3-6 シンクロ率、100%!
「アリチェ、このボットの商品仕様を教えてくれ!」
<アリチェ> 商品仕様?
「性能とか特徴だよ。
取扱説明書は無いのか?
パッケージにはなんて書いてある?」
<アリチェ> ええと……。ヴォルボットシリーズ Vol.12。巨大機動体ヴォルラック……。
「おぉ。主人公機じゃねぇか!」
<アリチェ> UGリモートコントロールモデル……。
「UG!
アルティメットグレード!
すげぇ!」
俺の興奮した声に、アリチェは戸惑ったようで少し言葉を詰まらせた。
<アリチェ> ……あのう。だいぶ興奮しているようだけど大丈夫?
「これが興奮せずにいられるか!
リモコンのヴォルラックにもいろいろあるが、UGは最高グレードだ。
よく手に入ったな」
<アリチェ> マルビンをちょっとね。
「店長を……ちょっと?」
<アリチェ> ……いいでしょ、細かいことは!
アリチェは明言を避けて話をはぐらかした。
少しやましいところがあるのだろう。
「……まぁ、いいか。
よし、ここから反撃を開始するぜ!」
俺は気を取り直して意識をゴーグルの映像に集中した。
通常、ゴーグルは『透過モード』、つまり実際の風景にCGを合成表示しているだけだが、今は『一人称モード』になっており、トイボットの頭部カメラから送られた映像が全画面表示されている。
つまり、俺はヴォルラックの視点で周囲の風景を見ているわけだ。
<アリチェ> システム、オールグリーン。シンクロ率、100%!
まずは周囲を見回してみる。
俺の首の角度と連動して、ボットの頭部もスムーズに回転している。遅延はほぼ感じられない。
後ろを振り返ると、巨大なアリチェが見える。
ボットの頭部に搭載された広角カメラは地上からわずか15センチほどの高さにあるため、人間が巨大に見えるのだ。
彼女は商品パッケージを手に持ちながら地べたに座り込み、ボットのカメラ……つまり俺に向けて心配そうな目を向けていた。
「アリチェ……」
<アリチェ> なによ?
「お前……そんな優しい表情、できるんだな」
俺は率直な感想を述べただけだったが、たちまちアリチェの頬は真っ赤に染まった。
<アリチェ> な、なに言ってるのよ!
「いや……気にすんな。
いつもと何か違うって思っただけだよ」
<アリチェ> 気にするなって言われたって……気になるじゃない!
アリチェは動揺して怒っていたが、女心の揺れ動きに気を使っている余裕は今の俺には無い。
一刻も早く、この高性能なホビーボットを使いこなさなくてはならないのだ。
俺は正面を見据え、両手を軽く握りながら腰の位置に構えた。
ホビーボットの操作は両手のハンドジェスチャーで行う。
ゴーグルの外側につけられた複数のカメラが、両手の位置と角度を認識するシステムだ。
まずは左手を前後左右に動かして移動を試みるが、ボディが浮いてしまってうまく制御ができない。
当然のことだが、この商品は地球の重力下で地面を歩くように設計されているからだ。
やはり人間と同じく、ジャンプ移動を基本にするしかないだろう。
俺はいったん左手を降ろしてから、勢いよく上に振り上げた。
「どわっ!」
視界の画像が大きく動いて思わず声を上げてしまった。
ヴォルラックがジャンプしたのだ。
実際には2メートルにも満たないジャンプだが、スケールが小さいため、まるで高層ビルの屋上まで一気に飛び上がったかのような浮遊感がある。
高度は天井近くに達し、店の奥までを見渡すことができた。
玩具店は商品陳列棚によって迷路のように入り組んでいるが、棚の上を移動すれば自由に動き回れるのだ。
「索敵モードへ移行。
これより敵の捜索を開始する!」
俺は棚の上に着地すると、隣の棚を目指してジャンプした。
摩天楼を飛び回るスーパーヒーローのような気分だ。
力加減と飛距離の関係がわかってくると、だんだんと正確な位置に着地できるようになってきた。
運動音痴で体育の授業が大嫌いだった俺だが、こういうゲーム的な操作はなぜか飲み込みが早い。
<ロニャ> レンマが飛んだ! レンマが飛んだ!
