予期せぬ再会――「叔父、乙女、ニアワナイ」
今度こそ本当に思考が停止した。
帝国皇帝が、イグナシルへの侵攻を狙っている……?
「何を、言っているんですか……そんなこと……」
「皇帝はガルド・イーリヤと契約し、貴方の世界にある魔法技術を奪う計画を立てていたのです。元々はルーンキラーに所属する人間を利用するつもりだったようですが、貴方の体がそのために必要だと」
早口で捲し立てられている言葉が、耳を通って脳内に溜まっていく。処理しきれない量の情報が、混乱だけを引き起こす。
「皇帝を止めてください。私はもう、後戻りは出来ません」
「そんなこと、僕には……。だって、一つの世界を奪おうとして……そんな壮大な、そんな……」
「しっかりしてください!」
両肩を掴まれて揺さぶられる。必然的に上がる僕の顔を真正面から見る顔はまるで別人のようで、「あぁ、こっちがこの人の本当の顔なんだ」とわかってしまう。
「異世界に来て、何度も折れそうになりながらも立ち続けた貴方だから任せるんです。そんな貴方を支える仲間も、今や将軍一人ではないでしょう。
帝国との戦いを決めた離反軍での会議、あの時に見せた自信に満ちた表情で確信したんです。貴方なら出来るはずだと」
「そんなこと、僕には」
「できます。私の身命に賭けてもいい」
できない。僕は、イグナシルを壊すと言われてこの世界に来た。何度も何度も諦めて、その度に助けてもらって砂上の楼閣にも似た意志を作って壊すばかり。将軍やバーツさん達が居なければ、僕はとっくに死んでいた。
荷が重すぎる。
「……信じて、くれるんですか?」
「はい」
無理だ、と心では思っているはずなのに、口を吐いたのは最終確認のような言葉。
信頼してくれるのがわかって、それが自分では支えきれない重荷だとわかっているのに妙な力が湧いてくる。
「何とかします」
「お願いします。私は、何とか時間を稼ぎます」
おそらく計画は最終段階にまで来ているのだろう。ガルドに送られた皇帝からの手紙も、そういった内容だと今ならわかる。
「居たぞ、今度こそ逃がすな!」
「させない! 『雷撃一閃』!」
追いついて来た警備兵がいる場所の少し前で、左右の壁を破壊する。崩れてきた瓦礫を慌てて避けた兵の前に障害物が出来る。
「これで少し時間が稼げます。バーツさんも逃げてください」
「ありがとうございます。――レイネート様」
「はい?」
「将軍に、伝言をお願いします。『お世話になりました、ありがとうございます』。それと、『恩を仇で返すような真似をして、申し訳ありませんでした』と」
「――必ず」
最後にお互いに手を握り、別々の方向へと逃げた。
「その後、帝都を離れてすぐに将軍に連絡を入れたんです。お互い切羽詰まっていたのはわかっていたので、お話は直接、と思いまして」
話を終えた後、将軍は一言「そうか」とだけ言って黙ってしまった。
今も敵の追撃から這う這うの体で逃げている最中だ、会話よりも逃げることに集中した方がいい。おそらく将軍が黙った理由は別にあるけれど。
「バーツさんが急に僕達の味方をしてくれた理由はわかりません。おそらく、別行動をしている最中に何か理由があったのだとは思いますが……」
「バーツは常に我々の味方だったさ。そうでなければ、今だに私達が生き残れているはずがない」
そうだ。本当にバーツさんが敵であったなら、僕達を殺すことは容易かった。チマチマと皇帝に情報を渡して、ルーンキラーを誘導するような真似をせずとも良かった。僕の命を助けるような真似も背中を押す様な真似もしなくて良かった。
彼は、常に僕達の味方をしてくれていた。
「このことは伏せておく。キースとエレイドにもそう言っておいてくれ」
「大丈夫です。彼等には、危険を承知で帝都近くに潜伏してもらっています。帝都へ行くための手引きという意味合いもありますが、科学技術についても調べなければならないことがありましたから」
