もう一人のルーンマスター――『ライトニングスマッシャー』
「首尾は?」
「貴重な情報を入手できました」
端的な質問に対する答え。
副将軍は納得したように頷き、娼館を出た。
「僕が予想した人間は、国境付近にいたようです。今もまだいるかは不明ですが、探す価値はあるかと」
「わかった。護衛を何人か用意する」
科学者がいたらしい場所はわかったが、その捜索に将軍と副将軍は関われない。
帝国軍の高官である二人が動くと、どうしても目立つ。その動きを、ルーンキラーに所属していると思われる科学者に知られたくは無い。
軍へ加入した直後であった僕が撃たれたことを考えると、帝国軍の情報をほぼリアルタイムで取得していると考えられる。二人が探していると気付かれれば、行方をくらます可能性が高い。
その点、僕だけならば、死んでいることになっているのだから軍内からも情報が漏れる心配は無い。魔法を使えること、科学を多少なりとも知っていることからも、敵の捜索にはうってつけだというわけだ。
「信頼出来て、かつ動いても誰も気に留めないような人が理想的なのですが」
「少ないが、私の腹心の部下を貸そう。二人程になるが、構わないか?」
「十分です。自分の身は自分で守りますし、この世界特有の問題が発生した時に助けていただきたいだけですから」
少数であっても、敵に気付かれた時の危険性は変わらない。敵は、架空の存在だと思われていた兵器を有している上、その対策も現状では無い。
もしもの時に犠牲になる人数は、少ない方がいい。
「まずは将軍に報告に行くぞ。出発はそれからにしろ」
「はい」
陽光の反射が眩しい。
初めて帝都の街並みを見た時は感動したが、慣れてくると立ち並ぶ白塗りの建物が目に痛い。
「ここだ」
「……ここ、ですか?」
副将軍に案内されたのは、周囲と同じく白塗りの建物。――なのだが、これは……。
「副将軍」
「なんだ」
「将軍に会いに来た、んですよね?」
「そうだが?」
「……将軍のお宅に訪問すると聞きましたが?」
「ここがそうだ」
当然だとばかりに返ってきた答えに、もう一度目の前の建物を確認する。
左右にある建物の二倍はある横幅。二階建ての家屋には等間隔で窓が設置されており、一階には扉と大きな窓が三つ。二階には同じ大きさの窓が四つ。それぞれにベランダが備えられている。
ここまでを見れば、やや地味ながらも高官らしい邸宅と言えなくもないのだが……。
「ママー、早くお買いもの行こー」
「ちょっと待って、お父さんも一緒に行くって」
「こんにちは、家族でお出かけですか?」
「あ、隣のおじいちゃん! これからお買いものなのー」
以上のほのぼの会話は、目の前の建物から出てきた人達によって繰り広げられている。
仲の良い親子と、人の良さそうな老人。あきらかにこの建物の住人だろう。つまり、ここは――。
「集合住宅、ですか?」
「そうだな」
比較的広めの部屋が七つ集まった、紛うことなき庶民の味方、集合住宅。
こう言ってはなんだが、軍で上から四番目の地位にある高官が住むところではない。
「行くぞ」
一切の躊躇無く集合住宅に踏み込み、住宅前に居る住民に挨拶を躱す。その迷いの無い歩みになんとかついていき、扉の内部にさらに複数ある扉、その一番奥を扉をノックする。
「二階でも無いんだ……」
庶民派と呼ばれるような、庶民的な生活や価値観を持つ上流階級や政府の人間などは民衆の支持を得やすい傾向にあるが、これは庶民的に過ぎるのではないだろうか。
遠征中の質素な指揮官用テント――ランタンやベッドなどの最低限の設備以外は、軍関連の物しかない部屋――を見ているので、絢爛豪華を求める人では無いのはわかっていたが、ここまで極端だとは思わなかった。
「入れ」
「失礼します」
返答を確認して扉を開ける。
鍵を開ける音がしないと思っていたら、将軍は部屋の奥にいるらしい。なんと鍵すら開けたままのようだ。
「どうだった?」
「私の方もいくつか情報を取得できました。報告書にもまとめてありますので、後程詳しく説明いたします。レイネートの方も、手がかりを入手できたようです」
いつもの鎧姿では無く平服の将軍は、地味なグレーのソファーに腰掛けている。手元には軍の広報だろうか。
