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3-4 レンマが壁ドンしたw




「いててて……」


 肩をしたたかに強打した俺は、思わずうめき声を上げてしまった。


 しかし肩の痛み以上に、オモチャごときにおちょくられたことが悔しくてならない。

 しかも量産型ゲラフは、アニメ本編ではヤラレ役のザコキャラだ。

 こんな奴に負けるわけにはいかないのだ。


 俺は体勢を立て直し反撃に転じるため身構えたが、既に視界内に敵の姿は無かった。


「レンマ兄ちゃん、大丈夫!」


 姿は見えないが、数メートル先からドッツォの声が聞こえた。

 ゴーグルの視界にログが流れる。


<ロニャ> うわーお! レンマが壁ドンしたw

<アリチェ> これを壁ドンとは言わないでしょ。ただの自爆よ。


 ロニャとアリチェの野郎!

 高みの見物で俺の失態を実況してやがる!


<ドッツォ> レンマ兄ちゃん、怪我は無い!?


 お前だけは俺を心配してくれるんだな!

 ありがとうドッツォ!


「大丈夫だ。

 だが、あいつ、飛びやがった。

 あの商品にあんなジャンプ力あるはず……あ!」


「どうしたの?」


「重力の差を忘れてた。

 あいつら地球上では30センチぐらいしか飛べないが、月では6倍高く飛べるんだ!」


「ええぇっ!?」


 ロニャとドッツォが同時に驚きの声を上げた。


 30×6=180。つまり月面で奴らは人間の身長を超えるぐらいのジャンプができてしまうということだ。

 地面を歩いているならともかく、ぴょんぴょんと飛び跳ねられたら、捕まえるのは容易ではない。


 ――そのとき。


「きゃぁっ!」


 ガシャンという何かがぶつかる音とともに、女性の叫び声が聞こえた。


 一瞬、誰の声なのかと考えてしまったが、ロニャ以外には考えられない。

 あんな女の子っぽい声が出せたのか!?


<ロニャ> 嘘でしょ!? 頭踏まれた! あたしの頭を!

<アリチェ> 被害報告。ロニャが2号機に接触。逃走を許した模様。

<ドッツォ> こっちにも来たよ! うわっ、速い!


 チャットが激しく流れ始めた。

 戦況は混迷を極めているようだ。

 俺より運動神経がよくて月の重力にも慣れているロニャでさえ捕獲に苦労するんじゃ、状況はかなり悪い。


<ドッツォ> 掃除機を使ってみるね!

<アリチェ> 推奨するわ。吸引力で機動性を奪えるかもしれない。


 ――確かに。

 掃除機のパワーを上げれば、ホビーボットの動きを封じることができるかもしれない。


「俺もやってみる!」


 俺は腰のホルスターから掃除機を取り出すと、先端をシャキッと伸ばしてから電源を入れた。


 手に伝わる微細な振動。

 今の俺にとって、これは単なる清掃用具ではない。

 対兵機用・真空吸引キャノンだ。


 俺は俺をコケにしたトイボット『ゲラフ』を追って、掃除機を構えながら通路を進んだ。


 こうしていると、子供のころ近所の公園でエアガンを持って走り回っていた記憶が蘇る。

 あの頃の全能感が、今の俺には必要だ。


「うわぁっ!」


 陳列棚に阻まれて姿は見えないものの、ドッツォの慌てた声が聞こえた。

 少し遅れてドスンと尻もちをついたような音もする。


<ドッツォ> あいつ僕の掃除機を踏み台にしたぁ!

<ロニャ> あはは! ドッちょもやられてるし!

<アリチェ> ……敵の学習能力が高いわね。こちらの攻撃パターンを読んでいるわ。


 またか。

 ずる賢い奴らだ。

 悔しいが、俺たちは完全に手玉にとられているようだ。


<ドッツォ> あいつの肩に番号が書かれてたよ。3番って!

<ロニャ> あたしが見たのは2番だったよ!


「どうやら3機いるようだな。俺は1番を見た」


 俺が陳列棚に背中をぴったりとつけて角の先を覗き見ると、そこに奴がいた。


 1号機だ!


 しかもこちらに背中を向けており、まだ俺には気づいていないようだ。


 あのホビーボットは頭部に取り付けられたカメラとマイクで周囲の状況を認識するが、背後は死角のはず。

 悟られないように奴に近づくにはどうするべきか……。 


 俺は意を決して磁力ブーツを脱いだ。


 磁力ブーツは低重力下でも足を床に固定してくれるので非常にありがたい存在なのだが、これで歩くとどうしてもカツンカツンと大きな足音がしてしまうのだ。

 俺は靴下だけの足を床に降ろすと、掃除機の先端を前方に構え、敵の少し手前に着地できるように力を加減して床を蹴った。


 ふわり。

 無音の跳躍。


 さすが月面!

 俺の体はスローモーションのように飛翔し、呑気に棒立ちしているゲラフの背後へと忍び寄った。


 掃除機が対象を認識し、ブォォン! と唸りを上げてモーターが最大回転に達する。


 いまさら気づいても遅いぞ!

 俺は掃除機の先端をゲラフの背中へ命中させた。


「獲ったぁっ!」


 と思わず勝鬨かちどきをあげたとき、妙な違和感が俺を襲った。


 敵の手足が、まったく動いていないのだ。


 しかも、妙に軽い!


 吸い付いているのはボットじゃない……ただのフィギュアだ!


「くそっ!

 謀ったな、ゲラフ!」


 あのホビーボットに搭載されているAIは思っていた以上に狡猾だ。

 まさか自分と同型のフィギュアを見つけてオトリに使うとは!




=== 科学的補足 ===


【低重力下でのジャンプ】

・月面の重力は地球上の6分の1しかないため、ジャンプした場合の高さは6倍、着地までにかかる時間も6倍になる。便利そうに思えるが、体が回転しはじめてしまうと着地するまで止まらないので、バランスをとるのが非常に難しい。


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