最後の握手をした時、僕の手には紙片が握らされていた。そこには、科学技術の出処や操作している場所などが書かれており、街灯などの一部技術についても記されていた。
一緒に潜入していた二人には、見つかって処刑される危険性をわかった上で調査に向かってもらい、僕は単独で馬を強化して駆けてきたのだ。
「科学か……まさかここまで関わることになるとは思っていなかったな」
「僕も、初めはルーンキラーという明確な敵の手がかり程度の認識でした。でも、今では凶悪極まりない脅威です」
「帝国は、科学をも用いるか?」
「間違いなく」
バーツさんにも教えてもらった。帝国の武器は、もはや剣や槍に収まらない。圧倒的物量と破壊力を備えた兵器。魔法と科学という強大な二つの力を手に入れた帝国は、真正面から力で止めることは不可能になってしまった。
「だが、それならばなおさら帝都になど行く意味はあるのか? 敵の本拠ならば、より強力な兵器が備えられているのではないのか?」
「いえ、敵の喉元に居る方がまだ安全です。さっきの大筒もそうですが、大型の兵器は小回りが利きませんし、破壊力の微調整が出来ないはずです。それこそ、帝都で自由に使うことは出来ません」
将軍の横顔が曇る。
「帝都だからこそ、か。言っていることはわかるが……」
「すいません。でも、今は皇帝が決定的に狂っていないことを祈るしかないんです」
僕が言っているのは、すなわち帝都に住んでいる国民を人質にして兵器を封じるということだ。他人を慮る気持ちの強い将軍が難色を示すのはわかる。
こんな言い方はしたくないが、手段を選んでいる場合では無い。今回の戦闘だけでも、相当の被害が出ている。帝都に辿り着くまでに、どれだけの犠牲が出るかわからない。
皇帝が国民すらも犠牲にして僕達を殺そうとしない限り、たとえ人質という悪辣な作戦であろうが最も有効で被害が少なく済む策を選択していくしかない。
「……皇帝の狙いは、お前の世界だとバーツは言ったんだったな」
「はい」
「ならば、十分に狂っている」
その通りだ。狂っているとしか思えない。
魔法技術を奪うため、異世界に侵攻する。言うのは簡単だが、可能だとは思えない。
イグナシルの魔法は、術師という存在と、全人類に魔法領域と魔力という力が備わっていることが大前提だ。大気中のマナを利用しているこの世界の魔法とは、おそらく根本の原理が違う。僕の『雷撃一閃』なども、所詮は真似事に過ぎない。
なによりもまず、異世界に転移する手段が無いはずなのだ。そんなものがあるのなら、僕はとっくに帰っているし、ガルドだって――。
「そうか……あるんだ、手段が」
「何があるだと?」
「異世界――イグナシルへの転移手段です」
そんなものがあるのなら、流刑政策など無意味になる。だが、イグナシルと術師を恨んでいるガルドはイグナシルに関する何らかの秘密を知っていた。復讐するために、転位手段を編み出したのかもしれない。
「可能なのか?」
「科学自体が、そう簡単には技術として確立できないはずなんです。魔法と違って多くの物質を消費する必要がありますし。
それでも、あの男は作り上げました。あるいは魔法以外の方法での転位方法も思いついているのかもしれない」
それこそが皇帝の狙い。本来ならば国の戦力を削いだ敵であるルーンキラーと手を組んだのは、お互いの目的のため。
かたや自分を見捨てた世界と魔法に復讐するため、戦闘の基盤と転位技術完成に必要な資金力を。
かたや失った戦力と新たな可能性のため、技術提供と侵略のための足掛かりを。
お互いの求めるものが合致したのか。
「すでにガルドは死んだ。二つだった脅威は、一つに集約されたわけか」
互いに牽制し合っての協力関係だっただろう、危ういバランス。それが、一方の死によって崩れた。
皇帝は止められることもなく、自身の野望を果たすために邁進してしまう。
「レイネート」
「は、はい」
「私に言いたいことがあるのではないのか?」
