最後の戦いへ
「んんっ!」
呪文のように脳内を支配する言葉を振り払うために咳払いをする。これが功を奏したのか、込み上げていた笑いが収まってくれた。
思わぬ事態に頭がついていかず気が抜けてしまっていたが、この異常事態はもっと深刻に受け止めるべきだ。改めて気を引き締め直す。
「将軍、このままユルゲンさんに従うつもりですか?」
「…………」
答えは返ってこない。迷っているのが良くわかる。
ユルゲンさんのことは悪い人では無いと思う。帝国軍とのやり取りから、自分達を捕えるために帝国に協力したというわけでも無いだろう。
とはいえユルゲンさんは一国の王で、皇帝の弟だ。どこまで信用していいのかわからない。
「まずは生き残った皆と合流しよう。今後のことはそれからだ」
この消極的な意見に、将軍らしくないと思ってしまうのは考え過ぎか。
イシュタット軍に保護された仲間は、軍から離れた位置で集まっていた。装備は薄汚れ、皆が皆とも疲弊していることがわかる。眠らされているという話だったが、すでに全員が目を覚ましているようだ。
馬を下りて真っ先に駈け出して行った将軍は、皆が気付くとすぐに頭を下げた。
「すまない。私の指揮が原因で多くの仲間を無為に失ってしまった……!」
「そんな! 将軍の責任では……」
「そうですよ、頭を上げてください!」
突然の謝罪に驚いて頭を上げさせる。それでも申し訳なさそうにする将軍は、目を合わせはするものの苦渋に満ちた表情を崩さない。
よくよく考えれば、初陣が僕の初めての戦いでもある連合との戦い。その次は裏切った同盟国の戦闘。どちらも結果だけを見れば圧勝。通常の戦闘よりも遥かに少ない被害しか出していない。
慣れていないのだ、大勢の部下が死ぬという事態に。どれだけの武勇を誇っていても、指揮官としてはまだまだ初心者の域を出ないから。
「将軍。今回のことは確かに残念ですが、回避しようの無いことだったと思います」
圧倒的な戦力差に加え、秘蔵の魔法兵器が投入された。全滅必至の戦いであったと思う。
性格上、そんな理由は慰めにならないだろう。「理由はどうあれ、原因は自分にある」、そう考えるのがこの人だ。
唇を噛み締め、今までに無い程打ちのめされている姿は、悩んでばかりいた僕の姿にどこか似ていた。
「後悔は、してもいいと思います。それで将軍が納得するなら。僕だって、無謀なことを頼んでしまって、大した成果も持たずに帰ってきてしまいました」
「いや、お前は悪くない。お前が用意してくれた魔法道具が無かったら、抗うことすら許されなかっただろう。帰ってきてくれたおかげで、この場にいる人間は助かることも出来た」
あくまで原因は自分にある、と。本当に、この人は……。
「だったら、『無為に死なせた』なんて言わないでください。亡くなった人達は、僕が頼んだ通り時間稼ぎをしてくれて、ここにいる人間を助けるために散っていったんですから」
僕達がいくら責任は無いと諭しても、納得はしないだろう。だったら、そのことは折り合いをつけるまで本人に任せておけばいい。この人なら、自分自身で解決できるだろうから。
僕は、せめてもの助けとして責任を軽くしてあげる程度しかできない。それも、将軍の発言を責めるような形になってしまう。
「そう、だな。私が彼等の死を無駄にするわけにはいかんな。
すまない、皆。こんな私だが、もう少しだけついて来てくれないか?」
その言葉に、もちろんだと言うように全員が頷く。その力強い頷きに、ようやく将軍の表情から硬さが取れた。
「気を使ってくれて、ありがとう」
小さく僕に耳打ちして、弱々しい笑いが真剣な顔つきに変わる。
「私の認識不足で大勢の味方を失ってしまった。だが、不幸中の幸い、イシュタット軍が助け舟を出してくれている。意図が読めない点は警戒すべきだが、これはチャンスだ」
おそらくは、正真正銘僕らが生き残る最後の好機だ。
「私とレイネートは、帝都に戻って皇帝と対峙するつもりだ。――お前達は、どうする?」