色が白い物を着ているのはいつもと同じ(好きなのだろうか?)なのだが、ワイシャツ(こちらではなんと言うのかは知らない)にパンツルックの姿は、中性的な顔の男性にも見える。
とはいえ、少し目線を下に送れば間違いなく女性とわかる。
「どんなじょ――く、情報だ、ったんだ、レイネート?」
視線をこちらに移しながらの言葉は、ところどころ不自然に途切れている。
理由は表情を見ればすぐに知れる。
笑っているのだ。正確には、笑いを堪えている。
散々悔しいというか、恥ずかしい思いをしてから出かけ、出かけた先でも神経をすり減らすようなことをしていたので、怒る気にもなれない。
無言で『性別転換』を解除した。
「科学のことについて発言した者の話を聞くことが出来ました。おそらく、探しているルーンキラーの科学者と同一人物と思われます」
「ふ、っく――ふぅ。
そうか。場所は?」
「国境の僕が撃たれたあの場所の付近で話を聞いたと。間接的なものであるようですが、調べてみる価値はあるかと」
必死で笑いを抑え込んだせいか、奇妙な真顔を作っている上官のことは無視して報告する。
報告の内容としては、これ以上のことは言えない。
『科学』という単語を聞けたことで喜んでいたが、その内容は”科学者と思われる人間”に”話を聞いたらしい人”からの話を”国境付近の地方で聞いた”という曖昧なものだ。考えてみれば、確定情報は無いに等しい。
「そうか。元々深く聞くわけにもいかないからな、仕方の無い部分もあるか」
「すいません……」
「いや、構わない。――この後は、お前に任せることになるが大丈夫か?」
「……はい」
一瞬の逡巡の後に頷く。
返ってきた笑みは、先程までのうんざりするような類のものではなく、ともすれば誤解しそうになる微笑みだった。
「では、後は任せる。護衛の人選はバルディオに一任するので、必要な物資も言っておくといい。準備ができ次第、すぐに出発してくれ。
お前の世界のことも聞きたいが、それは帰還してからにしよう」
「わかりました」
副将軍は集めてきた情報を将軍と検討するらしいので、ひとまずは用意してもらった郊外にある小屋に戻る事にする。護衛と物資は届けてくれるそうなので、特に持って行けるものも無い自分は大人しく待って居ればいいだろう。
二人に頭を下げて部屋を辞する時、最低限の家具しかないこの部屋が初めて入った女性の部屋だな、と他愛の無いことを思った。
馬を飛ばして三日。臀部が大打撃を受けるような強行軍で国境に辿り着いた。
幸いだったのは、目指す国境が連合側であったため、帝都がより近い方向の国境だったこと。逆側だったと思うとゾッとする。
「大丈夫ですか、レイネ様」
「えぇ、何とか」
馬から降りてフラフラと歩く僕を、青年兵が気遣ってくれる。
彼の名前はエリッツ。以前に一度だけ将軍の補佐官をしていた僕をテントまで呼びに来てくれたこともある。
とはいえ、今の僕は『レイネ』という名前の女で、『ルーンキラー』の手がかりを知る人間として帝国に協力している人間ということになっている。なので、エリッツ君は僕が補佐官であった男だとはわかっていない。
「まずはこの村で宿をとります。酒場も併設された大きな宿屋がありますので、探している人物についても話しが聞けるでしょう」
この完全な事務口調の男性は、斥候部隊のバーツさん。
連合との戦いの際、略奪される村を見て憤慨する僕に、これが現実なのだと教えてくれた人。
バーツさんは僕の事情を知っており、副将軍からフォローを任されているらしい。
今回の調査について来てくれた護衛が、この二人だ。
「大丈夫ですか? なんなら僕が背負っていきますよ!」
「い、いえ、大丈夫です。自分で歩けます」
女の姿で、こんな元気ハツラツな青年に背負われて村を闊歩するなど、どんな羞恥プレイかと。
エリッツ君はしきりに声をかけて心配してくれるが、バーツさんは我関せずを貫いている。なんとも対照的な二人だ。
「ご宿泊ですね、三名様で?」
「はい。二部屋お願いします」
「バーツさん、ぼ――私は同じ部屋でも……」
