告白
時間がとれず、かなり間が空いてしまいました……。
書きたい内容はまだまだ山積みなので、出来るだけ早く書いていきたいです。
目が覚めて最初に見えたものは、魔法のランタンで照らされたテントの天井。起き上がって見渡せば、見覚えのある空間だ。おそらくは、将軍が利用していたテントだろう。
「誰もいない、か」
テントの中は僕だけだ。
ベッドの上で、毛布を掛けて眠らされていた。
枕元に花を置くのは、縁起でもないのでやめてほしい。
「いや、そうか。僕は一度死んでいるから……」
手向け、ということか。
それにしては、遠征に使用していたテントに一人放置していくなど、腑に落ちない点はあるが。
術式は、この世界に来たときと同様に解除されている。あちらの世界では無かったことなので、どういう条件で起動術式が解除されるのかわからない。
『共通言語』と、一応『自動索敵』を起動しておく。
「人が近づいてくる。でも、これは……?」
どこにこのテントが設置されているのかわからないが、周囲に人影はほとんどない。
唯一の人影が『自動索敵』に映っているのだが、その光点が完全な緑。つまり、自分に対して友好な相手であるとなっている。
この周辺には自分しか居ない上、意識が向いていなければここまで綺麗に緑にはならない。だとするならば、『自動索敵』の術式が狂っていない以上は本当に友好的な相手であるとなるが……。
「……があるまい。最後に、顔だけでも見ておこう」
「そうですね。先の功績は、私とて認めるものですから」
聞き覚えのある声がする。
この世界で数少ない、関わりがあった人達だが、以前の『自動索敵』ではここまで友好的な反応を示していなかったはずだ。
あの二人に、何か心境の変化でもあったのだろうか。――自分のように。
「なに!?」
「ば……かな」
テントの入り口を広げ、中に入ってきた将軍が驚きの声を上げ、副将軍は絶句している。
『自動索敵』の光点が、純粋な緑から警戒色を混ぜ合わせた濁った緑へと変わる。
何故色が変わったのかと思ったが、死んだと思っていた人間が、当たり前のように起き上がってベッドで座り込んでいたら驚くかもしれない。
「レイ、ネート……か?」
「えっと……おはようございます、将軍、副将軍」
とりあえず、手を上げて挨拶しておいた。
二人の顔が引きつり、何とも言えない表情になっている。
「死んだ、と思っていたのだがな、私は」
「確かに、死んだにしては血色が良いとは思いましたが、まさか蘇るとは……常識外れにも程がある」
「すいません……?」
こめかみを抑えて苦笑いする将軍と、冷めた目で見てくる副将軍。仮にも死の淵から帰ってきたのだから、もう少し喜ぶくらいはしてもいいと思うのだが。
やや納得はいかないが、まずは現状の把握が優先だろう。
「あの、俺――いや、僕が倒れた後のことが聞きたいのですが」
連合に勝利、何者かによる攻撃。そこまでが、僕の知るところ。
遠征軍は前代未聞の損耗率で帰還し、指揮官含め全員に褒賞が渡された。
そして、僕は死んだことになっている。
「すまない……。まさか、生き返るとは思わなかったのだ」
「いえ、仕方ありません」
「皇帝には、報告を訂正しておこう」
「いえ、それはやめてください」
生死報告の訂正を止める。
今、僕は死んだことになっている。それならば、好都合だ。
「何故だ?」
「僕が生きていることを知っているのは、お二人だけですよね?」
「うむ、そのはずだ」
「なら、そのままにしておいてください。
僕はルーンマスターです。生きていることを知られれば、また狙われる。それならばいっそ、味方にも隠し続け、ルーンキラーを打倒した後で改めて表に出ればいい」
ルーンキラーの攻撃方法は不明だ。それを防ぐ術は、今の所無い。わざわざそんな危険を背負うことはないだろう。
それに、理由はもう一つ。
「私もそう思います、将軍」
「お前もか、バルディオ?」
「現状、レイネートは死んだことになっています。これを覆せば、情報の錯綜で兵が混乱し、将軍も皇帝からの信用を失います。――それは、私も望むところではありませんので」
「バルディオ、お前……」
「私は、今はあなたの部下ですから。公私の混同は主義に反します」
驚いたような表情の将軍から、副将軍は顔を逸らす。
相変わらず表情は冷たいが、口調からは棘が取れている。
「僕もそう思います。それに、これは今後の軍の運用についても有効な手なんです」
「士気高揚か?」
やはり、こういった頭脳面は副将軍の方が優れているようだ。
武力の将軍と、知力の副将軍。
仲はそれほど良くないようだが、それさえなければ良いコンビだ。
「士気高揚策か……。確かに、連合との戦闘でお前が発案したものは短期的に兵の士気を高めたが……」
「ご心配なく、将軍。あの策とは関係ありません。それに――あれは二度と提案しません」
近隣の街にある娼館に協力を要請し、兵の不満を解消することで、略奪行為の抑制と士気の高揚を狙った策。
確かに、効果はあった。あの策以降は、(僕が知る限り)兵が女性を攫ってくるようなことは無かったし、戦闘時には長い遠征で下がっていたであろう士気は回復していた。
だが、あの策はあくまで急場しのぎに過ぎず、略奪の禁止や、何らかの原因で兵からイマイチ信用されていなかった将軍の懐の深さを示すことに意味があった。……代償として、向こう三か月分の僕の給料が激減したが。
