亡国の民
独立魔戦小隊が本隊に合流した頃、戦場は事後処理の段階に入っていた。
「戻ったか、レイネート」
「……はい」
白銀の鎧を身に纏った将軍が迎えてくれる。
鎧には、所々に泥と返り血が着いていた。
「……っ」
目の前で散った赤い血。フラッシュバックする部下の死。
背中に突き刺さる矢、弱々しい呼吸。僕の手を少しずつ離れ、落ちていく体。
彼の最期が、視界に焼付いて離れない。
「どうした?」
「ぁ……いえ、なんでもありません」
将軍は多くの兵を率いる身だ、これ以上負担をかけるわけにはいかない――そんなことはわかっているのに、今の言い方では気にしてくださいと言っているようなものだ。
心のどこかで、甘えてしまっている。
「……隊員を、一名失いました」
どのみち報告せねばならないことだ。ルーンキラーのことも……ルイ君のことも。
それでも、すぐには口に出来なかった情けない躊躇を、なんとか押し切って言葉にする。
「そうか……」
「申し訳ありません。自分の失態です」
油断していた。まだ戦場だったというのに。
自分達の作戦は確かに容易いものだった。しかし、道中で予想外の出来事は起こっていた。もっと警戒して然るべきだったのだ。
いつのまにか、攻める側にいると思っていた。その認識は間違いでは無かったが、それと同時に攻められる側でもあるということを理解していなかった。
遊びではないんだ。攻守が順に交代していくわけではないのに。
「レイネート、あまり自分を責めるな」
「襲撃してきた敵はルーンキラーだと思われます。彼は、ルイ君は僕が巻き込んだ所為で死んでしまった……!」
「それは違う。確かに連中の主な狙いはルーンマスターだが、少し前までは軍全体が標的になっていた。どちらにせよ、戦闘の混乱に乗じて攻撃してくる腹積もりだったさ」
「しかし……!」
たとえ僕達が見つかったのが偶然だったとしても、ルイ君の死は指揮官であり標的だった僕の責任だ。
魔法に頼るばかりだった。指揮官としての責務を何一つ果たせていなかった。思い込みと油断で、部隊そのものを危険にさらした。
自分の目的のために部隊長になって、それを活かすことも出来ないままに一人を失った。
戦いは続く。僕がイグナシルに帰る日など来るかどうかもわからない。それまで、一体どれほどの犠牲を僕は生み出してしまうのだろう……?
「しっかりしろ、レイネート!」
顔を覆っていた両手を掴まれる。
開けた視界には、強く真っ直ぐな双眸。
「お前は隊長だ。私もバルディオも、そのつもりでこの部隊を作った。お前ならと、そう思ったからだ」
「その期待を、僕は――」
「裏切ってなどいない。これは戦いだ、どうしても犠牲は生まれる。
いいか、レイネート? お前が初めて私に力を貸してくれた戦い、あれが私にとっての初の指揮だ。ろくに軍への指示など出せず、ただ前線で槍を振るうことしか出来なかった。
あの戦いを評価してくれる者もいる。だがな、私が指揮官としてあの戦いで出した戦死者は十や二十ではきかない。そして、私はそれを悲しみこそすれ引きずるつもりは無い」
向かられる芯の通った視線に、逃げ出したくなる。
何を言われても、僕の罪は消えない。それは、あるかもわからない未来の罪などでは無く、事実として犯してしまった罪業だ。
「忘れろとは言わん。覚えていてやればいい。だが、それを理由に逃げ出すな。お前はすでに部隊を率いる身なのだから、そんな事が許されるはずもない。
次に生かせ。同じ過ちを繰り返すな。お前はもう、ここに来たばかりの頃のように一人ではないだろう?」
一人では無い。それは、確かにそうだ。
気遣ってくれる人がいる。守ってくれる人がいる。一緒に戦ってくれる人がいる。
何も話せずに一人、がんじがらめになって苦しんでいた頃とは違う。
でも、だからこそ、その内の一人を失った事が辛い。
「わかり、ました」
「……一人で抱え込むな。お前が悪いわけではないのだから、お前が自分を責めても何もならん」
正論だ。それでも、つい数か月前まで戦いとは無縁だった僕には、まだ受け入れるには時間のかかる論理だ。
「追撃に出ている部隊が撤退次第、軍議を開く。お前も部隊長として来い、いいな?」