「ダメですよ、レイネ様! 女性が男二人と同じ部屋で寝泊りなんて!」
ごめんなさい、男なんです。
僕は全く気にしないどころかそれが普通なのだが、エリッツ君は僕を女性だと思っているので許してくれないようだ。余計な出費ではないのだろうか。
「これで。夕食もお願いします。場所は日が落ちた頃に酒場で食べます」
「これはこれは! 最高の夕食をご用意させていただきます」
バーツさんが恰幅のいい店主に渡したのは、金色に光る硬貨。
あの金貨がどれほどの価値のものかはわからないが、店主の反応を見る限りかなりの額のようだ。おそらくだが、本来必要な額よりもかなり多めに払っているはずだ。
金貨が取り出された袋の口から同様の金貨が何枚も見えたので、僕の心配は杞憂だったらしい。
「レイネ様はどちらの部屋がよろしいですか?」
「どっちでも……」
「お好きな方を選んでください」
店主に案内された部屋は両方同じにしか見えなかったので、より階段に近い方を選んでおいた。
去り際に店主がニコニコと笑いながら頭を下げていく。名家のお嬢様だとでも思われたのだろうか。
「では、私はレイネ様の部屋に侵入者が無いように見張っておきます!」
「そんな! そこまでしていただかなくとも……」
「このように地方の宿であった場合、女性が一人で泊まることはまずありません。寝込みを襲われるからです。それを望まれるので無い限り、護衛は立てておいた方がよろしいでしょう」
それは御免こうむりたい。
今の僕は女性の体になっているので、そういった行為も出来てしまう。仮に夜這いに気付いて男の体に戻っても、非力な僕では跳ねのけられるかわからない。そのまま行為に及ぶことはなくなるだろうが、最悪の場合殺されることも考えておかなければ。
なにより、気付かなかった場合を考えると寒気がするので、申し訳ないながらも護衛を頼む。
ここで「私も交代で見張ります」と言ってあきらかに立場が下の人間に丸投げしないあたり、責任感が強い、優しい人物だと思う。
「荷物を置いて、下の酒場に降りましょう。夕食を終えた後は情報収集です」
夕食は、想像以上に豪華だった。
フワフワの焼きたて小麦パンに、香草と香辛料がタップリ使われた鶏肉料理。魚介類のスープに、なみなみと注がれた宝石のようなワイン(これは飲めないので、飲んだフリだけしておいた)。
村と呼ばれる規模にある宿屋で出てくる食事としては、最高峰だろう。
「はぁー……おいしかったですねぇ」
「そうですね。すごく豪華で、驚きました」
「満足いただけたようで、なによりです」
もしかすると、この豪華な夕食はバーツさんなりの気遣いだったのだろうか。
多少、周囲の羨むような視線が気になったが、味は十二分だったので素直にお礼の意味で頭を下げておくと、目礼を返してくれた。
「……気になるような人物はいますか?」
「え……? あ、いえ、それはまだ」
急に話題が変わったので何のことかわからなかったが、ルーンキラー所属の科学者、と思われる人物のことだろう。
『自動索敵』の光点は意識して見ているが、怪しいというほどの反応は無い。たいていは無関心か、今目の前に用意されていた食事に対する羨望の意識程度のものだ。……一部、よくわからない視線と光点の点滅があるのだが、これに関しては深く考えたくない。おそらくはだが、僕の今の姿に対するものだろうから。
『自動索敵』が本来の目的に近い用途で使用されているような気がして、怖くなったので意識を戻す。
「見た目からわかるような特徴は無いんですか?」
エリッツ君の声が、心持ち小さくなる。とはいえ、盗み聞きを防ぐにはまだ大きい。
「一目見てわかるほどの特徴は無いかと……」
この世界と僕がいた世界の人間に、外見的な違いはほとんどない。
この世界に来たばかりの頃は気に掛ける余裕も無かったが、最近はよく周囲の人間を観察している。容姿に関しても、意識して見ることが出来る程度には心の余裕が生まれた。
例えば、エリッツ君はこの世界で一般的な茶髪に茶色がかかった黒目。身長は僕と同じ程度で、男性としては平均的だろう。性格を反映するように、毛先は奔放に跳ねている。まさか寝癖でもないだろうが、それに似た感じではある。