「……いえ、ありません」
これ以上何を言えというのだ。
将軍達がこんな状況になっているのは、全て僕達のせいだ。イグナシルの事情などこの世界に生きる人達には関係が無かったのに、ガルドと僕が来てしまったせいでこの世界は狂い始めている。
在るはずのないモノが在り、在るはずだったモノが失われている。
この上でまだ負担をかけることなど、出来るはずも無い。
「皇帝の思惑は、僕達イグナシルの人間が原因です。僕が、止めます」
「一人で、か?」
「……止めて、みせます」
バーツさんとも約束した。自分は請け負ったのだ。
将軍達を助けて、皇帝を止めて、イグナシルを救ってこの世界を正常化する。それは、間違いなく僕の責務だ。
将軍に掴まる腕にも自然と力が入ると、小さなため息が聞こえた。
「……正直、皇帝の目論見は見当もつかん。私の領分を大きく逸脱している。
だからといってな、私はお前一人に全てを背負わせる気はないぞ」
「――ダメです、将軍!」
まただ。この女性はまた、自分を犠牲にしようとしている。
「僕は今までずっと、貴女に犠牲を強いてきてしまいました。でも今回は、今回ばっかりは将軍には背負うべきことは何もないんです! 僕が、イグナシルの人間が解決すべき責任です!」
ただの意地でしかないかもしれないが、これ以上は本当にダメだ。今回ばかりは責任など微塵も無いというのに、好意に甘えることなど出来はしない。
「私にも責任はあるさ」
「どこにあるっていうんですか」
「私が、皇帝の娘だからだ」
一瞬、思考が止まった。
そう言えば、バーツさんの言葉の中に将軍が王族だという言葉があった。衝撃的な言葉が多過ぎて忘れていたが、帝国の人間である将軍が王族ということは皇帝の娘であるということだ。
イグナシルのことを口に出せなかった頃、二人だけで話をしてくれた時、例え話の体をとった将軍自身の過去。皇帝という存在を認識していなかったがゆえに気にしていなかったが、そこでもハッキリと「自分は王族だ」と言っていた。
「皇帝陛下を父と思ったことは一度も無い。だが皇帝の娘として命を拾われ、今日まで生かされている私は、実体はどうあれ皇帝の娘だ」
「だからって、将軍が責任を背負う必要なんてないでしょう」
「あるさ。私が、それを望んでいる」
望ませてしまっているんだ、僕が。
自分が他人に対してそんな影響力があるなんて、おこがましいかもしれない。だけど、この世でたった一人、この人だけはそうなんだと痛感する。
自らが望んで、他人のために身を切る。そんな人物だからこそ、国を捨てるという行為にもあれだけの人数がついてきた。
「…………」
何も言えない。言う資格が無いように感じた。
何を言っても言い訳だ。強い意志を変えることなど出来ないし、してはいけない。
だから、何も言えなくなった。
「断っても無駄だぞ。私はもう決めた。
――皇帝を止める。侵略によって国を大きくすることがあの方の望みかもしれないが、異世界にまで侵攻の手を広げるなど断じて認められん」
「だからって、僕に協力してしまえば将軍は反逆者になってしまいます」
「反逆者の謗りを受けようとも、一度決めた限りは貫き通してみせるさ」
そう言って明るく笑ってみせる姿には、幾度となく勇気をもらった。
情けないことだが、僕には最後までこの人に頼る以外の選択肢は無いらしい。そのことを、僕自身が嬉しいと感じてしまっている。
「さて、お前の言うべきことは一つだと思うが?」
振り返って笑いかけるその表情は、悪戯を褒めてもらう子供のように無邪気に見えた。
「……何度も何度もすいません。――僕を、助けてください」
「――任せておけ!」
請け負った限りは、やり遂げるのだろう。
自身の言葉を実現する。たったそれだけの、単純なことではある。だがそれこそが、僕が将軍に教えられた一つの救いだ。
イグナシルに戻らなければならない。そして、この世界に生まれている以上の歪みを正したい。
