4-3 バレない限り、問題ないわ
「今日は人が少ないな」
昼食を終えて商店街の清掃を再開したが、1日の中でもっとも賑わうはずの時間帯であるにもかかわらず、観光客の姿はまばらだった。
「今日はイベントの日だからね。
みんな噴水広場にいってるのかも」
商店街の時事ネタに詳しいロニャがしたり顔で答えた。
「へぇ。
なんのイベント?」
「なんて言ったっけ?
いつもと違う変わった服装を着て、みんなで集まるやつ」
「コスプレ?」
「そう、それ!」
「マジか?
ポータリアンがコスプレすんのか?」
「そ。
地球でもあるでしょ?
観光地の定番サービスだし。
伝統的な衣装とか、ユニフォームとか、そういうやつ」
たしかに外国人観光客が和服を着て歩いているのをよく見かけるが、あれと同じことか。
俺たち地球人にとっては見慣れた服装でも、ポータリアンにとっては珍しく感じるのかもしれない。
「あとであたしらもいこーよ!」
それだけ言い残すと、ロニャはとっとと先へ行ってしまった。
いつものことだが、ロニャは掃除をしていない。
商店街の店員と世間話をしたり、観光客に頼まれて写真撮影をしたりなど、正直、遊んでいるようにしか見えない。
長年無職だった俺が言うのもおかしな話だが、彼女からは真面目に仕事をしようという姿勢がまったく感じられないのだ。
いっぽう俺は生真面目な日本人。
要領よくサボるということがどうしても苦手だ。
――そのとき。
ピコンという電子音とともに、見慣れない文字が俺のゴーグルに表示された。
『遺失物の可能性』
赤い文字で書かれているので、重要なメッセージなのだろう。
俺は後ろを歩いていたアリチェに助けを求めた。
「遺失物の可能性ってなんだ?」
「掃除機からのメッセージね。
掃除機が何かを見つけたってこと」
「見つけた?
掃除機が?」
「そうよ。
掃除機の先端にはセンサーがついてるの。
それが、『ゴミらしくないもの』を認識したってこと」
何を見つけたというのだろうか。
俺は腰をかがめて掃除機の先端ノズルに近いところを凝視してみた。
確かに3ミリぐらいの銀色のものが落ちてる。
拾ってみると軽くてうすっぺらい円形の板のようだ。
「それは、グレーネ人の装飾片みたいね」
「なんだそれ?」
「グレーネ人の民族衣装についている飾りよ。
よく落ちているから、ときどき見つかるわ」
「へぇ。
じゃあ、届けたほうがいいのか?」
「不要よ。
装飾片は衣装に大量についてるし、自然に落ちるものだから」
「ふぅん。
ということは、ゴミ扱いでいいのか?」
「いいけど……それ、売れるのよ」
「え?
売れるのか?」
「1枚あたり2セルぐらいだけどね。
集めればそれなりの金額になるわ」
「おぉ!
お宝じゃねぇか!」
2セルということは日本円で200円ぐらいということだが、俺にとっては大金だ。
地道に貯めれば副業としての収入になるかもしれない!
俺の中の労働意欲が急速に高まった。
しかし……冷静に考えると、少し不安も感じる。
「ちなみに……これは業務上横領にはならないのか?」
「そうね。
掃除機に吸い込む前なら、たぶん横領にはならないわ」
「たぶん?
怪しいな。
本当に大丈夫なのか?」
「少なくともバレない限り、まったく問題ないわ」
「……」
なんとも怪しい言い回しだったが、俺はそれ以上追及することをやめた。
ブラックならともかく、グレーなら挑戦する価値はある。
俺の中で小遣い稼ぎへの欲求が、倫理観を上回り始めていたのだ。
さて、どこを探すべきか?
俺は周囲を見回して、いかにも何かが落ちていそうな場所を探した。
定番は……そう、自販機の下だ!
俺は通りの反対側にあるジュースの自動販売機へと向かった。
我ながら貧乏くさい行為だが、秋葉原の繁華街では自販機の下を調べれば、大抵1枚ぐらいは硬貨が見つかったものだ。
並んでいる自販機の下の隙間に、掃除機の先端を突っ込んでいく。
「ちょっと……貧乏なのはわかるけど、そこまでする?」
俺の下劣な行為を見ていたアリチェが苦言を呈する。
「ほっとけ!