対してバーツさんはやや色素が薄い黒髪。目の色も同じような淡黒だ。髪の毛一本一本に意思があるかの如く真っ直ぐに伸びている。良く見ればわかる細いながらも筋肉質な体は、頭一つ僕より高い。
二人とも、タイプは対照的だが女性にモテそうだ。
「どのように調べますか?」
心の中での外見評価を中断し、本来の職務に戻る。
二人のような外見の人は、あちらの世界にも多く居た。僕が知る限り、科学者達で特殊な外見をしていた人物は居なかった。
結局は、科学に関連するような言葉か行動を探す他ないのだが、僕もそれほど詳しいわけではない。せいぜい学会での吊るし上げと、彼等の”誰もが使える魔法”という理念が僕の知る情報か。
”誰もが使える魔法”
魔法という技術体系が世間に広まり、誰もが魔法を使って生活している世界ではおかしな言葉だが、そもそも彼等の考える「魔法を使える」とは、僕達術師のように自由に術式を開発し、魔法領域や術式記録帳という領域を認識、一切の制限を受けずにそれを行使することらしい。
たとえ魔法でなくとも、才能の差や個人差による限界はあるはずなのだが、彼等はそれが気に入らないらしい。
とはいえ、魔導政府としても世界の人間全てが魔法を自由に行使できるならば、危険はあれど好ましいことだとは考えいた。だからこそフィランツェ様も支持したのだから。
その結果生み出されたのが、『拳銃』などという兵器なのだから、落胆は大きかったわけだが。
「個別に話を聞いて、不可解な言動をする人を探すしか現状ありませんね。分かれて調べましょう」
雲を掴むような方法だが、今の所は名案も浮かばない。
どうも死の淵から復活して以降、覚悟は決まったが気が緩んでいるような。バーツさんにも、「以前のように虚勢を張るのは止めたようですね」と言われてしまったし、前が無理をしていたのだろうか。
「いや、今はとにかく動こう」
――その後は、三人とも酒場に居る人達にとにかく話しかけた。
偶然を装ってみたり、社交的な令嬢――バーツさん曰く、そのイメージが一番ウケがいいらしい――演技をして話を聞いてみたが、有力な情報は無い。
変装よりは確実だから、とこの姿を維持しているが、さすがに限界が近くなってきた。
どことなく危険な視線も感じるし、今日はこのくらいにして休んだ方がいいかもしれないと思い、バーツさんに声をかけようとした時――『自動索敵』に奇妙な光点が現れた。
通常は青の光点なので此方の注意を払っているわけでもないのだが、時折警戒色が混じるのだ。それも一瞬だけ。
「……バーツさん」
「はい」
「今酒場に降りてきた人、確認できますか? 私が視線を送ってしまうと気付かれてしまいそうなので」
なにやら手帳のようなものにメモをしていたバーツさんに声をかける。
光点は新しく効果範囲内に出現した。魔法領域内で改良した『自動索敵』だが、自分以外の人間に対する意識にも反応するようにしただけで効果範囲は広げていない。ならば、効果範囲を考えて新しくこの酒場に入ってきた人であるはずだ。
「……フード付きの外套を着ているので顔まではわかりません。注文からしてあまり所持金に余裕のある人間ではないようです。よくいる浮浪者にも思えますが」
さりげなく体を店内に向けて一瞬視線をやるだけで、そこまで正確にわかるものかと感心する。さすがは斥候部隊。
「あの人を認識している魔法が、おかしな反応を見せています。誰にも気づかれないように、一瞬だけ周囲を警戒してはすぐに無関心を装っているような、そんな感じです」
「警戒されているのなら、今すぐ接触するのは得策ではありませんね。明日以降、何とか後をつけられないか試しましょう」
「お願いします」
結局、今日はこの他に収穫無し。ニヤニヤしながら絡んでくる酔っ払いが増えたので、解散となった。
翌日、控え目なノックの音で目が覚めた。バーツさんの脅しのおかげ(せい?)で深く眠り過ぎることはなかったようだ。
慌てて起き上がり、着替える。その際、自分の体は一切見ないようにして、可能な限り触れない。
妙な気をつかいながら女物の服を着るのも、いい加減終わりにしたいのだが、正体を隠して行動するには一番良い方法なので仕方ない。と、自分を納得させて扉を開ける。
