3-7 敵の動きは見切った!
<ドッツォ> えへへ。あのくらいでやられる僕じゃないよ!
ドッツォはフフンと得意そうに鼻をならしてみせた。
ボサッコ人の体は地球人よりもずっと頑丈にできているのだ。
金属製のフィギュアが背中に当たったぐらいではビクともしない。
ドッツォはヴォルラックを両手で抱えたまま、店の奥へと移動した。
いったんは退いて体勢を整える必要があると判断したのだ。
<アリチェ> レンマ! 右手でサムズアップしてみて!
アリチェから指示が飛ぶ。
「サムズアップ?
ああ……親指を上げろってことか」
俺は言われるがままに、右手の親指を立ててみた。
するとピコンッと小気味よいシステム音が鳴り、ゴーグルの視界にウェポン・セレクトメニューが展開される。
<アリチェ> そこで続けて、両手でVサイン。指は伸ばさず、ちょっと曲げて!
なるほど、ハンドジェスチャーでショートカットができるのか。
俺が両手で指を曲げたVサインを作ると、画面上のヴォルラックが呼応し、手甲パーツが勢いよくスライドした。
ブォン!
スピーカーから響く重低音のエフェクトとともに、指先から真紅に輝く光の爪が現れた。
<ドッツォ> すごい! ビームクローだっ!
<ロニャ> なにその武器! 激ヤバじゃん!
チャット欄が盛り上がる。
ビームクローはヴォルラックの格闘戦用武装だ。
超高温に熱せられた爪で、敵の装甲を鮮やかに切り裂く。
もちろんそれはアニメの設定であり、オモチャの爪は熱を帯びていないが、視覚エフェクトのおかげで無敵の破壊力を手に入れた気分になる。
<ドッツォ> いた、ゲラフだ! 3時の方向!
ドッツォのナビゲートで、俺は敵の姿を捉えた。
陳列棚の向こう側、通路の開けた場所に3体のゲラフが待ち構えている。
「これは……さっきと同じ陣形じゃねぇか!
同じことをやろうってことか!?」
<ドッツォ> これ知ってる! 第24話に出てきたゲラフの『トリニティアタック』だよ!
ドッツォの言葉で、脳内の記憶がリンクした。
そうだ。
あいつらは独自に状況を判断して行動しているわけではない。
原作アニメの連携パターンを忠実に再現するようプログラムされているのだ。
だとしたら、こちらもアニメと同じ戦いかたをすればよいだけのこと!
原作では、主人公が勝っているのだから!
「敵の動きは見切った!
この勝負、俺達の勝ちだ!」
俺が宣言するのと同時に、敵は全速で突進を開始した。
轟音を立てて迫る3機の影。
先頭のゲラフはショルダータックルの体勢をとっており、1回目の攻撃とまったく同じに見える。
だが、俺は知っている。
ヴォルラック第24話の戦闘シーンで、奴らは2回目の攻撃パターンを変えてくるのだ。
俺はヴォルラックを全速でダッシュさせると、激突寸前で意図的にバランスを後ろに倒し、スライディングの体勢に持ち込んだ。
すると案の定、先頭の1号はタックルを中断し、踏みつけ攻撃へと移行する。
読み通り!
俺は頭上を飛び越えようとする敵の腹部に、ビームクローを突き上げた。
ズバァァァッ!
派手なヒットエフェクトが散り、敵はきりもみ回転しながら弾け飛んでいく。
「ひとーつ!」
間髪を入れず、2号のゲラフが低い体勢でタックルをしかけてくる。
下段攻撃か!
だが甘い!
「させるかぁっ!」
俺は身をひねってかわしつつ、すれ違いざまに横薙ぎの一閃をお見舞いする。
ヴォルラックの左手の爪が敵の装甲を深々と抉る。
「ふたーつ!」
そして、最後の敵、3号機!
奴は正面から来ると見せかけて、死角となる右横から特攻をしかけてくることが分かっている。
だから俺は見向きもしない。
レーダーを見る必要さえない。
ノールックで、右側へビームクローを突き出した。
「そこだ!」
ドンッ!
手応えあり。
まんまと飛び込んできた3号は、自らの勢いでヴォルラックのビームクローに突き刺さった。
ぐったりとうなだれ、カメラアイの照明がプツんと消える。
「任務……完了」
勝った……。
どっと疲れが押し寄せる。
ゴーグルに表示されていたヴォルラックの映像をオフにすると、ゆっくり立ち上がる。
平衡感覚がおかしくなって目眩を感じる。
軽い3D酔いになっているのだろう。
俺がふらついて膝をつきそうになった、そのとき。
「「「うぉぉおぉーっ!」」」
地鳴りのような喝采が沸き起こった。
見ると、透明シャッターの向こう側から、黒山の人だかりがこちらを見ている。
ボサッコ人がほとんどだが、アンテラ人らしき人影も見える。
俺達の戦いを、観光客たちが観戦していたのだ。
急激に羞恥心が込み上げてくる。
思えば、やたらと大声で叫びながら、いい歳こいてオモチャ相手に必死になっていた気がする。
俺は顔を覆いたくなる衝動をこらえ、すごすごと逃げるように仲間たちと合流した。
<ロニャ> さすが、アニメオタク! なかなかやるじゃん!
