3-5 てめぇは俺を怒らせた……
<ロニャ> あーっ! レンマの後ろ!
<ドッツォ> 罠だよ、レンマ兄ちゃん!
チャットでの警告は一瞬遅かった。
俺は慌てて周囲を警戒したが、すでに手遅れだった。
『1』とマーキングされた本物のゲラフが棚の陰から飛び出し、全力で俺の背中にショルダータックルをかましてきたのだ。
「痛っ!」
磁力ブーツをはいていない俺は踏ん張ることもできず、そのままフィギュアの陳列棚に激突するしかなかった。
ガシャンッ!
棚が傾き、いくつものフィギュアが雪崩のように俺の体へと降り注ぐ。
『商品をできるだけ傷つけずに……』と懇願していたマルビンの顔が脳裏をよぎったが、それどころじゃない。
こっちは命がけなんだ。
俺は床に仰向けに倒れたまま、敵の姿を探した。
前方、右、左を確認し、最後に上を見上げたとき、俺は悪夢がまだ終わっていないことを悟った。
遥か頭上、陳列棚の最上段で、1体のゲラフが金色のフィギュアを落下させようとしていたのだ。
あれは、金属製の大型フィギュア『ジャンボ合金マシンダー』!
あの高さから落とされたら、質量兵器として十分な威力を発揮する!
「や、やめろ……」
俺の嘆願に耳を貸す様子もなく、ゲラフは無慈悲に金属の塊を俺の顔面に向けて投げつけた。
スローモーションのように、金色の凶器が俺の顔面に向けて落下してくる。
「し、死ぬ!」
磁力ブーツ無しでは踏ん張りが効かず、瞬時に移動することはできない。
俺は両腕で顔を覆った。
ゲシッ!
金属が肉体に衝突する鈍い音が響き渡った。
しかし……俺の体に痛みは無い。
恐る恐る目を開けると、ライムグリーンのユニフォームを着た誰かが、俺の体に覆いかぶさっていた。
ドッツォ!
ドッツォが身を挺して、俺を空爆から守ってくれたのだ。
「ドッツォ!
なんてことを!」
俺はぐったりとした彼の体を抱きとめた。
ドッツォは苦痛に顔を歪めながら、俺に気がつくと安心したような顔をした。
「よ、よかった……無事だったんだね、レンマ兄ちゃん……」
「ば、ばかやろう、なんで……俺なんかのために……」
ドッツォの弱々しい手を握りながら、俺は次第に彼の握力が失われていくのを感じていた。
「だって、兄さんは、僕の大切な人……だから」
「ドッツォォッ!」
ガクリ、とドッツォの首が力を失う。
俺は動かなくなった彼の体を静かに横たえると、自分の中からかつてないほどの怒りの感情がこみ上げてくるのを感じていた。
そうだ。これは遊びじゃない。
誇りをかけた戦いなのだ。
「てめぇは俺を怒らせた……」
俺が怒りに打ち震えながら立ち上がったとき、ゴーグルからアリチェの冷静な声が聞こえた。
<アリチェ> 茶番は終わった?
「茶番言うな!」
くそっ!
せっかくドラマチックなシーンで盛り上がっていたのに、現実に引き戻しやがって!
……そういえば、今までアリチェは何をしていたんだ?
<アリチェ> 敵の行動パターンは解析完了よ。これより反攻作戦に移るわ。
「反攻作戦?」
<アリチェ> レンマ、遠隔操作のホビーボットを使ったことはあるかしら?
「あぁ。
あるけど、それがどうした?」
<アリチェ> よかった。今からそっちにコントロールを渡すから、ちょっと待ってて!
コントロールを渡す?
何のことかわからず立ち尽くしていると、俺のゴーグルに見覚えのある映像が表示された。
水平傾斜計、高度計、エンジン温度、エネルギー残量……。
これは、リモートコントロールボットのヘッドアップディスプレイだ!
そして真正面には、巨大なアリチェの顔!
ボットの内蔵カメラから見た映像が、俺のゴーグルに映し出されているのだ。
ようやく事態が飲み込めた。
アリチェは俺に、このトイボットを遠隔操作しろと言っているのだ。
<アリチェ> 今からボット本体を床に置くけど、動かせる?
風景の画像がグワーッと流れ、やがて床すれすれの視点で店内を見渡す映像になった。
アリチェがボットを床に置いたのだ。
ゲームセンターの『ヴォルボットアリーナ』は俺が小学生のころに日本で大ブームになった。
ヴォルボットはハンドジェスチャーで操作する。
つまりゴーグルの外側に内蔵されたカメラで両手の動きを捉え、手の動きをボットの挙動に反映させるのだ。
試しに俺が握りしめた右手を前方にぐいと動かすと、同じようにボットの右腕が前方に突き出された。
「こいつ……動くぞ!」
=== 用語解説 ===
【ヴォルラック】
正式タイトルは『重星覇装ヴォルラック』。50年前にヒットした古き良きロボットアニメ。ド直球な熱い物語には今でも根強いファンが多い。
【ヴォルボット】
商品名。ヴォルラックを題材にしたホビーボットのシリーズ。身長15センチ。ゴーグルを使って遠隔操縦することができる。
【ヴォルボットアリーナ】
ヴォルボットどうしを戦わせるゲームセンター用の大型ゲーム。ヴォルボットは私物を使うが、その場でレンタルもできる。




