地下を駆ける――『融合術式・鋼殻突撃式《ユニゾンコード・ファランクスチャージ》』
夜に灯りがあることに慣れてきた帝都の人達が、突如消えた光に混乱する声が聞こえ始める。
この混乱は徐々に大きくなる。そしてそれが、僕達にとっての好機だ。
「行きましょう、将軍」
「ああ……!」
力強い頷きと共に、剣を提げて立ち上がる将軍。
「失礼します。準備は整っておりますか?」
扉を開けて素早く部屋に滑り込んできたイシュタット兵に首肯し、共に部屋を出る。最後尾の僕がロウソクの火を吹き消す。
飛び出た廊下も、外がまだ街灯の影響で明るかったからか、燭台に火は灯されていない。おかげで近くにいる人が辛うじて判別できる程度の暗さだ。
「レイネート、使うぞ」
「はい」
『暗視』を使って視界を確保する。開けた視界では、丁度将軍が眼鏡をつけたところだった。
「意外と似合いますね」
「見えるのか?」
「ええ。そういう訓練を受けていますので」
イシュタット兵の言葉に気恥ずかしそうにしているが、予想外に似合っている。もちろん、似合っているから突然眼鏡をかけたのではなく、これからの作戦のためだ。
今から僕達は、王族が使う秘密の地下道を使って城へと接近する。ユルゲンさんが極秘ということで僕達二人だけに教えてくれたものだ。明かりの無い地下なので松明などの明かりが必要なのだが、混乱のために街灯への動力供給を止めたため帝都は真っ暗だ。
そこで、直接侵入を試みる将軍に『暗視』の術式を組み込んだ魔法道具を渡している。それがこの眼鏡だ。
「視界はどうですか、将軍」
「良好だ。これだけ見えれば十分だろう」
問題無く機能しているようだ。存在を不用意に広めないために、王族専用通路を通るのはやがて別の世界へと帰る僕と皇帝になる将軍の二人だけ。迅速な隠密行動のためにもそれがいいと判断された。城へ入ってからの行動は状況によって臨機応変にしなければならないので、貴重な戦力である将軍は存分に武力を振るえる状態でいてもらわなければならない。
「急ごう、そろそろ混乱も大きくなってきたようだ」
宿はイシュタット軍で貸切なので他の客はいないが、従業員が外の異変に騒ぎ始めている。頃合いだろう。
「では、手はず通りに」
「協力、感謝する」
階下へと降り、混乱を装うイシュタットの兵士と宿の従業員たちの間を駆け抜ける。店主が慌てて明かりを取り出しているようだが、それをさりげなくイシュタット軍が邪魔している。おかげで見とがめられることも無く宿の外へと出られた。
「どうなっているんだ!」
「急に暗くなってしまった……日が落ちた途端になんて、迷惑な……」
「巡回の兵士はどこに居る!? 説明しろ、何が起こってるんだ」
宿の外も似たような混乱状態で、夜遊びを覚えたての帝都市民が右往左往して騒いでいる。
施設を破壊した時間は最高で、街灯の明るさに慣れた市民はまともに前も見えていないらしい。フラフラと手さぐりで動き回っている。
「よし、ここまでは予定通りだ」
「行きましょう」
目的の地下道に入るためにはいくつか出入り口があるが、偶然にもその内の一つがイシュタット軍が貸し切っている宿の裏手近くにあるらしい。これは本当に狙ったわけではなく、帝国側から宛がわれた宿の一つが出入り口に近かったとのこと。
「罠、の可能性もあるがな」
「それでも行くしかないのが辛いところですね」
前回の僕が城に潜入した時はバーツさんから情報が流されていたと考えられる。今回はそれが無いのだから罠では無いと思いたいが、完全には否定できない。
作戦としては、この混乱に乗じて他の離反軍の面々にも動いてもらい、帝国軍の注意を分散する予定ではある。ユルゲンさんの裏切り自体がまだ知られていなければ、地上で散発的に動く部隊で陽動できるはずだ。