俺は可能性に賭けてみたいんだよ!」
「可能性とか、かっこいい言い方しても、やってることはみすぼらしいんですけど……」
アリチェは呆れているようだが、俺は気にせず作業を続けた。
自販機の下は真っ暗で何も見えないが、ノズルの先端に搭載されたセンサーが自動的に価値のあるものを見つけてくれるはずだ。
俺が3台目の自販機に取り掛かろうとしたとき、ゴーグルに再びピコンと『遺失物の可能性』が表示された。
「獲ったか!?」
俺は地べたにはいつくばると、自販機の下に手を突っ込んで小さく硬い物の感触を得た。
そして恐る恐る取り出す。
装飾片……ではなかった。
しかし、もっと大きい。銀色のアクセサリーだ。
月を象ったような形状で、花の模様がモールドされている。
「これは、想定以上の収穫か!?」
俺の中で一攫千金への期待が激しく渦巻いた。
「アリチェ、ちょっと見てくれないか?」
「アプリで鑑定してみるわ」
アリチェは指先で何かを操作すると、ゴーグルに内蔵されたカメラでアクセサリーを撮影した。
果たしてどんな値がつくか?
落とし主に返して謝礼金をもらったら、地球に帰れるかもしれない。
ニヤけている顔がバレないように気をつけながら、俺はアリチェの鑑定結果を待った。
「プラスチック製のオモチャね。
価値は無いわ」
俺の膝がカクっと折れた。
「ちくしょう……ハズレかよ」
アリチェはオモチャの装飾品を俺にポイと投げて返すと、何事も無かったかのように清掃業務を再開した。
確かに改めて持ってみると、高級品にしては妙に軽い。
銀色の部分は金属ではなくメッキ塗装なのだろう。
とはいえ、子どものオモチャにしてはよくできているし、この形状にはどこか見覚えがある。
……銀色で三日月型の形状。
そして表面に施された花の模様……。
「ドッツォ?」
「どうしたの?
レンマ兄ちゃん」
「異世界花嫁無双のフィオリナが髪につけてるチャームってどんな形だっけ?」
「うーんと。
調べるからちょっと待って。
そっちに画像送るね」
数秒待つとドッツォから転送されてきた画像が俺のゴーグルに表示された。
やはり!
形状も色も完全に一致している。
「これだ!
フィオリナの髪飾り『ルナブロッサム』だ!」
俺は思わず叫んでしまった。
するとドッツォが寄ってきてチャームの形状を画像と見比べる。
「ほんとだ!
すごい、よくわかったね。
レンマ兄ちゃん、さすが!」
ドッツォは感激のあまり目が潤んでいる。
我ながらよくこんな細かいところまで覚えていたなと思うのだが、俺の推理力はさらに真相へと近づいていった。
「すると、落とし主は、フィオリナの……コスプレイヤーか!?」
俺の脳内には金髪の美しい女性の姿が浮かび上がった。
彼女はコスプレイベントのためにせっかくフィオリナのコスプレをしたというのに、会場に向かう途中で髪飾りを落としてしまったのかもしれない。
この髪飾りは、いわばフィオリナのトレードマークだ。
これが無ければ、コスプレは未完成と言ってもいい。
このままでは、せっかくの晴れ舞台が台無しになってしまう!
「緊急事態だ。
落とし主にこれを返さねば!」
自分でも信じられないほどの強い使命感が、俺の中でわきおこった。
異世界花嫁無双の花嫁候補は皆美少女だが、フィオリナは癒し系の不思議ちゃんだ。
露出の多いエロティックな衣装は豊かな胸とボディラインを強調し、ゆるやかにウェーブするブロンドヘアが風になびく姿は神々しいほどに美しい。
俺の使命感に下心が無かったといえば、それは嘘になるだろう。
「それじゃあ、噴水広場に行かないとね!」
突然、背後でロニャの声がした。
「噴水広場?」
「遺失物の対応も、あたしら清掃員の大事なお仕事だしね!」
いつになくロニャは真面目な表情になっていた。
なんだこいつ、やっぱりやるときはやるんだなと、俺はちょっとだけロニャを見直した。
「さ、行くよ~!
コスプレイベントへ~」
ロニャはぎゅっと拳を握り、決意の眼差しで空を見上げた。
――認識を訂正。
こいつやっぱり、仕事さぼってイベントに行きたいだけだ……。
=== 異世界花嫁無双・主な登場人物 ===
【森下 春斗】
20歳。男性。日本から転移してきた平凡な大学生。
【フィオリナ】
18歳。女性。癒やしの歌声をもつ旅芸人。実は魔族の血をひいている。