「はい、了解しました……」
戦地だった平原から少し離れた位置に建てられたテント、そのけっして広くない中に各軍の指揮官級が集まっていた。
それぞれの戦果と以後の方針を決定するための場であり、エグリゴア王国とアーシュタット帝国双方が顔を合わせる以上、戦果がどれ程であったのかで揉めるかと思われた。なにしろ、エグリゴアからすれば帝国に手柄を下手にたてられても困る。貸しが大きくなっては面倒だからだ。当然、帝国としては恩に着せて外交の道具としたい。
両国の利害と思惑がぶつかる場。大きな議論が巻き起こってもおかしく無かったが、場は静かだった。
「壊滅した? 追撃部隊全てがですか?」
「えぇ、まぁ……」
歯切れの悪いエグリゴアの総指揮官からの報告が、軍議に静寂をもたらしていた。
通常、追撃部隊が壊滅などという事態はほぼありえない。なにしろ、「追撃」である以上は敵は撤退中であり、圧倒的に有利な立場だからだ。
ただ逃げ惑う敵を背後から突き崩すだけの戦いであるはず。にもかかわらず、部隊が壊滅とはどういうことか。いや、通常の戦いであっても部隊が壊滅というのはただ事ではない。
「詳しくお聞かせ願いますか?」
「そう言われましても、我々としても把握していない事態でして……」
「貴方方の軍だろう。我々の静止を振り切って、意気揚々と追撃部隊を派遣したのではなかったか?」
副将軍の厳しい攻めに、エグリゴアの指揮官は目を逸らす。
将軍はまだしも敬語で同等の立場を保っているが、副将軍は強気の姿勢で応じている。おそらくは、後者が帝国の外交姿勢だろう。
「把握していないとは……壊滅したことがわかったのならば、その原因も目撃したものが居るはずです」
「確かに、生き残りの兵がいますが……どうも要領を得んのです」
「はっきりと答えてもらいたいものだな。何があった?」
「それが、その……その兵が言うには、突然地面が弾けた、と」
地面が弾けた? エルパーツァの伏兵が地面にでも潜んでいたのだろうか。
いや、伏兵を配していたのならば敗走前に使わねば意味が無い。僕が『風爆発破』を使ったあの戦いのように、撤退のフリをして伏兵がいる地点に誘き出すであるとか。
「少々、意味がわからないな……もう少し詳しく話していただけないだろうか」
「申し訳ないが、これ以上は話せることはありませんな」
「なんだと……?」
呟きのような言葉に籠められた威圧に、怯むエグリゴア指揮官達。
「す、凄まれても困る。我々としても下手に他国に情報を渡すわけにはいかん」
同盟国だと言うのに、何を言っているのか。これでは、「心の内では味方だとは思っていませんよ」と宣言しているようなものだ。
そもそも、援軍を頼んだ戦いで起こった出来事を隠してどうするのか。どうもこの指揮官は、戦いというよりは知能行動全般が苦手であるようだ。
将軍、副将軍どころか、後ろに控えているバーツさんさえ呆れてたような雰囲気を出している。
「……わかりました、では結構です。追撃部隊が壊滅した原因については、我々で調査しましょう」
「だが、当然軍は退かせてもらう。得体の知れない攻撃を受けて、陛下より下賜された兵を失うわけにはいかない」
「なんと!? 南部でも指折りの大国であるアーシュタット帝国軍ともあろう方々が臆したか! ここで軍を退くなど、名誉ある騎士の誇りを捨て去る行為ですぞ」
なんと図々しい言い分だろうか。
情報は渡さない、だけど戦いは手伝って欲しい。正体不明の原因で部隊が倒れされてしまったけど、そんなこととは関係無く進軍すべき。
……さすがに呆れてしまう。芝居がかった身振り手振りを交えた発言が、とてつもなく胡散臭い。
もしや、帝国の戦力を削ぐための自作自演なのではとさえ疑ってしまう。
「……申し訳ないが、我が国では兵士と騎士は特別立場を別にしているわけでは無い。誇りと言うならば生きて戦果を持ち帰ることこそそうであるし、貴方方とは名誉に対する認識が大きく異なるようだ」
「悪いが、帝国では正体のわからぬ危険に特攻して死ぬことこそ、大きく名誉を傷つける行為だ」
「これはこれは、そのような口上でお逃げになるとは思いもよりませんでした。帝国のお二方は舌戦がお得意と見える。文官出身ですかな?」