「赤の印から東に十歩、北に三歩。黒と白の落書き……あった、ここだ」
入口は比較的簡単に見つかった。周辺の地面と巧妙に同化しているが、教えられた位置には確かに四辺形の切れ込みがある。これが扉だろう。
「開けるか?」
「任せてください」
入口とは言っても、本来ここは出口だ。有事の際、王族だけでも城から逃げられるように外壁に程近いこの位置に用意された逃走口。間違っても外部からの侵入者に使われないよう、隠された上で人力では開けることが出来ないよう落し蓋のようになっている。
指を入れる隙間の無い重い鉄板は、もし見つかってしまっても入口としては使えない。
「特別な方法でも無ければ、ね」
重いとはいえ所詮は鉄板だ。鉄ならば熱で溶ける。
四辺形の中心に向けて術式を展開する。『融合術式』を起動して、その上に『風爆発破』と『爆裂火球』の熱量を上昇させる術式の一部を乗せる。さらに、イグナシルで一般的な家庭用の火力として使われている『火炎』の術式を並列に繋げば、高温の火を噴出する術式となる。
戦闘用として使えば、強力極まり無い。安全のため将軍に離れるように合図して、鉄板にへと向かう。
「術式、起動」
展開した術式から炎が噴出する。炎自体は細長く派手では無いが、やや青白く発光する炎の熱は近くにいるだけで感じる。周囲に気付かれないよう、起動したまま光を遮断するように術式を修正する。
あくまで術式自体は『融合術式』なので、魔力消費量は多くなる。構成式は記録しておくとして、あまり長時間の仕様は望ましくない。想定以上に分厚いか、耐熱性に優れていればこの後が辛くなる。
「どうだ?」
「厚さについては大丈夫だと思います。中から開ける必要がある以上、特別な機構でも無ければ人力で押し開ける程度のはずですから。問題は耐熱性ですが……」
熱されて赤く変色する鉄の板。しばらく続けると、炎が当たっているあたりが溶け始めた。
「よし……!」
一度溶け始めると、徐々に周辺にも広がっていく。書類を燃やしたようにとはいかずとも、確実に入口が開けていく。
「……よし、この程度で十分だろう。中に入るぞ」
「はい」
術式の起動を止めて、足場になるように用意しておいた長めの鉄板を穴から差し込む。地面に当たったのを確認して固定し、溶けた鉄を踏まないよう慎重に地下道へと入った。
「空気が澱んでいる様子は無いな」
「第一関門は突破ですね」
ユルゲンさん曰く、長く使われずに放置していると、地下に澱んだ空気が溜まって毒となっていることがあるらしい。今回はそうなっていないが、逆に言えば定期的に空気の入れ替えが行われているということ。機密性の観点から考え難いが、手入れをする兵士との遭遇戦も覚悟しなければならない。
「道順は頭に入っているな?」
「大丈夫です、覚えてます」
「なら走るぞ」
言下に走り出す。今頃上では仲間が陽動を始めているはずだ。僕が居る可能性を消さないためにも残っていた魔法道具は全て渡してある上、直接戦闘をするわけでない。すぐさま捕えられるということもないとは思うが、早急に事を進めるに越したことは無い。
イシュタット軍からの協力は望めない。ここまで助けてもらっただけでも十分過ぎる程だが、今後の彼等の立場を考えてもこれ以上は限界だ。
「次は右ですね」
「ああ。……ところで、レイネート」
「はい?」
「これが終われば、すぐに元の世界へと帰るつもりか?」
真っ直ぐに前を向いて走りながら問われる。何かを問う時は相手の目を見ながらであることが多い将軍にしては珍しい。
「そうですね……。皇帝がイグナシル侵攻に使う方法が不明な以上、すぐに帰還とはいかないとは思いますが……あの世界にも疑問を持ってしまいました。出来るだけ早く戻りたいとは思っています」
「そうか」
それだけを言って口を噤む。おかしな様子が無いので余計に気になる。