<アリチェ> 信じられない……シンクロ率が400%を超えているわ!
<ロニャ> いけいけー! 悪者なんかやっつけろー!
ゴーグルの視界に、賑やかなチャットが流れる。
外野の声援も悪くない。
俺のテンションはさらに上がった。
何回かジャンプを繰り返した後、ついにレーダーが敵影を捉えた。
しかも捕まえてくれと言わんばかりに、3体まとめて通路の奥に集結しているではないか!
「敵を捕捉!
ぬいぐるみコーナーの近くだ!」
<ロニャ> りょっ! あたしもそっちに向かう!
<アリチェ> 待って。敵の陣形がおかしい!
アリチェが冷静に警告する。
確かに、敵の振る舞いがさっきまでとは明らかに異なっていた。
奴らは逃げることをやめ、こちらを睨みつけ、攻撃のタイミングを狙っているのだ。
その理由は何か?
恐らく、奴らから見えている俺が人間ではなくボットだからだろう。
しかもただのボットではない。ヴォルラックは奴らゲラフにとって宿敵なのだ。
奴らに内蔵された人工知能には、この機体と戦うことが本能として植え付けられているのかもしれない。
よかろう。
ならば受けてたとうではないか。
俺はヴォルラックを軽くジャンプさせると、敵の真正面、数メートル先に着地させた。
一瞬の静寂――。
まるで西部劇の決闘シーンのように、俺と3体のゲラフは睨み合った。
「アリチェ!
武器は、武器は無いのか!」
<アリチェ> 武器……武器……ちょっと待って、今マニュアル見てるわ!
<ロニャ> はやくしないとやられちゃうよ!
そうこうしているうちに、3体のゲラフが動いた。
縦1列に並んだ陣形で、突進してきたのだ!
先頭の1号は、左肩のアーマーを前に突き出し、ショルダータックルの構えで迫っている。
速い!
だが、見えている!
俺はヴォルラックの体を少しだけジャンプさせるため、左手を下から上へと小さく振り上げた。
滞空時間が長いと、敵の餌食になってしまう可能性が高いからだ。
そして狙い通り、1号のタックルは空を切った。
「よし!」
しかし2号のゲラフはすかさず体勢を変えると、俺=ヴォルラックの脚をつかもうとする。
俺は空中で上半身を回転させることで意図的にバランスを崩し、これを阻止した。
<ロニャ> 回避した! うまいっ!
<アリチェ> 油断しないで! まだ3体目がいるわ!
警告は一瞬遅かった。
最後尾の3号はそのとき、空中のヴォルラックめがけて既にジャンプしていたのだ。
1号と2号はいわばオトリ。
俺の体勢が崩れたところで3号がトドメを刺す……それが奴らの作戦だったのだ。
ガチャンッ!
激しい衝突音が響き渡り、視界の映像がグルグルと回転した。
俺のヴォルラックはまともにショルダータックルを受け、派手に吹き飛ばされてしまったのだ。
警告アラートが視界を赤く染める。
「ばかな!
主人公機が量産型ごときに負けたというのか……」
空中を舞いながら、俺は激しい焦燥感に苛まれていた。
個体での性能ではゲラフよりもヴォルラックのほうが圧倒的に高いはずだ。
しかし3体の連携プレイが個別の機体性能を上回った。
「やはり主人公機といえど、
仲間がいなくては勝てないということなのか……」
俺がそう悟ったとき――。
「危なかったね」
突然、耳元で声がした。
映像が回復すると、視界はフサフサとした茶色い毛に覆われていた。
これは……ボサッコ人の体毛!?
なんと、吹っ飛んだヴォルラックの機体を、ドッツォがしっかりとキャッチしてくれたのだ。
「ドッツォ、お前!
無事だったのか!」