おそらく適当に嫌味で言っているだけなのだろうが、副将軍のこめかみに青筋が浮かんでいる。
助けてもらった身で、しかも戦力が減って厳しくなった状況でよくここまで偉そうに出来るものだ。ある意味感心してしまう。
「言い争いをしに来た訳では無い。しかし、此方を信用出来ない相手を信用する訳にもいかない。その点はご理解いただけると思うのだが」
「信用とは言いますがね、我々としても信用したくとも出来ぬ事情もあるのですよ」
「事情だと?」
「えぇえぇ、そうですとも。それに加え、援軍に来ていただいくのが随分と遅かったようですが? 我々の試算ではあと二、三日は早くお着きになると思っておりましたので、頼りにしていた分余計な損害まで出てしまいましたよ」
なんとこの指揮官、あの無様な消耗戦の責任すら此方に押し付けるつもりらしい。最早図々しいというレベルでは無い。厚顔無恥、寡廉鮮恥。とんでもない恥知らずだ。
互いの軍を指揮する者同士が睨みあう。
予想外の報告に始まりこそ静かだったものの、結局は互いの思惑がぶつかり合う論争になった。相手の言い分には、かなり無理があるとはいえ。
「到着が遅れたことには詫びよう。道中、敵のものと思われる妨害があったのでな。だが、そのせいで被害が増大したというのは責任転嫁ではないか?」
「なにをおっしゃいます。我等は同盟国である貴方方を頼りにしていたからこそ、正面に陣取って戦っておったのです。そうでなければ、もう少しうまく立ち回りましたとも」
「情報もろくに渡さずに何が同盟か。第一、ただ兵力を前線に投入するだけの無様な戦略をとるような指揮官が立ち回りなど出来るとは思えん」
「無様ですと!? なんたる侮辱か! 取り消していただきたい!」
真っ赤になって反論するエグリゴア指揮官。しかし、あの戦いを見れば誰であれ「無様」としか評しようが無い。
「とにかく、我々がここまでの損害を出したのが貴方方にも相応の責任がある! 保証はしていただかなければならんでしょうな」
「ふざけたことを……」
強行に責任を帝国側に押し付けようとするエグリゴアに、帝国側の代表者である二人はどう対処したものかと頭を抱えている。
話し合いは停滞。エグリゴアは、こんな言い様で論破出来たとでも思ったのか、勝ち誇った顔をしている。先の威圧に対する怯えなど無かったかのような態度だ。
このまま黙って成り行きを見ていてもいいのだが、確かめたいこともある。少しは仕事をすることにしよう。
「一つお聞きしたいのですが」
「なんですかな、突然。一部隊の隊長は、身の程を弁えて黙っていていただきたいものですな」
笑いが起こる。もちろん、エグリゴア陣営だけだ。
普段なら憤りもしたのだろうが、ルイ君のことを引きずったままの今は怒る気にもならない。
「一隊長と侮ってもらっても結構です。聞きたいことは、エルパーツァ軍に奇妙な道具を持った者がいなかったか、ただそれだけですから」
馬鹿笑いしていた顔が怪訝なものに変わる。総指揮官が、後ろにいる腹が大きくでてシャツを破りそうな男に何事か呟く。
この様子ならば、おそらくは――。
「……確かに、見たことの無い道具を持った兵が一部いたという報告も入っておりますが、それがどうかしたのですかな?」
「いえ、でしたら結構です。ありがとうございました」
何か知っているのならば教えろと喚くかと思ったのだが、少し眉をひそめただけですぐに興味を失ったようだ。簡単に答えてくれたことからも、特に重要な情報だとは思っていないらしい。
将軍からの視線に、エグリゴアに気付かれない程度に頷く。
「このままでは埒があきません。明朝、もう一度話し合いの場を開きましょう」
納得したわけではないだろうが、続けても意味が無い事はわかっているらしく反論は無かった。
結局、なんの成果も無く平行線のまま解散となった。
「何かわかったのか?」
軍議をしていたテントを出てすぐ、帝国軍が野営している陣へと戻り、指揮官用のテントへと入った。
将軍のテントは、相変わらず広さはそこそこあるものの、寝具と小さなテーブルしか物が無い簡素なものだ。
「その前に、将軍にもお聞きして置きたいのですが」