何故そんなことを聞かれたのだろうと少し考えて、一つの可能性にはたと気づいた。
「……将軍が『皇帝』になってしばらくは、僕も手助けをしたいと思います」
「いや……すまない、引き留めるつもりでは無かった。
とはいえ、やはり不安でな。叔父上も助けてはくれるだろうが、元々が妾の子だ。国民が認めてくれるかわからないし、混乱を収められるがどうかわからない。事ここに至っても、まだ自分が玉座に座りことが正しいと思えないんだ」
らしいと言えばらしい、らしくないと言えばらしくない悩みだ。
「お前には、初陣から今日まで随分と助けられた。私の指揮官としての功績は、実際はお前の功績だと言ってもいい」
「そんな……言い過ぎです。将軍の実力ですよ」
迷いなく迷路のような地下道を進みながら、首を左右に振る背中。
「私は狭い世界に生きている。子供の頃からずっと、自分の知っているものだけを守り、自分の知っていることだけを信じてきた。
それは今でも変わっていない。そんな私が、人々を導くことが出来るのか――いくら考えても、望む答えは得られないんだ」
二人きりだからか、それともこれからの戦いを意識してか。不安を吐露する声はいつも通りでも、その内容はいつもの将軍からは聞けないような内容だった。いや、あるいはこれが本来の、上官としての重圧の無い時の姿なのかもしれない。
他人に認められながらも、どうしても信じきれない自分自身への疑問。……どこか、覚えのある感情だった。
「……大丈夫ですよ、将軍」
安請け合いかもしれない。だが、あえてそう口にした。
かつての僕と同じ不安を、将軍は感じている。それも、僕の時とは比べ物にならない規模の重圧で。だからせめて、僕が救われた言葉を少しだけ借りることにしよう。
「『自分を信じろ。そうすれば、未来を変えることも出来る』。……口にしてしまえば、将軍なら実行できます。魔法なんてものを使わなくても、それは『予言』のように。
僕が、保証します」
そう伝え、二人共沈黙する。
二つ角を曲がったところで、前方から小さく一言だけ、「ありがとう」と聞こえた。
「あと少しだな」
「そうですね。もう城の敷地内には入っているかもしれません」
あの会話の後、しばらく黙って走り続けた。事前情報では、そろそろ玉座のある謁見の間か、皇帝の寝室に繋がる階段が近い。
「よし、あの角を曲がれば――っ止まれ!」
小声ながら強い語調で制止がかかる。また一つ角を曲がった先、暗闇を見通しているはずの空間に光が見える。揺れながら道を照らすそれは、松明の光だろう。ランタンなどの灯りが本来備えられていないこの地下道では、外部から持ち込まない限りは無いはずのものだ。
それだけではない。松明ということは、この世界にある他の照明道具よりも短い時間しか持たない。
「居るな」
魔力節約のために常駐を切っていた『自動索敵』を起動する。意識の中で広がる小さな地図に映るのは濃い緑の光点と、血のように赤い明確な「敵意」。
「僕が先頭を行きます。ここは魔法を無力する技術は使われていません。十全の『覆い包む城壁』なら、矢を至近距離で受けても耐え切れます」
「わかった、頼む」
狭い通路で隊列を入れ替えて、先頭に立って『覆い包む城壁』を起動する。
「――行きます」
宣言して走る。後ろにはつかず離れず、安全な距離で将軍がついて来ているのがわかる。
敵がいるなら余計な気遣いよりも先に、走り込んで即制圧の方がいい。足音が壁に反射するのも厭わず全力で走り込む。すぐに辿り着いた曲がり角を飛び出して敵に相対し――
「よく来たな、賊めが」
――待ち伏せていた帝国元帥の銃撃に晒された。
「っぐ!」
「兄上!?」
ガルドの使っていたものより、明らかに威力の高い『銃』のよる攻撃は、この至近距離では衝撃を防ぎきれない。結果足を止められ、走り込んだ勢いを殺されてしまう。