皇帝に対峙するという言葉に、少なからず動揺が返ってくる。とはいえ、それもすぐに収まる。ここまでくれば、皆も覚悟が決まっているからだろう。
言葉は発さなかったが、全員がはっきりとした視線を向けてくる。
「ここまで来て何を言っているんですか。我々は、貴方達について行きますよ」
隊長格の一人が代表して発言する。
うっかり涙ぐみそうになるのを必死で押し殺して、将軍の横に並ぶ。
「元はといえば、僕のせいで皆さんを危険な目に合わせ続けています。お詫びのしようもありません。
僕は、今回で終わりにしたい。そう考えています」
皇帝を止めることは、限りなく義務に近い。だがそれが僕を助けてくれた人達にとっても助けとなるのなら、迷う理由は無い。
今の帝国は、あきらかに皇帝の狂気が動かしている。科学までもを取り込んで肥大化しようとしている帝国を止めるには、頭である皇帝自身を止めるしかない。おそらく、その先には新たな問題もあるだろうが……。
「将軍、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「貴女は、皇帝になるおつもりはありますか?」
その場にいた全員が、隊長格のその言葉に凍りつく。
狂っているとしか思えない皇帝。それを「止める、打倒する」ということは、「殺す」という手段に訴えかけるということとほぼ同義だ。
一国の国主がとつぜん死ねば、国そのものが崩壊の危機に晒される。元帥の様子からしても、皇帝の息子達は皇帝と同じ考えを持っているだろう。ならば、皇帝とその息子以外を国主にする必要が出てくる。
「私が、皇帝……」
皇帝の娘であるらしい将軍は、先の条件に該当する人間だ。仮に皇帝を殺し、その座を空位とした場合には新たな皇帝となる人間として適当だと言えなくも無い。
だがその場合、貧民街出身の妾腹の子が反乱を起こして皇帝の座を奪い取ったと言われてしまう。
将軍の人格を知っている者なら、ただ権力を求めたものではないとわかるかもしれない。だが、それ以外の人間はどうか。皇帝が異世界への侵攻を企てており、それを異世界の人間と共に阻止したのだと言って、一体どれほどの人間が信じるだろうか。信じたとしても、納得はされるだろうか。
将軍本人も、皇帝を倒すとした時点でその可能性を考えなかったわけはない。自分が矢面に立つことを嫌がる人でも無い。だが……。
「事を終えてから考える、というのは逃げだろうな……」
「私は、貴女を責めているわけではありません。しかし、後継者を擁立することもせずに一国の王を打倒するのは危険だとも考えております」
当然の意見だ。イグナシルへ帰ることを望んでいる僕と違って、彼等はこれからもこの世界で、それも帝国で人生を過ごす。本来であれば、国に利益をもたらす異世界侵攻に反対する理由すら無いとも言えるのだ。
そんな中でも、僕に協力してくれる将軍を信じて人生を賭けてくれたのが、この場にいる元・帝国兵の人達。その未来があるかどうかという問いだ。
「私は――」
「お話中失礼。ちょっといいかな?」
『!?』
気配も無く声をかけてきた相手に、全員が驚いて視線を向ける。その先には、普段通りの笑顔でユルゲンさんが立っていた。
「真剣に話し込んでいるので、割り込むのもどうかとは思ったんだけどね。どうも私にも無関係な話ではないようだから」
そうだ。ユルゲンさんはイシュタット王国の王であり、帝国皇帝の実弟だ。継承権の関係がどうなっているかはわからないが、権利はある。いや、むしろイシュタットが同盟国として崩壊寸前の帝国を吸収した方が合理的かもしれない。
「叔父上……」
「君達は、兄を倒すつもりなんだね?」
笑顔のまま確認をとる。そこからは怒りのような感情も、反乱分子を排除しようとする意思も感じ取れない。
「我々を皇帝に差し出しますか、叔父上?」
警戒するような言葉には、会ったばかりに表した乙女のような様子は一切ない。真剣そのものだ。
……二人を同時に視界に入れてしまったせいでまたも脳内呪文が再発生してしまい、肩が震えたのは内緒だ。