「皇帝を止めます。イグナシルも、この世界も失わせない」
「うん、その意気だ」
決意は固まった。帝都で皇帝を止める。
そんな気持ちで馬を走らせる僕達の前に、見知った顔が馬を走らせてきた。
「エリッツ君?」
「そのようだな。撤退行動中のはずだが、何を……」
まだ距離はあるが、何かを叫びながら手を振っているようだ。将軍は後ろを確認し、速度を緩める。
「どうしたエリッツ。追っ手はすぐに追いついてくるぞ」
必死の形相で向かってくるエリック君は、将軍の声も聞こえていないらしい。そのまま馬を走らせて近づいてくる。
「逃げ、て……くださ、い」
「なんだと言うんだ?」
叫び続けていたせいか、声は掠れ息も絶え絶えだ。
「罠、です!」
「罠!? まさか、帝国軍が先回りして伏兵を置いていたのか!?」
「そんなバカな!」
今逃げいている方向は、多少のズレはあるものの僕が帝都から来た方向と同じだ。間違っても帝国軍と遭遇しないように『遠視』などを使って確認しながら走ってきた。ほとんど平野で隠れる場所も乏しいここに、伏兵など伏せられるはずがない。
「帝国軍ではありません。待ち伏せていたのではなく、新たに向かっていたんです」
「帝国軍じゃない……? 新たに向かっていたとはどういうことだ」
「イシュタット軍です! 他の仲間は、突然現れたイシュタット軍に驚いて捕えられてしまいました」
イシュタット。帝国の同盟国であり、皇帝の弟が治める王国。
帝国の討伐軍と離反軍が戦闘した平野は確かに国境から程近い位置にあるが、帝国領内だ。本来ならイシュタット軍などいるはずがない。
「何故、ここにきてイシュタットが……」
「わかりません。数は目算ですが五千近い軍勢です」
「目的は?」
「それも不明です。捕まらないように逃げるのが精一杯で……」
そうこうしている内に前方から地鳴りが聞こえてくる。緩やかな高低差がついているせいで見えはしないが、大軍が近づいている証拠だ。
背後にも近づいてくる砂煙が見える。
「逃げ場が無い……!」
「イシュタット軍は皇帝の差し金と見るべきか。このままでは挟撃される。
いや、すでに詰みか……」
悔しげに唇を噛み締める。
すでに他の仲間は捕縛された。たった三人、帝都に残してきた二人を合わせても五人。一国に立ち向かうには少数に過ぎる。
「来ました」
覚悟を決めた途端にトドメを刺された。すでに抵抗すら意味が無い。
目の前に現れた軍は、金刺繍の入った大きく豪華な軍旗を掲げていた。相当に位の高い人物が率いているのだろう。
「どうする二人共。最期に一矢報いてみるか?」
「無駄な抵抗だとは思いますが、このまま黙って殺されるわけにもいきません」
「お供しますよ、お二人」
全員が武器を抜いて――僕は術式を展開して――構える。
イシュタット軍だと思われる騎馬隊は一定の距離を保って停止し、睨みを利かせていた。
「牽制して、帝国軍が来るまで待つつもりか……?」
これだけの数がいれば、援軍など必要無いとは思うが念には念を入れて、ということだろうか。
「武器を下ろせ。我々は敵では無い」
先頭に居た隊長格らしき男が叫ぶ。
「信じろというのか?」
「信じてもらう他ない。捕縛した君達の味方も、眠ってもらってこそいるが生きている」
他の皆は生きている。安堵すると共に、別の警戒は生まれる。
なんのつもりなのか。イシュタットが軍を派遣する理由など、思い当たらない。唯一あるとすれば皇帝の差し金、というのが先程までの結論だが、ならば此方の味方を生かしておく理由も攻撃を躊躇する理由も無い。
「悪いが、信用できん。我々は、それだけ追いつめられた状況にある」
「わかっている。だが――」
言葉を続けようとした隊長格の後ろから、別の男が出てくる。
随所に金をあしらいながらも下品にはならない見事な鎧を着込んだ男。隊長格が黙って道を譲ったその顔には見覚えがあった。
「ユルゲンさ――」
「叔父上!?」
……叔父上!?