「貴様等の考えなど見抜いている。信じたくはないが、ユルゲン様が裏切ったようだな。王族に満たないそこの女がここを知っているはずがない」
両手に握った『銃』を構える元帥。将軍の兄であるはずだが、その目には妹に対する情など微塵も感じられない。あるのはただ、敵に対する敵意のみだ。
「上で小賢しく動いているのは貴様らの仲間だろうと思ってな。最悪の可能性を考えて来てみれば、まさか本当にこの道を通るとは……」
――先の所見を訂正しよう。僕達を睨みつけるその目にあるのは「敵意」なんて生温いものじゃない。帝国、ひいては皇帝である父に仇なす賊に対する「殺意」だ。
周辺国の中ではずば抜けた強さを誇る帝国。その軍事における皇帝を除いた最高位についているのは、皇帝の息子であるからというだけではないことを改めて思い知らされる。それは将軍も例外では無いらしく、背中に感じる警戒心は通路を進んでいた時の比では無い。
「卑しい賊風情が、何を思い違いしているのかは知らんが……身の程を弁えろ」
静かで深い殺意が銃弾という形で放たれる。『覆い包む城壁』を前方特化に変化させるものの、距離が近過ぎて効果が薄い。貫通こそしないものの、銃弾が命中するたびに衝撃が術式を通して腕に伝わる。
「アズガルド兄上!」
防戦一方になりつつあるのを見かねてか、後ろで剣を抜く音が聞こえる。
「もはや貴様に兄と呼ばれるいわれは無い」
「っ……それは、そうかもしれません……。ですが、聞いてください。私は父の理不尽を正すために打倒するという手段を選びました。それに対する非難はいくらでもお受けします。ですが――」
「見苦しい言い訳など聞きたくも無い。耳が腐る」
再び放たれる銃弾。身を乗り出していた将軍の前に弾道を遮って立つ。
反撃の手立ても、無いわけではない。しかし、そのためには準備がいる。何より、今はまだ将軍が話すための時を稼ぐのが優先だ。
「アズガルド兄上!」
「兄と呼ぶなと言ったぞ。裏切り者の言葉など、聞くに堪えん」
攻撃は止まない。冷徹な元帥の言葉は、会話の余地など無いと拒絶を示している。
いくつ用意しているのか、銃弾が切れたらしい『銃』は投げ捨ててもう一方の手に握った方で撃ち続け、その間に懐から新たな『銃』を取り出す。信じ難い量産数だ。
「――私は、貴方まで殺したくはないんです!」
断続的に続いていた銃撃が止む。
「何を言っている?」
怪訝な顔で問われる。その視線は、僕を通り越して背後の将軍に向かっている。
「父は、打倒する他ないと結論を出しました。しかしアズガルド兄上、貴方まで殺したくは無い。
私は、皇帝になるつもりです。そしてそれが私には過ぎたものであることも理解しているつもりです」
「ならば諦めろ。元より、そのような妄言を認めてやるつもりも無い」
綻んだ……!
頑なだった元帥の態度が、想定していなかったであろう言葉で揺らいでいる。なまじ本心からの言葉であることがわかるせいで無視もできないのだろう。
これは好機だ。隙と言える程のものではないから、攻撃に転じることは出来ない。そのつもりもない。
視線は敵に向けたまま、意識を内に向ける。『覆い包む城壁』の起動を止めて、他人には見えない魔法領域で思考を走らせる。
「だからこそ――私には過ぎた役割だからこそ、支えてくれる人が欲しいのです」
「そこの小僧にでも頼めばよかろう」
「レイネートは居なくなる人間です。いつまでも頼るわけにはいきません」
「だから私に頼ろうというのか。勝手なことだな」
二人の会話を聞き流しながら、内に落し込んだ意識を全力で動かす。
改良を施された『銃』は、ただの『覆い包む城壁』では至近距離の威力に対応できない。城に潜入した時にもそれは感じた。そこで考えた新たな『融合術式』。それを、今ここで組み上げる――!