「……アーシェ、質問に質問で返すのは感心しないな」
「しかし――」
「私の質問に答えなさい、アーシェ将軍」
穏やかな口調のまま。そのはずなのに、表情からは笑顔が消え、肌がヒリ付くような威圧感が発せられる。そこには姪に対する優しさは微塵も無い。
これが、「王」としての顔。
「……その通りです、イシュタット王」
さすがの将軍も気圧され気味。僅かに汗をかいている。
離反兵の皆も、急変した態度に警戒心を露わにし、武器に手をかけている。
「君は父親を打倒するつもりなのかい?」
「あの方を父と思ったことは、一度もありません」
「だからといって、自分が仕えている主君を裏切ると?」
「許されることだとは思っていません。ですが――」
気圧されている感のあった将軍が、はっきりと顔を上げ、いつもどおりの強い視線を向けた。
「納得できないことを、受け入れるつもりはもうありません」
一国の王に対して一歩も引かない宣言。それも、叛意を示しているとはいえ自国の皇帝を倒すという内容。
相手は皇帝の弟であり、同盟国の王。はたして、どう動くか。
「…………」
「…………」
互いに睨みあって動かない。ピリピリとした空気の中、僕達外野の人間は何もできないでいる。
……いや、違う。他の皆はともかく、僕は外野なんかでは無い。将軍達にここまでのことをさせているのは僕だ。
「ユルゲンさん」
「なんだい、レイジネート君」
此方は一切見ずに答える。本来の名前で僕を呼ぶユルゲンさんに、皆が不思議そうに僕を見る。思えば、この世界で僕の本当の名前を知っているのはガルドとユルゲンさんくらいだったか。
「皇帝を倒すのは、僕です」
「君だけでは出来まい」
「はい。だから、将軍達には巻き込まれてもらいました」
「レイネート! 私は――!」
「いえ、そこは認めてください将軍。ここにいる皆は、元を辿れば僕が巻き込んでしまった。その責任が僕にあるし、皇帝を止めなければならないのは僕の勝手な事情です」
帝国は、僕の知る国の中では一番うまくいっている。時代の波に乗っているとでもいうのか。やり方はともかく、周辺の国を実質的に吸収し、敵は次々と撃破して大きくなっている。
それらを成し遂げたのは現皇帝だ。そんな自分達の主君を打倒するような理由は、本来帝国の人間である皆にはない。多少の理不尽くらいは、黙っていられるはずだ。
将軍が、将軍を慕う皆が助けてくれるのは、僅かなものでしかなかった不満を僕と言う火薬が爆発させることになったから。
「僕は、僕の帰る場所を失わないために皇帝を止める。そのために、助けてくれた人達の帰る場所を奪おうとしています」
「そこまで自覚していながら、何故止めようとしない。悪いとは思わないのかい?」
「思っていますよ」
ゆっくりと向けられる視線。静かな目には力こそ籠っているが、感情は無い。ただ僕を見極めようとしている。
以前の僕なら逃げていたな、と。不意に妙な笑いが込み上げてきた。
今の僕は、逃げない。逃げられない。そんなわけにはいかないし、そのつもりもないから。
「でも、ここで止めたら全てが無駄になる」
将軍の優しさも、バーツさんの願いも、ガルドの呪いも、出会った人達全員の思いが無に帰す。
「そんなこと出来ません。恨まれるなら、終わった後でいい」
酷い開き直りだ。何度も挫けて諦めて、無駄にしてきたくせに。
でも、コレを教えてくれたのは貴方ですよ、ユルゲンさん。
「諦める気は無いようだね」
「はい」
「周りを巻き込んでも、貫くんだね?」
「はい」
「……よろしい」
将軍に向き直るユルゲンさん。その直前、言葉の最後で見えた横顔は、優しげな微笑に見えた。
「アーシェ・バロン」
「は、はい」
「次は、君の覚悟を問わなければならない」
「――はい」
一瞬だけの微笑はすでに跡形も無い。将軍に向けられる表情はさっきまでと同じ、無言の圧力を発する静かで厳しいものだ。
「今の帝国は、良くも悪くも現皇帝バルヘイムによって成り立っている。その皇帝を帝位から失わせるようなことがあればどうなるか……わからないわけではないだろう?」