「なんだ?」
「敵の妨害があったと言っていましたが、具体的にはどのような?」
「軍後方の兵糧部隊に矢が放たれた。さらに、一部の馬が病にかかったように調子が悪くなった。初めは気候の変動によるものかとも思ったが、どうも人為的な工作の跡があったのでな、敵による妨害行為だと考えた」
本隊が僕達よりも遅れていたのは、そういった事情もあったらしい。
補給部隊に対する攻撃は僕達も考えたことだ、不思議では無い。問題は、道中で仕掛けてきた敵だ。
「ルーンキラー、かもしれません」
「なんだと?」
「僕達の部隊も道中、敵に出会ったんです。初めは帝国の援軍を邪魔する目的でエルパーツァ軍が、とも思ったのですが、あの戦の仕方を見る限りでは……」
「そんな知恵が回るとも思えんな――将軍」
「すぐに周囲の警戒を増やそう。バルディオ、指示を頼めるか?」
頷き、テントを出る背中を見送る。先の怒りの余韻か、いつもより少し速足だ。
「ルーンキラーだと思った理由は?」
「僕達が襲撃されたこともそうですし、遭遇した部隊にいた兵が持っていた道具が気にかかります。魔法道具ではないようなのですが、かなりの遠距離から此方を視認していました」
「科学によるもの、ということか?」
「おそらくは……」
帝国のように独自に技術を開発しているという考えもあるが、それならばもう少し有効活用出来てもいいはずだ。しかし、そんな様子は戦場を見る限り無かった。
独自技術でないとすれば外部から与えられたものだが、帝国のような技術開発の余裕がある国がそうあるとも思えない。あるのならば、僕にも教えられているはずだ。
襲撃されたことといい、ルーンキラーによる帝国への攻撃だとする方が自然だ。
「目的はなんだと思う?」
「主目的は僕でしょうね……。狙撃されたことも含めれば、三度も帝国兵として出会っているわけですから、僕が士官している帝国も同じく邪魔だと考えたのかもしれません」
「エルパーツァへの技術提供は、少しでも帝国の戦力を削ぐため、か。それにしてはやり方が手緩いが」
将軍の言う通りだ。
小隊に対する優位な位置からの弓による攻撃。あれは本気の攻撃だ。
しかし、本隊に対する攻撃は明確な実害では無く、補給部隊を混乱させたり、おそらく馬の飲食物に異物を混入する程度のもの。これでは足止めにしかならない。
本気で帝国に打撃を与えるつもりなら将軍を『銃』で攻撃するべきだし、エルパーツァに中途半端に道具を与えて使い方を教えていないようであることも気にかかる。
「リーダーの科学者は、前回の僕との戦闘で死んではいなくとも大怪我を負っているはずです。そのせいでしょうか?」
「かもしれん。だが、今は憶測の段階を出ない。暫くは警戒する必要があるな」
「はい。それと、もう一つ考えなければならない問題が……」
言い淀む僕に先を促す将軍から視線を外し、静かに――本当に静かに、身じろぎすら感じさせずに――立っているバーツさんに目線を送る。
視線に気づいたバーツさんは、すぐに目礼をして場を辞してくれた。たったあれだけで意思を汲み取ってくれるあたり、尊敬を禁じ得ない。
「聞かせられないものだったか?」
「バーツさんなら大丈夫だとは思うのですか……それ程警戒していることであることを理解しておいてもらう方が重要かと思いまして」
「確かに、バーツならば人払いの意味は予想がついているだろうな。
――それで? 裏切り者は独立魔戦小隊内にいるのか?」
「……あくまで、可能性の話ですが」
問題は、道中出会ったエルパーツァ軍。あの軍が、意図して僕らと接触したのか、あるいは別の目的を持っていた最中に偶然接触してしまったのか。その点だ。
僕らが出会った軍と本隊に足止め工作を行った敵は別だ。時間の関係からも、それは間違いない。しかしだからこそ、本隊さえ知りえない僕達の進路を知っていたとしたら――それはつまり、小隊員の中に裏切り者が居て、情報をなんらかの手段でルーンキラーに流していると考えられる。
「それで、偶然の接触では無いと考えているんだな?」