「アズガルド兄上は優秀です。あの父上に、元帥を任されるほどに。そしてその力は、得難いものだということは私でもわかります。
勝っては百も承知です。ですが、それでも……私は、兄上の協力が欲しい」
「…………」
向けられた銃口が下ろされるのを見て、意識を魔法領域から引き戻す。
「理論も何もあったものではないな。それで説得しているつもりか?」
「貴方に、小手先の交渉が通じるとは思いません。だから、思うところを正直に話しました」
この人は、本当に優秀なんだろう。将軍が、ただ自分の都合だけを話して協力を求める程に。
それが伝わるような相手なら良かった。下ろした『銃』を腰の剣帯――『銃』のものだから銃帯というべきか――に収め、そのまま検討をしてくれる相手ならば、どれだけ良かったか。
「アズガルド兄上……」
将軍の声は、説得されてくれたことへの喜びで震えて――などはいなかった。
「将軍!」
「身の程を弁えろと言ったはずだ、反逆者如きが!」
掌より少し大きい『銃』を収めて、その直後に腰の後ろに回した手に握られていたのは、僕の知っている『銃』よりも数倍長い銃身の、黒光りする新たな『銃』だった。
再び起動した『覆い包む城壁』が間一髪で防いだ銃弾は、前方特化していなかったとはいえ一撃で魔力壁を打ち砕いた。
「皇帝になりたいと言うならば、私を殺してみろアーシェ・バロン……いや、アルシェラ」
向けられる銃口。狭い通路、連射速度、威力、人数。全ての条件が相手にとって好都合なものが揃っている。反撃どころか、生存すら不可能。――そして、その不可能を覆すために生み出された技術が僕の扱う『魔法』だ。
「術式展開――!」
「余計なことをするな、部外者の分際で!」
強化された五感で、打ち出された銃弾が複数個に分散して迫ってくるのを知覚する。
一発一発が必殺の威力をもって打ち出された銃弾は、逃げ場を奪うように拡散する。元帥の切り札であるそれは、先程までの僕達ならば十分に殺すことが出来た。
だがそれは、先程までの話だ。
「……なぜだ」
それまで冷静だった元帥の顔色が変わる。防げるはずの無い攻撃、それを防いだことが凍った表情を解かすことになった。
「将軍、先に行ってください。僕もすぐに後を追います」
「……すまない、任せる」
悔しそうな顔で走る将軍は、道を塞ぐ敵を僕が倒すことを微塵も疑っていない。
その無条件の信頼には、答えなければならない。
「行くぞ! 『融合術式・鋼殻突撃式』!!」
『覆い包む城壁』は薄い魔力壁を操作するだけだった。だがそれでは敵の攻撃を正面から受け止めることになる。そのせいで、元帥の使う高威力の『銃』による攻撃を防ぎきれなくなった。
これは違う。衝撃と攻撃の起動を逸らすため、敵に頂点を向けた円錐の形に魔力壁を構成して展開している。加えて、『融合術式』の術式上に『風爆発破』による指向性の風圧を体の四肢と背中から噴出して推進力を得る――!
「そこを退いてもらう!」
「ごっ……ふ!」
先を進む将軍の横を一瞬で駆け抜けて、攻防一体の「魔力角」とでも呼ぶべきものを元帥に突きたてる。魔力によって生み出した爆風に近い風の推進力そのままに、通路の先にある壁まで一気に突進する。
直進の限界に到着し、壁に叩き付けるような形になった元帥の口から血と空気が溢れ出す。
「貴っ様ぁ……」
「貴方に対抗するための魔法です。皇帝のところまで、通してもらいます」
「くっ……!」
しばらく気を失わないように抵抗していたが、次第に力を失い、やがて気を失った。
撃破したことを確認して、魔法を解除する。
「うっ……」
立ち眩みがして、よろけそうになるのを両足を踏ん張って耐える。
分厚い魔力角の構築と推進力として爆発的な風を起こすために、一時的に大量の魔力を必要とする。最近わかってきたことだが、マナの使用は確かに大きな魔力を確保するのに有効な手段ではあるが、一定の割合で自分の魔力を消費しなければならないらしい。
総合的な最終消費魔力はともかく、『融合術式・鋼殻突撃式』は瞬間的な魔力消費量が今までの魔法の比では無い。ただでさえ消耗の大きい『融合術式』に他の術式まで組み込んで、いっきに放出しているのだから当然といえば当然だが。
「将軍は……」
どうやら、すでに先に進んだらしい。
一瞬で直線の通路を端まで突き進んだために、本来曲がるべき場所を通り過ぎてしまった。将軍は僕を信じて正しい道を進んでくれたはずだ。
「行こう」
大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせて、踵を返す。
「…………」
最後に一度だけ振り返る。
暗闇で倒れる元帥は、まだ息がある。今ならトドメを刺すことも出来る。
「将軍は、本当に貴方の助けが欲しかったんだと思います」
それどころか、本当ならば皇帝の座はこの人がいるべきだと考えていたはずだ。血がどうとか、兄妹がどうとかという話ではなく。
それが少し羨ましい。
僕も信頼してもらっている。この状況がその証拠だ。だが、あくまで助け合うという形だ。あそこまで一方的に求められることは無い。僕では、ただ助けるだけの人間にはなれない。
「なれない、じゃダメなのか」
そうだ。言葉にして、実現する。それが、将軍に教えてもらったことだった。
「よし」
気合いを入れ直して、一時的な魔力不足の疲労を振り払う。
進むべき道の記憶を辿って、将軍の後を追った。