確かに将軍はそう言った。皇帝の娘である将軍の叔父といえば、皇帝の弟である。それはつまり――。
「皇帝の弟で、イシュタットの人間ってことは……イシュタット王、ってこと?」
頬が引きつる。まさか、数日間一緒に旅をして世話になり、ルーンキラーのアジトを共に攻め落としたユルゲンさんがイシュタット王国の王だったとは。
「やぁ、久しぶりだね二人共。元気なようでなにより」
相も変わらず気が抜けそうな緩い空気と口調。こんな人をどうやって王だと看破しろというのか。仮に旅の途中で王だと告げられても絶対に信じられなかった。
「貴方こそ、ご健勝のようでなによりです、叔父上」
将軍が珍しく緊張している。頬は僅かに赤みを帯び、声はやや固い。
「ん……叔父?」
つい先ほど思い出した、将軍と二人だけで話した時の内容。そこにも叔父の存在は出てきたはずだ。それも聞き捨てならないというか、無視できない内容で語られていたような……。
『少女は叔父に対して恋慕にも近い感情を抱くようになったが――』
「あ!」
必死に手繰り寄せた記憶の言葉。自分のことで一杯一杯だったので不思議にも思わなかったが、一国の王に対して、しかも自分の叔父相手に「恋慕の感情」?
「え、じゃあ……将軍はユルゲンさんが好――」
「レイネート!?」
戦場での槍捌きを思い出させる神速の動きで口を塞がれる。
僕が何を言わんとしていたか瞬時に理解したのか。あるいは、過去の口の軽さを後悔しているのか、見たことの無い顔をしていた。そう、それはまるで、なんというか……「乙女」、とでも表現できそうな。
「えーと……なんなんですかね、これ」
一人状況が全くわかっていないエリッツ君は困惑の表情。イシュタット側の人も、何をしているのかという顔で見ている。
視線に気づいたのか、口から手が離される。しっかりと「それを二度と口にするな」と小声かつ早口での箝口令が敷かれたが。
「楽しそうで何よりだが、とにかく軍の後方に混ざって隠れてくれると助かるんだがね。そろそろ帝国軍も我々に気付く」
言われて我に返る。
こんな緩い雰囲気に浸っている場合では無い。自分達は絶対的な窮地なのだ。……しかし、そんな窮地にいる人間を、姿を現しただけでここまで緩ませるとは恐ろしい才能である。様々な条件が重なった結果とはいえ。
「んんっ……信じて良いのですね、叔父上」
「もちろんだ。君達には辛い思いを強いてしまっているが、私は内心では常に君達の味方でいたいと思っているんだよ」
「……了解致しました、しばし投降いたします」
しばしの逡巡の後、将軍が槍を下ろしてイシュタット軍に近づいていく。近くまで行くと、隊列の一部が道を開けて後方へ案内してくれた。
従うままに後方へ下がる途中、追いついたらしい帝国軍とユルゲンさんの遣り取りが聞こえてきた。
「ユルゲン・イシュタット王! これは何の真似か!」
「大したことでは無い。我が領内で暴れ回ってくれた賊がこの周辺に潜んでいると聞いたのでね、捕えに来ただけのこと。他国領への派兵の無礼は後程、兄へ詫びよう」
それからもいくらか言い合いをしていたが、さすがに一国の王ともなれば一介の兵士では強く出ることは出来ないらしい。概ねユルゲンさんが優位に話を進め、僕達の存在を有耶無耶にしている。
「油断はするなよ、レイネート。お前が叔父上を知っていたとは驚きだが、あれで抜け目の無い人だ。何を考えているのか全く読めん」
”何も考えていないのでは”
そんな言葉が喉元まで出かかったが、何とか留めた。代わりに、「アーシェ・バロン将軍、実の叔父に対しては色惚けで判断が狂う」という、三文紙面の見出しみたいな文面が「叔父」「乙女」「ニアワナイ」の単語と共に脳内を飛び交うので、笑いを堪えるのに苦労するハメになった。