ロニャは3体のゲラフを抱えながら現れた。
俺が倒した後、すかさず捕獲して電源を切ってくれたようだ。
「レンマ兄ちゃんはやっぱり最高だね!」
ドッツォが走り寄ってきて俺の腕に抱きついた。
いや、俺ひとりの成果じゃない。
こいつらが協力してくれたからこそうまくいったんだ。
(みんな、ありがとう)
この気持ちを言葉にするべきなのだろうが、疲労と3D酔いで放心状態になっていた俺は、ただボーっと立っていることしかできなかった。
そのとき、ガラガラと音がして、店のシャッターが開いた。
マルビンが開店させたのだろう。
待ってましたとばかりに、野次馬していたポータリアンの観光客たちが店内へなだれこんでくる。
彼らは一目散に、ゲラフやヴォルラックの周囲に群がった。
<アンテラ人・男> この玩具、何なんだ?
<ボサッコ人・男> かっこよかった!
<アンテラ人・男> あの赤い爪の攻撃、シビれたぞ!
俺達を取り囲む人々の目がキラキラと輝いている。
よっぽど印象的だったのだろう。
「これは日本のアニメ『重星覇装ヴォルラック』に登場するロボット兵機だよ」
ここぞとばかりに、ドッツォが解説を始める。
布教のチャンスだと気づいたようだ。
「こっちの緑色のボットがゲラフ。
地球を侵略しようとしている宇宙帝国ザルグラードの量産機。
そしてこっちの白いのが、それを迎え撃つ巨大機動体ヴォルラック。
パイロットはザルグラード第3皇子のレオン・ザルフリードなんだ」
「え?
敵がザルグラードで、主人公もザルグラードなのか?」
「うん。
そこがこの物語の面白いところだよ。
興味があったらアニメ本編を見てみて!
マルビンおじさん?」
「え?
なんでっしゃろ?」
「ヴォルラックのホロカードは売ってるの?」
「ええと、確かホロカードコーナーに在庫があったはずや……」
マルビンがコーナーを指差すと、観光客たちもぞろぞろと移動していった。
「やった!」
ドッツォは満面の笑みを浮かべながら飛び上がって喜んでいた。
「嬉しそうだな」
「うん。
だってポータリアンの中でアニメが流行ってくれたら、アニメについて話せる人が増えるもん」
ドッツォの気持ちはわからなくもない。
変わった趣味を持っていると、周囲から孤立してしまうし、変な目で見られてしまうものだ。
ドッツォのようにアニメにハマっている異星人は、もしかしたらポータリアン社会の中で孤独を感じているのかもしれない。
「皆さん。
このたびはほんま、おおきにありがとうございます」
客の対応を終えたのか、いつのまにか店主のマルビンが戻ってきていた。
「トラブルも収まりましたし、アニメのホロカードが飛ぶように売れて、わては笑いが止まりまへん」
揉み手をしながら、ホクホク顔だ。
だが、アリチェが冷ややかな視線で釘を差す。
「よかったわね。
私との約束、覚えてる?」
『約束』とは何のことなのか、俺には理解できなかったが、マルビンには心当たりがあるようだ。
「そう言われましてもなぁ。
店ん中ひっかき回されて、けっこうな損害出てまっさかい、ここはチャラいうことで頼んまっせ」
「ふぅん。
そんなこと言っていいの?
ゲラフの電源、入れ直すわよ!」
アリチェの脅迫に、マルビンは蒼白になった。
「うーん。
……ええでっしゃろ。
差し上げますわ」
「やった!」
そう言いながらアリチェが持ち上げたのは、俺が操作していたUGヴォルラックだった。
戦闘で傷んではいるが、これはトイボットの最高級グレード。
かなり高額なはずだ。
アリチェは満足そうにヴォルラックを抱きしめた。
まるでクリスマスに子犬をプレゼントされた子供のようだ。
「アリち。そんなオモチャ、何に使うわけ?」
ロニャの問いかけに、アリチェは口元に不敵な笑みを浮かべた。
「ふふ……内緒」
まさか魔改造するつもりじゃ……。
俺は背筋に何か冷たいものを感じた。
--- エピソード3 完 ---




