4-5 ロニャちゃん天才~!
(ポータリアンは恋愛の対象になるのか?
人間とポータリアンとの間に、愛は成立するのか?)
アクセサリーを落としたコスプレイヤーを探しながら、俺はぼんやりと考えていた。
ボサッコ人に関しては、そもそも性別すら不明確だ。
ふわふわの毛で全身を覆われ丸っこい体型をした彼らは、ぬいぐるみみたいで可愛いとは感じるが、恋愛感情が芽生えるかと言われると、違う気がする。
いっぽう、アンテラ人の女性は美形ぞろいだ。
黄色い肌や頭から突き出た触角は確かに奇異だが、それを差し引いても目を奪われる美しさを持っている。
ただ、内面はどうか。
アンテラ人がどのような考え方をするのかについて、俺はまったく理解していない。
同じ地球人でさえ、他人のことはよくわからないものだ。
ましてや異星人となると、常識や価値観も大きく異なるに違いない。
にっこりと微笑まれたので好かれていると思っていたら、実は憎まれていたなんてこともあるかもしれない。
そんな根本的な違いを超えて、恋愛感情が芽生えるなんてことはあるのだろうか?
そこまで考えたとき、俺はふと立ち止まった。
(……そもそもありえないって)
ちょっと妄想が暴走してしまったが、地球でたったひとりの彼女も作れなかった自分に、異星人の彼女なんて無理な話だ。
イセハナの主人公に似ていることで多少はモテることがあっても、そこから恋愛に発展するまでには高いハードルがある。
恋人同士って、日常的にどんな会話をするんだ?
異性とのコミュニケーションは、俺のもっとも不得意な分野ではないか。
「やめやめ。
こんなこと考えてる場合じゃない」
俺は邪念を振り払うように頭を振った。
無意味な妄想にふけるより、探索を再開するとしよう。
そういえば、ロニャはどこへ行ったのか?
周囲をキョロキョロと見回していると、突然、広場の反対側から大音量の声が響き渡った。
「はい、ちゅうもーく!」
スピーカーを通しているためノイズが混ざっていたが、間違いなくロニャの声だ!
振り返ると、観衆がざわつきながら声のした方向に注目している。
広場の端に設置されたイベント用のステージだ。
「ただいまより、異世界花嫁無双コスプレコンテストを開始するよー!」
いつのまにかロニャはステージの上でマイクを握っていたのだ。
「「「おぉーっ!!!」」」
少し間を置いて観衆から歓声が上がり、会場の熱気が一気に高まった。
「優勝者には、異世界花嫁無双の《《激レア》》アイテムをプレゼント!
エントリー希望者は、ステージ裏に集合!」
会場はまたもや歓声に包まれたが、俺にはまだ状況が飲み込めていなかった。
ロニャはいったい何をしているのか?
副業でイベントの司会もやっているのか?
いや……違う。
恐らくフィオリナのコスプレイヤーを探すのが大変だから、コンテストをやってしまえば、向こうのほうから寄ってくる……という発想なのだ。
俺は人混みをかき分けてステージの裏側へと進み、ロニャを見つけた。
アリチェとドッツォもすでに来ている。
「ロニャ、いったいどういうつもりなんだよ!」
俺は詰め寄ったが、彼女はさも当然であるかのように余裕の笑顔を見せている。
「簡単なことだって!
コンテストをやれば、アクセサリーの落とし主も自動的にわかるっしょ?
ロニャちゃん天才~!」
「そんなことだろうとは思ったけど、わざわざコンテストやる必要はあんのか?
マイクで呼びかければ済む話だろ」
「あ……」
ロニャはいったん口ごもった。
「まさか……今気づいたのか?」
「い、今さらそんなこと言ってももう遅いし!
やるって発表しちゃったから、もうやるっきゃないでしょ!
ほらほら、もうエントリー希望者来たっぽいよ!
アリち、参加者の名前、ノートにメモっといて~。
その間にあたし整理券つくるから!」
ロニャは論理の破綻をごまかすように早口でまくしたてた。
周囲を見回すと、確かにポツポツと参加希望者が集まってきているようだ。
くそ。
ロニャの暴走に巻き込まれるのは癪に障るが、事態はすでに動き始めてしまったのだ。
「レンマとドッちょにも、頼みがあるんだけど!」
エントリー希望者たちに対応しながら、ロニャは俺とドッツォに手招きをした。
「優勝賞品の調達、お願いしちゃっていい?」
「……優勝賞品……って、異世界花嫁無双の激レアアイテム?」
「そう、それ!」
「しかたねぇなぁ……。
で、それどこにあるんだ?」
「わかんない」
「……はぁ?」
混乱しながら聞き返すと、ロニャは周囲のポータリアンたちには聞こえないよう、俺の耳元で囁いた。
「だからさぁ、どっかから探してきてほしいのよ!
異世界花嫁無双の激レアアイテムをね!」
「はぁあ?
お前、まさか、ノーアイデアなのか!?」
「もちっ!」
ロニャは悪びれた様子もなく、満面の笑みできっぱりと言い放った。
俺の頭は真っ白になった。
「アテもないのに、賞品は激レアアイテムでーす! とか発表しちまったのか!?」
「うん、だってそうでも言っとかないと参加者集まんないじゃん!」
「いや、だからってお前……無計画にもほどがあるだろ~」
「えへへ」
ロニャは片目をつぶって笑ってみせた。
腹は立ったが、悔しいことに、くっそ可愛い。
「レンマとドッちょはアニメ詳しいんでしょ?
なんとかしてくれるよね~」
ロニャは両手で胸を寄せ、見上げるような仕草でおねだりポーズをしてみせた。
あざとい!
しかし悲しいかな。
彼女から押し寄せるひたすらポジティブな圧力を跳ね除けるほどの抵抗力は、俺には備わっていないのだ。
「くそっ!
なんか探してくるから、時間を引き延ばしておいてくれ」
「りょ!」
俺はストレスで胃がキリキリと痛みだすのを感じながら、アニメグッズを求めて商店街へと向かった。
=== 設定メモ ===
異世界花嫁無双のあらすじ
平凡な大学生、森下 春斗は、深夜の帰り道で暴走トラックにひかれて命を落とす。
目を覚ますとそこは剣と魔法の世界「エルディア大陸」だった。
春斗の左手には、魔王を倒すことができる唯一の魔具「誓縁の指輪」がはめられていたが、真の能力を発揮するには「真の伴侶」と絆を結ぶことが条件だった……。