「もちろんです」
「それでも、君は彼に力を貸して皇帝を殺すつもりかい?」
あえて使われた「殺す」という言葉。場の緊張が高まる。
しかし、それが事実だ。「倒す」「止める」という言葉で濁していても、実際は「殺す」ことになる。帝国から皇帝を奪えば、大混乱は免れない。異世界の存在など知らない国民を説得することなど不可能だし、周辺国からは絶好の機会と攻め込まれることになるだろう。
それだけの事実を、たった一言に乗せて重圧を感じさせる。相手の性格を理解した上での話術だ。
「しょうぐ――」
背負わせすぎてしまうのを止めようと、声を出した瞬間、将軍に手で制止される。
チラリと僕を見た目は、らしい強さを宿らせた目だった。
「すでに決めたことです。国が乱れることもあるでしょう、多くの恨みを買うでしょう、あるいは貴方と敵対することにもなるでしょう。それでも――一度決めたことを覆しはしない」
落ち着いた口調で、強く、強く言い切った。敵になるかもしれない一国の王にも、一切迷いの無い両眼で相対している。
圧倒的に不利な立場でありながらも一歩も退かない姿勢は、本人が意識しない内に味方を勇気付けていた。
「そうだ、俺達も覚悟を決めている」
「止められてもやりますよ、イシュタット王」
「この二人に最後まで命を預けます」
口々に援護しだす仲間の声に、将軍の口元に笑みが浮かぶ。
警戒心ばかりが強くなり、重苦しい空気が場を支配していた。それを、言葉だけで作り出したユルゲンさんと、姿勢だけで覆した将軍。
圧倒的に低い立場だった僕達が、まるでイシュタットと対等かのようだった。
「彼等を、背負う覚悟があるんだね?」
「はい」
「それはどういうことかわかっているかい? たった一人の他人、たった一つの意地で、自分が背負おうとしているものが何なのか、本当にわかっているかい?」
小さく、息を吸った。そうして、真っ直ぐに自分の叔父を見つめたまま言い切った。
「皇帝を打倒する。それで国が荒れるなら、私が皇帝となって治めてみせる」
自らの父親を打倒し、皇帝になる。そう、はっきりと宣言した。
そこまでの覚悟をさせてしまった。後悔は無い。ただ、同じだけの覚悟が必要だと思った。
僕は――僕と、僕の大切なモノのために、彼女を皇帝にする。
「なるほど……」
厳しい雰囲気を纏っていたユルゲンさんの表情が和らぐ。
目を閉じ、感じ入るように空を仰ぐ。さっきまでとは打って変わって、心の底から嬉しそうな、そんな表情。
兄を打倒するという姪の言葉が、嬉しいのだろうか……?
「君達の、覚悟はわかった」
ゆっくりと瞼を上げて、向けられた顔は僕の良く知る優しく柔和なもの。
「叔父上……」
「大丈夫、安心していい。私は――少なくとも今はまだ――君達の敵じゃない」
「敵じゃない……?」
確かに、穏やかな表情は敵に対するものではない。が、この人のことなので外見だけを信じるわけにはいかない。
自分の姪が父親――兄を殺そうと覚悟しているなど、そす簡単に受け入れるものだろうか。それでなくとも、同盟国の王なのだ。説得するくらいはしてもよさそうなものだが(というよりすべきだと思うが)。
「貴方は、一体何を考えておられるんですか、叔父上」
将軍の疑問も当然だ。一度は武器を構えていた皆も、どうしていいかわからず困惑気味。かくいう僕自身も、秘かに用意していた魔法を一旦解除する。
「私はね、君が望むなら皇帝を継がせてもいいと思っている」
「なっ!」
思わずその場に居た全員が周囲を見渡す。離れているとはいえ、イシュタット軍の陣営での発言、誰かに聞かれでもしたら大問題だ。
確かに帝国の追手から匿ってくれている形になっている以上、協力的ではある。その態度からしても、姪である将軍に肩入れしているのは間違いない。
だからといって、同盟国の国主であり兄である皇帝バルヘイムを殺して帝位を奪う算段を肯定するとは……。
「私が言うのもおかしいですが……何を考えているのですか?」
言葉は先程と同じだが、意味合いはかなり違う。詰問だった一度目と違い、今の言葉は困惑だ。
