し、彼へと差し出した。
「これ、あんたの落とし物か?」
すると、おっさんの眼にみるみると涙が溢れ出た。
「まさに……私のものです!
ありがとうございます!」
おっさんは髪飾りを頭に装着すると、満足そうに笑い、一礼してから去っていった。
おっさんの後ろ姿を見ながら、俺はふぅとため息をつく。
月面基地での労働はキツいし、今日はいろいろあってマジで疲れた。
――だが、悪いことばかりでもない。
俺は不思議と満足感に満たされていた。
--- エピソード4 完 ---
=== 異世界花嫁無双・主な登場人物 ===
【森下 春斗】
20歳。男性。日本から転移してきた平凡な大学生。異星人から見ると、レンマに似ているらしい。
【リリアンヌ・フォン・アルステッド】
18歳。女性。アルステッド王国第1王女。ドレスアーマーを身にまとったタンク役。典型的な王道ヒロイン。
【ミレナ・クラウディア】
19歳。女性。沈着冷静な暗殺者。仮面で顔を隠しており正体不明。ハルトには冷たい態度をとっている。
【セリス】
16歳。女性。獣人族。いつも元気なムードメーカー。
【アイザラ】
17歳。女性。魔法使い。低レベルの魔法しか使えないが、それでも頑張る努力家。
【フィオリナ】
18歳。女性。癒やしの歌声をもつ旅芸人。実は魔族の血をひいている。