「おはようございます」
「おはようございます!」
「はい、おはようございます」
「先ほど、昨夜気にしておられた人物が宿を出ました。後を追います」
「ぼ……私も行きます。おかしな言動があれば、すぐに気付けますから」
「レイネ様が行くなら、私も行きます!」
朝から元気な声に一瞬バーツさんの眉が動く。
邪魔になると言われるかと思ったが、何も言わずに階下に降りて行った。ついて来ても良い、ということだろうか。
「極力音を立てぬよう。会話は無し」
「はい」
「了解です」
さすがのエリッツ君も小声になる。
宿屋を出て、専門家であるバーツさんの後をついていく。
馬は売ってしまって、必要になった時に新しく買うらしい。なので、今は徒歩だ。
「…………」
「…………」
「…………」
無言で一点を見つめたまま進む。
音を立てないように歩いているつもりなのだが、帝都のように舗装されていないためどうしても道に転がっている小石を踏む音がする。どうやってバーツさんが無音で進んでいるのか不明である。
暫く進むと、止まれの合図が出る。
「どうしました?」
「……村を出て、森に向かっています。この先にも別の村があったはずですが、それより先は連合領になります」
「えっと、どういうことでしょう?」
「間諜かもしれない、ということですか?」
「その通りです」
なるほど、それならば昨日の不自然ながらも洗練された警戒も頷ける。
間諜ならば、他国の人間に気付かれないように周囲を警戒するし、その警戒そのものを気付かれないように気も配る。
「どうしますか?」
「……追いましょう。どちらにせよ、放っておけません」
「了解」
「はい……!」
方針が決まれば、すぐに走り出す。
森に入ってしまったので、姿そのものは見失っている。このまま逃げられてはマズい。
三人揃って村を飛び出し、木々が鬱蒼と生い茂った森へと入った。
戦闘はバーツさん。真ん中が僕で、後列がエリッツ君という隊列で進む。
軍人である二人で突然の強襲に備え、僕は『自動索敵』で伏兵などの危険を察知する。
今の所、反応は無い。
森の中は一見静かでありながら、そこかしこから小さく動物の声や虫の鳴き声がする。
「あちらに私達に気付いていたのかもしれません」
「かもしれませんね……。逃げられてしまったでしょうか?」
「まだわかりませんが、急いだ方がいいでしょう。距離を離されているように感じます」
確かに、それなりの速度で進んでいるが一向に追いつかない。
これほど草木が生い茂っている森だ。進んだ後には折られた枝や踏みしだかれた草があるので道は間違っていないだろうし、全速力で走り去るということも難しいはず。
ならば自分達の進む速度が相手より劣っているということだと速度をあげようとして――『自動索敵』の異常に気付いた。
「――下がって!」
言葉と共に近くの木の影へと隠れる。
前後を守っていた二人も同様に飛びずさって木に身を隠す。
直後――
『ライトニングスマッシャー!』
前方から聞こえてきた声と共に運ばれてきたのは、目も眩むほどの光量を持った雷。
雷は僕達がさっきまで立っていた空間を焼き尽くす。
光によって焼付いた目を瞬いて、なんとか開けた先にはポッカリと開いた空間。そこには、焼け焦げた草木が僅かに残ってるだけだった。
「まさか……」
空間を開けて木を盾にしていたバーツさんが呟く。その顔には、珍しく動揺と驚愕が現れている。
「そんな! 今の言葉……それに、こんなことが出来るのって……!」
エリッツ君は半狂乱気味に頭を抱えている。
――僕達が追ってきたのは、科学者では無かった。
あるいは今の雷撃が科学によって造られた新兵器の可能性もあるが、先の宣言のような言葉。それに、二人の反応を考える限り、別の可能性が濃厚だろう。
「居るんだろう。今ので死んでいないことはわかっている
――出てこい、ルーンマスター!」
敵は、直接視認せずとも僕を認識している。
それは、僕が彼を認識している方法とおそらく似たものだろう。即ち――。
「ルーンマスター……!」
僕以外の、新たなルーンマスターの出現だった。




