4-7 そもそも俺は人間だぞ
「楽しいな。
レンマ兄ちゃんとお買い物♪」
商店街に向かって歩きながら、ドッツォは上機嫌だ。
「いいなぁ、お前は楽天的で」
それとも俺のほうが小心者なのだろうか。
もし優勝賞品が用意できなかったら参加者たちはどれだけ怒るだろうかと想像するだけで、胃が痛くなってくる。
「心当たりはあるか?
異世界花嫁無双のグッズを扱っている店に」
ドッツォはアニメファンだし、来たばかりの俺に比べたら遥かに商店街の品揃えには詳しいはずだ。
「うーん。
ヴォルラックのグッズだったら全商品わかるんだけど、イセハナはまだよくわかんない」
「そうか。
じゃあ、売ってそうな店ならわかるか?」
「コンビニに行けば食玩があるかも。
あと、お土産物屋さんにガチャガシャが置いてあるよ」
「うーん。
食玩やガチャガシャだとレア感に欠けるなぁ。
参加賞ならそれでもいいけど、ロニャは『激レアアイテム』って宣言しちまったからなぁ」
「……それなら、おもちゃ屋に行ってみるしかないよ。
もしかしたら掘り出し物があるかも!」
「マルビンの店か……」
「うん!」
店長のマルビンはあまり信用できない男だが、月面基地で玩具店と言えば彼の店しかない。
俺達はほんのわずかな可能性に賭けてみることにした。
マルビンが経営する玩具店はリューンシャンゼリゼのほぼ中央にあるので、北東に位置する噴水広場からは徒歩ですぐだった。
「今日は空いてるね!」
ドッツォが言う通り、普段は観光客で賑わっているこの店も、今日は閑散としていた。
やはり、ほとんどのポータリアンは噴水広場に集まってしまっているようだ。
店内は相変わらずカオス状態だ。
フィギュアやスタチューのほか、スポーツ用品、ボードゲーム、モデルガン、ぬいぐるみなどが雑多に積まれており、まるで秩序が無い。
「異世界花嫁無双のグッズを探してるんだけど……」
店の奥で暇そうに佇んでいたマルビンを見つけると、俺は単刀直入に切り出した。
「花嫁図鑑でしたら、あっちの書籍コーナーに……」
「いや、花嫁図鑑じゃなくて、異世界花嫁無双!」
マルビンは一瞬きょとんとした顔をしたあと、首をかしげている。
「アニメだよ、日本のアニメ。
少年が5人の女の子といっしょに戦うやつ」
その言葉を聞いた途端、彼の表情がパッと晴れた。
「あぁ。
それでしたらこっちですわ」
マルビンは新入荷の商品が山積みにされたエリアまで俺達を誘導すると、棚から玩具のブリスターパックを取り出して見せた。
「これでっしゃろ?」
「全然違うわ!」
それは艶やかなオレンジ色に塗られた玩具のステッキで、先端にLEDで光るピンク色のハートがついていた。
「ムーンシャドウの変身ステッキじゃねぇか!
確かに……5人組の女の子は出てくるが、全く別の作品だぞ!」
さすがに呆れた。
この男、自分の店で取り扱っている商品のことをまったく理解していない。
単に売れるから売っているだけで、それが何なのかについては興味が無いのだ。
「えろうすんません。
アニメ関連の商品は、よう分からんのですわ。
その作品、人気あるんですか?」
この無頓着な発言は、ドッツォも看過できなかったようだ。
「人気だよ!
イセハナはアンテラ人の間で、すっごい人気だよ!」
「そうなんでっか……」
「うん!
ボサッコ人にとってはちょっと刺激が足りないけど。
興味があるなら、観てみなよ!」
「せやなぁ。
こんど時間あったら観てみますわ」
(こいつ、絶対観ないな)
マルビンの虚ろな目を見て、俺は確信した。
「もういいよ。
自分で探してみる!」
「えろう、すんまへん」
店長がまったく頼りにならないことが確認できたので、俺達は店内を探し回った。
そもそもアニメグッズ自体が多くはないのだが、イセハナは月面基地ではまだまだマイナー作品だ。
なんとか5人の花嫁候補をあしらった缶バッジは見つけたが、所詮は量産品。
とうていレア商品とは言えない。
そろそろ諦めるべきかと思案し始めたとき、ドッツォが突然叫んだ。
「僕、思いついた!」
「おっ、何だ?
言ってみろ」
「レンマ兄ちゃんを優勝賞品にするんだ!」
「はぁ?」
嫌な予感しかしない。
しかしドッツォは目をキラキラと輝かせながら俺を見つめている。
「レンマ兄ちゃんは日本人。
すっごいレアな存在だよ!」
「お前、何言ってんだよ。
そもそも俺は人間だぞ。
異世界花嫁無双のグッズじゃねぇだろが」
「だからー、ハルトとして自己紹介すればいいんだよ。
優勝賞品は、ハルトでしたーって。
みんな、レンマ兄ちゃんはハルトそっくりだって言ってるし」
「え?
なんでお前、そのこと知ってんだよ!」
「さっき動画で観たよ」
「動画?
なんの動画だ?」
「アリチェ姉ちゃんから送られてきたんだ」
「なにぃっ!?」
ドッツォはゴーグルを操作すると、俺のゴーグルへ動画を転送してくれた。
やはり!
それは俺がアンテラ人の美少女集団に囲まれている映像だった。
自分では自覚していなかったが、コスプレ少女の露わになった胸元から無理に視線を外そうとして、挙動不審な目つきになっている。
絶対に他人には見られたくない光景だ。
アリチェの野郎!
ドッツォに送ったってことは絶対、ロニャにも送ったな。
くそっ!
また何かにつけていじられるじゃねぇか!
「ねぇ。
レンマ兄ちゃん。
僕のアイデア、駄目なの?」
「だ、駄目に決まってんだろ!
俺はハルトじゃねぇし、グッズじゃねぇし、お持ち帰りもできねぇんだから、それじゃ詐欺じゃねぇか!
最悪、暴動が起きるぞ!」
「……うーん。
でもハルトが何かしてくれたら、ファンとしては凄い嬉しいと思うよ」
(何かする?)
ドッツォが名残惜しそうにつぶやいたとき、俺の中で1つの可能性が浮かび上がった。
グッズが見つからないなら、作ってしまえばいいのかも……。
「ドッツォ!
そのヒントいただいたぜ。
なんとかなりそうだ!」
俺は善は急げとばかりに、玩具店を飛び出した。
=== 用語解説 ===
【ガチャガシャ】
ランダム式カプセルトイ販売機の総称。特定の企業の登録商標に抵触しないよう、配慮する場合に使用される呼称。
【アイドル忍者ムーンシャドウ】
普通の中学生5人組が謎の黒猫から忍者の力を授かり、平和を守るために活躍する美少女アイドルアニメ。