戦闘後の様子を聞くに、将軍は今まで遠征軍の前で戦ったこと自体ほとんど無かったらしい。その将軍の強さが示され、兵からの信頼が得られた以上、あの策をとる必要は無いと言っていい。
なにより……あの策を承認した将軍の顔が、少しだけ曇っていたように見えた。
あの時は気にする余裕は無かったが、何か思うところがあったのは間違いない。
「重要なのは、今回の戦いで将軍が手に入れた支持と、僕があの戦いに貢献したという事実です」
「……どういうことだ?」
「私から説明しましょう将軍。
我々遠征軍の多くは将軍が実際に戦った姿を見る機会がありませんでした。そのため、突如として将軍位に就任し、指揮官となった貴女に少なからず不信感があった。しかし、最前線で兵を率い、連合兵相手にその勇猛さを示した今は、その評価は一変しています。
さらに、このレイネートが魔法で貢献し、軍の被害が大幅に抑えられたことは従軍していた兵には周知の事実。
ならば、今後は将軍の指揮というだけでもそれなりの士気高揚を見込めます。加えて、多くの兵を生還させたが倒れた、とされているレイネートが突如戦場に現れれば、たとえ劣勢にあってとしても、自軍には希望を、敵軍には絶望を与えられます」
「なるほどな……」
素直に感心する様子は、あちらの世界で古代の戦争からイメージしていた軍の幹部とは違っていた。
僕が知る軍の司令官は、部下の声に耳を貸さず、無謀な指揮で兵を浪費しながら自身は最後陣でふんぞり返って、最終的には責任を他人に押し付ける。
そんなイメージを持っていた僕にとって、将軍は予想外の人物だった。
(得体のしれない僕を軍に編入したあたりが、すでに規格外だよなぁ)
それが良い事かどうかはともかくとして、だが。
そこが将軍の良いところで、危ういところだ。
「ともかく、僕のことは秘匿する方が良いかと思います」
「うむ、納得した。私の権限で、何とかお前が隠れて生活出来るように計らおう。お前が復帰した際の混乱も、私から上層部に話すようにしよう」
「お願いします」
当面は生存を知られないように気を配らなければならないが、仕方ないだろう。
あの戦いでの戦果。それが、僕にどれ程の評価をもたらしてくれているかはわからないが、今は二人の僕に対する評価を基準に考えるしかない。
少なくともこの二人は、『自動索敵』で信頼の色になるほどに僕を評価してくれている。それは、信じたい。
「そうと決まれば、ルーンキラーへの対処か。といっても、帝国の捜索にも尻尾をつかませないほどの連中だ、そう簡単には討伐出来ないだろうが……」
「そうですね……。奴等の痕跡といえば、『ルーン殺しの魔鉄』くらいですからね」
「なんですか、それは?」
初めて聞いた名前だ。
「そういえば、言っていなかったな」と言いながら、将軍が専用の白い鎧から隠していたらしい小さな袋を取り出す。
テント内に置いてあった小さな丸テーブルに、その袋の中身が転がされる。
「死んでいると思っていたお前をこんなところに放っておいたのも、体内に入っていたこれのせいでな。皇帝から箝口令が出ていたので、誰の目にも触れぬようにここで取り出したんだ」
「ルーンキラーが使う兵器と思われているが、詳細は不明だ。副将軍以上の指揮官級にしか知らされないらしく、私も最近知った」
僕は、二人の説明を聞き流していた。
素材自体は珍しくはない。そこらの鉱山で採れるありふれた鉱物だ。
だが、この独特の形状。そして、倒れた時に聞いた乾いた音。
これらを併せ持つ兵器を、僕は知っている。
「『銃弾』……!?」
「じゅ……? なんだそれは」
知っているものよりも少し長いが、空気抵抗を無効化するためのフォルムに、表面に残る特徴的な擦ったような傷跡。
こちらの世界はもちろん、あちらの世界にすら存在しないはずの兵器。
「レイネート」
「! はい、副将軍」
「これを知っているのなら話せ」
話すべき、だろう。
この世界は、僕が生まれた世界よりも遥かに古い文化しか持ち合わせていない。当然、目の前のテーブルで無造作に転がるコレは、この世界にあるはずがない。
そんなものが、ここに存在し、実際に使用されているのなら――結論は一つだ。
だが、それを説明するためには全てを話さなければならない。
「レイ――」
「待て、バルディオ」
催促しようと踏み出た副将軍は、隣で立っていた将軍によって押さえられる。
真っ直ぐな視線。
隠していることが、後ろ暗いわけではない。罪悪感はあるが、好きで隠しているのでは無いのだから。
信じてもらえないだろうからこそ、今まで隠していた。話す必要が無いと思った。
でも――。
(違う。さっき思ったばっかりだ。
将軍は、僕の話を聞いてくれる。副将軍は、理性と知性で考えてくれる)
ここが潮時だ。
『自動索敵』で、二人が僕を信頼してくれているのはわかっている。
僕自身も、二人を信じたいと考えている。
ならば、やるべきことは一つだ。
「二人に、重要なお話があります」
「……それは、お前自身のことか?」
「はい」
「……話してくれ」
頷いて、大きく息を吸う。
せっかく得られた信頼が壊れる可能性もある。
だけどそれは、今に限ったことではない。
ならば、今は二人の信頼に賭ける。
「――僕は、異世界から来ました」
今回は文章量が少ないですが、次回から頑張るのでご了承ください。