黙って趨勢を見守っていた離反軍の皆も、さすがにざわついている。
「言った通りだよ。私は、君の帝位簒奪を支持する。
断っておくが、別に私は兄が嫌いではないよ。ああいった人も、この世界には必要だ。帝国の繁栄は兄の手腕であることは疑いようもない」
「では、何故?」
我慢できず聞いてしまう。
初めてこの世界に来たとき、皇帝とユルゲンさんの関係は複雑で繊細な問題だと聞いた。だが、今の話を聞く限りでは、兄弟の不和があるわけではない。なおさら将軍の帝位を肯定する理由がわからない。
「何故、か……。なに、あくまで個人的な理由だよ」
軽い返答ではあったが、詳しく話すつもりは無いという明確な意思が含まれている。
「……わかりました。助けていただいたことですし、少なくとも今は敵でないということは信じます」
「ありがとう」
「それで、これからはどうされるおつもりですか? 積極的に帝国を敵に回すわけではないと思いますが」
それはそうだ。将軍が帝位に就くことは否定せずとも、それが望ましいという積極的な姿勢であるわけでもない。
「あくまで支援、という形をとらせてもらおう。その方が、君達だけで無茶をするよりは市井への影響も抑えられるだろうしね」
僕達だけで帝都に攻め込むとすれば、かなりの無謀をしなければならない。少なからず帝都の人達に迷惑をかけることになる。
イシュタット軍が、裏での消極的なものだけだったとしても支援してくれるなら、その辺の悪影響は制御してもらえる可能性は高い。
「では、直接の手助けは望めずとも、周囲への影響を抑えるだけの協力はしてもらえると?」
「イシュタットに悪影響が出ない程度なら、喜んで助けよう。これでも、一応は国を預かる身でね」
悪戯っぽく笑い、ウインクまでしてみせる姿は、言葉とは裏腹に国王らしく無い。そんなところも、また彼らしさというところだろう。
「さて!」
大きく両手を打ち合わせ、場を締める。話はこれで終わりのようだ。
終わってみれば、後から来たユルゲンさんに主導権を完全に握られていた。こういうところはやはり「王」か。
「話は決まったのだから、これからの予定を聞こうか」
将軍からの目配せ。ここからは、参謀である僕の役割だろう。
深呼吸をして、改めて気持ちを落ち着かせる。帝国の攻撃で、戦力は大幅低下。イシュタット軍は直接の戦力として計算できないのだから、帝都に残してきた二人を除けばこの場に居る人数で全てだ。
たった百人足らずの戦力で、勢いのままに拡大する帝国を、その帝国を躍進させた皇帝を倒さなければならない。
至難の業――なんてことは、とっくにわかっている。それでも、やると決めたからには最善を尽くす。
「ユルゲンさん――いえ、イシュタット王」
「何かな?」
「僕達を、できるだけ自然な形で帝都に連れて行くことは出来ますか?」
「……やってみよう」
一番の問題は、帝都に入ること。帝国大将軍の指揮する大軍に追われ、帝都に近づけば近づく程に敵の戦力と警戒は増す。僕達だけでは、そもそも帝都に辿り着くことすら困難だった。
イシュタット軍の協力。同盟国であるイシュタットなら、僕達を紛らさせたまま帝都に行くこともできるかもしれない。なにしろ、協力してくれるのは一人の王なのだ。
「皆さん、これからを本当に最後の戦いにします」
「…………」
「…………」
「僕に、そして将軍に、ついて来てくれますね?」
必要の無いことがわかっている最終確認。皆の意志は、さっき確認できたばかりだ。
矢継ぎ早に進んでいく話に困った様子だった表情が、力強いものに変わる。
すでに、言葉は必要なかった。
「では、将軍」
「ああ」
白銀の槍を抜き、仲間に向き直って切っ先を天に向かって振り上げる。
「最後の戦いだ。正真正銘、これが最期の機会になるだろう。お前達の意志は知った。――ありがとう、感謝する。
行くぞ、目標は帝都、そして皇帝の首だ!!」
『おおおおおおおおーーーーーー!!』
最後の戦いに向けた咆哮が響いた。