「遠方を視認するための道具を持っていたこと自体は、進路の先にある気候の変動を見るため、ということで説明がつきます。実際、僕達は異常に広範囲に広がった濃霧に突入してしまい、進路を逸れることになってしまいましたから。
しかし、彼等は僕達を確認したと思われる瞬間、躊躇なく速度を上げたんです。普通ならば進路に人がいると確認したなら、それが敵である可能性が高くとも、いえ高いからこそ速度を緩めませんか?」
「しかし、敵は速度を速めた。つまり、自分達が有利であると、数の優位があると認識していたと?」
「僕はそう考えました」
「ふむ……」
最悪の場合、あの濃霧すら敵、あるいは裏切り者の仕業である可能性がある。そんなことまで出来るとすれば、魔法を使えることの優位性すら薄くなってくる。
ただでさえ僕の使う魔法は大半が無効化されてしまう。将軍同様、考え込んでしまいたい気分だ。
「……」
「……」
「…………そういえば、将軍」
「ん、なんだ?」
「科学者は僕、ないし術師を恨んでいる人間です、狙ってくるのもわかるのですが、その他のルーンキラーを構成している人達は、何故ルーンマスターを狙うのでしょう。以前お聞きした話によれば、ルーンキラーはすでに滅んだ国の人間だったんですよね?」
初めてルーンキラーの構成員と相対した時、ルーンマスターは魔人と呼ばれる存在だと考えた人間が自国のルーンマスターを殺害し、それがルーンキラーだと教えてくれた。
だが、そこまでして魔人とやらを殺そうとするものだろうか?
古代に「いたとされる」程度の存在だ、当然確たる証拠があるわけでもないだろう。それなのに、自国に莫大な利益をもたらしていたであろうルーンマスターを殺害し、さらには他国のルーンマスターまでを襲うものだろうか。リスクとリターンを天秤にかけた時、強迫観念や使命感では説明がつかない部分が多過ぎる。
「正直、私も自信が無くなっている。聞いた話でしかない上、そのリーダーが異世界の人間と知ってしまってはな」
「しかし、その国の人間であることは確かなんですよね?」
「そのはずだが……。
ザイスリング王国と言ってな、大陸で最大のルーンマスター保有数を誇り、魔法による恩恵も他国の比では無かった。そのせいか、利を求めての侵略戦争は一切行わず、かといって周囲の国も魔法の力を恐れて手を出せず――そうして北方の国々を実質的にまとめていたそうだが……」
「滅んでしまったと?」
「ああ。ある日突然な」
ますます不可解だ。
ある日突然、国が亡ぶほどの人数の国民が「ルーンマスターは魔人の末裔である」と考え、自分達の生活を守ってくれていたルーンマスターを殺しにかかった……?
そもそも魔人とはなんなのか。それすらも曖昧だ。
「言い方から察するに、昔の話なんですよね?」
「そうだな。帝国がまだ南部の小さな王国の一つでしかなかった頃の話だ」
ならば、科学者もまだいなかったはず。なにしろ、予言者が現れたのも異世界の存在が発見されたのもつい最近だ。そもそも時代が合わない。
「魔法によって繁栄した人達が何故それを捨てて滅んだのか、どうやって科学者はルーンキラーと接触してそのリーダーとなったのか……待てよ。あるいは、科学者はリーダーなどでは無くあくまで構成員の一人なのでしょうか?」
「あり得るな。連中の攻撃方法がわかったのは三年程前だが、それまでの被害者についてはわかっていない。ルーンマスターがいなくなったというのは、魔法を擁して勝利してきた国にとっては知られたくない事実だからな。情報統制を行うのは当然なのだが……その頃は、『銃』による攻撃では無かったのかもしれん」
だとすれば、科学者とルーンキラーの動きは別のモノとして考えるべきか。それとも、ルーンキラーは表向きは居なくなったこの世界では、科学者の意思が優先されるのだろうか。
「まだ判断を下すには早い。とにかく、今回は初の部隊長としての出陣だ、疲れたろう。ゆっくり休め」
立ち上がり、僕の肩を軽く叩いて将軍はテントを出ていった。
「魔法に生かされながら、魔法を憎んだ亡国の民、か」
イグナシルも、いつかはそうなって滅んでしまうのだろうか……?
ありえない――そう断じることが、今の僕には出来なかった。
書いたのに投稿を忘れるという凡ミス……
三日間も放置してました




